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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
最終章:錬金術師、選択する
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トウルの実家でミスティラと

 翌朝、トウル達が目を覚ますと、部屋の中に見慣れない子供がやってきた。

 リーファより背が高く、ミスティラよりは小さい金髪の少女だ。

 歳は十歳前後くらいだろうか。どことなくミスティラとよく似た雰囲気の子だ。


「ミリィ、鍵が開いたのは良いけど、子供が来たんだが、誰か知ってるか?」

「昨日会っていますよ」


 トウルがミスティラに尋ねると、彼女は苦笑いを浮かべながら頷いた。


「おはよう。トウルさん。昨日はよく眠れたようね。ひ孫の魔法試験につきあってもらってすまなかったね」

「……えっと、あっ! シャルさん!?」

「ふふふ。驚いたかしら?」

「え? 昨日は老婆の姿じゃ!? って、そうか、これがミリィの言ってた変化の魔法か」

「その通り。光を歪めて幼き日の私を映し出しているのよ。ミスティラよりもかわいいでしょ? あ、同い年にもなれるのよ」


 シャルの姿が少し歪むと、背が伸びてミスティラより子供っぽい少女に変化した。

 血のつながりを実感させる姿に、トウルは上手く言葉を出せなくなるほど驚いた。


「ふふふ。やっぱり初めて人に見せると驚いて面白いね」

「……さすがミリィのお婆さまですね」

「褒め言葉として受け取っておきましょう。さて、一緒に帰りたいと言いたいところなのだけれど、まだこっちで占いがあるから、村には明日帰るわ。だから、早めに帰っても構わないよ」


