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父親としての生き方

「リーファ?」

「あ……、この人達がお父さんの……ううん、とーさんのお父さんとお母さんなの?」

「うん。そうだよ。俺の父さんと母さんだ」


 リーファの疑問にトウルが答えると、トウルの両親が腰をかがめて、リーファと視線を合わせた。


「こんにちは。えっと、リーファちゃんでいいのかな?」

「……うん」

「トウルのお母さんのカスミです。こっちはお父さんのユージです」

「こんにちは。リーファは……リーファだよ」

「とーさんはリーファちゃんのつけてくれたトウルのあだ名かしら?」

「えっとね……そうなの。トウルさんだからとーさんなの。カスミさんだからかーさんで、ユージさんだからゆーさんなの」


 たどたどしいリーファの挨拶に、トウルの両親は暖かく頷いてくれた。

 そんなリーファの様子を見て、トウルはリーファが臆病になっていることに気がついた。

 リーファは賢い子だ。トウルが説明を避けていたせいで、リーファがトウルの両親に認められていないと考えているかもしれない。

 心配をかけさせないように気を遣ったはずが、余計な心配をかけさせてしまったことになってトウルは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 リーファの様子が最近おかしかったのは、これのせいだったのかもしれない。


「リーファは頭文字をとってあだ名をつける癖があるんだよ。でも、俺は最近とーさんって呼ばれていないんだ」

「どういうことだトウル?」


 父であるユージもさすがに言葉の意味をすぐ理解出来なかったらしく、聞き返してきた。


「今まで黙っててごめん。父さん、母さん。実は二ヶ月くらい前に俺、この子のお父さんになったんだ」

「トウル。ちゃんと説明しなさい。その言葉だと結婚した訳じゃなくて、錬金術で作ったかのように聞こえる」

「あはは……やっぱそう思われるか。えっとな、実は公開公募の制度があってさ」


 トウルは公開公募の制度を説明し、特許料が十五歳以上に人間にしか振り込まれないこと、十五歳未満の場合は保護者が受け取ることを説明した。


 二ヶ月前までリーファは戸籍上存在しなかったため、トウルが養父としてリーファを引き取り、錬金術師の師匠として、リーファが一人前になるよう指導をしていることも続けて説明した。


「ということで、今、俺はリーファのお父さんなんだ。父さん達から見れば、リーファは孫にあたるのかな」


 トウルはリーファの頭を一度撫でると、満面の笑みを浮かべて親に顔を向けた。


「かわいいだろ? それにすごく努力家で一生懸命で、楽しそうに錬金術をやる俺の自慢の弟子で、娘なんだよ」


 あまりにも突然過ぎる内容だったせいか、トウルの両親の目は戸惑ったようにトウルとリーファの顔を行ったり来たりしている。


「あの……ごめんななさい。とーさんに無理言ってお父さんになってもらったのはリーファなの。とーさんは悪くないから怒らないで。リーファが悪いから」


 空気に耐えきれなかったのか、リーファは悪いことをしていないのに、頭を下げて両親に謝ってしまった。

 すると、父であるユージは小さくため息をつきながらしゃがむと、俯くリーファに目線を合わせて、口を開いた。


「リーファ。君に一つだけ聞きたい」

「……うん」

「トウルはちゃんと父親をやれているか? 父親である私が言うのもあれだが、こいつは錬金術以外に関しては苦手なことが多くてな。人付き合いも苦手な節がある。それでも、トウルは君をちゃんと守ってくれるか?」

「うん。お父さんはお掃除も洗濯も料理も苦手だからリーファがやっちゃうけど、いつも一生懸命に錬金術を教えてくれるし、魔物に襲われた時も守ってくれたよ」

「そうか。それなら良い」


 ユージはリーファの返事を聞いて立ち上がると、今度はトウルと視線を合わせた。

 リーファの時は優しさを感じる視線だったが、トウルに対しては幾分か鋭さが増している。

 少しでも変なことを言おうものなら、鉄拳でも飛んできそうな雰囲気だ。


「トウル。お前はずっとこの先もこの子の親として責任が持てるのか? お前が死ぬまで、ずっとこの子の父親として生きていく覚悟はあるのか?  親になるというのは子の未来に責任を持つことだぞ?」

