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馴染な男  作者: 孤独
大学2年
10/52

選手の秋


各々の秋になる。

そこにショックという驚きが大鳥と名神に伝わった。


「選出外!?」

「俺もだ……」


春の大会では好リリーフでチームを勝利に導いた大鳥と名神であったが、秋の大会ではなんと、ベンチ外となっていた。応援や雑用という形でチームへの貢献をする形となった。



「4年にとっては、最後の事だ」


ウェスタン選抜でも好投をしていた。

しかし、それでも大鳥と名神はまだ2年だという事。監督も彼の成長を知っているが、まだまだ伸びることと使い潰す事もない時期。まだ野球をやりたいか、野球で生活をするかどうか。

じっくり考えといでと、休暇といった形の選出外。それをどうやって、2人が受け止めていくかどうか。普通なら腐るだろう。あれだけの練習と成果をあげても、これなんて。



「……大鳥。まだ1年半ある」



受け取ったわけではなく、どこかホッとしている名神がいた。

練習を続けていたことで、自分が大鳥に言えなかった事をここで言える気がした。


チームのミーティングが終わってから、すぐに名神は大鳥と話し合おうとしていた。しかし、大鳥は納得がいかないというか、悔しかった。


「俺が外れるなんて。好リリーフしたのに」

「……悔しいんだな」

「当然だろ!名神は違うか!?」



言葉にし辛いが、ちょっとした勇気があった。自分の事を思い浮かべたら


「きっと、大鳥だけなら選ばれただろう。俺が力不足だから2人で外れたんだ」

「!そ、そんなわけあるかよ!」

「監督は俺と大鳥をセットとして考えているんだ。俺達は2人で、1人の力しか出ないんだ」


意図は伝わらないものであるが、でも。悪い事はなかっただろう。ひとまず、心が腐るなんて事はなかった。こうして、名神としては大鳥の馴染みの友として、1人の捕手としても言える。



「俺も宗司を追いかけないと、いけないと思っていた」

「追いかけるって?」

「宗司が凄い成長してるのを俺が感じないわけないだろ」


それがまだ終わっていない事も知っている。きっと、もっと。大鳥は行ってしまうのだ。

でも、それでも。



名神は真正面に、大鳥の両肩を掴んで本気で伝える。



「俺達は一緒にいて良いよな?」



男の告白。それに退く顔すら出ていないのが、第三者から見てヤバイ。今、この場は二人っきりで話してるんだから、この後のアーッもあるのか。


「馬鹿。何勘違いしてやがる」


その意味が、ちょっと違う解釈にも聴こえる……。


「上も下もねぇよ!和の実力が足りないわけがねぇ!!自信を無くすなよ!!」


大鳥の檄は名神が腑抜けたからとも、感じ取れたのか。でも、名神はそうじゃない。腐ってはいない。笑顔はきっと、不安にさせてしまったというドッキリ暴露のもの。


「ははは、悪い。いや。でも、色々とホントの事だ。俺は選手として足りてない気がしていた」


同時に羨ましくて、嬉しくもあった。大鳥は自分を見捨ててないんだって。


「新球挑戦、新フォームと体作り。宗司には目標とやるべき事が沢山ある。俺はふと思ったが、そんなもん浮かばなくて。監督に相談してたんだ。そしたら、独立リーグの入団テストの基準を超える選手を目指せって」

「和。独立リーグになんか行くのか?」

「考え中だ。でも、それくらいの目標って大事じゃんか?大鳥の成長には目標があったからとも思えるし」



協力しようと、いつからか思っていたんだろうか。もう見上げてしまって、応援をしていたのだろう。ただそれも離れ過ぎたら、力になれるだろうか。勇気や自信を与えられるだけになってしまって、大鳥のためになるだろうか?

俺は傍にいてやることが、為になる。

立ち止まって、座って、見守るなんてできなかった。



「まだ一緒に頑張ろう」



◇          ◇



スポーツの秋。残暑の時に陽の光を浴び、汗を流す。まさにスポーツ男子だ。


「ホントにエアコン効いてるな」

「まったくだ。室内での筋トレの方が安全で健康で、しっかりと積める」

「日本は暑いよな」


と思いきや、大鳥と名神の2人はほとんど室内練習場だったり、休日はジムに通う日々。

基礎体力の見直し。終わることのない基礎トレーニング。体をしっかりと管理するため、継続的なトレーニングを積むのは正しい事だろう。

リーグ戦に向けて、レギュラーとベンチ入りメンバーを中心とした、チームプレイを意識した総合練習が行われる中。2人は地道なトレーニングばかりだった。ある意味、メンバーに外されたことがこの時間を作れただろう。

