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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
錬金術師、娘を学校に送る
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トウル先生の特別授業

 鍛錬の時間が終わり、次はトウルによる錬金術師の授業へと変わった。

 教壇の前に立ち、黒板を背にする。

 目の前には二十人程度の子供達。懐かしさと新鮮さが入り交じる景色にトウルは深呼吸した。


「国家錬金術師のトウル=ラングリフだ。改めて、初めまして。さて、今日は皆に錬金術師について説明しよう」


 トウルは黒板に国家、州、市、町、村の文字を横に並べるように書いた。


「俺達、錬金術師は基本的に王国に雇われている身分だ。一番上級の錬金術師から国家錬金術師、州任錬金術師、市任錬金術師、町任錬金術師、村任錬金術師と区分けされている」

「はーい。先生! 何が違うんですかー?」

「基本的に仕事の規模が変わる。優秀な錬金術師ほど大きな視点で道具を作るんだ。国であれば交通機関などのインフラを専門の研究機関で研究する。市以下は工房を持って市民サービスにあたる。ただ、誤解しないで欲しいことが一つだけある」


 トウルは咳払いをすると、チョークを置いて児童達を見渡した。

 リーファは当然笑顔で聞いてくれていたが、トウルが気になったのはクラフトが睨み付けてくることだった。

 錬金術師がクラフトの身内にいるようなことを言っていたし、トウルが国家錬金術師であることを考えれば、睨み付けてくる理由は不安だろう。


「決して腕の悪い錬金術師が村任錬金術師に配属される訳ではない。もちろん優秀であれば、より広い視点での仕事が求められる。だけど、優秀な人間だからこそ、自分の生まれ故郷をより良くしようと、地元に密着した事業をする人間もいる。みんなが錬金術師を目指すのなら、誰を笑顔にしたいかを良く考えると良い」


 トウルの言葉でクラフトの顔が少し和らいだ。

 リーファも真面目に聞いてくれている。

 逆に驚きの色を浮かべたのは、教室の隅にいたクーデリアだった。


(何でクーデが驚くんだよ。って、そっか。俺が言ってるんだもんなぁ……)


 いっつもそこらの錬金術師より腕が立つつもりでいると、豪語するトウルが他の錬金術師に配慮していた。


「錬金術師になって楽しかったことはなんですかー?」

「自分の作った道具で世界が変わることかな。後はみんなが笑顔になってくれることだな」

「へー。んじゃ、大変だったことはー?」

「覚えることが多いから、慣れるまでが大変だね。大事なのは基本をしっかり理解する記憶力と、応用する頭の柔らかさだ」


 万物に通ずる基本的な考えだとトウルは思っている。

 先ほどの剣術の鍛錬もきっと基本があって、技があるはずだ。


「さて、それでは次に錬金術の基本を説明しようか」


 トウルは錬金術を料理で例えながら説明を始めた。

 作りたい料理に対して、材料を考えて、手順を考える。

 リーファが錬金術を覚え始めた時、リーファが錬金術を料理に例えたことがあったが、トウルはそのまんまリーファの言葉を使っていた。


(ハハ。リーファ喜んでるな)


 トウルがリーファに視線を向けると、リーファが目を輝かせて微笑んだ。


「先生、錬金術師って貴族しかなれねぇんだろ? だったら、こいつらにいくら錬金術を教えてもムダだぜ。ま、俺になら意味があるけどな」

「そうでもないさ。今みんなの目の前にいる俺が、平民の出で最年少国家錬金術師になった人間だからな。金の問題は奨学金を取れば大丈夫だ。だから、もし錬金術師を目指す子がいるのなら、恐れず挑戦して欲しい」


 クラフトの生意気な質問をトウルは難なく切り返すと、授業はさらに盛り上がり、児童達は各々作りたい物を紙に書いていった。


「今みんなが書いた欲しい物。それを作る力が錬金術だ。俺の授業は以上だ」


 トウルは力強く授業を締めた。

 ディランが拍手をし、感謝の言葉を述べる。


「トウルさんありがとうございました。みんなも拍手」


 拍手が鳴ると、トウルは顔を赤く染めて頬をかいた。

 よくよく考えてみると、リーファを前にしているせいか、熱く語り過ぎた気がする。

 照れながら教室の後ろへ下がると、クーデリアが笑顔で待ち構えていた。


「ふふ。トウルさん錬金術の話をしてる時は、本当に楽しそうだね」

「はは……職業病だな」

「ううん。格好良かったよ」

「あはは。ありがとう」


 放課の時間にも、子供達にあれやこれやを作ってくれと頼まれたトウルは、一人一人絵を貰って、どんな物が欲しいか具体化していった。


「あれ? もしかしてトウルさん作るの?」

「あぁ、作れそうな物は作ろうかなって」

「さすがだね。あ、私もトウルさんにも剣術教えようか?」

「既に今日の鍛錬の授業で筋肉痛になる気がしてるんだけど……」

「うん。ならちゃんと身体動かさないと。リーファちゃんも家でやりたがるかもよ? 私が一緒につきあってあげるからさ」

「運動不足は認めるよ……。仕方無い。時間がある時に頼むよ」


 トウルは降参したように肩をすくめると、渋々ながらクーデリアの提案にのった。

 温泉湿布のお世話になる日が続く予感に、たまらず苦笑いする。


「リーファちゃん。ライエちゃんと上手くやってるね」

「……だな」


 トウルは少し寂しそうな笑顔を浮かべて、リーファとライエのおしゃべりする姿を見守っていた。

 その後、ライエにもう一度会いたいと言われて、学校に行く約束をしたリーファの言葉をトウルはしっかり聞いていた。

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