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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
錬金術師、娘を学校に送る
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レベッカ参上

 リーファが学校に通い始めてから、初めての休日が訪れた。

 今日は一日中リーファといられる。トウルは久しぶりに一緒に錬金術をしようとか、山にピクニックに行こうとか朝ご飯を食べながら、色々考えていた。


「リーファ、今日は何したい?」

「お父さんと一緒に錬金術の勉強したいなー。後、クッキーとかお薬とか来週売る分作っておきたいしー」

「あはは。本当に立派な錬金術師だな」


 それならばと思って、トウルは一日リーファとのんびり本を読もうと心に決めた。


「せんぱーい!」

「うおっ!?」


 二階にいても聞こえてきた聞き覚えのある声とともに、扉が勢いよく開かれる音がした。


「このレベッカ! 先輩の愛の召喚に応えて今ここに参上しました!」


 言っている方が恥ずかしいのではないかと思うようなレベッカの台詞に、トウルは顔を真っ赤にしながら階段を駆け下りた。

 すると、やはりそこには茶髪の少女が大きなカバンをひっさげて仁王立ちしていた。

 腰まで伸びるストレートの明るい茶髪に、黄金のような瞳の色。

 肩を露出した黒いドレスの上に、いつもの赤いコートを羽織っている。


「レベッカ恥ずかしいから!」

「あ、先輩! おはようございます! 持ってきましたよ。新車両の資料」

「おはよう。ありがとう。って、レベッカどうやってこの時間に来たんだ? 早くても昼過ぎだと思ってたぞ」

「開発局国家錬金術師をなめないでください。新型の試験運行をすると言えば、この程度ちょちょいのちょいです。夜間走行で走ってきました」

「無茶苦茶してるなぁ……」

「先輩のためですから!」


 レベッカは胸を張って自慢げに頷いている。

 そんなレベッカの無茶にトウルは苦笑いすると、ふと、彼女の言葉が頭に引っかかった。


「ん? 新型の試験運行?」

「あぁ、はい。電動式車両の実物もついでに見て貰おうと思って、乗ってきました」

「……本当に無茶苦茶してるなぁ。俺まで始末書書いたりする必要ないよな?」

「もちろんです。局長にも許可もらいましたし」

「ん、それなら大丈夫か」


 上司の許可をちゃんと得ているのなら、レベッカが後々罰を受けることは無いだろう。


「って、列車ごと持ってきたのかよ!?」

「え? 今更ですか!?」

「い、いや、うん、普通持ってくるとは思わないよ……」

「ふふん。レベッカのこと見直しました?」

「うん。前々から作る物が派手だとは思ってたけど、性格もぶっ飛んでたな」

「あれ? あんまり褒められた気がしない!?」


 ショックを受けてしょげるレベッカに、トウルは笑いをこらえきれなかった。


「ったく、本当に頼りになる後輩だよ。ありがとうレベッカ。よく来てくれた。嬉しいよ」

「あ、はい。どういたしまして。よろしくお願いします」


 ようやく落ち着いてトウルが挨拶をすると、レベッカは少しきょとんとしてから挨拶を返してくれた。


「あっ! れーちゃんだ! おはよーれーちゃん。遊びにきてくれたのー?」

「おはよ。リーファも相変わらず元気そうね。錬金術の調子はどう?」

「頑張ってるよー。でも、リーファも学校に行き始めたから、ちょっと時間が減っちゃった」

「へぇー。あ、カイト君と一緒の学校に行きたいからとかー?」

「うん、そーだよー。それでね。かー君に錬金術教えてあげるのー」


 無邪気な声で言うリーファにレベッカは困ったような笑顔を浮かべて、頬をかいていた。


「あの、先輩。リーファちゃん、まだ気付いてないんですか?」

「……手紙の封筒も普通だったし、気付かれないように頑張ってたから、俺からばらす訳にもいかないだろ……」

「ですよねぇ……」


 カイトの身分を知っているトウルとレベッカは、リーファに聞こえないように小声で話している。


「何話してるのー?」

「あ、えっとー、何でも無いよ。私の仕事の話し」

「れーちゃんのお仕事?」

「そうそう。リーファも見に来る? 電動式車両持ってきたし」

「列車だよね!? 見たい見たい!」

「よーし。それじゃ、早速駅にいこっか」


 レベッカが腰に手を当て、元気良く宣言する。

 これはこれでリーファが喜んでいるので、トウルは悪くない休日になりそうだと思った。

