オピニテウス
シエロが工房の扉を開けた、次の瞬間。
ヒュッ、
身の危険を感じたシエロは咄嗟に体を屈める。3秒程の静寂が流れる。シエロが後ろを振り返ると木にナイフが刺さっていた。シエロがどういうことかと、兵士3人を見回す。 「敵襲か?」
シエロが声を小さくして3人に尋ねる。「多分、違います」
シリルが応える。そして、アレクがシエロの前に立ち、
「オピニテウス、我が主人が話があると言っている。出てこい!」と、大きな声をかける。
「その声は……アレクか?久しぶりだな」笑いながら、奥の方からオピニテウスが出てくる。
「貴様、何をしたのか分かっているのか?我が主人シエロ様を殺そうとしたのだぞ!」アレクが声を荒げる。
「大丈夫、大丈夫死なないように急所は外しといたから」
「オピニテウス今日という今日は許さん、いつもいつも工房に立ち寄れば何かしらの方法で我らを殺そうとする。一体どういうことだ!」
「俺のターコイズの加工技術が盗まれちまうじゃねーか」と、オピニテウスが飄々と返す。
(歳は30くらいか、もし腕がいいのならアルトロス地方に呼んで囲いたいな)
当の殺されかけた本人は落ち着いてオピニテウスの品定めをする。
「もういいぞ、アレク」
シエロが声をかける。
「ですが、シエロさm
「もう、よいと言っているのだアレク、しつこいぞ」
「分かりました」
アレクが言い切る前にシエロが言う。
「オピニテウス殿、貴方が作ったターコイズの加工品を見て見たいのですが良いですか?」
「おう、俺のナイフを避けた訳だし、まあいいだろう、付いて来てくれ」
「貴様は誰に口をきいている!」
アレクがまた、声を出す。
「うっせえんだよ。俺の所に来る物好きな貴族なんかいないんだよ」
「シエロ様を物好きな貴族だと?さっきから調子に乗りあがって」
「もうよい、アレク」
また、シエロが声をかける。
(これはまた、面倒臭いことになったな)
「おいバン、アレクと外に出てろ」
「「ですが、シエロ様をお守りする人が」」
「シリル1人いれば、十分だ」
そう言われると返せない2人は渋々工房の外へと向かう。その後姿をシエロはニヤニヤと見つめる。
(面白いな今のハモり、今度またやってみよう)
「さて、貴方の自慢のものを見せてもらおう」
「分かった」
そして、3人で工房の奥へと向かう。
「これだ」
オピニテウスが棚に置いてある、箱を取り出し、開ける。そこには格式の高い貴族の妻が身に付けていてもおかしくないくらいの大きなターコイズの宝石が付いたネックレスがあった。さらにそのターコイズは繊細にはめ込まれ、素晴らしい逸品に仕上がっていた。
(これは、凄い。アルトロス地方でこれを作れれば今よりもさらに高値でターコイズを売ることができるだろう。このオピニテウスとやらをアルトロス地方になんとしてでも連れて行きたい)
「オピニテウス殿今すぐに返事をくれとは言わないがアルトロス地方に来てくれないか?」
「いいぞ」
「まだ、ここにいるから、きt……今、なんと言った?」
「だからいいと言っているのだ」
「な、何故だ?」
「俺は見ての通りの性格だ、ここに俺の顧客と言われるような奴はいない、ここに居ても誰も買ってくれないから正直生計が立てられないんだよ、さらにあんたはアルトロス地方の次期方伯だろ?アルトロス地方にはターコイズがいっぱいある。それを加工できるなら、心の炎が燃えるぜ。だけど、タダでいくというのも嫌だから、条件をいくつか呑んでくれるだけでいい」
「な、なんだ?」
「そんな大したことじゃない。まず俺の専用の工房をアルトロス地方に建ててくれ。それと俺にターコイズを優先的に回してくれ。最後に俺が加工したターコイズの2、いや買ってくれる相手がいないから1割を俺にくれ、勿論その分の原石はお金を払って買う」
「勿論だ。そのくらいはすぐに呑める。これからよろしく頼む、オピニテウス殿。いつ帝都を出発するかは追って連絡する」
こうしてアルトロス地方にオピニテウスという天才が来たのであった。