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午後のお散歩

「大丈夫だよ。お父さんが作った物なら、多分何でも嬉しいよ」

「そうかな」

「うん。リーファはこの髪飾り嬉しかったもん」


 リーファは髪飾りをさすりながら、ニコニコと笑っている。

 トウルはリーファの気遣いに頭を撫でて感謝すると、手紙を封に入れた。

 時間はまだ十三日もある。

 その間にクーデリアの意見も聞いてから、改めて考えようとトウルは頭を切り換えた。


「よしっと。それじゃ、手紙出しにいこうか」

「うん。お散歩だねー」

「そうだな。ついでにちょっと散歩でもするか。店の看板には外出中の札をかけておこう」


 時計は四時半を回っていて、少しだけ空気が冷えてきている。

 山間にある村のせいか、太陽が山の陰に隠れて影が出来たせいだろう。

 まだ工房の営業時間ではあったが、この村で営業時間はあってないような物だった。

 トウルはリーファに上着を着せると、自分も上着を着て外に出た。


「冬よりかはマシだけど、まだちょっと寒い時があるな」

「そうだねー。あ、お父さん手を繋げばあったかいよー」

「そうだな」


 トウルとリーファは手を繋ぐと、川のほとりにある道をのんびりと散歩するように歩き始めた。

 ご機嫌なのかリーファはいつもの鼻歌を口ずさんでいる。


「じゅーごー、しょくばい、かんじょーかー」


 リーファの鼻歌はいつのまにか二番が出来たのか、新しい歌詞が追加されていた。

 トウルはそんなリーファの鼻歌を聴くと、真似して口笛を吹き始めた。


「おー、お父さん口笛上手だね」

「リーファはふけるのか?」

「やってみるー」


 リーファは前を向いて唇を尖らせると、スースーと息の漏れる音だけが鳴った。


「あれ?」

「あはは。何かいつの間にか出来るようになるよ。こんな風に」


 トウルは口笛で春の小鳥の鳴き声を真似た。

 すると、リーファは口笛の練習を止めて、目をまん丸にしてトウルの顔を見上げてきた。


「お父さん鳥とお喋りも出来るの!?」

「あはは。さすがにそれはしたことがないなぁ」

「えー、でもそっくりだったよ?」

「リーファもきっと練習すれば出来るよ。そうしたら、鳥とのお喋りも試してみると良いかもな?」

「うん。リーファもがんばって口笛出来るようになるね!」


 リーファは空いた手を握って気合いを入れると、大きく息を吸い込んで一生懸命口の先から空気を吹き始めた。

 一生懸命吹いてもなかなか音が出ないリーファの様子を、トウルは微笑ましい気持ちで見守った。

 リーファにも一回で出来ないことが見つかったけど、リーファは一度出来なかったくらいで投げ出す様子はなかった。

 リーファが初めて錬金術をやった時、失敗しても笑ってもう一回と頼んできた彼女の様子を、トウルはふと思い出した。

 誰だって、天才だって本当の初めては上手く行かない。

 それでも、明るく続けようとする気持ちの持ち方こそが、きっとリーファの才能だとトウルは感じていた。

 そんなリーファだから、トウルはついつい手を伸ばしてやりたくなってしまう。


「こうやるんだよ」

「ふー! ふー!」

「あはは。力入りすぎだって。もっと力を抜くんだ」


 空を低く飛ぶ鳥たちの鳴く声に混じり、トウルの口笛とリーファの息づかいが河原で響いている。

 せせらぎの音と風に揺らされる葉の柔らかい音も、親子の不慣れな口笛を受け止めてくれている。


「あ、ちょうど鉱山の人達も仕事上がりか。ほら、あっちから結構戻ってきてるぞ」

「あ、本当だ。お店に来て貰うためにも挨拶しないとねー」

「あはは。本当にリーファはしっかりしてるな」

「リーファも錬金術師だからねー。みんなにリーファの作った物使って欲しいの。お父さん走ろー!」

「っと、急に走るなって!」


 リーファに引っ張られる形になったトウルは、一瞬転けそうになったが何とか立て直して、リーファの速度に合わせた。

 リーファは真っ直ぐ鉱員の集団に向かってつっこむと、トウルの手も一緒に両手をあげた。


「お仕事おつかれさま!」

「おっ、錬金工房のリー坊じゃないか。なんだい散歩かい?」

「うんっ! お手紙を出しにいくのー。ラっさんも疲れが残ってたら温泉湿布買って使ってね。お父さんが寝違えて使ったら、すぐよくなったから!」

