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五人の知恵

 レベッカの一言でトウルは閃いた。


「そうだ! クーデとミリィは中央で保安員になるための修行をしたって言っていたし、あいつらに言えば中央の友達呼べるんじゃないか?」


 それにクーデリアはかなり社交的な性格をしている。交友関係も広そうだし、人望もあったはずだ。

 トウルが名案を考えついたと思った瞬間、扉の鈴が鳴らされ、噂の二人がやってきた。


「やっほー。トウルさん。噂をすれば何とやらだね。村長の件で相談しに来たよ」

「噂をすれば影がさす。クーデは適当過ぎよ。トウル様、村長はもう既に来ましたか?」


 二人が来たことに一瞬顔をあげて喜ぶトウルだったが、二人の言葉でぬか喜びだったことに気がついた。


「よぉ……よく来たな二人とも……」

「な、なんか露骨にガッカリな顔された!?」

「いや、だって、クーデもミリィも、村長にもう頼まれたんだろ? 中央の友達を祭りに呼んでくれって」

「あぁ、うん。ってことはやっぱトウルさんとレベッカさんも頼まれたのかー」


 クーデリアの一言でトウルの予感は確信に変わった。


「ちなみにクーデ達は何人呼べるんだ?」

「私とミリィ合わせて三十人」

「俺達と合わせて四十三人か……。やっぱ足りないな」


 中央に住んでいた人達の友人を集めても、目標人数の十分の一にも満たない。

 トウルが悩みながら言ったせいで、リーファは友達を呼ぶだけでは難しいことに気がついたのか、別の視点から観光客を増やす提案をしてきた。


「ねー、お父さん。お友達以外は連れてこられないの?」

「いや、もちろん友達以外でも良いはずだ。ただ、問題がいくつかある。一つ目はこの祭りの知名度がほとんど無くて、面白いのかどうか分からないことだ。二つ目はお知らせのチラシやポスターを作っても俺達は村にいるし、広い中央をレベッカ一人で配るのも難しいこと。三つ目は村にある宿屋で五百人も収容できないこと。精々五十人程度が限界だろう」


 知名度の低さから放っておいても観光客は来ない。広告も人手がなくて出来ない。そして、仮に告知に成功して客を増やしたとしても、受け入れ体勢が整っていない。

 どこからどこまでも問題だらけだ。


「保安員として警備の難しさも挙げさせて頂きますわ。村の保安員は先輩を合わせても五人です。さすがに一人で二百人もの人の面倒は難しいと言わざるを得ないです。それに私は巫女の仕事もあるので、警備に参加出来ない時間も多いです」

「あっちが立てば、こっちが立たず。ってことで、ミリィと私も考えたんだけど、もうどうしようもなかったんだよねぇ。せっかくのお祭りなんだから、何とかしたいんだけどさ」


 保安員としての二人だからこそ見える問題点を聞かされ、トウルの表情はより険しくなった。

 クーデリアの言う通り、普通にやったらどうしようもない。

 何かを解決しても、必ず次の問題が浮かんできてしまう。

 だが、トウルは錬金術師だ。諦めない限り、道具で解決をしようと考える人種である。


「よし。こういう時こそ、錬金術師らしくだ」

「発想の逆転だよね。お父さん?」

「あぁ、その通りだリーファ。それと、もう一つ大事なことがある。こういう風に問題が沢山ある時はいっぺんに考えずに、一つ一つ考えよう。よし、まずは告知からだ。俺もレベッカも中央にいた時は精霊祭のことは少しも知らなかった。クーデとミリィの友人は知ってるのか?」


 トウルがクーデリアとミスティラに尋ねると、二人はため息をついて首を横に振った。


「知られていないんだよねー。中央に住んでた時に、そろそろ精霊祭だねー。って言ったらなにそれって聞かれたし」

「魔法使いなら知っている程度ですね。ただ魔法使い自体が少ないので、ほとんどいないようなものです」


 予想通りの回答にトウルはふむ。と小さく呟いた。

 そして、視線をレベッカに向けるとトウルは自分の意見を述べ始めた。


「そうなると、まずは知って貰う所から始める必要がある。なぁ、レベッカ。ここは単純に考えてチラシか?」

「そうですね。中央の祭りだと、大きくて派手な奴が酒場とか駅とかに貼られていますね」


 トウルは紙にチラシの作成と書いて、次の話題を振った。

 まずは全体的な問題の把握と、解決案の提案が先だ。

 先に大まかなやることさえ決めておけば、細かい内容の決定は後でも出来る。


「とりあえず、どんなチラシを作るかは後で決めよう。次の課題だが、レベッカ一人では配りきれない。ただ、これは発想を逆転させて、人が配らなければ良いモノを考えれば、割と簡単に解決できるはずだ」

