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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
錬金術師、娘を学校に送る
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雷神ディラン

ヒロインであるリーファのイラストを頂きました。

http://ncode.syosetu.com/n7811co/1/

 ピリッとした空気が場を支配する。

 トウルが驚くほど、いつもの緩いクーデリアの顔が真剣そのものになっている。


「はぁっ!」


 さきに仕掛けたのはクーデリアだ。

 持ち前のスピードを活かして、一気にディランとの距離をつめる。

 たった一突きの間に三回の剣戟の音が鳴って、両者が離れた。


「何だ今の!?」

「……先生もくーちゃんもすごい」

「リーファも見えたのか?」

「うん。くーちゃんの剣が弾かれたのに、叩き返して、また弾かれたの」


 瞬きをするだけで攻撃を見逃しかねない攻防に、トウルは息を飲んだ。


「全く衰えないですね。先生は」

「一の型、一閃。より速くなりましたね。反撃は入れられませんでした」

「なら、次はもうちょっと速く行きますよ!」


 クーデリアが低い姿勢で、もう一度真っ直ぐディランに向けてつっこんだ。

 先ほどより確実に速い。


「確かに速い。でも、直線なら――」


 ディランが剣を構え、クーデリアの攻撃に合わせて袈裟切りを放つ。

 空気を切る音がするが、打撃音は聞こえない。


「貰った!」


 横に飛んで攻撃をかわしたクーデリアがディランの背後に飛び込み、剣を振り下ろす。

 土煙が巻き起こるほどの衝撃で、二人の姿が消える。


「……あの先生マジか」

「くーちゃんの剣を飛んで避けたの!」


 トウルとリーファが声を漏らす。

 土煙が晴れると、ディランの身体は電気を帯びているように発光していた。


「私に魔力を使わせる使い手になりましたか」

「やっと私にも見せてくれましたね。雷神の姿」

「その名は引退済みなんですけどね。今は普通の先生です。それに私の型を見せても、保安員の姿を見せていないのはあなたも同じですよ。クーデリア」


 バチバチと鳴る音はまさに雷を帯びている神だ。

 そんな人間に普通とか言われたく無い。とトウルは心の中でツッコミを入れた。


「トウルさん!」

「どうしたクーデ?」

「木剣をもう一本貸して下さい」


 ディランが本気を出したことで、クーデリアも本気を出すことを決めたのだろう。

 先ほどまでのやりとりは、師弟の挨拶のようなもの。

 師匠、先輩、弟子として色々な勝負事をやってきたトウルは、クーデリアの気持ちをくみ取って剣を投げた。


「クーデ! 勝て!」

「がんばれくーちゃん!」


 トウルの応援とともに、リーファも木剣をクーデリアに向かって放り投げる。


「っとっと、さすがに三本は多いかな。でも、ありがとう二人とも!」


 クーデリアはもともと自分の持っていた剣を地面に突き刺すと、トウルとリーファから受け取った剣を逆手に構えた。


「良い友達を持ちましたね。クーデリア」

「親友です。……残念なことに」

「なるほど。それならば、結末を知るために長生きせねばなりません」

「応援ありがとうございます。でも、手は抜かせませんよ!」

「この姿で抜くと思いますか? 一の型《一閃》」


 ディランがニッコリと笑った瞬間には、青い雷光を残してクーデリアの懐につっこんでいた。


「はやっ!?」


 突きを含めた軌跡はまさに一筋の雷光。

 避け切れないと思わせるには十分な速度だ。


「くーちゃん!」


 リーファも叫ぶと、クーデリアがニヤリと笑ったように見えた。

 木が激しくこすれる音がすると、クーデリアが逆にディランの腹部に向けて左手の剣を振っている。


「クーデの奴、あの攻撃を右手の剣で受け流しながら、踏み込んだ!?」


 恐ろしいまでの集中力と勇気がないと出来ない芸当に、トウルは驚愕した。

 いつものゆるいかわいい雰囲気とは違うクーデリアがいる。

 だが、そのクーデリアの攻撃も止められた。

 ディランは右手を剣から離すと、クーデリアの腕を掴み、投げ飛ばしたのだ。

 ディランの生み出した突進力とクーデリアの瞬発力が組み合わさったせいか、クーデリアは大きく投げ飛ばされた。


「強くなりました。ですが、まだ一の型、一閃を破っただけですよ」

「あはは……相変わらず、反則的ですね。先生」

「いえいえ。本当に良い動きになりました。あなたの最初の一閃も速度だけなら私に負けていませんよ?」

