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馴染な男  作者: 孤独
大学3年
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19/52

打て名神


当たり前であるが、敗北の多くとは挫折である。

自分が敗れるとは、自分が進めないこと。

春大会が終わってから、大鳥は態度とは裏腹に調子が上がらない。



「5回2失点、被安打6、四球2つ」



なんとか、辛うじて。

そんな言葉を紡いで、投げているエース様の大鳥だ。まだ1年あることでチームとして、良いこともある。

監督としてエースがそんな状況だから


「後輩や先輩に出番を回せるから、監督・指導者としては良いんだがな」


酷使とは縁のない投球をしている今シーズン。

それとは違い、深刻なのは捕手である名神の不調。実際のところ


「お前、ホントに大鳥専用の捕手だな」

「……できれば、大鳥の捕手も降りようかなって」

「何を言ってんだ」


投手から信頼される捕手は当然いるものだ。壁性能が高く、強肩。

打撃が現状深刻であるが、守備面ではこのチームナンバー1。他の投手だって、後輩の捕手だって、名神の良さを知っている。

この捕手と組める事は幸せだ。


「大袈裟に言うが、名神。お前は人の良いところばかりを、見つけやすい。それがきっとお前の長所だよ。勝負したいって時、最高の球を要求できる」


捕球技術がしっかりしているから、投手だって思い切り良く。内角への要求だって投手は怖気づかない。

投手の不安を一掃できる捕手というのはなかなかいない。

だからか、その捕手が調子以前に、集中を切らしたプレイが続くというのは投手全体、守備全体に響く。



「お前が考えごんじゃ、お前の良さが出ないだろ?お前は、お前自身の良さを出せよ」

「言うのは簡単でしょうけど」

「卑屈になるな」



投手以上に変えの効かないポジションだ。

だが、彼の幸いとしているところはリーダーシップの欠如と責任を感じ取れている、使命感。

これで次期主将なんて事までショイ込んでいたら、どーなる事やら。基本的に投手達の管理のみを担っている名神だ。

話しを逸らす体で


「……ところで、お前は今後どうする?」

「今後。進路についてですか」

「独立行くか?それとも社会人か?誘いはいくつか来ているぞ。まぁ、野球を辞めるのも選択だ」


ほぼ野球だけだった高校生活とは違う。

就職活動なり、学業も励む大学生活である。自分にも大鳥にも、そんな話は嬉しく受けている。とはいえ、”同じく”ってのは未だにない。

またそれを捨てようとしているのは、名神の方だ。

決め兼ねているとしていた。



「進路の決断は早い方がいい。決められるほどの好条件は互いに来てないが」

「!」

「私生活で悩んでいると、プレイに出てくるもんだ。プロからなんてとてもまだ来ていないが、プロ目指す気持ちで社会人や独立に行くって表明。悪くないと思う。大鳥に相談するのも手じゃないか?」


監督の方から言われる。進路については、そんなに悩みではない。むしろ、


「大鳥と一緒にプレイする事が、あいつのためですかね」

「分からないな。事実を言えば、大鳥をもっと活かせる捕手は数多くいるさ。だが、そんな捕手と出会うにはお前も一緒に行く必要。あんじゃねぇの?見ず知らずの女に、旦那を渡す女房がいるか?はははは」


そーいう不安。

特別なんだろうって、事しか分からない。


「冗談はいいとして。まぁ、なんだ。チームが負けてちゃ美味しい話も来ない。集中できないのも分かる。だが、そーいう時の練習ってのは決まっている」

「?」

「素振りしてこい。ガンガン打て。投手も捕手も、守備全体において、チームメイトが関わる。だが、打者だけは自分との戦いだ。自分に納得できるまで振ってこい。打撃もできなきゃ、独立も社会人でもできねぇ」

「……………」


そー言われた。同時に悩んでいる事が分かっている。

監督に発破をかけられて、グラウンドに戻った。

名神がバットを持った時、隣に待っていたかのように大鳥もいた。同じくバットを手に取っていて


「俺も付き合って良いだろ?和」

「宗司」

「俺が悩んでいる時はお前が助けてくれた。お前が悩んでる時に、俺が助けておかしいか?」

「………いや」

「隣でバットを振ってやるくらいだけどよ。気の済むまで、野球をやろうぜ」



ブンッ    ブンッ



自分のために、時間を割く。それが励みになるか、苦しくなるか。

まだ先……とは言えない。もう近いはずだ。

初日はなんてことはない。ただただ、バットを振り続けたくらいだ。ふと思った。お互いに打撃練習をしているなんて、珍しかった。投手と捕手の関係であったから、気付けなかった。

友達であったが、こーやって並んでバットを振るうのが一番、友達らしい。



「そーいや、和!」

「なんだ?」

「お前、バットを振る気がない時。バットの位置が下がるよな」

「!そうだったのか?」

「気付かなかったのか?」



大鳥が知っていた名神の癖は、当人すら気付いていない事だった。


「まー、見逃すって感覚はあるよ。早打ちは好かないからな」

「ははは。和らしいよ、そーいう考え」

「ふふふ。宗司もさ、二塁牽制の時」

「?」

「セカンドの位置を確認するだろ。胸回りで牽制するから、目で分かるセカンドに捕らせようとしている。俺も上手い牽制のタイミングを掴めないからだけどよ」

「刺す牽制はムズイんだよ!細かいところ見てんだな!牽制は走者を自由にさせないための手段だろ!俺にはお前から教わったクイックがあるんだ!お前の肩もある!」

「だな。でも、刺す牽制だってアウト1つだろ?また一つ上手くなろうぜ」



お互いの弱点じゃない。癖を共有する仲間。話せない事はあっても、話せる事はいくつもある。

その度に頭の中にある重圧が消えていく。

悩んで振り抜くバットと、気持ちよく振り抜くバットには違いがある。



ブンッ       ブンッ




1日、2日、3日。続けていく。

それが積もれば、ぶつかり合うのが壁。もっと打つために、どのようなものが必要か。

強く振り抜く技術は掴めても、他者との差に絶望的な開きがある。己の限界を知り、短く握って、長打を捨てる。

空振り三振が恥じゃないフルスイングは、できないと悟っている。

前の試合で反省という意味をここで活かすのなら、名神がとった案は妥当なところである。


相手の良いところを見る力がある事は、相手を知る事に長けているわけだ。

己にも然り。

打撃というシンプルそうで複雑なことを一つに絞る勇気は、自己分析から成り立つ。

駆け引きなどは得意ではないし、むしろ苦手であるが。相手の得意を封じる打撃にはなれる。



「目標打率、3割」


難しいことだが、ガチャで見たら高いレベル。

相手の得意なやり方で自分が出塁すること。名神がイメージしたのは、小賢しいと言える打者のレベルであるが、立派な1人の打者だ。

空振りを避ける打者と言えば、感じ悪いが。

短いスイングで、ライナー性の打球をイメージし、内野の頭を超える理想像。特別に苦手と言えるコースを持たず、選球眼への意識も必要。



どんな投手だろうと、投げてくる球に苦手を持たないこと。



難しいことで華があるものじゃない。

速球打ち、厳しい内角打ち、外のボールの見極め。自分でも捕れるかどうか、分からない投手の球もあるだろう。

自然にやれるとしたら、打撃技術の向上は必然。

身に付いていく技術に、知恵の工夫は凡人達にとっては必要である。気付けることもまた成長。

気分転換でも没頭した打撃練習は、名神の抱えた不安をふっ飛ばした。それが守備などへの影響も出てくる。ハツラツとした動きを作る。



自分を信じた自分のまま、打撃に昇ろうとしていた。




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