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馴染な男  作者: 孤独
大学2年
11/52

場き邂逅


趣味は色々とある。

野球を職業としながら、それを離れるための気分転換。

大学生活、高校生活、それをしながら野球ができるのも、そんなところがあるのかも。


「先輩、彼女できてたんですか」

「おう!」

「いつの間に……」


女を作り、金を稼ぎ、


「就職決まったぞー。10社目だわー」


これから務める場所を決める。

凡に、とっては当たり前のことが喜ばしいのだろうが、天才でも変わりなかったりする。


「うわはははは!サイコーやっ!シーズン終わっての酒と女は!!」


野球をしている時は確かに、カッコイイ選手である。米野と並ぶ人気の若手選手だけある。

だが、酒癖と女癖の悪さ。フライデーにされる事もう、プロ通算4回。桐島勇太のオフシーズンは、禁酒から解かれた楽しさに湧き、女を抱く喜びを感じていた。


「桐島くん。夜の三冠王は早々に達成なのね」

「当たり前やー!だって簡単なんやもん!くぅぅっ!本塁打と安打数、打率だけや!って、ほとんどやんけ!本塁打で鷹田以外に負けたんは悔しいで!でもでも、打点の数だけの酒!本塁打の数だけの女!安打数だけの○○○や!!これがオフシーズンの楽しみにして、シーズンを活躍できる喜びやでーー!」



サイテーのようで、素晴らしい趣向品の使い方だろう。

一流選手に必要な目標と、その目標に達した時の褒美。桐島はよく考えて、本能のまま暴れている。

そんな彼の今年のタイトルは、打点王と最高出塁率、ベストナイン。この時点で打者としてならば、日本の4番に座るほどの怪物と化していた。だが、別リーグであるが、本塁打数では打者としての最大のライバル、鷹田花王にまた負けてしまった。そして、今回は打率と安打数においても同世代の1人に追い抜かれた。



「安打数はしょーがないやん!レイは1番打者!ワイは4番や!打数が足りんのや!!」



個人の野球センスに限れば、渡辺レイこそが最高の選手であろう。

自他共に努力よりも才能のみで野球選手をやってしまう事を、知られている。どんな世界にも稀にいる、とんでもない天才。桐島にとっては、鷹田花王に次ぐ、打者としてのライバルであるが



「けど安心や。レイはアメリカに行くんや。まずはマイナーらしいで。レイがおらんのなら、打率と安打数は勝てる!」

「ええーー!?どうしてどうして!?」

「レイくんって可愛らしくて、女性ファンが多いわよね」

「ショートで可愛いイケメン、ファンサービスも良くて、超カッコいいショートだし!」



自分から話してなんだが、女が他の男の事を話していると腹が立つ。

旨い酒も、良い女にも浸れない。

しかし、それは自分が成績という形で渡辺レイに敗れていること。それが悪いのだ。しかも、当人は渡米しちまう事態。決着はつかないままに終わってしまった。カッコ悪いのは自分の方だろう。