「そうやって子供扱いされてるうちは、まだまだですから!」


 クーデリアは逆手持ちから順手持ちに突進中に持ち帰ると、連続で剣を振り下ろした。

 瞬きをする間に、二度の剣戟の音がなる。

 一気に高速化した攻防の間に、クーデリアは器用に順手と逆手を入れ替えて戦っている。


「腕をあげましたね。二の型《連閃》も止めますか。なら、差し出がましいですが、雷神として最初の指導です。学校では教えない技をお見せしましょう」

「っ!?」


 喋る余裕を見せたディランが距離を離すために、一気に後方へと跳躍する。


「裏一の型」


 突きの構えをとったディランの剣から、青い光とともに電気の音が弾ける。

 最初の一撃より明らかに危険な空気が漂っている。


「クーデ!」


 トウルが叫んだ瞬間、ディランが木剣を投げた。

 雷がクーデリアに落ちていくような迫力があったが、クーデリアはギリギリで身体を反らして、雷剣を避ける。

 ディランはこれで丸腰。反撃に出る絶好の機会だとクーデリアは思うだろう。

 だが、その気の緩みこそが最大の罠だと、トウルは見抜いていた。


「ディランが来てるぞ!」


 剣の光の影に隠れて、ディランが無手で突進している。


「げっ!? やばっ――」


 剣を避けるために体勢を崩しているクーデリアは、いとも簡単に掴まれた。

 雷光をまとったディランが地面を蹴ると、更に加速し一瞬で剣に追いつく。

 クーデリアが速度を殺そうと、剣を地面に刺してブレーキをかけるが止まらない。


「避雷針」


 ディランは追いついた剣を掴むと、掴まれて逃げられなくなったクーデリアを地面に叩きつた。

身体を守るためか丸まっているクーデリアに、ディランの刃が振り下ろされる。


「負けるかっ!」


 歯を食いしばって衝撃に耐えたのか、クーデリアが丸まった身体から蹴りを放つ。

 ディランの突きより速くクーデリアの蹴りが入り、ディランが吹き飛ばされた。


「はぁはぁ……」

「素晴らしい良く耐えましたね。それに良い蹴りでした」

「咄嗟に腕でガードした癖に良く言いますよ。ディラン先生」


 叩きつけのダメージが抜けていないのか、クーデリアが肩で息をしている。


「でも、おかげで今の技の意味は分かりました。裏一の型。相手の動きを強引に封じ込める技ですね。それなら……」


 クーデリアが腰を低く落とすと同時に、右手の木剣をディランに向けて投擲した。

 同時にクーデリアが前方に跳躍する。彼女の前には、トウル達から剣を受け取った時に地面に刺してあった剣があった。


「裏一の型、避雷針!」

「甘いですよクーデリ――むっ!?」


 ディランは投擲された刃をあっさり弾く。

 だが、そこへもう一本の剣が飛来した。

 ディランが剣を振った力と、クーデリアの渾身の一投の力が組み合わさったせいか、ディランの剣が弾かれ宙に舞う。


「いけっ! クーデ!」


 無防備となったディランに向かって、三本目の剣を地面から抜いたクーデリアが襲いかかった。


「届けぇぇぇぇ!」


 クーデリアの叫びとともに剣が振り下ろされるが、ディランも空中に浮かんでいた剣を既に掴んでいる。

 二人の剣がぶつかると、何かが爆発したような音がして、青くまばゆい光が飛び散った。


「互いの剣が折れてしまいましたね。引き分けです」

 ディランが優しい笑顔で結果を伝える。

先ほどの飛び散った光は、クーデリアとディランの木剣が同時に折れて、雷をまとった破片が飛んだものだったらしい。


「ぷっはー! 危なかったー! さすが裏の型、自分も危ないですねこれ」

「こちらこそ危うい所でした。武器が本物ならどうなっていたことやら。私相手に引き分けるようになりましたか」

「またまたー。でも、トウルさんの作った剣でやったら確かにもっと楽だったかも。あー、でも最後の避雷針は三本目がないか。うーん、残念」

「さらなる研鑽を期待しています。では、クーデリアさん。先生らしく生徒のみんなに言葉をかけてください」


 練習試合が終わり、ホッとしていたクーデリアがしまったという顔をした。

 本気になりすぎて、授業だと言うことを忘れたのだろう。


「えっと、みんなもがんばれば、こんな風に誰かを守るための力が手に入るよ。でも、人を傷つけるために剣を振るうつもりなら、そうだな」


 クーデリアはもったいつけるように言葉を区切った。

 そして、子供らしい無邪気な笑顔を浮かべると、腰に手をあて胸を張る。


「私が逮捕しちゃうぞ。悪い子はクーデリアお姉さんが成敗だ」

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