「ねー。お父さん、リーファの空飛べ袋使えないかな?」

「俺も同じことを考えた。公開公募で作ったリーファの空飛べ袋。あれに改良を加えて、空からチラシを地上にばらまけば、レベッカが一人で配る必要は無い」

「うん。新しい名前は空まき君だね!」


 リーファの発明品が思わぬ所で役に立つことに、リーファは目を輝かせて喜んでいる。

 チラシの内容次第だが、上手く行けば人を呼ぶことは出来るだろう。

 ただ、そうなると三つ目の課題である宿泊施設の受け入れ体勢強化の難易度が跳ね上がる。


「さて、宿屋の問題だが、これはこれで難題なんだよなぁ」

「入れないのなら、増築すればよろしいのでは? 錬金術なら部屋ぐらい作れそうですけれど」

「ミリィの考えは間違ってないんだけどさ。さすがに宿屋だと大きすぎて、うちの錬金炉じゃ成形出来ない。それに仮に部屋を増やせたとしても、祭りが終わった後はどうするんだ? そんなにたくさん来ないだろ? 五百人収容可能な部屋がすっからかんとか悪夢だと思うぞ」

「そうですわね。手入れだけ増えて、収入は増えないでしょうから、宿のオーナーにとってはまさに悪夢。でも、宿屋に手を加えてはいけないことは分かりましたが、どうするのですか?」


 ミスティラの言う通り、宿屋自体に手を加えることは出来ない。

 トウルが思考を変えるために天井を見上げると、クーデリアのあげた手が視界に入った。


「はいはーい。なら、隣の村に宿泊してもらうとかは? 列車便を増発してもらってとかさ」

「あぁ、なるほど。村の外に解決策を求めるか。ありだとは思うけど、交渉次第だよなぁ。そうなると道具を作るとか関係なくなるし――ん? ふむ。外か」

「トウルさんどしたの?」


 外と言う言葉にトウルは何か引っかかりを覚えた。

 最近、何かその言葉に関連した道具をどこかで見たはずだ。


「あ、先輩もですか? 実は私もなんか外で使えそうなモノがあったような気がするんですよねー。何か最近ちらっと見た気がします」


 レベッカも何か思い当たる節があるらしい。

 そうなると、恐らくは中央で見た道具だ。

 トウルがレベッカと悩んでいると、リーファが仲間になりたそうに絡んできた。


「ねー、お父さん。外ってどういうこと?」

「ん、あぁ、宿屋に泊まるんじゃなくて、キャンプ場を作って外に泊まって貰えば良いかなって思ってさ。それで、何か最近どっかでテントを改良した道具を見たような気がしてさ」