「あるよ」

「お前はさっき公開公募の制度上、この子の養父になったと言ったな? そんな理由だけで父親になったのなら、お前がこの先、この子を守り続ける未来を私は描けない」


 ユージの言葉も目も鋭くトウルに突き刺さってくる。

 同じ父親として、ユージはトウルと対等に向き合ってくれていた。

 リーファは震える手でトウルのズボンを掴んでくる。その信頼に応えるためにもトウルは逃げ出すわけにはいかなかった。


「初めは流されてだった。覚悟とかそんなのはなくて、軽く考えていたんだと思う」

「なら、私はお前がこの子の父親になることは認めない」

「でも、今はあの時流された理由が分かるんだ。俺はリーファの笑顔に救われて、一緒に錬金術をやることで、錬金術の楽しさを思い出すことが出来た。薬の調合も簡単な流れ作業なんかじゃなくて、救いたい相手がいることを思い出せた。俺はリーファのおかげで成長出来たし、リーファが俺を真似て成長してくれる姿を見るのが自分のことのように嬉しかったんだ」


「成長はいつか止まる。今は良くても、いつの日かお前に反抗する時も来るだろう。それでも、お前はこの子の親として、この子の全てを受け止めることができるか? お前がこの子を受け入れようとした理由が全て消えるんだぞ?」


 ユージの言葉はトウルも正論だと思った。

 トウルも十三歳頃に親と不仲になった記憶がある。

 色々な大人の言葉を無視して、一人で錬金術に没頭していった時期だ。


「大丈夫だよ。俺はその成長の先を見たいんだ。リーファが未来をどう生きるかを一番近くで知りたい。そのためになら、リーファが生きるために必要な力を与えるし、危険なことから守ってあげたいとも思う」


「そうか」


 ユージは短く答えて小さく頷くと、もう一度リーファの前にかがみ込んだ。


「血で繋がったからと言って、父親らしいことなど確実には出来はしない。親になるというのは試行錯誤だ。トウル、父親の先輩としてお前に言えることは一つだけだ。娘を幸せにしてやれ」


 最後の一言でユージはリーファの頭に手を乗せて、ゆっくりと左右になでるように手を動かした。


「ありがとう。父さん」

「感謝するのならリーファにしなさい。お前の娘として生きてくれようとしているのだから」


 トウルは優しい眼差しをリーファに向けるユージを見て、リーファのことを認めて貰えたとホッと胸をなで下ろした。

 子供は親を選べないと言うけれど、逆に言えば、選ばれたと言うことはそれだけ強い信頼と、重い責任がある。

 トウルは親になるのは改めて難しいと感じさせられた。


「まったく……勝手に分かり合っちゃって、まぁ」

「正直、私もまだ戸惑っているよ。カスミが不満に思うのも仕方無い」

「えぇ、私を置いてけぼりにして、二人で話を勝手に進めたことが不満よ」

「……そっちか」

「えぇ、そうよ。トウルが錬金術師になるって言った時も、勝手に二人で分かり合って好きにしろー。って言ったのユージさんでしょ? 本当にもう」

「……今それまで持ち出すか」


 不満げに頬を膨らませるカスミに対して、ユージは呆れた目を向けた。

 意外なほど子供っぽい理由で不満を吐き出すカスミに、トウルも乾いた笑いが出た。

 何故か雰囲気が近いやりとりを、村に来てから良くやっている気がしたせいもある。


「ふー、まぁ、不満をいくら言っても、トウルが決めたんだから仕方無いわね。仕事もちゃんとしているし、大人だもんね」


 カスミは言いたいことを言ってスッキリしたのか、短く息を吐くと諦めたような口調でトウルとリーファのことを認めてくれたようだった。

 トウルは最大の懸念をクリアしたことで、改めてリーファの背中を軽く押した。


「リーファ。もう大丈夫」

「う、うん。あ、あのね。ユージおじいちゃん、カスミおばあちゃん」


 リーファはもじもじしながら、俯きがちにユージとカスミの名を言葉にした。


「はは……そっか。もう私もおじいさんか」

「あらあら、私もおばあちゃんね」


 トウルの両親は感慨深そうに言葉を漏らすと、リーファも顔をあげた。


「これ、リーファが作ったの。とーさんをお父さんにしてくれて、ありがとう」


 リーファは財布入れの袋から、二つの小さな三頭身ほどの人形を取り出した。

 リーファが両親に贈りたいと言っていたプレゼントだ。

 トウルはその人形を見て、たまらず噴きだした。


「わぁ、すごいじゃない。良く出来てるわね。トウルちゃんそっくり」

「へぇ、これをリーファが作ったのか」


 両親が感心するほど、リーファの作った人形はトウルによく似ていた。

 一つは本を読んでいるトウルで、もう一つは秤を持つトウルだった。


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