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爆発

創作なので割と割り切って史実を軽視することもあります。ご了承を。

「そろそろ来るか」


バタバタしているうちに年が明け、もはや新年気分も吹き飛んでいた。

「ところで北のほうもキナ臭いらしいな」

伊達(だて)でござるか」

庭で八郎に声をかけたつもりだった国王丸に孕石が答える。

「そうだな。白河のあたりまで絡んでる」

この時代の伊達家はよく知られた仙台ではなく福島県の桑折に本拠を置いている。父である伊達稙宗(たねむね)と息子の晴宗(はるむね)の間で起こった主導権争い、いわゆる天文(てんぶん)の乱はこの少し前に勃発し、山形の最上(もがみ)や福島県の白河にいる白河結城(しらかわゆうき)などの陸奥・出羽のほとんどの大名、さらには越後の上杉や長尾(ながお)も絡む政争となっていた。

「介入は無理だな」

「遠すぎるということでござろうか」

「どうせ膠着する。仮に近くても、戦争の主導権を握れるほどの軍を出せない」

天文の乱への介入をするほど北条も阿呆ではないだろうという結論に達したあと、話題は危険球へ変わる。

「河東のことだが」

「そのお話はなさるな」

「どうするつもりなんだ?放っておけばまた戦だ」

河東、富士川の東岸。今川が大勢を固める駿河にあって北条に属する土地だ。今までも何年にも及ぶ戦が起こっている。

「それがしの口からは何も申せぬ」

つまり北条にバレてはマズい。方向性によっては攻め入ることを計画しているのか。

「なんでもすればよろしかろう。全て跳ね返して進ぜるゆえ」

さすがにハッタリである。今川義元の大軍相手に敵うとは思っていない国王丸だが、その場で孕石の顔をひきつらせるのには十分だった。


さらなる案内のために小田原から外れ、少し郊外のちょっとした山に入る。特に何か特別なものがあるわけでもないのだが、練兵場の一つを見せるという口実で今川からの使者を監視するには十分な場所だ。

「今日はここに一泊くだされ」

「うむ」

別棟に入ってゆっくりすることにし、眠りについた。特に何か書き記すべきことがあったわけでもなかった。


事情が変わるのはその夜更けだ。いつものように叩き起こされ、それから違和感を抱く。ここにいつもの下人はいない。

「孕石殿?」

「寝起きが弱点か。いいことを学んだぞ」

皮肉っぽく国王丸に差し出したのは血塗れの短刀。意味がわからんという顔をしていると、彼は身の凍る事実を教えてくれた。

「刺客がいたぞ。斬ったが」

「…は?」

まさか小田原で足元を掬われることになるとは。呆然とするが、ともあれこの男に命を救われたのは確かなようで、ひとまず礼を言った。

「そうだな。頭はなかなか切れるようだが身はまだ幼い。ゆめ忘れるなよ」

この男、優しすぎる。後世に伝わる印象とはだいぶ訳が違うようだ。


ともあれ、この刺客の対処は彼の火急の課題となった。他家の手のものならば速やかに御本城様に報告しなければならないが、逆に家中の誰かの遣わしたものならばその場で斬られるかもしれない。しかも今の案内業務も後任に引き継がなければならず忙しい。どうやら名探偵タイムのようだ。

「北条の重臣だろ」

名探偵タイムを一瞬で終わらせ答えを提示したのはまたも孕石元泰。

「誰がお前をここに送ったんだよ」

「おっと?」

雲行きが怪しくなってきた。松田、笠原、その辺りだ。

「…まあ、お気になさるな。練兵場へ参ります」

「承知いたした」

仕事モードに切り替わった元泰にも首を突っ込んでくる義理はない。平穏な見学のあと、小田原城下に戻ることになった。


一行を宿に送り届けて、国王丸は八郎に何も説明しないまま連れ立って出掛けた。行き先は松田家の屋敷だ。

「これは足利殿。今日はどういった御用向きかな」

「御用がなければ伺ってはならぬのでございましょうか」

「いやいや失礼。上がられよ」

松田盛秀はいつもの通りの印象だった。まあ押し隠しているだけかもしれないが、どうやら見当違いだったのかもしれない。

と、思ってしばし談笑していると、この家の嫡男小六郎の姿が見えた。

「お主も挨拶してはどうだ。元服すれば共に働くこととなろう」

「遠慮いたします。未熟者ゆえ、またの機会に」

あからさまに検のある言い方だ。盛秀も少し面食らったようだった。

「失礼を致した。いつもあの調子でな」

「いえ、こちらこそ長居をしてしまいました。間もなくお暇いたします」

国王丸には刺客の主人が大体読めた。そのあと笠原の屋敷にも行ったが、当主の信為と息子の竹若丸も似たような調子だった。


「実験をしよう」

仮説を立てたら立証だ。事実関係を洗い出すのは少々骨が折れるので、今回は追試に留めることにした。八郎にも引き続き付き合ってもらう。

「誰か雇われてくれ。金は出すぞ」

城下でも数少ない治安の悪い一帯、その辺りにはゴロツキがいくらでもいる。

「いくらだ」

「働き次第。中身は後で伝えるが、命を張って悪くはないと保証する」

こっちが子供だろうと食いついてくる奴もいることはわかった。二人ほど釣れたので、まあ持て余すし麾下の兵として雇っておくことにする。


明日、どうしてやろうか。

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