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馴染な男  作者: 孤独
大学2年
15/52

悪魔が打

大鳥の調子は良い。一つ言えば、



「調整は練習試合で済ませておけ」



名神にのみ、伝える監督。


「すんません」

「本大会中だ。ここでしか見えてこないものもあるが。大鳥の自信は……」

「折れていませんよ!」

「!」



打たれた投手を鼓舞しているより、信頼しているところだ。


「7回まではいけませんでしたが、それでも6回3失点!序盤は特にしっかり抑えていました!あいつは大丈夫です!」

「……2日後だ。答えは出しておけ。その時、あいつのベストを選択しろ」


外から見て、言えることはある。

名神はただただ、友を庇うためのものではない。確かに見えてきたものもある。


「それでも、シンカーの手応えは良かったぞ。特に序盤の制球はさすがだった。必ず、武器になる。配球の偏りは出ていても、今大会中に見破られるとは思えない」


小言を挟んで褒める。

いよいよと来ているか。

それとも、


「大鳥の事は頼むぞ」



名神は託されている。


「ふーっ……まだまだ。か」


一方で、大鳥は休息中。そこまで深い回は投げていないが、連投が続く大会である。完投できる能力はない上に、そのような投手タイプでもない。上出来と言えるライン、6回をキッチリ抑えて投げられるタイプの投手だ。

無双の如く、奪三振を量産する投球スタイルであるが、スライダーがそのスタイルに噛み合い過ぎて、打たせて捕る事は狙い通りにはいかない。名神も大鳥に合わせたリードをとってしまうため、強く伸びる反面に手探りとなって脆くなる。

大鳥は休みながら、記録員がとってくれたスコアブックをチェックしていた。



名神の要求通りにいかないな。

球数もあったとはいえ、打たせられる球にはなってなかった。



勝負を意識していたため、シンカーのストライク率は高いものとなっている。

派手に抜ける時は抜けるが、丁寧に低めに集まっているデータも出ている。あとは組み合わせと、その決めるって時にキッチリ投げ込むこと。

分かっている。

それほどに単純な事なのに、難しいことだ。


練習で身に付く。試合で気付けるといったところか。

足りないもの。気付けることに、人は成長を知れるのだ。

もっともその足りないというものがあまりにも、膨大であれば人は挫折となり、喪失に至る。




◇         ◇




ガキィッッ


4打数無安打1四球。ボチボチの働きである。

1回戦。とある選手に成りすまし、この大会に不正参加をしている広嶋健吾。


「おっしゃー、勝ったー」


彼がそんな声をあげるわけがない。また、


「格下相手に喚くな」

「まだまだ通過点だ」


それはとても試合をしていたとは思えないほど、礼儀知らずのような言葉。当然とも言えるか。

全国大会と言えど、チームの差というものがある。……あれ?広嶋はあんまり凄くないの?



そんなわけあるか。普通に勝てる試合で遊んでどーする?

求めているのは、暴れるに相応しい試合だけ。

俺と全員。



この試合、チームは7-1の大差で終わってしまった。広嶋はサードを無難に守って、チームに貢献。1四球で1得点も記録である。

入れ替わった選手と同じようにこのチームの凡庸な選手であるため、とんでもない記録は叩き出さない。

今のところは……。



「2回戦の相手は……」

九州国際大学きゅーこくだ。今回は良いエースがいるらしいぜ。左の技巧派だとか」

「…………」


ほー……。



広嶋は事前に相手のデータをとる。当たり前の事であるが、とても念入りに調べ、傾向を把握する。

データ班から得られた情報はもちろん。実際にその投手を間近で観察したり、あるいは他者の意見なども聞き込む。ん?至って普通?んなわけないでしょ。あくまで今は趣味の如く、1人の野球選手として、対峙する打者となる。

無言のまま、データ班からの情報に目を通す。まぁ、そうなると思うが



「あいつってあんなキャラだっけ?」

「珍しいよなぁ。あんなに食い入るようにデータを見るなんて……」



成りすました人物と違う行動をとっていれば、当然怪しまれる。見た目だけは同じにしても、しょうがないところであるが、広嶋も我慢できない。好投手かどうかは自分が判断する事であるが、面白い特徴だった。

映像を見た瞬間に、疼いた。

あまり見た事がないタイプの技巧派。


「……………」



クイック気味。っつーか、完全なクイックで投じるサウスポーか。

球速はそうでもないか、130後半。だが、これを平均で出しているのはなかなかだな。スライダーが投球の軸。通常のスライダーに縦スライダー、カーブっぽいスライダーと、綺麗に投げ分けられるのか。完成度高けぇな。器用なタイプだな。