「あ、公開公募にあったやつ? カプセル展開型テントだよね?」


 リーファの言葉に、トウルとレベッカはあぁっ! と思い出したように手を叩いた。

 トウルは公開公募の時、リーファの手続きのことで頭がいっぱいで、見習いの設計図をほとんど見ることが出来なかった。

 そのせいで、ほとんど印象に残っていなかったが、確かに優秀選の一覧にあった。


「リーファ。設計図覚えてるよ。確かこんな感じ」


 リーファはそう言って、紙に設計図を書き始めた。

 テントを手の平大に圧縮してカプセル状にしたもので、地面に差し込むと根を張りながら広がる構造をしている。

 植物の種と芽生える仕組みを模したかのようなテントだった。


「なるほど。ただ、これだと生活空間としては普通のテントだな。だけど、発想としてはこれが使える。広場の確保さえ出来れば何とかなる。最後は警備の問題か」


 さすがに警備をしないという発想は使えないだろう。

 怪我人や急病人の救助は、さすがに人でないと何が起こるか分からない。

 トウルはダメ元でミスティラにある提案をしてみた。


「なぁ、ミリィ。精霊に手伝って貰うことは出来ないのか?」

「……お客さんですからね。やっぱ難しいです」

「だよなぁ……」


 トウルはガックリ肩を落とすと、息を短く吐いて気持ちを切り替えようとした。

 監視員の人手不足を解消するような道具を考えないといけない。

 そのためには、まずどんな警備にどんな問題があるのかを知る必要がある。

 その疑問をトウルより早くレベッカが口にした。


「クーデリアさん、ミスティラさん、警備で一番問題になるのは何ですか?」

「え? えっとね。やっぱりこういうお祭りだとスリかな? みんな浮かれているから、すぐに気がつかないと思うんだよね」

「ん、なるほどね。ふふ、そこは王家とか貴族の道具を作っていた私ならではのモノが作れそう。荷物をしまえる鍵付きの棚を用意するとして、後は個人の防盗装備か」


 クーデリアの説明でレベッカが何かを閃いたのか、彼女は顎に手を当ててにやついている。

 クーデリアの言ったスリという言葉に、トウルも心の中で引っかかっていた。

 盗まれることが問題ならば、盗まれないようにすれば良い。

 財布や袋を身体から外さないようにするチェーン形式のモノを想定した。


「ねぇ、その例のお祭りの衣装を見せて貰っても良い? それを見たら良い感じに衣装にあった派手でかわいいデザイン出来そうだからさ」

「レベッカは何を作るつもりだ?」

「お財布すられたら困るんですよね? だったら、絶対に身体から離れないようにしてしまえば良いんですよ。観光客用に財布入れを付けたベルトを作りましょう。もちろん、錬金術で工夫した物をです。取り出し楽々、でも盗ろうとすると硬くて引っ張れない。そんな防犯道具です」


 楽しそうに語るレベッカにリーファも両手をあげてアピールを始めた。

 こうなったら錬金術師はもう止まらない。


「かわいいの作るの? リーファも一緒に作るっ!」

「ふふん。良いわよ。どうせならどっちのデザインがより受けるか勝負しましょう」

「うん、いいよっ!」


 盛り上がった二人は勝手に勝負を始め、デザインの案を紙に書き込み始めている。


「ということで、どうだろうクーデ? 多少なりこれでスリが起きにくくなるんじゃないかな? 祭りの飾りってことでみんなに付けて貰えれば、スリも盗みにくくなるだろう」


 トウルにはまだチラシやテントの方で頭を使わないとならないため、財布の防護方法は二人の錬金術師に任せることにした。


「なるほど。それなら、急病人とか怪我人の対処の方に気を回せるね。ミリィはどう思う?」

「えぇ、後は人混みの中で倒れたりした時に、知らせてくれる機能があると助かるけど、さすがに欲張りすぎですよね?」


 ミスティラが申し訳無さそうに尋ねると、トウルはきょとんとした顔になった。

 そんな簡単な注文で良いのかと思ったぐらいだ。


「いや、普通に出来ると思うぞ?」

「もちろんですよ先輩。ミスティラさん。人が倒れたら、音のついでに赤い光でも出そうか?」


 レベッカもノリノリだ。

 そのレベッカに対して、リーファもアイデアで負けていない。


「あっ、それなら迷子になったら音が出るようにしようよ。お父さんと中央で遊んでた時、手を離したお父さんが迷子になって泣きそうな顔してたから」

「何か逆にされてる!? いや、でも、迷子防止機能は良いな。子供連れでも安心できる。むしろ、リーファがつけていて欲しい」

「えへへー。いいよ。お父さんとおそろいにするね」

「よし、頑張れリーファ。お前なら出来る! 俺のも一緒に作ってくれ!」


 リーファとの見解の違いにトウルは勢いよくツッコミを入れたが、おそろいという言葉を聞いて、顔をほころばせた。

 迷子扱いされるのがトウルかもしれないが、そんなことは些細なことだった。


「あはは……やっぱり親バカですわね。でも、この三人ならもしかしてと思わないかしらクーデ?」

「そうだねー。さっきまで無理だー。言っていたのに、今じゃやるぞー。ってなってるもんね」


 まるで蚊帳の外にいるかのようなミスティラとクーデリアの物言いに、トウルはニヤリと笑いながら紙とペンをつきつけた。


「俺達五人だよ。俺は祭りに詳しくないから、クーデとミリィは精霊祭告知の内容を考えてくれ。そうすれば、俺が最高の形でばらまいてやるから」


 こうして、五人は一同に机に集まり、あーでもないこーでもないと言いながら、各々のペンを走らせた。

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