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馴染な男  作者: 孤独
大学1年
2/52

悪鬼知る


県大会で散った者達。そこで野球を諦め、別の道を進むことに後悔などあるわけもなく。間違いではないというのも正しく。人生には成否なんてものがない。

ただ、そこで俺とか私が、やるかやらねぇかで。



大鳥と名神は九州国際大学に進学。

九州六大学野球に参加する大学であり、リーグ内の優勝候補の1校。

そこでの戦いに身を投ずる2人であったが、



「ぐぇーーー」

「ひぃーーー」



悲鳴が上がる。上がる。上がる。



高校の練習もきつかったが、大学での練習もハード。長崎商業のバッテリーと言っても、県大会程度のことで、誰それ?状態。ここには九州を中心とした、優良選手達がやってきていた。2人の知らない甲子園の地で活躍した選手までもが来ていた。

大鳥も名神も、自分より巧い選手が同ポジションで同学年におり、その上にレギュラーを掴む先輩方がいた。下から見上げている状態からのスタート。

それでも、



「俺、阪東の球を直に見た。化け物だ。マジで中学生!?とか思った。しかも、その試合中にショートもやるしな。叶も二刀流としてすげーけど、阪東の万能感はもっとすげー。どこでも超一流だろ」

「練習試合だけど、米野と鷹田。特に米野の球を前に飛ばしたことは、自慢できるぜ!」

「今まで出会った中でヤバイ打者は、桐島だったな。2つ下のガキとか思ったが怪物だ。俺は、あいつを超える打者と出会った事ない」



野球をする者、野球ファンの者。

それらが未来に期待するほどの逸材達がこの年、全てプロ入りを果たした。



後に、”最強3世代”の、1つの世代。その3世代の中で、”逸材の多さ”という点では、突き抜けていた。

そんな怪物達と戦ったことのある者達。そんな怪物達のせいで、埋もれる逸材扱いをされる者達。



「そ、そんなに凄いのか?」

「俺達、そーいうところと試合した事ないな。観戦もない」


全国で戦ったことない者達にとっては、途方もないことで。大鳥と名神にとっては、練習に疲れた頭に届く想像できない怪物。才気。自分達に諦めろって言い聞かせてくれるもの。