「しかしや、やり過ぎな時代や」



来季への目標。超えるべき自分をここで確かめているところに、VIPゲスト達の登場。



「お前が一番やり過ぎだろうが?店は貸し切りか?」

「おぉー。来おったな、かのう。オフシーズンじゃ久しいやな」

「シーズンでは何度もぶつかってるだろ。アホ」


同期の化け物共。今日はこの桐島様貸し切りのお店に、招待された者達。


「鷹田はお前と飲みたくないって、伝言もらってる」

「鷲頭ー!お前は来てくれたんやなぁー!」

「レイは渡米の準備で忙しいだってよ。米野は気分じゃない。下戸ってか、酒乱?」

「井藤ーー!お前も中継ぎタイトルまで、あと少しやったなぁ!惜しい惜しい!」

「三冠王じゃないなら、お前の奢りだろ」

「当然や!この中で誰よりも金、酒、女、バットを振って来たワイやで!阪東!」



叶善かのうぜん鷲頭一稀世わしずいちきよ井藤誠いとうまこと、阪東孝介。

この4人が桐島の飲み会にやってきた。



「まだ、全員じゃないな。桐島、人望ないんじゃないか?」

「五月蠅いなー!ひとまず、プロ野球組はボチボチの集まりやなー」



その中心と言える、鷹田と米野、レイの不在はいかがなモノかと、ここに来た同期は思う。


「生ビールと女を」

「よっ!”双竜”!プライベートも、酒と女は同時なんやな!」

「うっせ。馬鹿」



叶善。ポジション、投手兼一塁手。

なんと2年目の二刀流選手。まだ目立つタイトルこそはないものの、今シーズンは投手として8勝3敗。防御率、3.46。完投を3回記録。打者とは規定未達であるが、11本58打点。打率は2割7分。

投手としては先発型の完投できる本格派、打者としては長打と勝負強いが打撃が魅力。守備も一塁手ならかなり上手い。


総合的な身体能力ステータス運動能力アビリティーという点ならば、この叶こそが一番である。鷹田以上の長身、なんと、2mの身長を持つプロ野球選手。



「俺は飯だけで良い。寿司はねぇか?」



井藤誠。ポジション、投手

中継ぎ投手。丁寧なコントロールで140中盤のストレートと、抉り込んでいくカットボールと落差50キロの超スローカーブを操る、バランスの取れた中継ぎ投手。

今シーズンは38ホールドをマーク。今シーズンはビハインドから登板し、結果を残した。シーズン終盤は勝利の方程式として、8回を任されるようになった。

米野とは違い、どんな状況でも安定した実力を出せるため、困った時は井藤というフレーズが出たほどである。

ちなみに渡辺レイと同じ球団。



「寿司ってお前、相変わらず”禿頭”が選ぶ飯やなー」

「誰が”禿頭”だーー!?これはスキンヘッドだっつってんだろーが!!寿司と禿がどーいう繋がりあんだコラァ!?」

「シャリが頭、ネタが髪やろ」



ちな。”最強3世代”達の、二つ名の一覧。

桐島勇太、”太極”

阪東孝介、”万事”

米野星一、”悪鬼”

広嶋健吾、”悪魔”

村下レイジ、”投神”

鷹田花王、”怪獣”

鷲頭一稀世、”虹彩”

叶善、”双竜”

渡辺レイ、”天賦”



井藤誠、”禿頭”




「おかしい!!ふざけんなよ!お前等、カッコいいのもらっておいて、なんで俺だけ悪口!?」

「打者を刈り取る投手って意味だろ」

「カットボールで打たせる投球のお前らしさ」

「禿の希望」

「スキンヘッドだって言ってんだろーが!ぜってー許さねぇーー!」



そー思うんだったら、鬘でも増毛でもしろよ。

週一でバリカンやってんだろ?



◇       ◇



人とは、そんなものである。

プロと呼ばれる者達であっても、ただただストイックなだけではない。人間臭い一面も表すことだ。



ナポッ………



のはず。



「ふぅっ……」

「お客さん。大丈夫か?」

「いえ、平気、です…………」



名神。珍しく、1人飯である。休日に旨くてスタミナ満点。なおかつ食い放題という、焼き肉店へ。



モグモグモグ…………



「うー……」


顔色が悪くなるくらい焼肉と飯を食べている。

捕手としての体型がまだまだ細い。筋肉をつけるためのトレーニングもそうであるが、その元となる食にもメスが入るのは当然。胃袋が空くほど肉と飯を食べてみる。

食べられる事も才能だと聞いた事がある。確かに食える分だけ、代謝となればトレーニングと同じく有益な事である。


しかし、肉ばかりもどうかと、チャレンジ後に思う。



モグモグモグ…………



バイトをしているとはいえ、ジムに通ってる費用とか道具の手入れとかで結構使ってるんだよな。

週一もキツそうだ(腹と金銭面で)。

食費も馬鹿にならないし。(学費とそれなりの生活費は家族が出してくれてるが)


