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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
最終章:錬金術師、選択する
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トウルとクーデの工房デート3

「ぷはぁー! 緊張したぁー。うん、終わったって思ったらお腹空いてきたね。リーファちゃん、トウルさん、何食べたい?」


 大きな息を吐いたクーデリアが大きく伸びをすると、ニッコリ笑いながら問いかけてきた。


「くーちゃん、サンドイッチしか作れないでしょ?」

「だ、大丈夫! 食材切るまでなら出来るから!」

「んー、そうだなー。お父さん何食べたい?」


 リーファが突然トウルに話題を振ったせいで、トウルは一瞬戸惑った。

 てっきりリーファが決めるかと思っていたので、全く考えていなかったのだ。


「そうだなぁ。材料何があったっけ? 冷蔵庫見てみるか」

「そういえば、当たり前のように使ってるけど、それも錬金術で作った奴だよね?」

「あぁ、ここにあるやつは、ゲイル局長の作ったお下がりだけどな」

「ん? もしかして、ゲイル局長さんが発明者?」

「うん」


 トウルが当たり前のように頷くと、クーデリアは感心したように深く頷いた。


「はぁー。便利な道具を聞いたら、大体トウルさんの知ってる人が出てきそうだね」

「そこまではいかないさ。ま、とりあえず、キッチンに行こうぜ。お昼を何にするかはそこで決めようぜ」

「そうだね。足りない物があったら、ひとっ走り行ってくるから安心して」

「いやいや、あり合わせで何とかするさ」


 遊びに来て貰って、買い物に行かせる訳にはいかない。

 家主としてしっかりしている所を見せなければならないと、トウルは気合いを入れてキッチンに立った。


「……ビックリするぐらい何も無い。パンはあるけど食材が空っぽだ」

「あはは。牛乳と卵が三個か」

「そう言えば買い物に行くの忘れてたな……。朝ご飯で全部食べてそれっきりだった」


 トウルが入れた気合いは一瞬で何処かへ消えた。どうしたら良い物かとトウルが頭を抱えていると、クーデリアが隣で手をパンと叩いた。


「あっ! トウルさんこういう時の錬金術師なんでしょ?」

「へ?」

「キッチンポットで良いよ。パンと一緒にスープ飲もうよ。あ、確か麺シリーズも増えたんだっけ?」

「って、クーデはそれで良いのか? 割と普段食べ慣れてるだろ? 二週間に一度は大入り瓶を買ってくし。あれだったら、宿屋に食べに行っても」

「食べ慣れているからこそ良いんだよ。ね、リーファちゃん。今日のお昼は玉子サンドとスープでも良いかな?」


 トウルが別の提案をしていると、クーデリアはリーファに話を振っていた。

 トウルにとっては、いつもの商品をそのまま出すだけなのは、少し気が引けた。

 外出しているのならまだしも、トウルにとって錬金術で作った物を自宅で食べるのは、妙な手抜きを感じてしまうからだ。


「いいよー。お父さんの錬金術で作った物も美味しいもんね」

「決まりっ。パンに挟む物だけじゃなくて乗せるものも出来るから、目玉焼きは私に任せろー」

「うん。サンドイッチはくーちゃんに任せるー! お父さん、リーファはキッチンポット取りにいってくるから座ってて」


 リーファと屈んだクーデリアがハイタッチして、それぞれの持ち場に移動した。

 完全に流れに取り残されたトウルは、ポカンとキッチンに立ち尽くした。


「トウルさんは座っててー。ぱぱっと準備しちゃうから」


 そう言ったクーデリアはフライパン、油、調味料をパパッと棚から取り出している。


「って、俺の家なんだけど、完全にキッチンの道具の位置を把握している!?」

「何度お手伝いしたと思ってるのさ? トウルさん」

「本当にお世話になってます」

「ってことで、安心して待っててよ。それに、こうすれば後で一緒に買い物いけるでしょ? それも一緒に作った新品の靴でさ」


 フライパンを片手にガッツポーズを取るクーデリアに、トウルは笑いをこらえきれずに小さく噴き出した。


「何かあったら言ってくれ。すぐ手伝うから」


 トウルはクーデリアの気遣いを受け取ると、大人しくダイニングの椅子に座って彼女の姿を見守ることにした。

 ドキドキするけど落ち着いている。不思議な感覚にトウルは大きく伸びをしながら息を吐いた。


「ねー、トウルさん」

「ん? 何か見つからない物でもあった?」


