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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
錬金術師、娘を学校に送る
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リーファは未来の剣聖?

「私が逮捕しちゃうぞ。悪い子はクーデリアお姉さんが成敗だ」


 クーデリアは冗談で言ったつもりだろうが、先ほどの試合を見ていれば冗談には聞こえなかった。

 子供達が一瞬ぴくっと震えたのはトウルの気のせいではないだろう。


「さーてと、それじゃ、みんなには剣の基本の型を覚えるために素振りをしてもらいまーす」


 子供達が剣を振るい始めると、クーデリアとディランが子供達一人一人に腕や足の動きを指導し始めた。

 トウルもリーファと一緒になって剣を振るう。


「おー、リーファちゃん、動きが完璧だ」

「先生の動きを真似してみたの」

「すごいすごい。リーファちゃんももしかしたら、剣の道で保安員なれるかもね」

「えへへー」


 親の目の前で勧誘するなと突っ込むのをトウルは我慢した。

 親としては危ないことはして欲しくないが、リーファが望むのなら止めたくない。


「トウルさんも筋が良いよ。もしかして昔やってた?」

「師匠の趣味が剣の稽古でな。気分転換の運動に付き合わされて振らされたんだ」

「そうなんだ。爆弾の投擲銃を使ってたから、剣術は苦手なんだと勝手に思ってた」

「クーデ達に比べれば、苦手だよ。というか、ディラン先生って何者だ? あの雷を帯びた動き。あれって体内の魔力を練って、身体能力へと変換する強化魔技だろ? 精霊を使うミリィの魔法とは違う技術だ。あれほどの使い手、ただ者じゃ無いぞ?」