 早速出かけようとした瞬間、獣のうなり声のような低い音が鳴った。


「……でも、その前に、ご飯食べたいです……。朝ご飯まだ食べてないので……。先輩……ご飯下さい……」


 腕は確かな癖に時折どこか抜けているレベッカに、トウルは苦笑いしながら肩を貸して、ダイニングに連れて行った。



 レベッカの朝食を済ませ、トウル達は駅に移動した。

 車両庫に通されると、そこには目立つ赤い車両が鎮座していた。


「相変わらずど派手なデザインだなぁ」


 金で描かれた王国の紋章や、あでやかな装飾はレベッカの趣味だろう。


「目立って良いでしょ? 最新式なんだから、目立ってみんなの印象に残さないとダメなんです」

「まぁ、意図は分かる。ただ、意外に小さいというか、蒸気機関車とは随分形が変わるもんだな。客室と動力を生み出す機関車が同じ車両になるのか」

「あぁ、そこが電動式の良い所なんですよ。動力系を全部車両の下に仕込めちゃうんです」

「なるほど。ミニチュアで俺も試験機を作ったが、その発想は無かったな。先頭車両に高出力、高馬力の動力を積んで全体を引っ張る形式を考えていた」


 トウルは列車の下をのぞき込むと、確かに複雑な機械構造がそこにはあった。


「んー、先輩の形式ももちろんあるんですけどね。ただ、そこはまだ鉄道局の人達が悩んでいる所です」

「なるほど。俺の場合連結車両のコストが低くて、レベッカの作ったこいつは一両一両のコストが高いのか。一台一台整備が必要なところが厄介だな」

「そういうことです。というか、一目見ただけでそこまで判断するって、相変わらず凄い頭してますね。これ、資料と設計図です」

「まぁ、リーファのために本気だからな。どれどれ」


 渡された資料にはトウルの考えていた動力集中式とレベッカが実物を作った動力分散式について、色々と書かれている。


「積載の問題もあるか」

「そうなんですよねー。なので、貨物と旅客は別にしようかなーとか、色々考えていて、ちょうど私も頭を悩ませていたんですよー。ってことで、先輩に相談したかったので本当にちょうど良かったです」


 トウルがぺらぺらと紙をめくっていると、リーファがトウルのズボンを引っ張ってきた。


「リーファも見るー! リーファも錬金術師なのー!」

「あぁ、そうだな。それじゃ、一緒に見ようか」


 トウルは倉庫内で椅子を見つけると、リーファを膝の上に乗せて資料をめくり始めた。


「すごい複雑な設計図だね。お父さん」

「あぁ、開発局はこういうこともやるんだよ」


 ただ、本当の意図は恐らく兵士の大量高速輸送だろうということは伏せておいた。

 トウルがページをめくっていくと、燃料についての考察にさしかかり手を止めた。


「レベッカ、これ本当に実現するのか?」

「あぁ、送エーテルレール機構と放魔炉エーテルリアクター整備計画ですね。理論的には可能ですよ?」

「鉄道局は受け入れてくれそうなのか?」

「んー、悩ましい所ですね。整備が大分楽になるのは間違いないので、今開発局は全力で押してますけど」


 トウルの目に止まったのは、車両に燃料を備え付けず、レール自体に属性結晶の魔力を流し込み、レールから列車を動かす燃料を得る方法だった。


「いや、これは凄いよ。一度に大量の列車を同時に動かしても、燃料補充は駅に備え付けた放魔炉エーテルリアクターだけ済むってのは」


 トウルの持っていた古い資料にはない発想だ。

 そうとなれば、実際に作ってみたくなるのが錬金術師としての性だった。


「レベッカ、この放魔炉って作られているのか?」

「いえ、まだ理論だけで実物を使っての運用はされてないですね。レールの金属に沿ってエーテルが流れるというのも、最近の知見ですし」

「よし、なら、作るか。都合良く電動式の列車もあることだし。小型化すればうちの錬金炉でも作れそうだ。それに鉄道局の連中を説得するアイデアを一つ思いついた」

「はいっ! お手伝いします!」


 レベッカが即答し、目を輝かせている。生えていないはずの尻尾が左右に振られている幻覚が見えそうなぐらい、犬っぽい反応だ。


「リーファも手伝ってくれるか?」

「うん! リーファも錬金術師だからね!」


 トウルの膝から飛び降りたリーファが腰に手を当て、胸をはって応えた。

 どこからどう見てもやる気満々だ。


「ありがとう。よし、やろうぜ。錬金術で世界を変えてやる」


 精霊祭ぶりの錬金術師が三人集まっての共同作業だったが、不安は一切なかった。


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