リーファと村の子供達
クーデリアとミスティラが通った学校に行くと決まって三日後、トウルは朝早くからリーファと一緒に駅へと向かった。
そして、駅前で待ち合わせをしていたクーデリアと出会う。
「おはよー。トウルさん」
「おはようクーデ」
クーデリアが手を大きく振ると、トウルも手を振り返した。
「くーちゃん。おはよー」
「リーファちゃんもおはよー」
リーファがクーデリアに駆け寄ると、リーファが思いっきり手をあげてハイタッチをした。
元気の良い乾いた音がすると、リーファがトウルの隣に戻ってきて手を繋いできた。
朝から元気が良さそうなリーファの様子に、トウルは少し安堵した。
「案内よろしく頼むよクーデ」
「はーい。道案内は専門家だからね。大船に乗ったつもりでいてよ」
クーデリアはそう言うと、トウル達の先を歩いて駅の中に入る。
その姿を見て、トウルは予定と違うことに気がついた。
「あれ? ミリィは?」
「先輩が風邪ひいちゃってさ。三人も休むとちょっとあれだから、ミリィが代わりに仕事入ったんだよ」
「なるほど……。それなら仕方無いな。何か帰りにお土産を買ってこようか」
「良いねー。きっとミリィも喜ぶよ」
軽い感じで受け応えるクーデリアの後を、トウルはリーファを連れて追いかけた。
心なしか背後から見えるクーデリアは楽しそうだった。
足取りも軽いのか、時折ステップを踏むみたいに前に進んでいる。
「あれ? クーデリアおねーちゃん今日はお休みなのー?」
「そうなのー。だから、今日は隣村に遊びにいくんだー」
「へー。ミスティラお姉ちゃんはー?」
「ミリィはお仕事なんだー。みんなが帰ってくる村を今日も守ってくれてるよー」
村の子供達に声をかけられると、クーデリアは立ち止まって少し屈みながら返事をした。
パトロールをして回っているおかげか、クーデリア達は子供の間で有名らしい。
ただ、近くに立っているトウルとリーファは、遠巻きに見ている。
「考えてみれば、子供のお客さんはほとんどいなかったっけ」
トウルがリーファに顔を向けて尋ねると、リーファは小さく頷いた。
そして、リーファは何故かトウルの影に隠れてしまう。
恥ずかしがっているのか、村の子供達から見られたくないようだ。
リーファはやけにしっかりトウルの手を握ってくる。
「大丈夫。俺もちょっとヤキモチやいてるから」
「そうなの?」
「クーデとミリィって俺より人気なんだな。あぁも囲まれていると、クーデに声かけていいか分かんないよな」
「お父さんもそうなの?」
「あはは……実はな? クーデには内緒だぞ?」
リーファが意外そうにトウルを見上げると、トウルは苦笑いしながらリーファの頭をなでた。
「うん。あのね、リーファも……なんか寂しい気持ちになったの」
「うん。それで良い。自分の気持ちに素直になってあげて。その気持ちを感じたのはリーファなんだからさ」
「うん」
クーデリアが子供達とお喋りを終えると、トウルの隣に寄って来た。
「クーデも人気者だな」
「みんなの安全を守るお仕事してるからね。子供のみんなは迷子になると困るから、気に掛けてるし」
クーデリアとトウルが雑談をしていると、いつの間にか横に立った少女が大きな声を出した。
「クーデリアさんの旦那さんですか?」
「なっ!? ライエちゃん、何を言ってるの!?」
顔を真っ赤にしたクーデリアが両手をわたわたと振っている。
ライエと呼ばれた少女と、トウル、そしてリーファの顔を何度も行ったり来たりしていた。
「えっと、すまないライエ。残念ながら俺はクーデの旦那ではない」
「それじゃー、恋人ー?」
「恋人でもないよ。友達だ」
「そうなんだー。あれ? クーデリアさんどうしたの?」
ライエが首を傾けたので、トウルも横のクーデリアを見る。
すると隣でクーデリアが大きくため息をついて、引きつった笑みを浮かべていた。
「クーデ?」
「何でもないよー。トウルさんはトウルさんだなー……ってガッカリしただけだから」
「えー……」
「友達以上の関係になりたくても、友達のままなんだなーって。私、トウルさんのこと好きなんですよ?」
「あぁ、そういうことか。ごめんクーデ。気付いてやれなかった」
トウルは恥ずかしさを紛らわすため、小さく咳払いをすると、真っ直ぐクーデリアの目を見つめた。
「と、トウルさん? もしかして、やっと私の気持ちに気付いてくれたんですか?」
「親友だと思ってくれたんだな。ありがとう。俺もこれからクーデのことを親友だと思うよ。ということで、ライエ。俺はクーデの親友だ」
「やっぱトウルさんはトウルさんだったああああ!」
「ええええ!?」
目を押さえて身体を反らしながらクーデリアが叫ぶと、トウルもびっくりして一緒になって叫んだ。
そんなトウルの足下では子供同士で会話を勝手に始めている。
「賑やかな人だねー」
「う、うん」
「リーファちゃんだよね。あたしライエ。よろしくー」
「よろしく。ライエちゃん。何でリーファのこと知ってるの?」
「花火の時に見たよ。かわいかったー」
「あ、ありがと……」
ライエの声にリーファはおどおどしながら返事をしている。
それにリーファはトウルの足下で隠れたままだ。
だが、トウルはそんなリーファの背中を押すことはしなかった。
「その人、リーファちゃんのお父さん?」
「うん……。リーファのお父さん」
「優しそうなお父さんだねー」
「えへへ。いいでしょー」
リーファがトウルの手を握る強さが弱まった。
少しリーファの緊張がほどけた様子に、トウルは優しい笑みをリーファに向けた。
ちょうどその時、列車の出発を告げる汽笛が鳴る。
「さて、いこうか。リーファ、クーデ、それにライエ」
「はぁ、まぁ、うん、がんばれ私! トウルさんに負けるな私!」
「俺達何の勝負してんの!?」
「敢えて言うなら心の強さかな!」
「余計分からなくなった……」
「どう伝えれば良いのか私も分からないよ……」
呆れたように笑うクーデリアに、トウルは首を傾げながら列車に乗り込んだ。