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馴染な男  作者: 孤独
大学4年
37/52

限界に上


ブルペンにあった小さなベンチ。

そこに大鳥と名神は並んで座り、名神が直に味わった世界を語る。



「通じなかった」



名神は単純に、分かりやすく。

子供という状態にあらず。大人という立ち位置から見て、明らかな限界。

よぎるのも普通と。



「…………」



それが大鳥に言われて、同じ実力であると。謙遜しているとしたら。


「そうか」



一つ。認めて。



「じゃあ、俺も大学までにするかな」

「何を言ってるんだよ」

「いや、名神。お前が通じないって思ったなら、俺が飛び込んでも同じじゃねぇか?実際に違う世界に触れたんだろ」

「それはない。ないさ」



事実を挙げれば、大鳥の投球で九州を制している。

この年。最終年。九州最高の投手でも、おかしくはないほどの経験と実力を持っていると言える。

名神はその投手の球を受けていただけ。


「猪瀬って選手を知ってるだろ」

「ああ、言っていたな。同じチームにいたんだろ。雑誌でも載ってたな」

「実際に凄い。天才で、生真面目で。あーなれるんだって、思える選手の理想像をそのままにした選手だった。リーグでも無双してた」

「んじゃあ、そいつに敵わないからか?学年3つも下だろ」

「俺はな」



上を見上げる。時に上から下の者を見上げる。

わりと効く。これがあの、限界って。目一杯。悔しさが残れば、自分が足りない事だった。

でも、親友がいる。


「でも、宗司なら!猪瀬を抑えられる!宗司だったら、勝てる!そんな世界を見て来た!」



猪瀬以上に”初めて”と呼べる、野球の世界を体験してきた名神。

数多くの投手の球を受け、牽引し。様々な壁とぶつかってもなお。この絶対。揺るがない信頼はそのままだって。

……悔しいのに。


「プロに行ってくれ!宗司には話が来てるんだろ!俺は全力で応援する!優勝まで行こう!」


辛い思いして帰って来た、親友が。もっともっと、夢あって苦難あるプロ世界へと行けよって言う。



「プロか」



大鳥だって。名神がいなかった試合に苦しんだ。自信のあったコントロールにも乱れがあり、やっぱりしっくりこねぇミット。

やっぱり、自分の捕手は名神じゃなきゃいけない。



「あー……」


挑戦するっ。それは、勝ちに行くという。決意を秘めて臨むこと。

否。知るという興味を、爆発させたような現れが、挑戦というものか。


「保留。いや、話はされたけれどな」

「……そうか」

「まだって言っても、俺達には3か月ある。心の中じゃ、俺。決めてるぞ。だが、言う事じゃねぇし」



名神だからこそ、大鳥がどのような考えを持っているのか。訊かなくても、分かってしまった。

大鳥はそれを隠しているのか、本心に思えていねぇのか。

互いへの思いやりと、互いの受け止め方が違い。名神も、覚悟を決めた話をしたかに見えたが。今、この時。自分自身分かっての通り、不安や迷いがあればって……。



「なら、俺は。手伝いをするまでだよな」



すぐそこか、どうか。



◇          ◇



その頃、東京。

大鳥達の世代は、”最強3世代”の阪東・米野の世代がドラフトに当たる。

その中で、野手という分野ではこの男がもっとも注目されていた。



「はぁ~~……、どーして。俺の人生は、好敵手ライバルばっかなんだ」

「恵まれてる事ですよ」


同期にして、ライバルであった者からも。高い運命力を評価される。

自他共に認めているが、平均点ってところの人間。よく言えば、総合力の高さが売り。



「阪東達とは激しい争いだったのに、今度は年下に絡まれるのか。それも3つも……」



八木恭介やぎきょうすけ。4年生。主将にして、ショートを務める。

かつて、桐島や阪東とは元チームメイト。


「必死だったんだぞ。俺。なのにどーして、漫画の如く。ライバル出現が多いんだよ。俺、そんなに勝ってもねぇのに」

「激戦区、ショートのポジションを守ってれば当然でしょうに」



今はチームメイトの海堂も、同情してくれている。

同じドラフト候補選手であるが、実力の差も認めている。しかし、ホントに八木は相手が悪い。



「プロに行けば良かったかなぁ。下位指名だったから、進学にしたんだけど……」

「……丁度、良いタイミングでレイがいなくなっての指名になるんですから、選択に間違いないかと」


ちょっとした自慢がムカつく。

とはいえ、海堂から見れば


「八木の良さは、”ポジションに関わらない”でこなせる事じゃないですか。後輩はショートしかやっていなかった。気を遣って譲り、自分はサードに回る。夢が終わったわけじゃない。大学ナンバー1ショートは、やはり八木ですよ」

「うーむ……」



大学ナンバー1ショートが、高校ナンバー1ショートに座を許す。

ムカつくを思った。だが、経験をしている八木にその時間は短いものだった。観りゃ分かった。


こいつ、俺よりできる。



「猪瀬宇佐満」


試合に必要な全力。最高戦力を考えるなら、猪瀬の実力は八木を超えている。

だが、試合の長期化、連戦化。不意の事故。ハードなスケジュールをこなすにはサブの存在も必要である。

打撃、守備、走塁。それらの全てが猪瀬が上回っているものの。

特別に言えば、八木はこれまで様々なポジションを争ったおかげで、内野の全てが器用に無難にこなせる。打撃面でも決して派手ではないが、類稀な勝負強さで、代打もこなせるしバントもいける。代走として十分な足の速さもある。



「器用貧乏の選手」

「万能選手と言え!!」



総合力の塊となった選手と言える。

猪瀬の加入で自らが、他のポジションに回ればいいという。単純な解決策で揉めもしない。


大学最強チームの姿が完成した。




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