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馴染な男  作者: 孤独
大学4年
34/52

各々の壁


独立リーグでの公式戦が始まった。

第1試合目から猪瀬がスタメン。それはもう告知されていて、彼のファンが集まって来た。

名神はベンチスタート。控え投手の球を受ける、ブルペンキャッチャーの役割。



練習で見て来た猪瀬の凄さ。試合の緊張感を簡単に呑んで、プレイする様はいつも通りと言わざるおえない完璧なもの。



カーーーーンッ



「いきなりヒットーー!1番起用に応えたーー!」



1回に先制のホームを踏むきっかけとなるヒットと、7回に左中間を破るツーベースを放って2安打を記録。

評判通りの実力を見せつけて、チームの勝利に貢献。



「格が違う」



独立リーグ担当のスカウトも、その一言である。

打力、守備力、走塁。

3つのどれかならば、プロに通じる野手がチラホラいる独立野球の世界で、その3つが完成している。高校時代からもそうであり、大学に入ってもなお、通じている実力者。華やかな経歴と渡辺レイに次ぐ逸材であると踏まえれば



「プロに行って欲しかった」



そう思う。

しかし、それに対しての指摘の声が上がった。



「猪瀬に長期的な活躍は見込めるか、どうか」

「!阪東さん」



自分以上に野球を積んだ者達はどーいう気分であろうか。



「猪瀬はさすがだな。”実力”だけ見れば、俺達と並べる。同じポジションの八木よりも上だ」

「……阪東さん。今、投手として、猪瀬と3打席勝負したら全部抑えます?」

「ウォーミングアップをすれば、抑えられるな」


立ちながら小話を阪東。

猪瀬を上回る選手がスタンドの外にいるというのは、奇妙なものだ。



「先ほどの”実力”で上と見るならって言葉は?」

「”経験”と”体力”、”管理”が足りていない」



プロに通じるほどの実力を有する猪瀬ではあるが、彼はついこないだまでは高校生だった。

甲子園にも何度か出場しているが、それだけではまだ”経験”が足りてはいない。阪東は自慢じゃないが、1年から3年までの全てで、選手として甲子園に出場し、優勝投手も経験している。阪東の功績に比べれば、猪瀬が小さいとも言えるのだ。

仕方のない事でもあるし、どーしようもない事でもあるが。プロのペナントレースを戦い抜いた”体力”もない。




「高校生の奴は素材という事だ。無論、場所や人によってそれがどうなることか」

「どっちが正しいんでしょうかね?」

「それは猪瀬がこれから決める。大学で頑張るにしろ、プロで頑張っていたという事も、通せば変わりはない」



猪瀬宇佐満。

”実力”は間違いなく、プロに通じる。内野の花形、ショートを守る好選手。

高校時代において、同ポジションでは誰一人彼と並ぶ事も、挑む者も現れなかった。

唯一、野手としては鬼島という存在がいたが……彼があまりにも猪瀬とは正反対の野球選手であるため、ライバルと言えるものでもない。



「同じポジションのレイがアメリカに行ってしまうからな。せめて、ライバルでもいれば……と」

「………あの。すみませんが、八木は?どこにいるんですか?」

「あいつは踏み台になっちまう。猪瀬の……」

「あ、今後の展開そうですけど。酷い」

「八木は阪東さんの元チームメイトじゃないですか。今年のドラフトの目玉ですよ!」




◇           ◇




ドバアァッッ



気持ちいい、ミットの音。

捕手の能力によって、投手もまた能力が変わる。上がるも下がるもだ。バッテリーって言葉の通り。



「サインは……」


名神のリードは投手を信頼し立てる事が中心である。

自分が受ける投手の傾向を把握し、思う理想に合わせる投球を要求。

幼馴染の大鳥とのコンビが抜群に良いのが、名神の良さである。

捕球していれば、投手の良し悪しを把握できる。



「ストレートはここで……」


それは投手に対策を練られると、名神のリードにも対策を成される事にも繋がる。

とことん優れた投手と組む際には抜群の力を発揮するが、見合わない投手とのコンビは不利という分かりやすい弱点がある。



「じゃあ、今日は!お願いします!!」



猪瀬以上の経験不足である名神は他の投手とのコンビが少なく、短い期間で投手という生物せいぶつを理解する事も出来ていない。それは大鳥宗司という最高の親友の事は分かっても、投手である大鳥宗司を分かり合えない事と同じである。




「7番、キャッチャー、名神」



名神の初出場は公式戦の3試合目の守備固め……。ではなく、敗戦の展開での登場。

8回からマスクを被り、1人の投手をリード。2安打を打たれるも、猪瀬の好守もあって無失点のリード。

4試合目は出場はなかったが、5試合目にスタメン出場を果たす。




「頑張りましょう!名神さん!初スタメンじゃないですか!」

「宇佐満ん。ここまで全試合スタメンは羨ましいな」



1か月の選手契約であり、名神と猪瀬が出場できるのは公式戦では9試合目までである。

半分経ってようやくのスタメン。2試合目。それに対して何も思わなかったわけではない。しかし、ようやく巡ったチャンスに準備できてませんでした。なんて言い訳をしたくない。

