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馴染な男  作者: 孤独
大学4年
40/52

星の由縁


「おおおーーーーっ」



優勝候補。その大本命。とはいえ、大勢の野球ファンが駆け付けた理由に



「猪瀬!猪瀬!猪瀬!!」

「猪瀬くーーーんっ」



絶大な人気と実力を兼ね備えた、猪瀬の存在がある。

彼がここに立っている意味。試合を勝ち抜いてきただけじゃない。


八木という。今世代の最強野手の一角を降ろして勝ち取り、チームに貢献したという立派な事実。



「さっきから俺を噛ませにするの止めてくんねぇ?」

「誰に言ってるんですか?僕じゃないよね、八木」



八木がサードもセカンドも、ファーストだって。無難にこなす事ができるという理由もあれど。ならば、ショートを守ってみせてもおかしくはない。

単純に実力があったからこそ、猪瀬が出場し、活躍し、人を惹きつける。

浮かれる輩ではない。




ズパァッ



「ボール!」



慎重にスライダーを外してから入った。様子見という形。

注意しすぎる事はないほど、恐ろしい打力を持っていた。その成長すら感じさせる。



「かっ飛ばしちゃってーーー!!」

「俺達はお前を見に来たんだぞーー!」



名神は同じチームにいた経験から分かってはいたが、猪瀬に対する応援は凄い。あの時も独立リーグという場所からでも、観客が来て盛り立てた。そして、どうだ。本人はそれらに気負い過ぎず、クールに打席に入って、スラッと綺麗な構え方をする。

ステップは少なく、球をミートするポイントは通常の打者よりも前にしている。

感覚重視の来た球を打つ。それが野球で、打つって奴。

猪瀬はその中で打てる球を正確に捉えて飛ばす。なんでもかんでも、打とうとしている悪球打ちではない。力勝負に来てくれる方が打ち損じてくれる。



2球続けた、スライダー。



「ストライク!」



左打者からは、大鳥のスライダーは外へと逃げていく形だ。

追いかけるのは難しい。外への意識を掴ませて……。

膝元いっぱいのストレート!



「!!」

「ストライク!!カウント、2-1!」



振らせずに2ストライク。

猪瀬はこの瞬間。自分の特徴をよく、名神が把握していると察知した。難しい球を打ちにいかない、普通や常識を固めた理。外へのスライダーでカウントを整え、厳しいコースでさらにもう一つ。

そんな要求は、要求だけなら誰しもする事だろうが、平然と当たり前に高いハードルをして、応える投手。

打席を外して、猪瀬は思いを込める。



やはり。

名神さんが認めて、応援する投手であったこと。

少しでも気を緩めてはならない。

敬意を持って、投手を、相手を倒す。




ペナントレースのような、長いスパンで戦うのであれば、投手の生き物は変わる。

少なからず、余力を残しつつ投球を続ける。しかし、トーナメントとなった全国大会の本戦。大鳥は100%中の100%。それをこの1番打者から始められている。

先ほどのストレート、144キロを計測。

ギアが上がる。

大鳥は名神のサインに頷き、迷いなき、投じた4球目。



「!!」



内角への……シンカー!?



急ぎ過ぎの勝負。しかし、この1番打者である猪瀬がそれだけヤバイという相手である事を、大鳥と名神が認めての、新必殺コンビネーション。

コースは完璧に決まっている。猪瀬の不意を突いたことであったが、



ザッ



球速差、30キロ近くであろうと。猪瀬のタイミングは崩れちゃいなかった。

天才たる反応が、下半身の動きをシンカーに合わせていた。

窮屈になりそうなコースであっても、一連のスイングの動作にそれらはなく、自然体そのもの。



パキーーーーィィッ



バットが捉えたボールは、真芯で捉えて打球は舞い上がる。



「は?」



この感覚は、大鳥も名神も一度経験している。

意味不明に思えるほど、感じた歴然とした実力の差。




ドゴオオォォッ



「い、猪瀬!!先頭打者ホームラン!!」

「ライトスタンドに叩き込んだ!!」

「猪瀬くーーん!サイコーーー!!」

「今のシンカーを完璧にやったが!!」

「読んでいたのか!?体勢は崩れていなかったが……!!」



人と人は、認め合う者ができると。持ち合わせていた力のタガを外すことができる。認めるという事から、区別するという判断に至るためだ。

猪瀬は確信めいたものであったが、思う以上であった。

この2人と出会いが、本当に高め合える好敵手であると。


臨んでいた希望ある試合が、それ以上に運命ある試合となれば。容赦すら可愛い言葉であるほどの展開に広がる。

デカい壁で、ぶつかり合う。

試合はまだ序盤も序盤。1回裏ノーアウトだというのにだ。



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