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賢者の錬金工房~田舎で始めるスローライフ~  作者: 黒縁眼鏡
錬金術師、娘を学校に送る
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リーファのためになら、ずるいこともする。

 木の机と椅子が所狭しに並べられたレストランで、トウルとリーファは席についていた。

 周りには鉱山帰りの鉱員達がビールを片手に、焼き鳥や焼き豚をつまんでいた。


「お待たせートウルさん、リーファちゃん」


 クーデリアが元気の良い声で、手をあげながらトウルに近づいてきた。

 クーデリアは暑くなってきたからか、淡いピンクのノースリーブシャツにショートパンツ姿と、動きやすそうで涼しげな姿をしていた。


「お誘い頂きありがとうございます。トウル様。リーファ」


 続いて全身黒い魔女服に身を包み、縁の広い帽子を脱いだミスティラがやってくる。

 冬なら暖かくて良さそうだけど、春から初夏だと動かなくても汗をかきそうな格好だ。


「クーデは衣替えしたんだな」

「そうそう。動き回るからねー。マントとかつけてると暑くてさー」


 クーデリアは手で顔を扇ぐと苦笑いを浮かべた。

 ちらちらと見えるクーデリアの脇や、ひきしまった二の腕に、トウルはつい目をとられそうになる。

 目を反らしたら反らしたで、健康的でスラッとした長い脚が見える。

 何故かふとももに目線が止まりかけたトウルは、必死に目線を上げると、平らな胸に落ち着いた。

 そして、妙にドキリとすることがなくなったトウルはホッと一息ついてしまう。


「どうしたのトウルさん? 何かゴミでもついてた?」

「あ、あぁ、いや、健康的で美しい身体だなと思って」

「胸見ながら言われても、あんまり嬉しくないよ!?」

「そ、そうか。悪い。他の所は目のやり場に困って、そこが一番落ち着いたんだ」

「褒めて貰えるのは嬉しいし、見ちゃダメとは言わないけど、何か複雑な気分っ!?」


 会って早々いつもの騒々しい会話を済ませると、クーデリアは顔を真っ赤にして胸元を隠しながら椅子に座った。

 そっぽを向いて縮こまるように恥ずかしがっているクーデリアの姿が珍しくて、トウルは彼女の動きを目で追いかけた。

 すすろt、胸を露出した腕で隠すせいで、脇や胸の横が見えて、余計にトウルは目のやり場に困ってしまう。


「ちなみにですよ。トウル様」


 いつの間にか耳元にミスティラがいて、耳の奥までくすぐるように囁いてくる。

 髪の毛の先まで震えたのかと思うほど、かゆみが走った。


「クーデの裸は一見の価値ありです」

「それ俺、捕まらない……? クーデもミリィも保安員だろ……」

「現行犯逮捕ですね」

「恐ろしいことを言うな……」

「責任を持ってくれれば別ですけどねー」


 一瞬想像したクーデリアの姿がミスティラのSっぽい口調で霧散した。

 おかげで落ち着いたトウルはジト目をミスティラに向ける。


「ミリィは衣替えしないのか?」

「しましたよ?」

「え? そうなの?」

「布が薄くなってます。ほら、透けますよ?」


 ミスティラが腕を広げると、黒い服の中から細い腕のシルエットが映っていた。


「ホントだ。というか、それなら、丈を短くすればいいのに」

「魔女ですし」

「形から入るタイプだった!?」

「後は巫女の時に出来るだけ綺麗な肌でいたいですから」

「あぁ、そっか。それなら仕方無いか。今度、通気性の高い服作ろうか?」

「スケスケのですか?」

「……見えない奴。他人にあんまり見せるもんじゃないだろ?」


 トウルが呆れて尋ね返すと、ミスティラはスカートの端をつまんでお辞儀を返してきた。

 どうやら合格らしい。

 機嫌良さそうに小さく笑ったミスティラが椅子に座る。


「リーファもみーちゃんの服作りたーい」

「えぇ、もちろん。お願いしますわリーファ」

「やったー。かわいいの作るねー。くーちゃんのも作るよー」


 四人が揃えば、ちょっとしたことで楽しく笑い合う優しい空間になる。

 魔法のような時間に、トウルは店員を呼んで料理の注文を始めた。

 トウルが料理を選べば、初めての時のように酷いことにはならないことを学習した。

 大概、二人はそれが食べたかったと言ってくれる。

 そして、最初にブドウジュースの入ったグラスが運ばれると、四人はグラスを手に持った。


「乾杯」

「かんぱーい」


 トウルの音頭に続いて、三人がグラスをトウルのと軽くぶつけ合う。

 お酒ではないが、宴会好きな村民らしい挨拶のようなものだ。


「くーっ! 暖かい日には冷たいジュースだね! それで、トウルさんは今日なんか相談があったんだよね?」


 一気にグラスを半分ほど飲み干したクーデリアが、トウルに尋ねてきた。

 曖昧な聞き方なのは、リーファにトウルが相談したかったことを知らせないために、クーデリア達にも内容を伝えていなかったからだ。


