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祭りより難しい課題

 帽子を被ったことでミスティラも立ち去ることを理解したトウルは、最後に伝言を一つ頼むことにした。


「あっ、クーデにさ。サンドイッチ美味しかった。バカにして悪かったと伝えてくれ」

「ふふ。分かりました。きっと喜びますよ。調子にのって毎日持ってきたりして」

「たまにでお願いしたい。リーファが作ってくれるご飯も美味しいからな」

「あら、そこまで言うなんて、本当に気に入ったのですね。実は私もお願いしているんですよ? 私はかわりにおかずを作りますけどね」


 本当に仲が良さそうな二人の関係にトウルはためらいながらも、あることを頼んでみようと考えた。

 娘のリーファはクーデリアとミスティラの間に、自由に飛び込んでいける。だが、トウルはまだ巻き込まれているだけだと感じていた。

 だからこそ、トウルは自分から二人の間に飛び込んでみようとした。


「……今度、また頼んでも良いか」

「あら、何をですか?」

「……料理だよ」

「また随分突然ですね? リーファが拗ねますよ?」


 トウルが恥ずかしがったせいか、外に出ようとしていたミスティラは満面の笑みでトウルに詰め寄ってきた。

 リーファが拗ねると言われて、トウルは慌ててリーファの方に頭を向ける。

 するとリーファはきょとんとした顔でトウルを見上げていた。


「リーファの作るごはん美味しくないの?」

「違う違う。リーファの作ってくれる物は美味しいに決まってる。ただ、今度はみんなで作って、みんなで一緒に食べられたら、その……楽しいかな? ってさ。ほら、リーファもみんなで食べると美味しいって言ってただろ?」