「おっ、そいつはありがたいな。明日、家内に買いにいってもらうか」

「うん! いっぱい作って待ってるねー」


 リーファは次の人に挨拶しようとトウルの手を引っ張ってくる。

 そんなリーファに手を引かれながら、トウルも挨拶をしていく。


「よろしくお願いします」

「頼りにさせてもらってるぜ旦那!」

「ありがとうございます。っとと、リーファもうちょっとゆっくり――。あ、どうも、この前はお買い上げありがとうございます」


 いつの間にか、リーファのおかげで辺り一面の人間が皆笑顔になっていた。

 鉱山員達は仕事帰りだというのに、元気そうに声を出して笑っている。

 そんな笑顔の中心にトウルは立たされていた。


「トウルさん! 花火期待しとりますよ!」

「俺はリー坊のが見たいな!」

「大将ど派手なのを頼むわ!」


 祭りの話しも村長経由で伝わっているらしく、皆がトウルとリーファに応援の言葉をかけてくれる。

 やっぱり、この村の人達は楽しいことが大好きなようだ。

 そして、その要を任せて貰える信頼を感じられることが、トウルにとっては嬉しかった。


「任せて下さい。錬金術師ですから」

「うんっ! リーファも錬金術師だから! それじゃ、みんなばいばいー! リーファ達はこっちの駅だからー」


 分かれ道でリーファはトウルを連れて人の輪から飛び出すと、大きく手を振って鉱員達に別れの挨拶をした。

 そして、またのんびりとした歩調に戻ると、眩しい程の笑顔をトウルに向けてきた。


「えへへ。これでお客さん増えるね」

「ぷっ! あはは。リーファは俺より店を上手く回せそうだな」


 リーファの天然人たらしっぷりに、トウルは大笑いした。

 散歩でたまたま遭遇した時に客の心を掴みにいこうとは、トウルではやろうとも考えなかった。

 ただ、同時に心配の種にもなる。

 祭りは不特定多数の人が来る可能性が高く、中には危険な人物もいるかもしれない。

 そんな人間にリーファが無邪気に近づいてしまったら、どんな事件が起こるか分からない。

 トウルは最悪の想像をすると、思いっきり頭を横に振った。


「お父さん。どうしたの?」

「祭りで知らない人から、色々言われるかも知れないけど、ついて行っちゃダメだぞ? お菓子とかあげるとか、お父さんの場所を教えてあげるとか言われても、絶対ついていくなよ?」

「ん。分かったー。あ、村の人ならいい?」

「俺もよく知っている人なら良い」

「うん。分かった」


 リーファが頷いてくれたことで、トウルは安心して微笑んだ。

 そして、祭りでは絶対にはぐれないように気を付けようと、トウルは心に誓った。

 そんなトウルの心配をよそに、リーファはその後も人とすれ違う度に、挨拶ついでに店の宣伝をしていった。

 男性なら温泉湿布と傷薬、女性なら新商品である化粧品を押していく。

 明日はいつもよりお客が来そうな気配に、トウルは苦笑いしてしまう。

 リーファがいなかったら、トウルはこんな風にお客さんになる村人と交流なんてしなかっただろう。

 多分ずっと工房に引きこもって、設計図を書き続けている。


「育ったのはリーファだけではないか」

「ん? どうしたの?」

「なんでもない。明日、お客さん増えるといいな」

「うん! リーファとお父さんの作った化粧品も売れるといいよね」


 せっかく化粧品も置き始めたのだし、トウルが普段使ったことの無い物の需要を知ることにも繋がる。

 レベッカに追いつくためにも、他人の道具に対する評価や意見がたくさん必要だ。


「あ、お父さんなんか難しいこと考えてる顔してる」

「え? そうだったか?」

「うん。駅見えたのに、目はお空を見てたから」

「すごい観察眼だな。リーファの言った通り、化粧品は使ったこと無いから、どんな反応が返ってくるのか分からなくてさ」

「れーちゃんがね教えてくれたけど、リーファもよくわからなかったの。お父さんと一緒だね」


 分からなくてもにっこり笑うリーファに、トウルは釣られて笑ってしまった。

 一緒に分からないことが出来たことで、親子で揃って挑戦できることが嬉しくて楽しかったのだ。


「みんなに教えて貰いながら、分かるようになろうか」

「うん。みんなをもっと綺麗にしてあげよー」


 脳天気なリーファのかけ声が、村の中に響いた。


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