時折、ブルペンで新球、スクリューの投げ込みをするくらいで。2人はほとんど室内で野球の勉強を続ける。ちょっとチームと別行動で申し訳なかったが、決してサボっているわけではないし。道具整理などの雑用も多少こなしている。


ただ、自由時間が他の選手達と比べて多かった。その自由時間を野球に集中でき、友と過ごせる事を選べるのは立派なことである。


最終年の先輩達からすれば、2つ下の後輩に時間をとられるのは嫌だろうし。二つ分の席を譲ってくれたのだから、そんなことに棘のある言葉は言わないだろう。

だが、それとは違う言葉を放つ者。



「室内トレーニングか」

「監督!」

「真面目にやってれば、まずは良い。その行動の大切さは、勉強が学ばせるんだがな。その次に一体どうやって、良くすると考える?成功するために何を考えた?」


生まれ持つもの。それを才能。

謙虚に、挑戦し、継続する。それを努力。

その努力で知れたことを学び、活かすまでにつなげる。それを工夫。

工夫が実を結ぶこと。それを成功。

小学、中学、高校、大学。そして、社会人。その先の退職、老後。死に辿り着くまでに、人は様々な問題と障害に出くわしても、超えていく手段は何も変わっていない。



「名神はどうする?出した課題はクリアできそうか?」


特に苦手とする単純な足の速さ。こればかりは、才能という面もある。名神は足の遅さを自覚し、


「基本は足腰を鍛えます。でも、一番は走るフォームを見直そうと思います」

「ほーっ」

「やっぱり正しいフォームで走れているか、自信ないです(一回も見直した事ないし)。自分だけじゃ分からないので、大鳥に撮影をお願いしてます」


その体で発揮できる運動能力も大切な事であるが、体の使い方を意識できる感覚と知恵も、問われるところだ。勉強のテストもそうだが、ただ得点を競う場ではなく。どーやって得点をあげていくか、知恵を振り絞る事。

難しい問題に挑むことよりも、簡単な問題を取りこぼさずに積み重ねると、先生は言う。もっと砕けて、当たり前に言えば。馬鹿なお前等が難しい問題に挑戦しても、解けるわけねぇーだろ。身の程を知れ。って、言ってやるべきなんだ。解けるのなら、簡単な問題を取りこぼさないはずだ。試験の傾向と対策を練るとは、そーいうやり方を問うのだ。

そして、


「常に切れるように、俺。頑張ります」

「お」


人はまぐれや運、その状況で、成功する事もある。マークシート形式の問題に対し、数字を記した鉛筆を転がして正解する事も。きっと今の名神は考えないだろう、向かい風で走ってタイムを切る事もある。爆睡し、腹いっぱい食って、十分に気力を満ちたベストコンディションで挑んで、よーやって切れるタイムだったこと。

そーいったものを排除し、単純な実力でタイムを出せること。


人の多くが練習以上の力を発揮できず、試験や本番に臨むのだ。そこで幸運にも絶好調が出るか、絶不調が出るか。

ともかく、普段からそのタイムを出せれば、ひとまず良いだろう。



「それは楽しみだな。大鳥は新球がモノになるか?」

「と、当然です!してみせる!」

「なら外して正解だった。お前にも先がある。リーグ戦で肩を使うのも、相手チームに情報がいくことも意味はないからな。もっと先を見据えて、練習をしてくれ」



監督の本心。それを大鳥に直接でさりげなく、名神以外いない場でこれを伝える事。大鳥はそれが正しい理由だって分かった。ただ勝つことが、スポーツの全てではないから。

それなのに職業の指導者というは、やたらと面倒で、成長と勝利の両立をさせるのが大変だ。しかし、意識を持って自立して進もうとしていく選手がいると、ほんの少し。嬉しく、楽だ。



「動画サイトでフォームのチェックをしてます」



昔なんかより、情報が多く転がっている。自分がどーいう状態か、人の目だけじゃなく機械の映像で知り得る。

良いとこ、悪いとこ。色々とある。まずはそこにある、一般的に正しいモノを真似し、体に染み込ませ。自分に合う形にしていく(というか、なっていく)。体得たいとくとは、そーいうものだな。

