工房の宴会と余興
「な……なんでもない。さてと、それじゃ、さっきリーファとライエの描いたクッキーの設計図で錬成しようか」
トウルはリーファの疑問を誤魔化すと、設計図を持って話題を無理矢理変えた。
「はーい」
リーファとライエが同時に手をあげて返事をして、トウルの背中を追いかけて来る。
製図室に入ったトウルは、銀の錬金用紙を広げ、専用のペンを走らせる。
ゆっくりと丁寧に説明をしながら、一つ一つの術式を書き込んでいき、トウルは一枚目を完成させた。
「ライエも下書きはちゃんと出来てた。だから清書は自分で書いてみてくれ。リーファ、ライエが困ったり間違えたりしたら、教えてあげて」
「はーい」
「分かりましたトウルさん」
トウルの指示に、リーファとライエは素直に返事をした。
ライエが一つ一つの工程をリーファに確認しながら、設計図を描ききる。
リーファの的確な指示は、小さなお姉さんのようだった。
「トウルさん、出来ました」
「よし、それじゃ、次は計量だ。秤を使って量を量るよ」
計量もライエはリーファとともにこなし、一緒に材料を錬金炉に投入した。
残るは錬金炉を起動させるだけになり、ライエが最後の確認をトウルにとった。
「ここを押せば錬金術が始まるんですよね?」
「あぁ、それじゃ早速炉の電源を押してみてくれ」
「はい」
ライエが錬金炉を起動すると、ゴトンと炉が音をたてながら揺れる。
きちんと起動した炉は異常な振動も音も発しておらず、無事に錬成が進んでいるように見えた。
「後は完成まで待つだけだ。お、クーデもちょうど帰ってきたみたいだし、リビングにいってご飯かな」
トウルが窓の向こうから走ってくるクーデリアを見つけて移動を告げる。
時間的にライエのクッキーは食後のデザートになりそうだ。
「わーい。みんなでご飯だー。らーちゃんこっちだよ」
「あ、ちょっとりっちゃん!」
リーファはライエの手を引っ張ると、トウルの前を走って部屋を出て行った。
「リーファ、楽しそうだな」
子供の成長は早いと言うが、本当にすごい順応力だとトウルは感心した。
○
テーブルにはいつもより一つ多いグラス。
熱々の料理に、仲の良い人達がいる。
それだけあれば十分に宴会だ。
トウルはブドウジュースの入ったグラスを掲げると乾杯の音頭をとった。
「では、リーファの入学とライエの来店を祝して、かんぱい!」
「かんぱーい!」
グラスがふれ合う音が響き合い、皆が一斉にジュースを飲み干した。
「ライエも遠慮無く食べろよ? ミリィの作ってくれた物は美味いからな」
「はい。いただきます」
ミスティラの作った料理に舌鼓を打ちながら、トウル達はリーファとライエの学校の話を聞いていた。
今日もクラフトは相変わらずだったようで、リーファがライエを守っていたらしい。
「クラフトが芋虫の入った箱で私を驚かせようとしてきたけど、りっちゃんが平然とした顔で受け取って、虫を教室の外に逃がしてくれたんです」
「くーちゃんと良く虫取りにいってたからねー。リーファは大丈夫だったの」
「鍛錬の時間でもりっちゃんに勝負を挑んだクラフトが、あっさり返り討ちにあったんですよ」
「クラフトがくーちゃんの真似して二刀流だー。ってらーちゃんの前で言ってたけど、すごく遅かったの。一閃を使わなくても、受け止めたら転けちゃった」
ライエとリーファの説明を聞いて、事情を知っているトウル達は苦笑いした。
「クラフトも何というか、子供だな」
トウルがクーデリアとミスティラに話しかけると、二人も頷いた。
「あはは……。でも、男の子っぽいよね」
「ふふ、からかいがいのありそうな子です」
ミスティラがからかったら、すぐに涙目になるクラフトの姿が容易に想像出来た。
「ミリィ、一応いっとくけど、あんまりちっちゃな子をからかうなよ?」
「はい。もちろんです。私、男の子はトウル様以外からかいませんから」
「どうしてそうなった!?」
「トウル様をからかうのが一番楽しいですからね。おめでとうございます」
「褒められてる気がしないよ……」
ミスティラの最高の笑顔に、トウルはいつもの苦笑いを返した。
今回もいつものようにからかうつもりが、見事にひっくり返される。
毎度お馴染みの光景になったやりとりに、ミスティラは満足したのか話題を変えてきた。
「それにしても、リーファは想像以上に保安員にも向いてるんじゃないですか? 剣の才能もあるみたいですし」
「それは違うぞミリィ」
「あら? 保安員には大事なリーファをとられたくないと?」
「リーファは全てに向いている。何だって出来る子なんだ」
「ぷっ、あはは。さすがトウル様。何だろうと思ったら、やっぱり親バカでした」
トウルは真面目に答えたつもりだったが、ミスティラは爆笑している。
「あはは。って、あ、そういえば、トウルさんって剣も出来るんですよね?」
「んー、普通の剣術ではないけどな」
「というと?」
ミスティラはきっとクーデリアから話を聞いたのであろう。
トウルは妙に期待されたことに、頬をかいた。
「んー、錬金術師の師匠が生み出した剣術だからなぁ。流派も何も無いんだよ」
「なるほど。あ、どうせですからトウル様、クーデと一本やってみてくださいよ。リーファもトウル様の剣の腕、見てみたいよね? 格好良いところ見てみたいよねー?」
「んなっ!?」
ミスティラの頼み方はトウルにとっては効果覿面だった。
リーファが見たいと言ったら、トウルは断れない。
それに新弟子の前で格好悪いところは見せられない。
リーファとライエの期待のこもった視線がトウルに突き刺さり、トウルは息を飲んだ。
ミスティラはこうなることを分かっていたのか、イタズラが成功したような笑みを浮かべている。
「クーデ……やれるか?」
「私は構わないよ。それじゃ、食後の休憩が終わったら一本やろっか。私も見てみたいんだ。トウルさんの剣」
「出来れば、断って欲しかったなぁ……。でも、昨日やるって言ったし、久しぶりにやるか」
トウルは渋々ながら同意すると、リーファとライエが目を輝かせていた。
「お父さんがんばって!」
「あはは……がんばるよ」
リーファにそう言われたらもう逃げられないトウルだった。
○
食後、トウルは錬金術師向けの剣術用の武具を錬成した。
真ん中に切れ目が入った黒い刃。
片刃の剣を二本くっつけたような見た目をしている。
軽くて丈夫だが、刃は鈍い玩具の武器だ。
トウルは武器を手に持って庭に出ると、リーファ達が離れた所で立っていて、クーデリアが庭の真ん中で木の剣を構えて待っていた。
クーデリアは最初から二本の剣を握っていて、本気モードのように見える。
「トウルさん、その武器は? でっかいソードブレイカーに見えるけど」
「まぁ、そんな所かな。ソードブレイカーとしての機能もある。複合可変剣だ」
トウルは剣を正面に構えて切っ先をクーデリアに向けた。
ちょっとした遊びと運動だけど、リーファの前だから簡単には負けられない。
お父さんとして格好いい所を見せたくなるトウルだった。
「ただ、これ以上ネタばらしすると、俺の勝ち目が薄くなるからな。こっから先は企業秘密だ」
「おっけー。楽しくやろうトウルさん!」
「あぁ、楽しもう。ミリィ、審判を頼むぜ」
トウルは剣を構えると腰を低くした。
師匠以外で久しぶりに遊ぶ相手がクーデリアだったことに、トウルはちょっとしたワクワクを感じていた。