でも、それは逆に



「良いなぁ、直に試合したい」

「俺も全国に行きたくて、大学でも続ける道を選んだ」



……知る者と知らない者にとっては、



「はははははは」

「うはははは」

「わ、笑うとこ!?」

「いやいや、今となってはおかしくてな。分かるよ、そーいうとこ。俺達にもあったぜ」

「あったあった。ちょっとチヤホヤされる同学年って感じだったけど、なぁ」



厳しい挫折がある。その挫折に屈するのも事実であり、正しきことだ。だが、こーいうことも事実であり、大鳥達の言ったことなど。大学で出会えることはないのだ。



「俺の情報網によれば桐島達は全員、プロに行っちまった。今の大学野球にそのレベルがいるかって言ったらな」

「いないだろ。マジで大鳥達の世代はおかしいんだよ。逆に、お前等が可哀想だぜ」

「あのレベルと本気で試合をしたいなら、プロに行くしかねぇよ。プロに行けたらな!ってだけど」



上手い者達が、先輩達が。

そー言うほどの怪物達。名前くらいは知っているものの、実際にどんな選手なのか。どーしてそれを明言できるのか。

気になっていたことは、意外とすぐに2人にも分かった事である。


その世代で最も活躍する事となり、1人の投手がやってのける歴史的偉業を目の当たりにして。




◇      ◇




高卒ながら、即戦力という看板。

とはいえ、開幕一軍を勝ち取ったのはたったの2名。


阪東孝介 と 米野星一。どちらも選手登録では投手である。


開幕戦初登板、初完封、初本塁打、初打点という。とんでもないデビュー戦を飾った阪東孝介。

一方で、リーグとしても、歴史としても。記録という点では、その名を大きく刻んだのは米野星一の方だった。



「ゴールデンルーキーだがなんだか知らねぇけど、プロの洗礼を教えてやる」

「まったくだ。いきなり守護神なんて、プロは甘くねぇーんだよ」

「オープン戦でも結果出してねぇのに」



阪東は先発というか、二刀流に近いものであるが。米野は、抑えの守護神である。高校を卒業したばかりの者がいきなり、その座につくという。

それ球団も悪いんじゃないの?っていうほどの、とんでもない事から始まるが。それが完全なる実力というものだったと、全て思い知る。



彼の初登板は、9回裏。1点リードの場面だった。



「ピッチャー、米野」


アナウンスがされると同時に沸く、球場。


「おおおおおーーーー!!」

「ついに来たーーー!!吠えろぉぉっ!」


そのコールと共に、彼の初登板を待ち望んでいたファン達は総立ちで声援を送った。


「米野ーー!!お前が守護神だーー!!」

「プロでのお前を待ってたぞーー!!」

「オープン戦じゃねぇんだ!本気で吠えろぉっ!!」

「初セーブ、決めちまえーーー!!」



その地鳴りに当然、イラつく相手チーム。人気があろうと高校を卒業した程度、酒も飲めない歳ごろのガキだ。

そんな期待など粉砕してやるわって、相手は意気込んでいた。


「すげー歓声。初登板はやっぱり緊張するな」


それでも、9回の荒れているマウンドと、そこに行く足取りは変わっていなかった。

米野の雰囲気と姿は打者からも、観客たちも高校生に過ぎないものと思えた。投球練習中もとても穏やかで、少し固さが出ているところでもある。



「ふーっ………」



米野は投球練習を終えた後、マウンドで目を瞑り、深呼吸。次の瞬間。



「うらああぁぁぁっ!!逝くぞぉぉっ!!」



雄叫びと共にマウンドに立った彼の姿は、高校生とか、プロ野球選手とかの、人間っていうものじゃない。”悪鬼”そのものを感じさせる投手であった。眼のぎらつきは上から目線どころか、仏を喰らう鬼のような目つき。


「うおおおおぉぉっ!!」

「吠えたぁぁっ!!今日の米野は本気だ!!」

「オープン戦で使えやーーー!!2失点もしやがって!!」


米野の咆哮。本気のスイッチに盛り上がる観客達。彼を高校時代から知る者達にとっては、待ち望んでいた夢の舞台。

そして、本気を出す米野を目の前に、打者が感じたものはプレッシャー。



「っ!」



ホントにガキか、こいつ!?


打者が米野の雰囲気に呑まれながらも、まず来るであろうストレートに狙いを済ませていた。

当然、米野のプロ入りして初めて投じる球は、ストレートであった。



「!!」



球速は153キロ。決して、ずば抜けて速いというわけではない。しかし、打者にはすぐ。このストレートを打つのは非常に困難だと、理解するにはその1球で十分だった。加えて、



「ストライクっ!!」

「ぐっ」


て、手が出なかった。バットが動かせなかった。スピードだけじゃない。

プロ入り早々の野郎が。インハイ、ギリギリのゾーンに迷いなく、投げ込むかよ!?普通するか!?こんなのをポンポン投げられたら、ヒットすら打てるかどうか。



150キロ越えのストレートを、洗練したコントロールでストライクゾーンの四隅へと投じる。完全に米野は1人目の打者を




「おりゃああぁぁっ!!」



己の力のみでねじ伏せる。ストレートを4球投じ、奪い取る。



「ストライク!!バッターアウト!!」

「しゃああぁっ!!」


強引過ぎる三振。それに湧く観客。この結果に米野が感じていたプレッシャーは相当減っただろう。いつもの自分で投げ込めば、プロに通じる。ねじ伏せる投球、見下ろす投球、格の違いを見せつける鬼の投球。

これが”悪鬼”、米野星一の投球。



「うりゃあああぁっ!!」


150越えのストレートだけじゃなく、変化球はスクリューとシュートが中心。高速で曲がるスクリューと緩急のつくスクリューの二つを使い分け、左打者の胸元を抉るシュート。これらの精度もストレートと同じく、完成された超一流のボールであった。

そして、米野は奇しくも大鳥と同じく、サウスポーであること。

後に彼を知ることで、大鳥にもある機会が訪れる。



「ゲームセット!!」


3アウトをとった瞬間。

先ほどまで鬼の顔をして、投げていた男の顔が人に戻った。


「ふぅ、無事に終わったな」



記念すべき初セーブを遂げたボールをもらう。その顔は、青少年が何事もなく喜んでいる顔であり、”悪鬼”となった米野などどこにもいない、ただ1人の投手であった。



「米野のプロ初セーブだーーー!!」

「これは間違いなく、チームの守護神だ!!」

「最高の守護神が来たーーー!!」



この初セーブから始まって、米野は15試合連続無失点セーブを記録。



1年目、シーズン終了時の米野星一の成績。

52試合登板、3勝0敗、6ホールド、42セーブ。セーブ機会、43回。セーブ成功回数、42回。セーブ失敗回数、1回。

防御率0.56。投球回、47回2/3。失点、5。自責点、3。奪三振、39。被安打、13。被本塁打、0。与四球、2。


基本的に9回。あるいは、延長での登板のみである。回跨ぎはあまりしないが、守護神としては絶対的な成績である。



獲得タイトル。

MVP、新人王、セーブ王。



紛れもなく、新人最大の功績と記録をたたき出した人物であった。



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