第9話 襲撃
エミリア視点。
昔読んだ絵本を思い出した。
勇者が魔王を倒し、村娘と結婚する。
あの場面は何度見ても興奮を覚え、心踊ったものだ。
しかし、今、その結婚をすることになった私は何処か、冷めた目で自分を見ていた。
レイモンドの得意げそうな憎たらしい顔。しかし、私は嫁がなければならない。
…あの子は大丈夫だろうか。
ゴブリンと戦っていた時、加勢してきた、今は亡き妹に似た不思議な少女。
何故私は、自分の身を捨て、あの子を助けようと思ったのだろう。
あの子とは初対面だった。何故だろうか。
やっぱり…。
神父の口上も終盤。後は神に夫婦になることを宣誓し、口付けを交わすだけ。
「なんで、私には」
静な独白、何故、こんな言葉が、私から?
その時だった。
急に、外が騒がしくなり始めた。
「貴様ら!何者だ!」
「ヒャッハー!何者だろうが関係あるかい!死ねやおら!」
「ちょ、運転が荒いのです!なんでこんな荒い運転のなか弾が当たるんです!?」
調子のいい声と断続的な破裂音。それはどんどん近づいてきた。
「女の敵に天誅を下さん!」
「門を吹っ飛ばすぞ!」
「シャウオラァァ!」
轟音。後ろを振り替えると、そこには豪奢な門は影も形もなく、大きな穴が開いていた。
そして、その穴から、あの子が現れた。
「迎えに来たぜ。エミリア」
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数分前。
「突撃」
「了解!!ヒャッハー!」
悲報、佐久間はバンドルを握ると人格が豹変する模様。後ろに乗っている家島が可哀想です。
「止まれ!貴様ら、何者だ!」
「各個に射撃!撃ちまくれ!」
「オラオラオラオラ殺っちまえぇぇ!!」
佐久間と西嶋は運転しながら片手で拳銃を撃ち、家島は座席に立つと一〇〇式を構えた。
俺も座席に立ち、ペペシャを構えて片端から騎士と傭兵を撃ち抜いて行く。
「貴様ら!何者だ!」
「ヒャッハー!何者だろうが関係あるかい!死ねやおら!」
「ちょ、運転が荒いのです!なんでこんな荒い運転のなか弾が当たるんです!?」
「女の敵に天誅を下さん!」
運転でおかしくなっている佐久間の叫びを聞きながらパンツァーファウストを準備する。
「門を吹っ飛ばすぞ!」
それとなく注意喚起。発射された弾頭は教会の門に突き進む。
「シャウオラァァ!」
佐久間が綺麗にドリフトを決め、車を停める。ちなみにさっきの掛け声はドリフトで傭兵を撥ね飛ばした為だ。
撥ね飛ばされた傭兵は門にぶち当たったパンツァーファウストの爆発に巻き込まれ、再び吹き飛んだ。南無三~。
素早く下車し、ペペシャを構えてぶち開けた穴に向かう。
「迎えに来たぜ。エミリア」
「わかってねぇな。隊長。そこは助けに来ましたよ、お姉ちゃんだろ?」
「ねえ素面だよね?酒飲んでないよね?」
「ふ、ふざけるな!!お前ら!やってしまえ!」
「「「はっ!」」」」
わらわらとこっちに来る雑兵ども。アホが。
「はい、来客の皆様、死にたくないなら伏せることをおすすめしまーす」
なるべく来賓に当たらぬよう雑兵が固まっている方へ胸の高さでフルオートで撃ちまくる。
横の部屋からも敵が現れようとしていたので手榴弾を引き抜き、キャップを歯で噛み千切る。歯を痛めるのでよいこは真似しないでね。
垂れてきた紐をくわえ、引き抜き、部屋の中へ投擲、約4秒で爆発し、汚い断末魔が聞こえてきた。
「雑魚ばっかだな」
「なんなんだ!なんなんだよそれは!お前ら!は!」
レイモンドの野郎が叫ぶ。
見たこともない未知の武器で攻撃されたらそうなるよねー。
「ひ、卑怯だぞ!正々堂々と戦え!」
「ん?剣での決闘をお望みかな?」
ペペシャを背中に回し、刀を抜く。
「おら、こいよ」
「ふ、ふふ。あの魔法具さえなければ貴様等には負けん。死ね!」
儀礼用なのか身に付けていたサーベルを抜き、飛びかかってくるレイモンド。あ、あれ酒場でも提げてたわ。
「うん。やっぱりお前はアホ」
上段から降り下ろしてきたサーベルを切り上げの要領で迎え撃つ。
そして、呆気なくサーベルは折れた。
「…え?」
「得物が折れたくらいで固まんなや」
刀から左手を離し、顔面に拳を叩き込む。
「あ、歯何本か折れたな」
「あがぁぁぁ!ぎ、ぎざま!ぼ、ぼぐにごんなことじで!ただでずむとおもうなよ!」
「貴族相手に喧嘩して仕返しされないなんて思ってねェよ」
刀を仕舞い、腰のホルスターからM714を抜く。
「ひっひっ!や、やめ”ろ”!ぼ、ぼぐをころじだら、どうなるが!」
「うん。そう言う遠回しな命乞いはいいから」
「や、やめ”ろ”!い、命だけは!」
「エミリア。大丈夫か?」
とりあえず情けない奴は放っておき、エミリアを確かめる。見ると手枷を嵌められていた。
「手枷を壊す。動くなよ」
M714を手枷の繋ぎ目に当て、引き金を引く。
1発で手枷は壊れた。
「ぐす。ひぐ、んぐ」
「大丈夫か?行けるか?」
「ぐす。あ、ありがとう」
「俺もお前に庇われた。これでおあいこだ」
エミリアを抱え、出口を目指す。
「え、ちょっと!」
「まあまあ」
「隊長、粗方掃除し終わったです。いつでも出れるのです」
「了解。すまんが、エミリア。先に行っててくれ」
「ぐす。わかった」
「こっちです」
エミリアを下ろし、1度レイモンドの元に戻る。
「ひっ!い、命だけは!命だけは!」
「1つ聞かせろ」
「な、なにをだ」
「ミア、覚えてるか?」
「ミ、ミア?じ、じらな」
言い切る前に引き金を引いた。狙いは股間。10発フルオートだ。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
「うるせェよ」
「がふっ!」
下顎を蹴り上げ、煙草を取り出して火を着ける。
予備弾薬を取りだし、装填。初弾を装填する。
「な”、な”んで!」
「もういいから黙ってろ」
腹の辺りに1発づつ撃ち込んで行く。即死はしないが直ぐには死ねない傷だ。
最後の4発を手足に撃ち込み、車に戻る。
「よし、出せ」
「了解」
「飛ばすぜ!捕まってろ!」
「もういやです!」
走り出した車。横を見ると青い顔をしたエミリアがこっちを見ていた。
「怖いか?」
「え?」
「相手がくそ野郎と言ってもそこそこ酷いことしたからな。怖がられるのも無理はないか」
そっぽを向き、流れる風景を見る。
すると、エミリアは、俺を優しく抱き締めた。
「…違うんだ。そうじゃない。そうじゃないんだ」
「…」
静かに咽び泣くエミリア。俺はそっと背中に手を回すと頭を撫で始めた。