「うん! みんなで一緒に作ってパーティしたい!」


 トウルは何となく恥ずかしくて言い淀んでしまったが、リーファは気にせず賛成してくれた。


「どうかな? ミリィ。あ、もちろん、迷惑なら断ってくれて構わないんだけど」

「そうですねぇ……」


 ミスティラは顎に手を当て思案顔を浮かべると、ニヤリと笑って帽子を深く被った。


「お断りしますわ」

「う……そっか」


 断られたことにトウルは意外なほどダメージを負って、長いため息をついた。

 断ってくれても良いとは言ったが、断られるとは思っていなかったのだ。

 トウルは俯いた頭を上げて謝ろうとすると、ミスティラは帽子をぬいで、トウルの頭の上に乗せてきた。

 ミスティラの行動の意味が分からず、トウルは呆けた顔で三度くらい瞬きをした。


「だって、日時を指定されていませんもの。なので、祭りの終わった次の日に揃ってパーティしませんか?」

「あ、そっか。なるほど。そうだよな。……あぁ、良かった」


 トウルは断られた理由に納得すると、ホッとして思わず心の声が漏れてしまった。


「ぷっ、あはは。本当にトウル様はからかいがいのあるお方です」

「ちょっと待てミリィ! 今のどこからどこまで冗談なんだ!?」

「全部本当ですよ。ただ、ちょっとトウル様を驚かせようと思って、つい意地悪しちゃいました。かわいい顔が見られて、私は大満足です」


 ミスティラはトウルから帽子を取り戻すと、自分の頭の上にポンと乗せて楽しそうにけらけらと笑った。


「はぁー……。何かすげー疲れた……」

「ふふ、私はおかげで元気を貰いました」


 気持ちがこもった感謝をされてしまったら、トウルはもう呆れて笑うしか無かった。

 ミスティラの前ではトウルもクーデリアと同レベルかも知れない。

 それだけトウルがミスティラと良い友達になれたという証明ではあったかもしれない。


「あ、そうそう。ちなみにもう一つ驚かせてあげます」

「へ?」

「精霊祭って私の誕生日なんです。だから、次の日、私の誕生日パーティにしてくれると嬉しいですわ」

「へっ?」


 突然の情報にトウルはミスティラの宣言通りに驚いてしまった。

 あまりにも急で、唐突なお願いにトウルはすぐに反応出来なかった。


「プレゼントは期待してもよろしいですか? 出来ればトウル様をリーファと工房ごと頂ければ嬉しいのですけど」

「さりげなく凄い要求された!? こほん。そうだな。工房とリーファは渡せないけど、国家錬金術師として一級品を用意してみせる」


 トウルは我を取り戻すと咳払いをして、店長らしく真面目な表情を作り、ミスティラの願いを承った。


「では、私はそろそろいってきます。プレゼントは期待していますけど、あまり無理しないでくださいね? 今夜の晩ご飯を誘いに来たら、倒れているとか嫌ですよ?」

「分かってるよ。クーデにもよろしくな」


 最後の最後までいたずらっ気たっぷりなミスティラの言葉に、トウルは笑いながらため息をついた。

 そして、ミスティラを見送り、工房でリーファと二人きりになると、トウルはリーファの頭の上に手をのせた。


「パパッと終わらせて、二人を待ってやろうか」

「うん。パパッと終わらせて、みんなでご飯だね。みーちゃんのプレゼントも考えたいし」

「だな」


 夜の楽しみを二人で確認すると、二人は机に向かって設計図の下書きを始めた。

 広告をばらまく袋の射出機は空飛べ袋の流用をし、袋の方の構造をどう変えるか。

 それが最大の課題だ。


「空飛べ袋の場合は受信機に向けて飛んだけど、今回は広範囲に飛ばすことが出来て、打ち上げ場所に戻るのが望ましいか」

「うん。真っ直ぐ飛ばすだけじゃダメなんだよね?」

「戻ってくるのに関しては、受信機と射出機を一体化させれば良いんだろうけどな。問題は回転運動をどう取らせるかだ。作ったリーファに聞くのもあれだけど、リーファはアイデアあるか?」

