極論男・16
俺は20年間、宝くじを買い続けている。最近ではナンバー選択制のロトやサッカーくじも買う。
20年だ、20年。良くて3等しか当たらない。それでも、いつの日か一発ドカンと当ててやろうと考えている。
会社の同僚達はパチンコに入り浸って、小さな夢を追いかけてる。パチンコはギャンブルではない。遊戯だ。だから、ギャンブル依存症の人は建前上、パチンコをやっていい。だって遊戯なんだもん、アハハ。野党はこういう所を突かず、カジノ法案をつついてばかりだ。パチンコ屋も入場料6000円取れよ。
俺はあらゆる開運スポットを巡り、運気を上げていた。
――そして、遂に…………遂に! 遂に! 遂に!
サッカーくじが当たった…………1等だ。何度もネットで14試合の結果を確認する。
6億円だ。キャリーオーバーしていた。
俺は休日に宝くじ売り場へ行き、最終チェックをしてもらう。夜は意外とぐっすり眠れた。
手が震える。ギャラリーが居たら、どうしようとか、外れていたら、どうしようとか、いろんな雑念が頭をよぎる。
「いらっしゃいませ」
窓口付近にギャラリーは居ない。良かった。
「当たってるか調べて下さい」
俺は当たってるはずの券を窓口に出す。
「お預かりします」
ピー……カタン。ビービービー!
「やっぱり、当たってる?」
「おめでとうございます。1等6億円です」
「換金は近くの信金ですよね?」
「はぁ。これは破きますね」
「はぁ!? 何ほざいてるの? 返せよ泥棒!」
ビリビリ。このババア! 何をやってる!? 券を破いたら、換金出来ねえじゃん。
「お帰り下さい」
「警察呼ぶからな、ババア!」
――そして、裁判が始まった。被告のババアから6億円を取り戻さないと。
被告のババアは「私はただの紙を破いただけ」と言い放った。
俺は怒りに充ちてると共に冷静でもいた。被害者、俺が証言台に立つ。
「お前が破ったのは6億円の価値があったんだぞ? 次の裁判までにアルマーニのジャケットを着てこい。ズタズタに切り裂いてユニクロのフリースやるからよ。家を建てろ。火を着けて全焼させて犬小屋建ててやるからよ。お前の両目を潰してやる。そしてマグロの目玉を2つ。今なら3つやるからよ。ババア、お前を殺して、害虫駆除の褒賞金もらうからよ。同じ事だろ?」
ババアはすすり泣く。
「静粛に!」
「法廷侮辱罪だ!」
「静粛に! 被告人は証言台へ」
「あたし、こんな大事になるとは……!」
――出た判決は350万円の慰謝料のみ。…………はぁ!? 6億円返せよ泥棒!
「裁判長、発言があります」
「いいでしょう。原告人は前へ」
「この泥棒ババアを極刑にしてください。それが被害者の処罰感情です」
――二審では無期懲役となり、俺の怒りも静まった。しかし、被告側は控訴してきて、最終的に最高裁までもつれた。
最高裁の判決は宝くじ運営銀行と被告のババアに、6億円の賠償プラス4億円の慰謝料の支払い。…………勝った。ちょっとつまずいただけで4億円プラス! 10億円!
「悪は滅びろ!」
――今日も平和な一日が過ぎていく――