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馴染な男  作者: 孤独
大学1年
3/52

育つ肉体


スポーツに余計な筋肉など要らない。と、正しいことであるが。

まだまだ肉体の成長期がある20代のお前等に、伝えることがある。



「必要な筋肉すらまだ足りていないお前達は、筋トレを怠るな。食事や睡眠を侮るな。時に遊べ」



繊細な技術よりも肉体の強化という、シンプルな成長を求められる。単純で地味なものであるが、それでも続けていく直向きな努力と向上心を養うことは、筋トレというものを選んだ。

肉体改造と意識改革って書くと、ちょっとカッコイイ。



「むっ……」

「くっ……」


大鳥と名神は互いの体の筋肉を、握って確かめる。少しは成長を知れるが、身体がまだできていないと言える地点。

離して、身体を伸ばしながら、大鳥は尋ねる。



「名神、俺達は成長するか?」

「続けていけば分かるだろ」



不安を抱くのも仕方ない。その裏返しを言って欲しいと、名神は気付いていた。

そりゃ確かに


「1か月で同期が7人も辞めたからな。大学生活を楽しむのも、1つの選択だし」

「高校からそーいうのを見て来たんだけど、将来ってのを言われると不安だしな」


大切な四年間を野球につぎ込むこと。

これまでもそーやって野球に打ち込んできたわけだが、ガキのそれと、大人のそれは違う。大学生ってどちらかというと、大人。

酒飲んで、カラオケで騒ぎ、ギター弾いてイケてる気分出して、おしゃれだってしちまう。

自由度と見渡せる広さはきっと、この時代だけと思える。先を知らない俺達は今のことを自由だって、僻む。



でも、それで将来の不安?

そして、好き勝手なことで、彼女作ろうがアホやろうが、自分の責任。名神も大鳥も同じく。この世の中、みんな馬鹿。



「俺はお前と野球をしたい。球を受けてやりたいよ」

「名神はそれでいいのか?俺に付き合うことで良いのか?」

「大鳥も、俺に付き合ってくれるんだろ?お互い様だし、やっていこうぜ。それに誰かと遊ぶより、お前と全国ってところに行くことの方が夢と希望があるだろ。今度こそ、いこう」



まだベンチ入りすらできない2人。一年なら深く考えることでもないだろうが。

愚直ではあるが、自分の肉体を鍛え上げるというシンプルな練習を続けていく。黙々と続けていき、互いが互いの目となって、成長を確かめ合う。1人であったら、途中で投げ出したり、あらぬ方向にいってしまう。2人だからできたこと、愛し合っているみたいな、固い友情。


「上腕と背筋。デカくなったか?」

「そうか?でも、名神も腹筋固くなったな」


互いに触り合うところを見られたら、言われること。2人が気付きていないのも、ダメ押し。


「ぜってー、あいつ等付き合ってるよ」

「ホ○だよな。幼馴染の悪化だよな」

「大鳥が○モ過ぎるのヤバイよな。名神が他の投手の球を受けてると、睨んでくるよな」

「まだまだ、あれくらいじゃ序の口よ」

「だから、野球の格言の一つにあるだろ?野球をする奴等には、○イがいるという」

「野球関係ないけど、マジで至言ですわ。在学中に彼女作っておかねぇーと、卒業間近でゲ○に狙われるぞ」



周囲にはバレバレというか、公認というか。無害であるためそれはそれで良いという。

でも、野球に打ち込む姿は誰だってなんだって、良かっただろう。流れ出る青春の汗と成長していく身体と、強くて硬い心。奮える肉体の躍動は確かに、野球を上手にしてくれるだろう。もっと言えば、人生を良くしてくれる。



努力は良き事で、それを嘲笑う奴を、笑ってやるって。




◇        ◇




「ははははは、笑かしてくれるやん」


そんな笑い声は関西独特の、言葉遣いと声。

そいつはプロ野球のユニフォームに袖を通し、相手はただのラフな服装。でも、その肉体はがっちりとした、鍛えられたガタイ。共にプロ野球選手であり、相手はもう一般人となった者。静かな飲み屋のカウンター席に並んで座る2人に、風格というものはなかった。今が野球の時ではないからだろう。

