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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
最終章:錬金術師、選択する
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リーファの帰り道~くーちゃんとデートの約束~

 学校が終わるとリーファはトウルの人形をカバンから取り出して、胸のボタンを押した。


「お父さん。今からお家に帰るねー」

「おっけー。って、そうだ。ごめんリーファ。迎えに行きたいんだけど、迎えにいけない。ちょっと手のかかる薬の錬成をしてて、手を離せない」

「うん。大丈夫だよ。一人で帰れるから安心してお仕事してー」

「ありがとう。晩ご飯は食べにいこう」

「はーい。またね。お父さん」


 リーファは通話を終えると、人形をカバンにしまって家路についた。

 ライエは駅に迎えに来たお母さんと、買い物に出かけると言って駅で早々に別れてしまっている。

 一緒にお買い物をするかとも誘われたが、父であるトウルの仕事も気になる。

 トウルに心配をかけたくなかったし、トウルが心配なリーファはライエの申し出を丁重に辞退したのだ。


「あ、くーちゃんだ。おーい、くーちゃん!」

「あれ? リーファちゃん。学校の帰り道? おかえりー」

「ただいまー。れーちゃんはお仕事?」

「そうそう。パトロール中だよ。あ、家まで送ろうか?」


 クーデリアの申し出にリーファは一度首を振った。

 パトロールのルートを変えたせいで、怒られると可愛そうだと思ったからだ。


「どっちにせよ、工房までのルートだし。ついでだよついで」

「なら、一緒に帰りたい」

「はーい」


 クーデリアの説明に嘘は無さそうだった。

 リーファはクーデリアの隣あって川沿いを歩き始めた。


「あのね。くーちゃんってお父さんと結婚したいの?」

「ぶっ!? リーファちゃん!? 急にどうしたの!?」

「んっとね。らーちゃんが言ってたの。お父さんとお母さんはお互いが好きだから結婚したって。だから、くーちゃんもお父さんと結婚するのかな? って思ったの」


 リーファがライエから聞いた事を説明すると、クーデリアは真っ赤な顔を横に反らした。


「でも、それはトウルさんが私のことも好きじゃないと……。トウルさん鈍感だし」

「お父さん。くーちゃんのことも好きだよ? みーちゃんとれーちゃんのことも――」

「そうなの!?」


 リーファが喋り終える前に、クーデリアがガバッと真っ赤な顔になったリーファに向ける。

 リーファはこくこくと頷くと、腕を組んで悩んだ素振りを見せた。


「うん。でもね。だから、リーファ分からないの」

「分からない?」

「お父さんね。くーちゃんのことも、みーちゃんのことも、れーちゃんのことも好きみたいなの。最近ちょっと悩んでるみたい。何とかしてあげたいの」

「リーファちゃん。その話し詳しく! 力になってあげるから!」


 やけに食いつきの良いクーデリアに、リーファは笑顔を浮かべて頷いた。

 河原に二人で腰掛けると、リーファは先ほどの話題の続きを始めた。


「えっとね。お父さんがね。どうやってくーちゃんとみーちゃんをデートに誘うか悩んでたの」

「えっと、それって四人で遊ぼうってこと?」

「ううん。お父さんとリーファとくーちゃんの三人で」

「あのトウルさんが!? 私だけ誘おうとしてるの!? 四人じゃなくて!? しかも悩んでる!?」


 クーデリアが驚いたように声をあげると、リーファは小さく頷いた。


「うん。どうやって誘えばくーちゃんがデートしてくれるのか、どこに遊びに行けば喜んでくれるか、考えてたみたい」

「そ、そっかー。そっかー! トウルさんが私をデートに誘おうとしてくれてるんだー」

「うん。だから、くーちゃんに聞きたいんだー。どこ行きたい? お父さんに教えてあげるの」


 クーデリアはリーファから聞かれた質問を聞くと、腕を組んでうんうんとうなり始めた。

 なかなかすぐには戻ってこない返事に、リーファも困ったようにうなる。


「うーん、くーちゃんもお父さんと同じだー」

「んー、困った事に行きたい所があんまり無いんだよね。むしろトウルさんが行きたい所に行けばいいかなーって」

「それじゃ、二人とも分からないよー?」

「だよねー……」


 クーデリアはよくトウルと同レベルだと言っていたが、リーファと二人きりになってもトウルと同じことをしている。

 クーデリアの言うことも一理あるなと、リーファは直感的に感じていた。


「トウルさんの好きなことー……錬金術とリーファちゃん? って、それじゃいつもやってることか」

「くーちゃん錬金術できないしねー」

「うぐっ……そうなんだよなぁ……」


 リーファの一言でクーデリアがガックリとうなだれた。

 でも、リーファは何故彼女が錬金術を出来ないことを残念がるか、分からなかった。

 クーデリアが錬金術をすることが出来なくても、リーファはクーデリアのことが好きだったからだ。


「錬金術出来なくても、くーちゃんにはくーちゃんの良い所あるよ?」

「あはは。ありがとう。リーファちゃん。ん? あ、そっか。決めた」


 クーデリアが何かを閃いたかのように、顔を明るくしている。


「ねっ、リーファちゃん。今度の土曜日、トウルさん空いてる? 私はお休みなんだけど」

「うん。お店はお休みだよー」


 リーファが頷くと、クーデリアもうんうんと何度も頷いた。

