知りたがりのリーファ
「あのね。お父さんはね。いっつも一生懸命なの。お仕事してる時も、遊ぶ時も全力なの。雪合戦で雪合戦用の武器を作ってみーちゃん達を本気にさせたりしたよ」
「リーファ、恥ずかしいから説明までは止めてくれ……」
まさかの私生活まで面白おかしく説明されそうな様子に、トウルはストップをかけた。
すると、リーファは思い出したように、もう一度袋の中に手をつっこんだ。
「あ、お父さんにはこれあげるね」
「へ?」
リーファから手渡されたのは、手を繋いだ二人の人形だ。
大きい方がトウルで小さい方がリーファ、二人とも可愛らしい笑顔を浮かべている。
「本当に良く出来てるなぁ。そっか、作る設計図を見ないで。って言ってたのはこれを作ってたのか」
「そうだよー。お父さん達をびっくりさせたかったからねー」
「ありがとうリーファ。帰ったら早速部屋に飾るよ」
トウルは両親が居るのも忘れて、リーファの頭を笑顔でなでた。
何でも無いただの柔らかい人形でしかないのに、トウルの胸の奥が日だまりにいた時のように暖かくなっている。
「トウルも小さい頃は似顔絵を贈ってきたことがあったが、リーファちゃんの方がよっぽどすごいな」
「えぇ、そうね。これは私達も作ってもらいたくなっちゃうわ」
ユージとカスミも懐かしそうにトウルの過去を口にしている。
そんなみんなの反応を見て、リーファがようやくいつものように笑顔を見せてくれた。
「えへへー。お父さんも小さい頃同じことしてたんだー。いいよー。おじいちゃんとおばあちゃんのお人形も作るねー」
「きゃーっ! リーファちゃんかわいい! ねぇ、リーファちゃん、やっぱりトウルちゃんじゃなくて、ユージさんと私をお父さんとお母さんにしない?」
カスミはリーファの可愛さにあてられて暴走しはじめたのか、リーファを思いっきり抱きしめて、とんでもない勧誘を始めた。
だが、そんな勧誘にもリーファは笑顔で受け止めた。
「えへへ、嬉しいけど、お父さんはお父さんがいいな」
「うんうん。そっか。それが聞けたら私も認めてあげるよ。リーファちゃんはトウルちゃんの娘ね」
まるでさっきの暴走が演技だったと言わんばかりに、落ち着いた様子でカスミがリーファから離れた。
そして、トウルの手を両手で包むように握ると、ニッコリと微笑みを向けてきた。
「がんばりなさいトウル」
「ありがとう母さん」
「えぇ、後は早くお嫁さんを見つけなさい」
「うっ……」
何故かカスミのトウルの手を握る力が強まって、トウルは反射的にうめき声を出してしまった。
「あら? その反応は誰か良い人がいるの? ほら、せっかくお父さんとお母さんが来たんだから紹介しなさいよー」
「い、いや、友達はいるけど、そういう関係の子はいないって」
「えー? 本当に? ねぇ、リーファちゃん。トウルと仲の良い女の人っているかしら? あ、リーファちゃんがお母さんにしたい人でもいいよ?」
「あっ、ちょっ、それは卑怯っ!」
カスミがリーファに尋ねれば、リーファは間違い無くトウルの代わりに答えるだろう。
現に、リーファは顎に手を当ててうーんと唸っている。
「んっとねー。みーちゃんにはからかわれてるけど、お父さん嬉しそうにしてるよ。くーちゃんと一緒にいると、なんかすっごく楽しそうだよ。れーちゃんと一緒にいると格好付けてるけど、優しい顔をしてるよ」
「へぇ。三人も候補がいるのね。で、どれが本命なのかしら?」
「んー、みんな仲よさそうにしてるよー」
「へー、そっか。なら、もうちょっと先かしらねー。ねぇねぇ、どんな子達なの?」
このまま根掘り葉掘り聞きそうなカスミから、トウルはリーファを抱いて距離を離した。
せっかく出来た友達が変な目で見られて、誤解されたらひとたまりも無い。
「あらあら、恥ずかしがらなくても良いのに」
「勘弁してくれ……」
朝から気が滅入ったトウルは、長いため息をはいた。
両親の年齢を考えれば結婚が遅く見えるだろう。
ただ、それを一方的に押しつけられても困るだけだ。
「まぁ、そのうち、そういうのが出来たら、今度はちゃんと報告するよ」
「えぇ、そうね。それじゃ、トウルちゃん。お祭りの案内よろしくね?」
「……はいはい。分かりました」
リーファの前で強く出られないこともあり、トウルは色々と諦めて身を翻した。
ただ、一つだけ大事なことが達成出来ただけで、トウルにとっては十分過ぎる成果だったので、特に悪い気はしていない。
「リーファ。良かったな」
「うん。あ、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に歩いても良い?」
「もちろん。ただ、変なことは言うなよな?」
「うん、分かったー」
リーファの返事でトウルは彼女を下ろす。すると、リーファはユージとカスミの間に入り、二人の手を握って歩き始めた。
もともとはこの光景でお父さんお母さんと呼ばれていただろうと、トウルの頭に一瞬言葉がよぎったが、すぐに消えた。
その代わりに、どうだ? 俺の娘はかわいいだろう。という言葉が浮かび上がった。
リーファの父親はもうトウルなのだ。
「よし、それじゃ、宿に部屋を取っておいたから、荷物を預けたら祭りに繰り出そう。リーファの作った防犯ベルトもちゃんと装備してな」
「えへへ。このベルトと袋もリーファが作ったんだー」
トウルが自分のベルトを指さすと、リーファもトウルの真似をしてベルトを持ち上げた。
「強く引っ張るとね。ぴかーって光って音も出るから、泥棒さんもびっくりするの」
「本当に錬金術師をやっているんだな。昔のトウルを思い出す」
「えへへー。お父さんもみんなのために作ってたの?」
「あぁ、何か良く分からない物を作って、自慢げに話していた」
「へー! お父さんにもそんな時期があったんだ」
トウルは顔から火が出そうになるほど、恥ずかしい話が続けられる。
おねしょは何歳までしてたとか、ニンジンが嫌いですごく嫌がったとか、そういう話をリーファが何故か楽しそうに聞いていた。
ミスティラがいたら間違い無くいじられているだろうし、クーデリアも面白がってのっかってくるだろう。レベッカはきっと先輩も子供だった頃があったんですね! とか言い出しそうだ。
他に知り合いがいなくて良かったと、トウルは安堵の息をはくが、すぐにあることに気がついた。
「リーファ。さっきの話はみんなに言うなよ?」
「なんで?」
「……恥ずかしいからな」
「あはは。お父さん顔真っ赤ー」
新たな頭痛の種にトウルはもう一度ため息をついた。