知識や技術にも、時間と金も掛かる。大学生となって、自由を得ても難しいとはこーいったところか。

自らに投資したところで本当に自分の力として還ってくるかは、競馬といったギャンブルに似ているか。



ナポッ………



「?」



そんなとき、店内がちょっとざわつき始める。

名神が座るカウンター席でも見えるほど、1つのテーブル席でのやり取り。食べ放題で食っているメニューとは異なり、最高級の和牛のステーキを食っている巨漢の男が1人。

グラサンをかけ、鷹のスカジャンを着る。見た目はプロレスラーやヤクザの類か。



「……………」



沈黙し、焼き肉。ステーキ。飯。ほんのちょっぴりの野菜。

その食い方が量に反して、とても綺麗で人に旨そうと、思わせるように食っている。



「な、なんだあの人……」

「もう5人前ぐらいの肉を食ってるぞ。肉だけでだぞ」

「関取?レスラー?」

「まぁ、スポーツ選手なんだろうな」



周囲の状況や声など気にせず、食いまくる男。

しかし、そこは彼の第二の地元と言っていいところ。変装をしていても、強面の雰囲気を出しても、バレてしまう。



「もしかして、あれ。鷹田花王じゃねぇか?」

「!あの、本塁打王の!」



2年目の今シーズン、本塁打45本を記録し、目指していたタイトルの一つを獲得した男が1人。

そーいった声が届いても知らんふり。無関心。

店側は気付いていたり、気付かなかったり。



「あれが……」


名神は気付いた。鷲頭とは違った形での出会い。とんでもない出会いだ。そして、同年代とは思えないほどのとんでもない風格。

声を掛けたい。できれば、サインくださいって言いたいほどだ。だが、今の彼は食事に集中している。自分はもう吐き気がしてくるほど、肉を食べている。それの倍以上は食っているというのに、平然としている。

良く見れば、彼と自分とではあまりにも、その体躯に差があった。

アスリートとして生きていける体と、そうでない体であると一目で分かることだ。


何もつけないレタスに白いご飯を乗せ、肉も乗せ。巻くように箸で持ち上げ、その口へ



ナプッ



肉がとても柔らかいんだろう。表情には現れないのだが、食べ方そのものがとても上品であった。箸の持ち方も素敵で、タレなんか零れ落ちない。

口の中と舌だけに食材は留まり、奥へと流れゆく。旨いものを食べても、ただ普通の食事をしてると見える。一般にある感性など、持ち合わせていないのか。

超一流の選手は食べ方だけでも違うのかと、人として圧倒された。



自分が食べるべき肉が冷えてしまう。温かった白い飯すらも、冷たくなるくらい。鷹田の食事を見ていた。

まさに”怪獣”の胃袋。

全てを平らげ。箸を置き、つまようじで手入れをしてから、



「ごちそうさん」



一目を気にせず、礼を大切にする。

残さず食べろ!って、あんなに大事なんかって、伝えてくれる鷹田の完食だった。

まだ残っている名神の肉と飯。

話しでもしたかったが、自分はまったく見合わない状況だった。会計をカードで済ませてしまうと、たったと行ってしまうのが鷹田だった。

そして、いなくなれば



「誰か話しかけろよ!」

「プロ野球選手だぞ!タイトルホルダーだぞ!」

「サインもらえよ!」



鷹田が行ってしまった後のお店は、後悔の嵐だった。

おそらく、全員が自分と同じように思ったのだろう。



「……………」



確かに鷹田花王は、プロ野球選手としても1・2を争う体格の選手だ。俺なんかとはまったく違う。選ばれている人という感じだった。

あの人の打撃は中継で良く見る。スラッガーらしい、豪快なパワーで打球を運んでいく。その源はあーいった食事からでもやっているのか。とても、野球も食事も真似できないな。

それはきっとやっぱり。俺にプロは無理だ。って事……。



名神は皿に残るご飯と肉を見つめる。



これくらいはしないと。贖罪として、名神は頑張って食べていく。

でも、これはこれっきりにした。




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