名神は自分を知る事から始めてみた。大鳥の方が良く分かるんだって、改めて思う。自分の目で自分が見れないから、友達がいて自分がなんなのかを知れた。


「走るフォームばっかで悪いな」

「良いんだよ。俺も、和に投球フォーム見てくれてるから。こんな付き合いで良い」

「打撃フォームも見てくれるか?」

「それが一番見たいな」



スポーツという肉体の技術。しかし、人と人のぶつかり合い。

大鳥は自分の投球フォームから打者との駆け引きに扱えることで、人の観察というのを勉強し始めた。単純な身体能力も足りてないが、そこの限界値が見えている事は感じている。

基礎を忘れず、新たな技術を取り込む。

大鳥にとっては初めて対決する打者は、当たり前のことであり、打者の構え、重心、スイング、視線。それでも打者自身も知らないだろう、各々にあるかたを瞬時に探ろうとしていた。名神のフォーム研究に付き合うのは、その勉強も兼ねている。協力しながら学ぶこと。

人を見て学ぶ。それをよくやっている。名神も気付いている。また、名神も考えている。



「投手にとって、どんな打者が嫌ですかね?」

「そりゃ一発ある奴だな」

「だいたい、それですね」

「どこに投げていいか分からなくなるし、ストレートを投げづらいのがまた余計にな」

「俺は!俺はな!名神!」

「大鳥は分かっている。空振りをとれない打者だ」



同じ野球部にいる投手達はもちろん、ネットという環境で嫌がられる打者というのを調べてみる。珍しい打者になるのではなく、嫌われる打者になること。打者としての能力もテストでは試される。

やはりというか、


「長打のある打者か」


やはりというか、フルスイングする打者というのは、投手としては怖い。普段ならない失投も、そのプレッシャーで放ってしまうことがある。自分が大鳥にコントロールを強く求めているのと同じであること。

そこでフルスイングする打者になろうと、決意するのも良いが。



「俺はフルスイングができる打者か?」



打者としての疑問。速球派、技巧派、軟投派、本格派など、投手によってタイプがあるように、打者にもそれはある。自分自身、長距離砲ではないし、中距離打者でもない。なんちゃって巧打者である。

それを自覚している。それもまた強さであり、大切な事である。受け入れというもの。それを変えるリスクはとてつもなく大きく、得られるものは少ないこと。0本の本塁打数が1本増えたところで、しょうがない。(名神「本塁打は生涯12本打ってますよ!」)

打撃フォームの研究は自分の適性にどれだけ合うものにするか、その理想を追求すること。名神が選んだのは鋭いライナー性の当たりを打てる打撃フォームへの挑戦。本塁打は捨てて、



「打率と出塁率を磨いていくしかないな」



素振りもしっかりと、球をミートするところと位置をイメージ。それを重要とする。そのスイングの積み上げた数に意味があるとすれば、長距離砲の天性なんだろうが。

それはない事を自覚する。

自分のスイングをコンパクトに、ステップも短く。スイング時に体の軸、頭の位置がブレないように。球を長く見られること。良い事を羅列しても自然とそれが成せるかは、練習あるのみ。

常に素振りの際は、スマホで撮影しながらするようにし、フォームチェックを重要とする。あまり強く意識したことはなかったが、打者の構えからどのような打球を打ってくるか、狙い球はなんなのか。大鳥と同じ研究を、捕手として学んでいく。読み打ちにも活かせれば、自分の打撃技術とパワー不足を補える。



見え見えの外スラやフォークを無理に打つ必要はない。

投手が最も投げる、強くて速いストレートを打ち返せるだけのスイングと、緩急をつけるカーブやチェンジアップにタイミングを崩されない綺麗な打撃フォームが自分に必要。

大鳥と一緒にやるのなら、俺も捕手として、打者として、選手として成長していかないと……。

次のスタメンは実力で勝ち取ってみせる。




大鳥にも、名神にも、実りのある秋になった。



◇          ◇



時期は少し遡って、この年の梅雨頃の話である。

これから騒がせる事となる、”最強3世代”。その最後の世代の逸材共のドラフトである。この世代もまた多く、際立って怪物。その中で米野星一や村下レイジという、時代の先頭を走る真の怪物はいる。この時代の事を1人で言うのなら



「野球の”悪魔”はどこに行った?」



紛れもなく奴の事である。

なぜ、3世代という括りにされているか。こいつが最後の世代にいたからだ。その男は


広嶋健吾ひろしまけんごをドラフト1位で指名したい。奴なら1人で我が球団を優勝できるだろう」

「馬鹿か、あんた?」

「球団オーナーにその言葉はないだろ。阪東くん」

「興味はあるが、どーなっても知らないぞ。あいつは俺や米野、レイジとは別方向の怪物……いや、”悪魔”だな」



阪東は引退後。勉強という形で様々な野球を見に行っているが、それにはとある人物の調査であると思われた。



「あの米野星一に対抗できるとしたら、村下レイジしかいない!だけど、あれはメジャーにいるし!!こうなったら、何が何でもあの広嶋健吾を獲得する!!優勝するんだ!!さらに儲けるんだ!!」

