第三章エピローグ:レベッカの衝撃
週末の休みだというのに、レベッカは開発局の倉庫に顔を出していた。
レールは国の鉄道網に繋がっていて、ここからカシマシキ村まで移動することも可能だ。
だが、レベッカはせっかく改良した車両に乗ること無く、倉庫内のベンチに座っていた。
「先輩の手紙だと開発局の倉庫にいれば良いって言ってたけど、どうしたんだろ? 私が手紙で書いた新しいモーターの確認を自分でしたいのかな?」
レベッカの作った新しい車両はすこぶる良好だった。
上司の評価も良かったし、鉄道局が速度に驚いてしどろもどろしていたのも気分が良かった。
ただ、どうしても村から立ち去る直前のトウルの顔が離れた無かった。
「先輩どうしてるかなー?」
倉庫の壁にかけてある時計を見てレベッカが呟く。
すると、どこからか汽笛の音が聞こえてきた。
「あれ? 車両の搬入予定なんて今日は無かったはず。おかしいな」
レベッカが不思議に思いながら倉庫の外に出ると、彼女は一回目をこすった。
「は?」
思わず漏れた声は、目の前にある物の意味が分からなかったためだ。
「はあああああ!?」
そして、その物の意味が分かった途端、レベッカは驚きのあまり大声で叫んでいた。
「レベッカ、みんなを連れて遊びに来たぞー」
「ちょっ!? やっぱ先輩って、えー!?」
目の前には宙に浮く列車があって、トウルだけでなく、リーファ、クーデリア、ミスティラ、そして見たことの無い黒髪眼鏡の女の子までいる。
「中央にも遊びに来てって言ったけど、えぇぇ!?」
驚きでレベッカが叫び続けている内に、トウル達は倉庫前の線路に着陸した。
「先輩何作ってるんですかあああ!?」
「いやー、レール引くお金が無いなら、レール無しで飛べば良いやという発想の逆転を――」
「それ発想の飛躍って言います!」
トウルの説明に食い気味でレベッカがまくしたてると、トウルは苦笑いしていた。
そんなトウルを庇うように、ミスティラとクーデリアが前に飛び出してくる。
「お久し振りです。レッカさん。この前は一人抜け駆けをしたそうですねぇ」
「ふっふっふーん。でも、こっちは四人で空の散歩をしたんです。ダブル・ダブルデートです!」
どこか嫉妬を含んだミスティラの黒い笑顔と、誇らしげに意味不明なことをいうクーデリアに、レベッカはおかしくて笑いが出た。
「それもうデートじゃないじゃん」
「良いんです。二人きりは私もありましたし!」
「へぇ……詳しく聞かせて貰いましょうかクーデ……」
クーデリアの対抗が、レベッカの中の何かに火を点けた。
だが、すぐにその火は消されてしまう。
リーファが突然スカートを引っ張ってきて、そっちに気を取られたからだ。
「らーちゃん、この人がれーちゃん。国家錬金術師なんだよー。お仕事してる時だけは格好良いんだー」
「初めまして。えっと、ライエと言います。トウル師匠のところで錬金術学んでます」
礼儀正しい黒髪眼鏡のライエにレベッカは目を点にした。
「え? 先輩の娘が増えたんですか? リーファの妹ですか?」
「レベッカ……お前、俺を何だと思ってる?」
「親バカの錬金術師です」
レベッカの即答に、ミスティラとクーデリアが顔を隠して噴きだした。
ライエも困ったように笑っている。
「私、リーファみたいになりたくて、トウルさんに弟子してもらったんです。リーファちゃんはお姉ちゃんみたいに思ってますけど」
照れたように頬を赤く染めるライエを見て、レベッカはようやく理解が追いついた。
やはり、先輩は親バカだ。
その結論だけは微塵も変わることが無かった。
「あのね。れーちゃん。らーちゃん中央は初めてなんだ。だから、また一緒にデートしよ」
「だから、遊びに行くことを何でもかんでもデートっていうなよ!?」
「えー、みんなお父さん好きだし、お父さんはみんなのこと好きでしょー? 好きな人と遊ぶのがデートなら、デートだよー」
リーファはまだデートの意味を理解していないのか、遊ぶことをデートだと勘違いしている。
それでも、トウルの動揺は意味を理解しているからこその反応だろう。
「よーし。それじゃ、みんなでデートしますか。先輩もミリィもクーデも、リーファとライエもみんなまとめて面倒みるわ」
目を離した隙にまた遠くへ行ってしまいそうなトウルについていくため、レベッカは皆の前でトウルの腕に抱きついた。