 そして、決心がついたのか彼女はリーファに顔を近づけて、やりたいことを教えてくれた。


「私、トウルさんに錬金術教えて貰いたい」

「それってデートなの?」

「んー、あれ? どうなんだろ? お仕事見学? 社会体験? まぁ、どっちでもいいや。私ね、一番楽しそうなトウルさんが見たいんだ。だから、十分デートだよ」


 クーデリアの提示したデートの内容に、リーファは心配そうな表情を浮かべる。

 それでも、楽しそうなクーデリアを見ていると、リーファの表情も和らいでいった。


「リーファね。お母さんは錬金術師じゃ無くても良いって思ってるよ?」

「私がお母さん!? って、そうか。そうなったら、いつかそうなるんだよね。って、私がお母さんになっても、リーファちゃんは大丈夫なの?」

「うん。でも、くーちゃん。お母さんになるのなら、気を付けてね。お父さん仕事始めるとご飯とか家事とか手抜く時あるから!」

「あはは……さすがリーファちゃん。トウルさんのこと良く知ってるなぁ」


 トウルは高速列車を作っていた時も昼食クッキーだけだった前科持ちだ。

 リーファはクーデリアが慌てている理由が、トウルの生活面だと勝手に勘違いしていた。


「そいえば、くーちゃんは、何でお父さんのこと好きになったの? 最初はリーファが勉強ばっかりになって可愛そうだー。って思ったんだよね?」

「あはは。良く覚えてるね。恥ずかしいなぁ。でも、そうだね。リーファちゃんには教えてあげないと不安だよね」


 クーデリアは真っ赤な顔で小さく咳払いすると、恥ずかしそうにリーファから目を反らして話を始めた。


「トウルさんには内緒にしてよ? トウルさんって親バカで不器用で他人の気持ちにすっごい鈍感でしょ」

「お父さんが聞いたら、ショック受けそうだねー」


 リーファはすぐにうなだれて、しょんぼりするトウルを想像した。

 でも、悪口を言っているはずのクーデリアは優しく笑っている。

 トウルのことをバカにしている様子も、嫌っている雰囲気も、リーファは感じ取ることが出来なかった。


「あはは。そうだね。でも、トウルさんが本当に弱音を吐いたことって見たこと無いんだよねー。でも、人のお願いは全力で叶えようとするし、ミリィのプレゼントでもそうだったけど、一生懸命、リーファ以外の人も喜ばせようと頑張る人なんだよね。鈍感なのにね。でも、絶対諦めようとしないもん。トウルさん」

「うん。リーファのこともすごく心配してくれてるの」

「うん。でも、時折、空回りしちゃってる感じがあって、危なっかしいなーって思ってたら、いつの間にか気になってたかな。何というかもうちょっと気楽にしてても良いのにーって思っちゃう。大人の癖になんか子供っぽくてほっとけないよねー」

「そこが好きなの?」


 リーファはクーデリアの言葉の意味が良く分からずに聞いてみた。

 トウルのことが好きなのは分かっていたけれど、好きと言うより心配しているように聞こえたからだ。

 すると、クーデリアは少し悩むような素振りを見せてから答えた。


「そこもひっくるめてかな? 私は難しいこと全然分かんないけど、トウルさんがリーファにも、お仕事にも、みんなのことにも一生懸命なのは分かるんだ。だから、トウルさんと一緒にいたら、きっと何があっても大丈夫かなーって。うーん、とにかく、一生懸命で面倒見の良いトウルさんが好きなんだね。頼りになるお兄ちゃんみたいで。だから、私もトウルさんに頼られるぐらいになりたいなー。なんてね」

「そっかー。あのね。くーちゃん。もう一つ聞いて良い?」


 リーファはクーデリアの説明に満足すると、話題を変えようとした。


「うん、何かな?」

「くーちゃんとお父さんが結婚したら、リーファにも妹か弟が出来るの? お父さんはリーファに錬金術教えてくれるかな?」

「ぶふっ!?」


 リーファの純粋な質問にクーデリアは思いっきり吹きだした。

 トウルも同じ話題で、同じ反応を返したことをリーファは思い出していた。

 他の人も同じ反応するのかな?

 そんな疑問をリーファはふと思った。


「くーちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫。そうだなぁー。う、うん。リーファの妹になる子は欲しいよね。でも、トウルさんは変わらないと思うよ。リーファちゃんが大好きな親バカのトウルさんだからね。それにさ」


 クーデリアは咳払いをすると落ち着きを取り戻したのか、ふっと小さく微笑んだ。

 そして、彼女はリーファの肩に手を回して、リーファを抱きかかえてきた。


「私もリーファちゃんのこと好きだよー。いっつも美味しいクッキーとお薬ありがとねー」

「えへへー。錬金術師だからねー」


 少しくすぐったく感じるクーデリアのなで方に、リーファは笑った。

 そして、聞きたかったことも聞けたリーファは、満足したように立ち上がった。


「お父さんにくーちゃんが錬金術の見学したいって、言っておくねー」

「ありがとうリーファちゃん。それじゃ、工房でついでに買い物していこっかな」

「何買うのー? 無い物だったらリーファが作るよー?」

「化粧品買ってくよ。私、今回は頑張ろうと思う」


 ガッツポーズをとって気合いを入れるクーデリアに、リーファは首を傾げた。


「化粧品って頑張って使う物なの?」

「リーファちゃんも大人になれば分かるよー」


 笑いながら答えるクーデリアに、リーファは首を傾げたままだった。


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