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宣戦

「安房の地の利を活かしに来てるのか」


「つまり?」

「引きこもって奇策でも講じるつもりなんじゃないか?生憎読み合いじゃ里見にも正木にも勝てる気はしないぜ」

安房侵略の大義は得たとはいえ、それが成功するかは別問題だ。

「もう力攻めは面倒になって来たな」

「面倒などと申されますな」

「事実そんなに時間をかけても意味がないだろ」

里見氏は国内の城郭を復興したり新設したりしているようだ。新築城は待ち合わないだろうが、廃城を復活させるくらいの時間はあるだろう。それをいちいち落とすのは非常に手間だ。

「それはそれ。で、信濃守。お疲れ様」

「ありがたき幸せ!」

当面の褒美として金子を渡しておく。あとでちゃんと賞さなければならない。

「まだこき使うつもりだが、消耗はしているか?」

「邂逅の時に多少。ですがそれだけにございます」

「ならいい。再編成して明後日出る」

北条からの援軍が300だけというのも世知辛いが、ここは真里谷の動員力を見せるところだ。

「信濃、すまないがここに残れ。城下に動員をかけ、真里谷からの臨時兵も全てまとめてやって来い」

「はっ」

先に褒美を渡しておけば、こういう仕事を押し付けられる。


翌日朝、正木隊の消息をつかんだ。土岐領内でにらめっこをしているらしい。土岐を口説き落とそうとしているのだろうか。

「これ、弾正の娘が殺されても何も文句言えないよな」

「そう持っていこうとしているのやも知れませぬ」

「里見の本拠を秒で落とす方法、何かないか」

「左様な無茶を申されますな」

とは言えこういう問題は土岐氏の真里谷に対する信用問題に繋がりうる。できれば平穏に終わらせたかった。

「早いとこ押し込めちまおうぜ」

「はっ」


ここで土岐氏を参戦させると本当にこじれて反乱必至となるので、敢えて何もしない。起請文の提出やらもさせない。「裏切るな」と言われるより、「裏切ってもいいぞ」と言った方が禁止の効果は高いものだ。仮に寝返られても、その時は真里谷が危うくなるので北条から手出しが入るはずだ。

と、北条も余裕ではないな。西隣の甲斐武田家では海野平の戦いから帰ってきた信虎が、駿河の今川(いまがわ)家に挨拶に行ったきり国境を封鎖されて帰れなくなったという事件も起こった。武田信玄、まだ武田晴信(たけだはるのぶ)と名乗っているが、彼が甲斐の領主になったというわけだ。それに氏綱が亡くなった影響はまだ大きい。というか今宿敵である北方の山内(やまのうち)扇谷(おうぎがやつ)上杉(うえすぎ)が全力で反北条方の豪族に発破をかけているところだ。大規模な支援は見込めないし、頼るのも酷だろう。

翌週には里見義堯に文を送りつけ、安房侵入を布告した。内容は…まあ、父を陥れたこと、上総を略取したこと、いずれも人の道に悖り、これをもって足利義明の弔い合戦に代えるとかなんとか書いたと思う。書いているうちに感情的になったので文面はあまり覚えていない。

その翌週には真里谷信隆が到着し、真里谷全軍が準備万端となって南進を開始した。


里見領上総の今の最前線は現代で言うところの富津市にある。佐貫(さぬき)城や造海(つくろうみ)城などといった城たちだ。まず北方にある佐貫城から攻略していくことになる。

「佐貫の城主は加藤なにがしと言ったな」

「はっ。典型的な小領主で、真里谷による築城以後里見との間で寝返りを続けているのだとか」

鶴見信仲が主君に説明する。

「坊。どうする」

「どうせ開城しましょう。さすれば我らが踏み潰す道理は無くなりますゆえ、二度と変な気を起こさぬよう転封でもなされては」

一般論を述べて真里谷信隆は満足した。その言葉通りに佐貫城は争わず開城し、加藤氏は別の城へ転封となった。里見を代表する城の一つが争わず落ちた。凋落の兆しだと捉えて喜ぶしかない。


ついで海沿いに進むと金谷(かなや)城がある。海沿いで三浦半島方面への物見でもあるので、早めに潰しておきたいところだ。

「山城で海城か」

房総は山が低く、千葉県は日本で最も最高峰の標高が低い県だったりもするのだが、その割に海の近くまで山が出ていたりする。ここもそんな場所の一つで、近くには鋸山(のこぎりやま)が聳え立つ。

「火でもかけるか」

拙速を尊ぶことは良いことではないが、時間をかけるのはもっと悪手だ。

「殿、火攻めにござる」

俺の言葉を断定形に取った鶴見信仲が真里谷信隆に進言した。まだ検討がいると言おうとした俺をとどめるように、信隆はそれを下令した。


「口は災いの元」

皮肉るように八郎が言う。これで失敗すれば間違いなく舌禍だ。

まもなく火矢が用意され、山麓の曲輪から順に火がかけられた。城内の兵はあまりおらず、消火作業に出てきたところを弓兵隊に仕留めさせた。この城もすぐに投降した。結果的には大成功だが、もっと慎重にならなければならないだろう。

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