相手は一つ。謝罪をする。



「お前との対戦ができなかったな」

「気にせんでええで、阪東。ま、ワイの勝ちでええやろ?」



衝撃的な引退である。その1試合での引退。

”最強3世代”の中で、野球選手という総合力でならば、全ての時代からでも阪東孝介こそが最高の選手だろう。

その男がグラブとバット、スパイク、ボールまでも置いた。

長年のライバル(?)と言っても、高校は阪東と同じところであった桐島勇太。彼とは親友としても付き合いがある。

米野という怪物が、打ち立てる記録も半端ではなかったが。この桐島勇太も、それに匹敵する怪物。


今シーズンの桐島勇太の成績。

101試合出場、129安打、21本塁打。82打点。


米野がいなければ、この男が新人王であっただろう。シーズン終盤はチームの4番として活躍。1試合、2本塁打も記録。新人では2位の本塁打記録を出す。

ちなみに、あの米野からヒットを打った1人でもある。


「鷹田はホームランを狙っているからや!!28本塁打とかふざけんなや!!打点はワイが上や!」

「俺の話なんだが。桐島……」



愚痴というか、なぜ引退を決めたか。


「俺の体はもうボロボロだ。高校まで直向きにやってきたからな」


すいません。

プロの世界でいきなり完封しといて、本塁打も打っちゃう人が何を言ってるんですかね?


「お前達と戦える事は望んでいたが、俺はお前達と戦える状態になれない。数年後には確実に追い抜かれる」

「…………」

「俺がお前達の中で一番だった。その俺が崩れるとこを見せられない。俺自身にもな」

「最適な引退ってわけやな。勝ち逃げとはなぁ」

「悪いか?だが、できるか?俺がやったことは最低で最大の傷だよ」

「後世になってもできんやろ。あんな1試合にして、あんな引退や。ブチギレ半端ないやろ」

「プロ野球界から破門だ。だが、俺は帰ってくるぞ。投手としての200勝は後悔なく諦めたが、監督として2000勝はする。戻ってくるぞ」



打者として。

阪東や米野から打ちたいという自分もいるが、どこぞの知らない奴等にまでも打たれる彼等を見たくはない。せめて、桐島が認める誰かなら分からなくもないが、認めないって事を強く不安する。

それでいいかもしれない。


「引き際も大切やな」

「俺は勉強してくるよ。色んなことやってきたが、監督だけはやったことなかった」



阪東にも将来を見据えての事だろう。

それは別に大学生だろうと、プロ野球選手だろうと同じもんだ。家を出る、家を買う。嫁をもらう、探す。そーんな、一面は人だから起こること。



「ここはワイにツケらせろや」

「?」


桐島が、阪東に認められている事を嬉しいというか、滾るというか。

色んな感情があって一つに纏めて、互いに尊敬か。


「現地でもテレビ越しでもええ。見とけ、阪東。ワイは三冠王をとったる。鷹田や叶、米野、レイ、鷲頭、先輩や後輩、神、悪魔だろうが。ワイが最強の打者や!全員寄せ付けず、打ち崩したる!!そんなお前は、ワイが認めた選手になる。誇るんやな。2000勝の監督さん」


桐島の言葉が、阪東にある。わずかな選手としての気持ちを晴らせてくれた。共にいた時間もあるだけに


「ありがとうな、三冠王」

「三冠王とったら必ず奢れや!!力と金を貯めておくんやぞ!」

「分かってるよ。じゃあ、ここは任せる」

「おい!三冠王は一回だけじゃないんやで!分かってるやろ!」

「そーしてくれよ、桐島」


天才だろうと、怪物だろうと。人という者はどこまでいっても、変わりない。

青春やっている。人生やってます。





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