「うん。圧縮空気を吐き出す穴を全部左に向けて、くるくる回しながら飛ばしたらどうかな? 鼠花火みたいに動き回る感じ!」


 トウルが考えていたのは打ち上げて、その場で高速回転させて遠心力でばらまく方法だった。

 リーファが紙に書いたのは街中を飛行する方法だった。


「リーファの案は確かに広範囲に広げられるけど、密度は低くなりそうだな」

「お父さんのは?」

「俺の場合は打ち上げたその場で周りながらばらまく仕組みだ。噴水みたいなもんだな」

「噴水かー。それならお父さんの方が雪降るみたいで綺麗かも」

「リーファの案も悪くない。ただ、俺はこの広告にもう一つ遊び心を付け加えようと思ったんだ」

「遊び? 何して遊ぶの?」


 興味深そうに身を乗り出したリーファに、トウルは人差し指を立てながら説明を始めた。


「精霊祭は精霊がたくさん見えるって言われただろ? だから、精霊の絵が沢山見える空間を作って、擬似的に精霊祭の雰囲気を再現しようと思ったんだ」

「ぎじてき?」

「あぁ、えっと、本物みたいな偽物って意味だ。俺達の見せる煙の精霊は偽物だろ?」

「あ、そっか。でも、いっぱいいると本当にお祭りみたいになるんだね」

「そうそう。さすがリーファは賢いな。ちゃんと理解出来てる」


 トウルがリーファの頭をなでると。リーファは気持ちよさそうに目を瞑って、頭をゆらゆらと左右に揺らした。


「えへへー。なら、後はお父さんの煙チラシの設計図と一緒にれーちゃんに送るだけだね」

「あぁ、後はゲイル局長と父さん達にも手紙を出さないとな」


 トウルが手紙を書き始めるとリーファがトウルの隣に椅子を持って駆け寄り、椅子の上に立ってトウルの手紙を覗いてきた。


「リーファも狸さんにお手紙書きたいな」

「あぁ、なら、俺の後に書くか? スペース開けておくよ」

「わーい」


 トウルは事務的な挨拶と祭りの参加をお願いすることだけを書くと、リーファに紙を渡した。

 続けてトウルは自分の両親に来るようお願いする手紙を書き始めた。

 中央にいた時はちょうど旅行に行っていたらしく、リーファを合わせることが出来なかった。

 未婚で子供がいると知ったら、何て言われるだろうかとトウルは想像したが、誤解を生む未来しか想像出来なかった。

 ついに人間まで作れるようになったか。とか、子連れと結婚したのかとか、根掘り葉掘り聞かれそうだ。


「面倒臭いことになりそうだし、村の宿屋に泊まって貰おうかなぁ……」

「お父さん今度は誰に手紙書いてるの?」

「ん、あぁ、俺の親だよ」

「お父さんのお父さん?」

「あぁ、後、俺のお母さんにな」

「そうなると、リーファのおじいちゃんとおばあちゃんになるの?」


 首を傾げながら尋ねるリーファに、トウルは苦笑いしながら頷いた。

 もともとはその二人がリーファのお父さんとお母さんになって、トウルがリーファのお兄ちゃんになる予定だった。

 それが一段飛んでおじいちゃんとおばあちゃんだ。


「そうだな。リーファにとってみれば、おじいちゃんとおばあちゃんか」

「そっかー。リーファもおじいちゃんとおばあちゃんにお手紙書いていいかな?」

「あー……うーん。きっと驚くから、こっちに来てから言えば良いんじゃないかな?」


 トウルはそれっぽい理由を口にして、リーファのお願いを拒んだ。

 本当に驚いて、手紙を受け取った瞬間に工房まで殴り込みに来かねないからだ。

 そうなったら、色々と親らしく口うるさいだろうし、リーファのことに関してもあれこれ言われて、仕事に集中出来そうにない。


「そっかー……。でも、会えるんだよね?」

「そうだな。来れば会えるよ」

「えへへ。楽しみだなぁ。ねー、お父さん、おじいちゃんとおばあちゃんにプレゼント作りたいの! 今から作ってもいい?」

「え? 作る物がもう決まってるのか?」


 トウルがリーファにプレゼントを作った時はかなり悩んだ。それが今、リーファの髪を留めている七色に輝く賢者の石があしらわれた髪飾りだ。

 それなのにリーファときたら、人が来ると聞いた途端に贈り物を作ると言い放った。

 その瞬間的な発想力に、トウルは目を丸くした。


「ううん。ずっと前から決めてたんだ。お父さんになってくれたとーさんのおかげでリーファは村にいられるから、お父さんを産んでくれてありがとーってずっと言いたかったの」


 まさか、生まれて来たことまで感謝されるとは思っていなかったトウルは、思わず頬をかいてしまった。


「そっか。何かその……照れるな」

「えへへー。お父さん顔あかーい」

「赤くないっ。で、リーファは何を作るんだ?」

「内緒っ! お父さんもビックリさせたいから」

「そっか。楽しみにしてるよ」


 トウルはリーファの頭をなでながら、リーファの作るプレゼントに想像を馳せた。

 賢者の石をいきなり作ってきて、おそろいのアクセサリーとか作られたら間違い無く驚くとか、複雑な機械時計を作るのかとか、リーファを完全に一流の錬金術師として、トウルは彼女の作る物を期待した。

 そして、そんなリーファなら既に、ミスティラへ贈るプレゼントも思いついているのかもしれない。


「もしかして、ミリィのプレゼントも考えてある?」

「うん。みーちゃんにはリーファの作ったクッキーをあげるんだ。去年クッキーあげたら喜んでくれたの」

「そっか。んじゃ、食べ物系は被るから止める方が良いなぁ」


 トウルはそう言ったものの、何を贈れば良いかさっぱり分からなかった。

 それに、誕生日プレゼントを贈るのに、欲しい物を聞いて良いのかも分からない。

 祭りの準備以上の難題に、トウルはまた頭を悩ませそうな予感を感じ取っていた。

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