「確かに米野を攻略しなきゃ優勝は見えてこない。だが、米野は守護神”しか”できない。その前に試合を決める打線を作れば良い。広嶋も同じ事を言うだろう」

「じゃあ、お前を捕手として再雇用!クリーンナップも任せるぞ!」

「お断りだ。しかも、捕手かい……」



行方不明になって2年近く経っている。しかし、その彼が時折、野球場で見かけるとかなんとかの噂は、阪東の情報網に入ってきていた。野球帽を深く被っていて、前髪も長いから目元もよー見えん。阪東からしたら陰気な雰囲気の野球馬鹿である。

とはいえ、彼がやってくる駆け引きある野球と悪魔としか言いようがない行動は、選手達をどん底に叩き落す。

彼と戦った球児の多くが、野球を辞めるほどの恐怖と絶望を味わって消えていった。



「落ち着け。捜すのは良いが、入団させてもロクなことにならないぞ。2年間、広嶋が野球をしているかどうかも分からない。いや、もっと前からあいつは行方不明だったからな」



阪東は改めて、広嶋を入団させようとする球団オーナーの意向を辞めさせようとする。

”最強3世代”の実力は、同世代にいる多くの球児達の希望や夢をぶっ潰してきた事を、阪東自身分かっている。その中で、極めて逸脱して、広嶋健吾は”悪魔”であった。



「あの時代は、高校球界が大いに荒れたことを忘れたか?」



数多くの野球の名門高が次々の不祥事。コーチや監督の解任ラッシュ。PTA共が騒ぎ、学校とのおお揉めで、スタメンメンバーは退部、退学。選手達全員が食中毒になるほどのバイオテロが、10数件。昼夜問わずメディア戦略を用い、選手達を体力的にも精神的にも追い詰める。相手チームの選手達を大勢負傷させ、試合ができない状態に追い込んで大会への参加をできなくさせる。さらに自らの手で相手選手達の闇討ちや、それらの仕返しの返り討ちを、なんの事無く実行できる暴力と非道の化身。



「それは紛れもなく。野球しろ、広嶋。としか言いようがない。奴が一番上手いのは、ラフプレイだからな」

「完全に犯罪者じゃねぇか!!面白い!!」

「だったら、ただの犯罪者を雇えば良いだろう!」

「野球ができる犯罪者がどこにいるんだよ!?そいつしかいねぇじゃん!!活躍した分、刑期が軽くなるとかちょっとした感動ストーリーを作れるんじゃねぇか!?」

「犯罪者に感動させられる視聴者がどこにいる?」



広嶋健吾という”悪魔”の逸話は、まだまだある。阪東が言っているのはあくまで一例に過ぎない、悪魔染みた行動。

正々堂々という言葉がまるでどこにもない、勝利至上主義。

たった一年しか暴れてはいないが、米野達の高校3年間と匹敵する1年の暴れぶりであるのを、そこで戦って来た阪東は感じている。


「しかし、野球の実力は阪東くんや米野クラスと見て良いんだろ?ただ上手いだけじゃ、獲らんよ」

「今日まで野球をしていたのなら、そうだろうな」



シニア時代で完全試合を1度、ノーヒットノーランを3度。

高校時代の公式記録で広嶋は


「完全試合にして、27奪三振をやりやがった」


相手が弱かったんじゃ?

そー言われても仕方ないほど、やり過ぎるねじ伏せ方。しかし、そこにいた者からして


「俺も桐島も、鷹田も、米野も、鷲頭も、レイジも。俺達世代の全員が広嶋にやられている。まぁ、野球の実力では広嶋がトップって事はないだろうが」


とにかく、”悪魔”であった。それだけは確かに言える。

奴はどんな手を使ってでも、甲子園に無理矢理出てくるほどだ。

だから、チームを優勝させるためにどんな手でも使ってくる。


「探すのは良い。訊いてやるのも良い。だが、入団させる事は辞めとけ。たぶん。興行目的のオーナーならな」



なんでもやってくるぞ、あいつ。



そうして、阪東は広嶋の消息を探しているが、まだ見つける事はできずにいる。彼は野球をやっているだろうか?それとも天職の犯罪者にでもなったか。

でも、野球観戦をしているというその噂。彼が野球を好きなのは、変わっていないと阪東は思ったまま。そーでなきゃなって、奴を考える。



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