「うん、実はさ。俺二人のことをもうちょっと知りたくてさ」

「うん? 相談ってそれ?」

「二人の小さい頃の話を知りたいなって思ってさ」


 直接学校のことを聞くと、リーファが機嫌を悪くすると思ったトウルは、少し遠い話題から始めた。

 それに、知りたいと思ったのも嘘では無い。


「良く分かんないけど、いつぐらいの話しがいい?」

「そうだな。今のリーファぐらいの時がいいかな」

「んー、そうだね」


 クーデリアは顎に人差し指を当てて天井を仰ぐと、うんと小さく頷いた。


「ミリィを連れて山で遊んでたかな」

「あはは。今とあんま変わらなさそうだな」

「だって、平日は隣村で学校行ってたし」

「へぇ。今も隣村にしか学校は無いんだよな?」

「そうそう。毎朝列車に乗って行ってるね」


 クーデリアの説明でトウルは内心にやりと笑った。

 今と昔が変わらないのなら、リーファに興味を持たせることが出来るはずだ。


「学校でどんなことやってたんだ?」

「字の練習とか、算数とかやってたかな。あ、後は歴史の授業とか」

「意外と真面目に授業聞いてたんだな」

「まっ、内容はほとんど覚えてないけどね!」

「おいっ!?」

「大丈夫大丈夫。読み書きは出来るし、計算もちゃんと出来るよ」

「今では立派に仕事してるし、頼りにしてる分否定できねぇ……」


 トウルは苦笑いを浮かべながらガックリする。

 勉強についてはそんなものかと思いつつ、トウルはもう一つ大事なことを聞くことにした。


「楽しかったか?」

「そうだねー。友達も出来たし。お祭りにも遊びにきてたよ」

「へぇ、隣村の奴とも交流が続くのか」

「たまに遊びにいくよ。あっちの方がお店多いし」

「そっか……そっかー……」

「なんでトウルさんが暗くなってるの!?」

「学校時代の友達とかいねぇんだもん……飛び級だったから周り年上ばっかりだったんだもん……気付いたら周りおっさんだらけだったんだよ。クーデ達に会わなかったらマジどうなってたことか」


 光を無くしたような目で、トウルが半笑いしながら言葉を漏らす。

 話題を振って自爆したトウルはため息をついて、リーファの顔をちらりと盗み見た。

 リーファは心配そうにトウルを見つめているが、トウルが心配して欲しかったのはリーファ自身だ。


「って、俺の話は良いよ。クーデのことだから、鍛錬の授業は楽しんだんじゃないか?」

「そうそう。ボール蹴ったり投げたり身体を動かせるから一番楽しかったね。あ、でも剣術の時間は先生に怒られたね。ほら、二刀流とかで遊んでだから」

「遊びで二刀流を覚えたのか!?」

「うん。やってみたら出来たんだよ。自分でもびっくりだった」

「クーデ……なにげに器用だな」

「えっへん。すごいでしょ? おかげで学校の先生から中央行きの推薦貰ったしね」


 クーデリアのどや顔に、リーファは感嘆の声をあげていた。

 やはり学校に興味を持っているリーファに、トウルは小さく頷いた。


「ミリィはどうだった?」

「私も行って良かったって思っていますよ。クーデともクーデ以外の人達とも仲良くなれましたし、魔法の勉強の良い息抜きになりました」


 ミスティラはトウルの意図に気付いてくれたのか、ウインクを飛ばしてきた。

 その後に、リーファとミスティラの目があってニッコリと頷いてくれている。

 トウルはここで切り出すしかないと思うと、思い切って二人にあるお願いをした。


「俺も二人の学校見に行ってもいいかな?」

「えぇ、大丈夫だと思います。私とクーデがお願いしておきましょう」

「ありがとう。リーファも一緒に二人の学校を見に行こうぜ」


 話を急に振られたリーファは少し驚いたのか、目を見開いてトウルを見つめてくる。

 大人三人による不意打ちなのはトウルも分かっている。

 ずる賢いという自覚もある。

 それでも、リーファが心にしたフタを外せるのなら、それで良かった。

 トウルの前でくらい、リーファは自由に素直に生きて欲しいと思っていたからだ。


「お店は?」

「臨時休業にでもするよ。無人スタンドで売っても良いし。リーファを一人にしたくないしさ」

「……うん。それなら、リーファも行く」


 渋々といった様子でリーファが頷くと、トウルは笑顔でリーファの頭をなで回した。


「よし。決まりだな。一緒にきてくれて、ありがとうリーファ。俺だけじゃやっぱり行きづらいからさ。助かったよ」

「もー、お父さんはリーファがいないとダメだから、仕方無いねー」


 照れ隠しなのか、つーんとした態度を取るリーファがかわいくて仕方が無い。

 トウルは手を止めると、代わりにリーファに顔を近づけて優しい声を出した。


「あぁ、俺はリーファが大好きだからな」


 トウルの言葉にリーファは嬉しそうだけど、不機嫌そうでもある複雑な表情を浮かべていた。

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