 トウルはもう一度ディランの姿を見たが、やっぱり姿勢の良い細身のおじいさんにしか見えない。


「えっと、雷神ディランって言って、将軍やってた人なんだ。あの技は雷功って言うんだって」

「……え? 雷神って、単騎で敵陣を突破して、敵に囲まれた王を救ったとか言うあの雷神?」

「うん。あの雷神。戦場を切り裂いた青い閃光から雷神の異名が付いた人」

「国の英雄が何でこんなところで先生してんだ!?」


 トウルは驚きのあまり大声を出すと、ディランが苦笑いしながら近づいて来た。


「昔の話しですよ。こんなところで先生している理由は、静かに暮らしていたかったからです。それと埋もれた才能を発掘したかったからですね」

「そうでしたか。何となく分かる気がします」

「ほぉ?」

「俺も国家錬金術師ですからね。それに、リーファに会えたので」

「なるほど」


 トウルの親バカな発言に、ディランは優しい微笑みを浮かべて頷いた。


「では、リーファさんの剣を見せて貰いましょうか」

「はーい」


 リーファはディランに言われた通りに剣を振った。

 振り下ろし、横切り、切り上げ、突き。

 一連の動きをリーファがし終わると、ディランは感心したように頷いた。


「真っ直ぐで素直な剣です」

「えへへー」

「ただ、少し怯えが見えますね」

「リーファは大丈夫だよ?」


 リーファが小首を傾げると、ディランはもう一度笑った。


「ふふ、そういうことにしておきましょうか。がんばってくださいね」

「うん。がんばるよー」


 リーファの言っていることが嘘だということは、トウルも分かっている。

 でも、大分調子が戻ってきているようにも見えた。


「いくぞライエ! 一の型、一閃だ!」

「ちょっとクラフト! 下手くそのくせに剣を振り回しながらこっちこないで!」


 先生二人が目を離していた隙に、イタズラ好きなクラフトがライエにちょっかいを出して追い回している。


「リーファが止めてくる」

「待てリーファ!」

「え、ちょっ、リーファちゃん危ないって!」


 リーファがトウルとクーデリアの制止を無視して、クラフトとライエの間に飛び込んだ。


「なんだよお前。今日来たばっかりのくせに生意気だぞ」

「クラフト、らーちゃんを虐めてる」

「ライエの逃げ脚を速くするために鍛錬してやってるんだ! お前の出る幕なんてねぇよ! ライエの邪魔すんな!」

「なら、リーファが一緒にやってあげる。見て覚えたから」


 リーファがさらっととんでもないことを言ってのけ、木剣を構えて腰を低くした。

 その瞬間、土埃がふわっと宙に舞う。


「クラフトのしたかった一閃」


 銀の一閃。

 リーファの銀髪が残光を残したように見えるほどの素早い動きで、リーファがクラフトの懐へと飛び込んだ。


「ひっ!?」

「こうやるの」


 恐怖の色を浮かべた顔で固まったクラフトの木剣にリーファが自分の剣を軽く振れさせる。

 ニッコリと笑顔を浮かべるリーファに、子供達は押し黙ってしまっている。


「トウルさん、リーファちゃんの今の!?」

「あぁ、間違い無く先生の動きを真似た……」

「さ、さすがに雷功の完成度は真似てはいないけど……私のと同等には発動させてたよ」

「やっぱさっきの浮いた煙……魔技を発動させてたか。うん、将来《剣聖》とか呼ばれているかもしれないな」


 トウルは呆れながらも驚いていた。

 間違い無くリーファは天才だと思っていた。ただ、それが武術の分野にまで及ぶとは思っていなかった。


「相変わらずの親バカだねー。って、ごめんね。トウルさん。一応先生だから注意しないと。こらー! 勝手に人に剣を向けちゃだめー!」

「あ、ごめんなさい」


 リーファはすぐに謝ると、クラフトから離れてライエの側に立った。


「ライエちゃん大丈夫?」

「ありがとう。らーちゃんで良いよ。私もりっちゃんって呼んで良い?」

「えへへ。いいよ」


 剣を持って真面目そうな女の子を守るリーファの姿は、トウルの目にはお伽噺の騎士のように映った。

 リーファが武術の才能を持っているのも、考えてみれば当然の成果だろう。リーファの身体は大賢者マリヤが作ったのだから、普通の人間より魔力を帯びていても不思議では無い。


「クラフト君も謝って」

「嫌だ!」

「剣を先に振り回したのは君だよ?」

「ライエと俺を邪魔したのはあいつだ!」

「ん……?」


 駄々をこねるクラフトに、クーデリアは顎に手をあて一度首を捻った。

 そして、クーデリアは膝をまげると、クラフトの耳元に顔を近づけて何かを囁いた。


「ち、ち、ち、ちげーよ! そんなことある訳ないだろ!?」

「そっかー。違うのかー。でも、ライエちゃんに謝らないと嫌われちゃうぞー」

「うー……くそっ! ごめんなさい! これでいいんだろ!?」

「はい。おっけー」


 クラフトがやけに動揺したと思ったら、急に自棄になったように謝った。

 クーデリアも妙に楽しそうに見える。子供を暖かく見守るお姉さんの顔をしていた。


「なぁ、クーデ。さっきお前何言ったんだ?」


 トウルがクーデリアに耳打ちすると、クーデリアは困ったような笑顔をトウルに見せた。


「え? クラフト君の反応で分からないですか?」

「うーん……ライエに気があるとか?」

「それがちゃんと分かるのに、トウルさんはトウルさんなんだよなぁ……」


 トウルが正解したのに、クーデリアは露骨にがっかりしたような言葉を口にしている。


「だから、何言ったんだよ?」

「ライエちゃんのこと好きなのか? って聞いただけですよ」

「あぁ、なるほど。そうか照れ隠しだったのか。友達になるのは恥ずかしいもんなー」


 トウルがネタばらしを受けて納得したように頷くと、クーデリアは短くため息をはいた。


「で、トウルさんは私のこと好きなんですか?」

「うん。親友だし。この先も一緒にずっといたいと思うぐらいには好きだぞ」

「……自分で聞いて悲しくなっちゃった」

「なんで!?」


 結局トウルはクーデリアの言っていることを理解出来ぬまま、鍛錬の時間は終わってしまった。

 ただ、トウルも実はかなり心臓がどきどきしていた。

 クーデリアの好きという言葉が、その時間中離れないくらいには。

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