大鳥の良いところを見つけ。それをぶっ壊したい。



広嶋が”悪魔”と呼ばれるところは、



「潰してぇ」



選手達の努力、才能、仲間意識。それらを踏み潰してしまう、残虐な結果を突き付けてくること。スポーツに感動なんてないかのような、惨い仕打ちに躍動しちまう。

大鳥の投手としては、確かに評判通りのものを持っていた。

6回、7回というイニングであれば安定した投球を披露するだろう。これだけができる投手は少ないものだ。

1回戦を突破したこのチームでも、早々崩せるとは思えない好投手。

言っておくが、チームを救うような選手になりたいわけじゃない。


悪く言えば、広嶋は、有望な奴を選別しているだけだ。より有望になるか、あるいは無能に下っていくか。

広嶋と戦えば分かる事である。


そう。たった2日経っての事で激突するもの。




◇          ◇



すぐに2回戦が来る。

初戦での反省を踏まえれば、今日の大鳥は確かに前回より手強いだろう。



「うっし!」



マウンドに立っている。

大鳥宗司は今日も先発として、昇り。



「……………」



名神もマスクを被って、ミットを構えた。

互いにチーム力では五分五分だろうという、予想。大鳥の出来が良ければ、投手戦。あるいは、互いに殴り合うこともある。一方的なものにはならないという、大方の予想は合っているだろう。

大鳥の立ち上がりはまさに評判通りの安定したもの。

シンカーも当然織り交ぜ、打者に狙い球を絞らせず。圧巻の三者連続三振という立ち上がりを披露。



試合を観に来ていたスカウトも、この大鳥の安定感には注目した。



「いきなり3者連続三振……。あの3種類のスライダーはプロに通じる」

「まぁ、相手は見え見えの待球作戦もあったが、三振をとれるスライダーは見ていて気持ちが良い。注文通りといったところか」



多少打者に粘られ、16球と結構な球数を初回から放った。

大鳥の失投待ちであるのは明白か。新球のシンカーが甘くなったところを痛打し、大量得点を狙うやり方。

守備を終えて、名神達がベンチに戻っていく間。それに当然気付く。



「これはしょうがない」



やっぱり一回戦と違うな。大鳥のデータをとられ、甘い球を狙うのは当然か。

多くの打者をねじ伏せる球威はない。シンカーを使った前後の変化で打たせて、この問題を解消する。

……やれるか。



「素直に出来過ぎは嬉しいもんだ。敵の塩でもな」

「宗司」


グラブで名神の背を押して、大鳥からも頼んだ。


「やってみようぜ、和。向こうの狙いぐらい俺にも分かる」

「……だな。今やらなくてどうするって事だな」



ストライクを確実にとれる序盤でやるべきことだ。厳しいコースにも投じられる。

回が進み、疲労が積もればミスも出てくる。2,3球で早く打者を終わらせられるのなら、大鳥を引っ張れる。相手の待球作戦。

そんな計算を少しでも狂わそうと、先制攻撃を欲した。



コツンッ



「初回にスクイズ!!」

「先制は九州国際きゅーこくだ!!」


1アウトから四球、盗塁、パスボールという形で作った絶好機にスクイズ。畳みかける事よりもわずかでもリードする采配。

大鳥の立ち上がりがなんであれ、完璧だったのだ。

少なくとも、相手選手がやられたという気持ちにはなった。

圧倒的な点差でなくていい。6,7回まで、大鳥が抑える。それまでに3点差以上をつければ、まず勝てる。



「おーっし!」

「スクイズで点をとったかー」



大鳥は名神とキャッチボールをしながらのこと。この先制で気合が増して、グラブを叩いた。できる限り、長く投げてやる。投手にとっては在り来たりな事であるが、リードをもらったというのは励みになる。

わずか1点でも、だ。

相手のミス待ち作戦は間違いではないが、打ちに来なければ得点には繋がらない。



3回くらいまでは相手も様子を見てくるだろう。

二巡目がホントの勝負……。



「……………」




2回表。それはあまりにも、唐突だった。

無警戒ってわけではない。4番、5番を、練習通りのシンカーでタイミングを狂わせ、ストレートを打たせての内野ゴロ。わずか5球の出来事。先制した流れがそのまま来たかと思えば、その直後で。




カーーーーーーンッ



「!?」


快音。響く。

ストレートを外していたが、無理矢理打ってきた。

いや、分かっていたんだろう。



宙に回転して舞うバットは、打球と同じくキャッチを拒んでいた。



カランッ




「悪ぃ。俺は勝手にやらせてもらうわ」



広嶋健吾。

大鳥の2球目。

釣り球のストレートを逆に狙い打ちし、レフトスタンドに叩き込むソロホームランであっさり試合を五分にする!

この悪魔に目をつけられたら最後、心が折れるまで野球を続けられる。




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