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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
錬金術師、娘を学校に送る
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打ち上げの代わりに

 その翌日、トウル達は早速放魔炉の実地試験を開始した。

 田舎の駅は列車の往来が少ないおかげで、多少の無茶が効いた。

 トウルとリーファはレベッカの乗る運転席に立っている。


「発進しますよ先輩、リーファちゃん」


 レベッカに出発の確認をされて、トウルは頷いた。


「あぁ、出してくれ」

「出発しんこー」


 リーファの元気の良い声とともに列車ががたんと揺れる。

 駅から出発した列車はあっという間に速度をあげ、景色が後ろに勢いよく流れていく。


「資料を見てはいたが、なるほど。実物で体験するとかなりの加速だな。放魔炉エーテルリアクターも問題無く魔力を供給してくれているようだ」

「えぇ、加速が売りですからね。後は昨晩先輩が書いたモーターの設計図。あれに積み変えれば、一気に最高速度も上がるはずです。安定したエーテル供給のおかげですね。こっちだと設備の都合上、積み替えられないのが残念です。中央に戻ったらすぐ取りかかりますね」


 放魔炉も上手く機能しているようで、列車は最高速度で安定した走行を見せている。


「おー、すごいねれーちゃん。リーファが毎朝乗ってる列車よりはやーい!」

「隣村までなら十分程度だよ」

「そうなの? リーファが乗ってる列車、三十分くらいかかるよ?」

「電動式になって加速と減速性能を上げたからねー。短い距離なら負けないよ」

「おー、れーちゃんすごい!」


 リーファがはしゃいでいると、トンネルもあっという間に通り過ぎ、レベッカの言葉通り十分程度で隣村に到着してしまった。

 駅には物珍しさなのか、新しい列車に興味を持ったのか、駅員が集まっている。

 レベッカは列車から降りると、駅員にあれこれ説明して放魔炉を設置させた。

 これで双方向からエーテルが送られることによって、電源の安定度が増す。

そうなれば、出力を上げたモーターの本領も発揮出来ることになる。


「おー、れーちゃん錬金術師っぽい仕事してるー」

「うん、レベッカもあぁ見えて、俺と同じ国家錬金術師だからな」

「うん。お父さんもれーちゃんも格好いいね」

「レベッカに直接言ってあげればきっと喜ぶぞ。お、ちょうど戻ってきた」


 トウルとリーファは拍手でレベッカを運転席に迎え入れた。


「え? 先輩、急にどうしたんですか?」


 突然の拍手にレベッカは戸惑ったように顔をキョロキョロさせた。


「いや、ちゃんと国家錬金術師やってるなーと思って。これなら、この後の普及を任せられる」

「れーちゃん格好良かったのー」


 二人からの賛辞にレベッカは顔を赤く染めながら胸をはった。


「ふふん。当然です。これでも先輩を追い抜こうとする錬金術師ですから。こんなの余裕です。まだまだ序の口です。朝飯前です」

「おー、そいつは頼もしいな。中央に戻ったら、高速モーター搭載車両の方も鉄道局の連中にバッチリ売り込んでおいてくれ」

「はい。そりゃもうバッチリ! って、あれ? ……先輩? 今さりげなく一番錬金術師にとって面倒なこと押しつけませんでした?」

「気のせいだ。レベッカなら出来る。さぁ、村に戻ろうか。相互式になった変化を計測したいし」

「あ、先輩、今思いっきり誤魔化しましたね!? なら、村に戻ったら今日は一緒にいてくださいよ? 村の観光案内まだしてもらってないんですから!」


 レベッカの言う通り、村案内の約束をトウルはまだ果たしていなかった。


「そうだな。ちょうど良いし案内するよ。リーファもそれで良いか?」

「うん。いいよー。れーちゃんに美味しい物いっぱい教えてあげるー」


 これからのレベッカの苦労を観光案内くらいで許してくれるのであれば、トウルは快く受け入れた。リーファも乗り気で一人にする心配も無い。


「よしっ、先輩とデートです!」

「おー、デートだー!」


 嬉しそうにガッツポーズをとるレベッカに、リーファは両手をあげてはやし立てた。


「ねー、れーちゃん。デートって何?」

「えっとねー。男の人と女の人が遊びにいくことだよ。リーファちゃんは学校でデートに行きたい人いるー?」

「んー、いなーい。らーちゃんとは遊びに行きたいけど、女の子同士じゃデートじゃないんだよね?」


 トウルは少しホッとすると、レベッカに隠れて胸をなで下ろした。

 そんなトウルを放って女子二人は話を好き勝手進めている。


「んー、ちょっと待って。女の子同士でも人によってはデートっていうかも?」

「へー。デートって難しいね」

「そうなのよー。特に先輩相手は難しいんだよー」

「へー。そうなんだー」


 どういう意味だよとつっこむと、痛い目にあいそうな気配がしたトウルは、レベッカの言葉をスルーした。

 難しい自覚はある。それに村長の話を聞いて、早く選ばないといけない焦りもあった。


「リーファはお父さんとよくデートしてるけど、お父さんたのしそうだよ?」

「リーファちゃんはいいなー。今度は私とデートしよっかー」

「いいよー。れーちゃんとデートしてあげるー」


 もはや何でも良いからデートと言いたいだけなのではないかと、トウルが疑っているとレベッカは手をパンと叩いた。


「さて、そうなればすぐ帰らないとね」

「事故だけは起こすなよ?」

「もちろんですよ。早い、安い、安全が鉄道の売りですから」

「どこかの定食屋みたいな売り文句だな……」

「ど派手も追加したいですけどね。出発進行ー」


 トウルのツッコミはスルーされて、列車ががたんと音を立てて動き出す。


「今度は座席の方に座ってみるよ。いこうリーファ」

「はーい」


 客室は二人乗りの椅子が横に二つ並んでいる。列車の一番安い席と同じ席の作りだった。

 ただ、そこはさすがレベッカと言った所か、座席はふかふかで思いっきりもたれることが出来た。


「さすがレベッカ。良い仕事してる」

「ふかふかー。すごいねれーちゃん。どうやって作ったんだろう?」

「後で聞いてみようか。弾力性と柔らかさから考えると、綿が空気をかなり含むような構造にして、付加効果をつけた感じか?」

「おー、お父さんもさすがだねー」

「はは。俺も錬金術師だからな。自分だったらこう作るって反射的に考える癖がついてるのかも」

「よーっし。リーファもがんばって覚えるぞー」


 これからも錬金術師としての経験を積もうとするリーファの姿を見て、トウルは優しくリーファの頭をなでた。

 リーファはただ無言で嬉しそうにトウルになされるがまま、頭を預けてくれた。

 そして、トンネルに入って景色が暗くなると、リーファからトウルに身体を寄せてきて、もたれかかってきていた。

 トウルはそんなリーファの肩をそっと抱いて、無言で自分の方へと引き寄せた。

 そして、また電車に揺られること数分、トウル達は無事カシマシキ村の駅に到着した。


「やっぱり帰りの方が速かったな! 八分でついたぞ!? これ、モーター変えれば中央まで一時間くらいでつくんじゃないか!?」


 高速鉄道の完成はもう目の前だ。

 村でモーターの取り替えが出来ないことが非常に惜しいトウルだったが、レベッカになら後を任せられる。

 そんな信頼もあってトウルは残りの時間を、約束通りレベッカの案内をすることにした。

 デートという難題に、トウルはこの日、初挑戦することとなる。

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