 シャルはそう言うとミスティラを一瞥し、ウインクを飛ばした。

 これで中身がおばあさんというのだから、驚きだ。とトウルは心の中で嘆息した。


「なら、今日は中央にいるわ。また倒れられたら嫌ですし、一緒に帰りましょう」

「ふむ。私はいいけど、トウルさん達はいいのかい?」


 ミスティラの心配ももっともだと思ったトウルは、シャルの問いかけに頷いた。


「なら、俺達もミリィと一緒に残りますよ。リーファもそれでいいか?」

「うん。いいよー」

「ということなので、大丈夫です」


 トウルとリーファの返事にシャルは嬉しそうに頷くと、身を翻した。


「なら、今日はミリィをよろしく頼むよ。それと残念ながら今日はゲストハウスが一杯でな。この子の宿を見繕ってくれると助かる」

「分かりました。星海列車はこの近くの倉庫に停めているので、明日の朝迎えに来ます」

「そうか。では、頼んだよ。また明日ここで会いましょう」


 シャルはそう言い残して部屋を出て行った。

 そして、取り残されたトウル達は、何をするかのを朝食を食べながら相談し始めた。

 はからずとも、ミスティラとのデートとなってしまっている。


「この前も中央来たけど、ミリィはどこか行きたいところあるか?」


 それならばと、トウルは出来るだけ彼女に楽しんで欲しいと思った。


「んー、触媒の店はこの前行きましたし……。あっ! トウル様の実家を見に行きたいです」

「俺の実家!?」

「えぇ、後はトウル様の師匠も見に行ってみたいですね」

「な、何故?」

「外堀を埋めておこうかと思いまして」

「どんな冗談だよ……」

「あはは。今、焦りましたねー。でも、そんなに隠そうとするなんて、よっぽど面白いお家なんでしょうか?」

「別に俺の実家は面白くもなんともないぞ?」


 トウルがミスティラの思いつきの意図が分からないでいると、リーファが袖をひっぱってきた。


「リーファもおじいちゃんとおばあちゃんに会いたいなー」

「まぁ、二人が良いなら、……良いか。んじゃ、行こう」


 どこか落ち着かない気持ちでトウルは二人を連れて実家に向かった。

 赤煉瓦の街の南端にある広場は、郊外から持ってきた野菜や魚や肉などの露店で賑わっている。

 その広場から少し離れた場所にあった小さな雑貨屋にトウルは入った。

 大小様々な日用品が所狭しと積み重なった小さなお店。

 鍋やフライパンから可愛いらしいインテリアや花まで様々な物が置いてある。


「いらっしゃいませ」


 トウルにとっては聞き慣れた女性の声が聞こえると、トウルも挨拶を返した。


「ただいま。母さん」

「あら! トウルちゃんおかえりなさい! あー、リーファちゃんも良く来たねー。後はあら? お祭りで女神様をやっていた子かしら?」


 トウルの帰宅で興奮しているのか、トウルの母であるカスミは弾んだ声でまくしたててきた。

 トウルと同じ黒髪と琥珀色の瞳を持つ、どこか幼い顔立ちをしている母は、ベージュ色のエプロンをつけている。


「初めまして。保安員をやっているミスティラと申します。トウル様にはいつもお世話になっています」

「あら? となると、ミスティラさんもクーデリアさんと同じ保安員なのね」

「はい。クーデとは親友です」

「ふふ、トウルちゃんは保安員と縁があるのねー。初めまして。トウルちゃんの母のカスミです」


 カスミはミスティラの手を取って上下に手を揺らした。


「だから、俺はもう二十だからって……言っても無駄か」

「あはは。私もトウルちゃんとお呼びしましょうか?」

「勘弁してくれ」


 さっそくミスティラが新しい玩具を見つけたような表情で、トウルをいじってきた。

 それをトウルはうんざりしたような顔で断った。


「ところで、今日はどうしたの? あ、もしかして? ミスティラちゃんが挨拶しにきてくれちゃったの?」

「実はその通りでして。カスミ様」

「いやん。お義母様で良いわよ」

「では、お義母様。息子さんを私にください」

「君にお義母様と呼ばれる筋合いはないっ!」


 トウルをそっちのけでカスミとミスティラは話を進めていった。

 新手のからかいかとトウルが身構えると、カスミとミスティラは同時に笑い始めた。


「ぷっ、あははは。これ、本当はトウル様が言わないといけない台詞なんですけどね」

「あはは。いいのよいいのよ。実は私も一度言ってみたかったのよー」


 似た者同士なのか、一発で打ち解けた二人に、トウルはリーファと顔を見合わせた。


「それで、ミスティラちゃんは本当は何しに来たのー?」

「トウル様がどんなところで育ったのか、知っておきたくて」

「あらあらまあまあ。ふふ、そういうことね」

「はい。そういうことです」

「あなたのことも応援しちゃうわ」

「はい。負けないように頑張ります」


 勝手に通じ合っているカスミとミスティラに、トウルはため息をついた。


「さーて、それじゃ、次はリーファちゃん。おばあちゃんのお店にようこそー」

「えへへー。遊びにきたよー。かーおばあちゃん」

「あっ、この前会った時より背が伸びたねー。沢山食べて大きくなるんだよー」

「うん。お父さん抜かすんだー」

「あらあら、それならがんばらないとね。お昼ご飯はおばあちゃんが頑張っちゃおうかしら」

「うんっ」


 カスミに抱きしめられたリーファは、嬉しそうに笑っている。

 リーファもすっかりカスミになれていて、カスミもリーファを可愛がってくれていた。

 最初に会った時のようにおどおどしないかと心配していたトウルだったが、杞憂に終わってホッとしていた。


「トウルちゃんもちょっとは父親らしくなったかしら?」

「うん。ちゃんとリーファに学校行って貰ってる」

「ふふ、よかった。ちゃんとお父さんしているのね」

「あぁ、親父とも約束したしな。それに、リーファが良い子だから、かなり助けて貰ってるよ」


 カスミの腕の中にいるリーファの頭をトウルがなでると、リーファがくすぐったそうに頭を揺らした。


「ねー、おばあちゃん。このお店色々な物がいっぱいあるけど、お父さんは小さい頃からここに住んでたんだよねー?」

「えぇ、そうよ。思えば錬金術師になりたいって言ったのも、自分で何かを作ろうとした時だったかしらね。トウルちゃん小さい頃は体が弱くて、あんまりお外で遊ばなかったから」


 カスミの思い出話が始まると、ミスティラも食いついた。


「トウル様、小さい頃は体が弱かったのですか? この前なかなかの剣技を見せてくれましたけど」

「ふふ、お師匠様に鍛えて貰ったのよ。そのおかげか体は強くなったけど、錬金術に没頭しちゃってねー」

「ふふ。そこから今も大して変わっていなさそうですねトウル様」

「えぇー、そうなのよー。周りがお兄さんお姉さんばっかりだったから、お友達も作れずに、ひたすら錬金術していたんですよーこの子」

「あはは。トウル様らしいですね」


 トウルにとっては恥ずかしい話が目の前で繰り広げられているが、止めても止まりそうに無かった。


「あ、後、これ、トウルちゃんが私達の誕生日にくれたお人形。うふふ。あんまり上手じゃないでしょ?」

「でも、これはこれでかわいいですよー。あはは。子供のころのトウル様はこういうの作っていたんですねー。ここにあるもの全てがトウル様の原点なんですね。ふふ、なんかトウル様らしいです」


 カウンターの後ろからカスミが取り出した人形を、女性三人が囲んで見ている。

 布と綿で出来ている人形は目と口が少し歪んでいて、まさに子供の書いた似顔絵という感じだった。

 トウルにとっては正直恥ずかしい思い出だ。


「お父さん、すごいなぁ」

「あら? リーファちゃんの作ったお人形はトウルちゃんのお人形より上手よ?」

「ううん。上手さとかじゃないの。お父さんは本当に頑張ったんだなーって思って。ここからお父さんはあんなに上手になったんだ。お父さんはやっぱりすごいよ。リーファもがんばらないと」


 リーファの言葉にトウルはまた励まされた。

 ひたすら上を目指して駆け上がってきた道の原点を見て、リーファも上を目指してくれている。

 それならばと思い、トウルはもう一つの原点も恥ずかしいと思いながらも、連れて行くことを決めた。


「母さん。みんなを師匠の工房につれていくよ」

「ふふ、そうしなさい。お昼ご飯までには帰ってくるのよ?」

「うん。いってきます」

「いってらっしゃい」


 そう言って店を出るトウルの後を、リーファとミスティラが目を輝かせてついてきた。

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