 クーデリアから声をかけられて、トウルは椅子から立ち上がった。

 だが、残念ながら手伝いは必要ではなくて、トウルはもう一度席についた。


「錬金術師って大変なんだねー。あんなにも色々な本から必要な物探して、材料用意して、たくさんの情報を紙に書いて、量も正確に量って、すごい手間暇かけて作るんんだね」

「そうだな。学校でも設計図読ませて道具を放り込めば良いって思っていると、驚く奴が結構いた」

「トウルさんって凄いんだね」

「あれ? 珍しいな。いつもなら私と同レベルとか言いそうなのに」

「錬金術に関してだけね? 食材を切らしたりしてるあたり、私と同レベルだよー。私もたまにあるし、同じ人間だもんねー。あはは」


 クーデリアは楽しそうに笑っている。

 結局何をしてもトウルの扱いは変わらない。

 力を見せつけても嫉妬しか受けてこなかったトウルにとって、クーデリアの言葉は尚も新鮮に感じていた。

 嫉妬とは違う。でも、何かは分からない。ただ、彼女の前では格好付ける必要も無ければ、情けない所を見せても笑って済ませてくれることだけは確かだった。


「お父さん。キッチンポット持ってきたよー。後、食品の入ったドライキューブ持ってきた」


 そこへリーファがタンブラーと、色とりどりな角砂糖が入った瓶を持ってくる。


「ナイスタイミングリーファちゃん。こっちも目玉焼きが三人分出来たところだよ。後はこれをパンに載せて、塩コショウと香り付けにちょっとドライバジルとガーリックをまぶしてー完成」


 クーデリアも準備が出来たようで、目玉焼きが乗ったパンを三枚別々の皿に載せて机の上に乗せた。

 蒸気にバジルとガーリックの香りが混ざり、絶妙に食欲をそそってくる。


「くーちゃん、ご注文はお決まりでしょうか?」

「んー、それなら、スープヌードルクリーム味。一つお願いします」

「かしこまりました」


 リーファは宿屋のウェイターの真似をしながら注文を受け付けた。

 クーデリアもしっかりリーファの真似に対応している。

 それが嬉しかったのか、リーファは瓶から白乳色の角砂糖をキッチンポットに入れて、嬉しそうに振った。

 トウルはその間にキッチンから底の深いお皿を取ってくると、リーファの前に置いた。


「お父さんありがとー。お待たせしました。スープヌードルクリーム味です。お熱いのでお気を付け下さい」

「ありがと。リーファちゃん」


 最後までウェイトレスをやりきったリーファは、クーデリアの感謝に顔をほころばせた。


「えへへ。お父さんは何が良いー?」

「そうだな。んじゃ、俺もクリーム味で」

「はーい。んじゃ、リーファも同じのにしよー」


 振ればあっという間にキッチンポットの中からお湯がにじみ出て、乾燥凝固させた料理が元に戻る。

 材料が何も無かったはずなのに、食卓は全然寂しくなかった。


「ホント便利だよねぇ」

「保存も効くからなー。まぁ、キッチンポットとドライキューブを作るのは、普通に料理を作るより手間と費用もかかるけど」

「色々な種類あるもんねー。っと、冷めない内に食べようよ。トウルさん」

「だな。いただきます」

「いただきます」


 皆の声が重なって、トウルは目玉焼きパンにかじりついた。

 カリッとしたパンに歯が食い込み、じわっと黄身が口の中に広がる。

 ほどよい塩気と食欲をそそる香辛料の香りで、かじった瞬間次の一口を求めたくなるような味だった。


「美味いな」

「いやー、トウルさんも良い仕事してるよー。キッチンポットにはお世話になりっぱなしだね」

「俺の自信作だからな」


 トウルは誇らしげに笑うと、クーデリアも頷いてくれた。


「クーデ達のおかげだよ」


 そして、トウルは素直に感謝した。

 彼女達がいなければ生まれなかった道具だ。

 出会っただけじゃなくて、友達になってくれたからこそ、リーファと一緒にいられて、便利な道具を作ることが出来る。


「そう言えばさクーデ。午後どうするんだ? また何か作るか?」

「トウルさん、ご飯食べ終わったらやりたいことある?」

「買い物には行きたいな……晩ご飯が困った事になるし」

「それじゃ、一緒に買い物に行こうか。新しい靴も試せるしね」

「ありがとうクーデ」

「どういたしまして。あっ、でも、ジェラートはおごってほしいなっ!」

「おやすい御用だ」


 クーデリアの提案で少しはデートっぽくなったことに、トウルはホッとした。

 いつもなら文句を言いたくなるクーデリアの食い意地に、今回ばかりは助けられた。

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