こうして、プロの世界に入るのである。むしろ、そーであったのだと気付かされる。

大鳥という存在がいたから、捕手としてのスタメンがあった。そーいう気持ちをいつか捨てる事が自分に必要なもの。



あとは結果だけ。



一番。野球をやってきて。自信を持っていけるのは、捕手としての力であると名神は思っている。

大鳥がいなくても、自分が捕手として進む必要がある。


今日、名神と組む先発投手は典型的な本格派。

右のオーバースローであり、140中盤のストレートにスライダーとフォークを投げる。多少の制球難と立ち上がりに難がある。社会人野球を経験してからの独立に挑戦した選手。名神の2つ、歳が上。

レンタル選手である名神は、かなり気を遣っていた。

投球練習で球を受け、ストレートの手応えはお互いによく感じた。大鳥以上にパワーがあるため、ストレート主体でいける。



初回。



パァァンッ



「ボール!フォアボール!!」



先頭打者を四球で歩かせてしまう、つまらないスタート。

投球練習で受けていたストレートは走っているが、制球が定まらない。変化球も安定せず、活路が見えてこない。

投手自身の問題。しょい込む事でもないが、捕手ってのがそー簡単じゃなく。名神にも捕手としての意地がある。なんとか活路が欲しい。



「……………」



宗司みたいに空振りを獲れる球はない。

打たせて捕るのが持ち味だ。そのためには打者の中に球を要求をしなきゃいけない。

恐れちゃいけないです。まず、ファーストストライクをとりましょう。

高さはいいです。右打者の内角にそのストレートを……。



四球の後、ストライクを獲りたいのは投手だけの心情じゃない。捕手も欲しいのだ。

ノーアウトからバントをしてくれたら嬉しいと、バッテリーが思えることに。簡単にはとれない重たいアウトが転がり込んでくるからだ。

特に序盤。



パァァンッ



「ボール!」



欲しいストライクが獲れない。ストレートが右打者から逃げるように外に行ってしまう。

サインを無視しての事じゃない。制御できていない。

投手はストレートの力を殺したくないのだ。しかし、名神はここでコントロールを要求したいのだ。打てない球を投げるのも投手の仕事ではあるが……打たせなきゃいけない事も理解しなきゃいけない。まぁ、理解はされない。

自滅気配。



長いペナントだ。たかが1敗が左右するわけではないが、日々の選手の成長には繋がる。

立ち直るという、普段の実力にも記されるが、改善が難しいことだ。

叱りつけるか。続けるか。

名神がとったのは、自分なりの。投手像からによる改善だった。



カッ


「ファール!」



乱調気味の投手の特徴として、ストライクかボールがハッキリしていることだ。

試合が始まってから乱調すると、ちょっとやそっとじゃ拭えない。

思ったボールが投げられないという意識を自覚してしまえば、その感覚に囚われ、ボールが甘くなる。打たれるという予感が恐怖に、未来視になって現実となる。


ファールを挟んで1-1のカウントで3球目、



『フォーク』



ストライクの有無はどちらでも良かった。

盗塁してきたなら刺す。

……まぁ、盗塁のようなギャンブルを乱調気味な投手にやる事はないので、考慮していないな。



ボスッッ



「ボール!」



打者が振りにもいかない、まさにクソであるフォークだった。

それを名神はしっかりとグラブに抑える。

受ける捕手がこうして球を捕る。どんな球でも捕ってやれる者が、構えているのだ。遠慮しないでいいのだ。

あとは



「打者集中です!」

「!」



エールは届く。

投球の中で自信を持たせること。


バントはない。カウントも1-2と、まだまだのカウント。有利にも不利にもできる。

コースは思ったところには来ないが、打者が振ってくれるアウトコース。



ガツッッ



鈍い、ファーストゴロとなる。進塁打となったが、バントと同じであり。



「1アウト!」

「おー!」



この1アウトが大きい。ひとまず、一息のアウト。

名神のリードは良い。初回から乱調気味の投手で、1アウトをまずとったのだ。すぐに改善はされないであろうが、投手の力を引き出そうとする安定した捕球能力と気配りが、投手の気持ちを良くしてくれる。

名神のリードは捕手として、80点ってところ。

綱を握った馬をご丁寧に操っているもの。馬の力を引き出す、ごく普通で基礎をジワリと固めるもの。それで登れる高みは分かれど、標高は知れず。



カーーーーーンッ



「打たれたーー!初回、タイムリーヒット!」


3番にライト線に打球を運ばれ、早々に失点。

しかし、なんとかこの1失点で初回を乗り切る。



「大丈夫です!1点なら許容範囲ですよ!」



今、名神は自分の最大の欠点を曝け出した。

しかし、本人は絶対に自覚をしないだろう。それが強いプライド……というより、そーいう人格キャラだからだ。




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