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第4話 昔話

 「はっ?殺すぞ」


 ただでさえこいつが入ってきたせいで静かになりかけていた酒場は水をうったように静まりかえった。


 「うん?僕の聞き間違えなか?今なんて?」


 「耳がわりィみてェだからもういっぺん言ってやるよ。はっ?殺すぞって言ったんだよ。耳掃除してっか?」


 「貴様…。さっきから黙っていれば。アンダーソン様になんて口を…」


 俺の挑発に取り巻きがいきり立つ。ふむ。金で雇われた用心棒ではないのか。

 さて、挑発に乗ってくるかな?


 「…身の程知らずのガキめ」


 「アンダーソン様?」


 「痛め付けよ。身の程知らずのガキを教育してやれ」


 「はっ!」


 「アンダーソン様!」


 「うん?なんだい?エミリア」


 「彼女は私の恩人です!どうか、どうかご容赦を!」


 「うーん。それは。…そうだ」


 アンダーソンはニヤリと笑った。あんな笑いをどっかで見たな。いや、よく見るか。


 「君があの話(・・・)を受けるのなら、考えてもいいかな?」


 「それは…」


 エミリアは困惑したようにこちらを見た。ん?なんだ?


 「…お受け、します。だから、どうか」


 「…うん。わかった。僕は寛容だからね。お前たち。引き上げるぞ」


 エミリアの答えを聞き、アンダーソンはスゲーいい笑顔を浮かべた。うん?なんだ?どうなってんだ?俺の知らないところで話が進んでるぞ?

 アンダーソンに肩を抱かれ、連れていかれるエミリア。


 「おい!どういうことだ!」


 「煩いな…。折角見逃すって言ってるんだ。黙っててくれないか?」


 話も聞かず去っていくアンダーソン一行。やべェ殺してェ。


 「オヤジ、お代だ」


 「ちょっとアンタ」


 「あ?急いでんだ。後にしてくれ」


 扉の隙間から馬車が見えた、取り巻きがドアを開け、エミリアとアンダーソンを乗せる。


 「…エミリアちゃんの事なんだ」


 「…チッ」


 馬車は取り巻き達を乗せると、どこかに走り出した。くそ、なんでほぼ初対面の奴の為にこんなに胸糞悪い思いをしなきゃならんのだ。


 「で、なんだ?」


 「…ここじゃ。場所が悪い、裏についてきてくれ。お前」


 「わかってるよ」


 「少し頼む」


 呼び止めたおっさんを連れられ、カウンターから店の裏の家屋に向かう。

 しばらくすると、おっさんは2つの椅子を出してきた。


 「座ってくれ」


 「んじゃ、遠慮なく」


 椅子に腰を下ろす。おっさんは1度店に戻るとお茶っぽい飲み物を持ってきた。


 「さて、どこから話そうか…」


 「その前に1つ教えろ。なんでエミリアもアンタも俺にこんなに関わるんだ?」


 「…まずはそこから話すか」


 おっさんはそう言うとお茶っぽい、いや、お茶でいいや。お茶を一口飲んだ。


 「エミリア、あの子とは昔からの家族ぐるみの付き合いでね。よく知っているんだ。それに一時期一緒に暮らしてもいた。そして大きくなっても懐かしさからなのか周期的に会いに来てくれる」


 「それが俺と何の関係がある?」


 煙草を出して火を着ける。周囲に甘い匂いと煙が漂い始める。


 「あの子には2つ下の妹が居たんだ。名前はミア」


 「居たんだ。ってことは」


 「そう、死んだんだ。あの子が14の時、もう5年前か。馬車に引かれてな。即死だったそうだ」


 「つまり?」


 「君は、あの子の妹、ミアとよく似ているんだ。性格は似ても似つかないが、見た目は本当に瓜二つだ」


 「…なるほどね」


 まあ、とりあえず納得はした。何故俺をかばったのか。何故、このおっさんが関わろうとするのか。


 「妹ちゃんが死ぬ。3日前、あいつが偶々この街にやって来た。そして街で見かけたあの子を目に止めたらしい。かなり強引に婚姻を迫ったそうだ」


 「それがあの話か…」


 「そうだ。当初、あの子とあの子の親はそれを断った。その結果」


 「妹が死んだ、と」


 「それだけじゃない。あの子の親は見に覚えのない借金を背負わされ、奴隷にされた。残されたあの子を私たち夫婦に託して」


 「…それで、両親は?」


 「…風のたよりで聞いた話だが。父親は鉱山の落盤事故で、母親は貴族の慰み物にされて死んだらしい」


 「…裏で手を引いてたのは奴か」


 「恐らくだがね。そして、家に来てから数ヶ月後、あの子は自主的に騎士団に志願した。理由は教えてくれなかった」


 「…もう1つ、聞いてもいいか?」


 「なんだい?」


 「なんでそれを俺に打ち明ける?」


 「…何故だろう。自分でもわからない。あの子に似た君があの子を追いかけるなら知っておいて欲しかったんだと思う」


 「…」


 そこまでやる奴なら完全に殺した方が良さそうだな。

 そう考え、席を立つ。


 「もう行くのかい?」


 「ああ」


 「…貴族の婚姻の儀は1週間ある。それまでは時間がある。今日はもう遅い。家に泊っていってくれないか?」


 「…わかったよ。部屋は?」


 「2階に上がって突き当たりの部屋だ」


 「ありがとさん。遠慮なく使わせてもらうよ」


 クソ。胸糞わりィ。

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