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改良と実験

 工房に戻ると、リーファは一目散に階段に向かって走り出し、トウル達は一階に取り残されてしまった。


「で、トウルさん。さっきの奴なんだったんですか? 中身は手紙の入った瓶だったんですけど」


 店の椅子に座ったクーデリアが袋を指さしながら首を傾げると、トウルは咳払いをして説明を始めた。


「空飛べ袋ってリーファは名前を付けたんだがな。有り体に言えば新しい道具の輸送システムだ」

「輸送システム?」

「あぁ、岩食い虫の素材を運ぶのは大変だったし、今日クーデ達に道具を配って貰うにはそれなりに時間がかかる。そこで、道具袋を射出して飛ばすことで、人が道具を運ばずに物を運ぼうっていう道具達なんだ」


 トウルの説明で二人の少女が納得したように手を叩いた。


「え? じゃぁ、この棒は?」

「それが袋を呼び寄せる受信機なんだよ。岩食い虫の集合フェロモンの特性を抽出したんだと思う。袋と受信機が互いに呼び合って一致すると、袋が受信機の方に飛んで行くらしい」

「らしい。ってトウルさんが知らないの?」

「詳しくは設計図を見ていないからな。だって、それリーファのオリジナル錬成物だし。俺は手を出してないんだ」


 トウルは楽しそうに笑いながら伝えると、クーデリアとミスティラは目を白黒させた。


「リーファちゃん半端ないね……七歳でしょ? 私、多分虫取りに夢中になってたよ……」

「そうね。魔法の勉強している私を無理矢理引っ張り出していたわ」

「あれ……? 何か遊んたのが私だけになってる空気!?」

「今もあまり変わらず子供っぽい気がするわよクーデ」

「うぅ……。何でみんな私を子供扱いするかなぁっ!」


 いつもの幼なじみらしいじゃれ合いを終えると、トウルは改めて射出台と袋を机においた。


「話を戻そう。つまりだ。波長が違う受信機と袋のセットが二種類あれば、二箇所の間で道具を行ったり来たりさせることが出来る。冒険者側は材料が多すぎて運べなくなっても、この空飛べ袋に入れて街に飛ばすことで運搬をせずに済むし、街側から冒険者に向けて補給道具を飛ばすことが出来る。その補給道具として俺がキッチンポットを作った」


 トウルは机の上にキッチンポット一式を乗せると、腕を組んで誇らしげな笑みを浮かべた。


「冒険者は遭難しかけても、その受信機さえあれば、食料と水、そして薬の補給を街から受け取れる。自分で手紙を街に飛ばして助けを呼ぶのも良いし、仲間がいなくなったことに気がついたパーティの誰かでも良い。補給が必要なことを知らせれば、補給を受けられるっていうすごいシステムをうちのリーファが作ろうとしてるんだぜ! どうだ凄いだろ!」


 まるで自分のことのように熱く語るトウルに、ミスティラが小さく手を挙げた。


「トウル様は全く知恵を貸していないのですか?」

「ちょっとはな。それでも主役はリーファさ。俺の頭の中では完成図が引けているけど、やっぱりリーファが最初のアイデアを出したんだし、俺はリーファにやりきって欲しいから、あいつに任せているよ」

「ふふ、トウル様も、私の魔法の師匠のようなことを言い始めましたね」


 ミスティラが呆れたように笑うと、トウルは何故笑われているのかが良く分からず、顎に手を当てた。

 隣にいる幼なじみのクーデリアまでもが首を傾げている。


「ね、ミリィ。何で笑ってるの?」

「だって、トウル様ってまだ二十歳ですよ? 私のお師匠様って六十を超えたオババ様だったし」

「あぁ、言われてみれば。って、まさかっ! トウルさんの中身も実はかなりのおっさんなの!?」


 身体全体で詰め寄ってくるクーデリアに、トウルは思わずたじろいでしまった。


「いや、ちょっとまて。俺もってどういうことだよ。って、そもそも錬金術で若返りの薬はまだ作られてない。後、死人を生き返らせる薬もない」

「ちなみに、ミリィの師匠はリーファみたいな背格好だよ……。肌も若く見えるし、六十歳じゃなくて六歳くらいに見えるんだよ。理由はみんながその格好だとお菓子をくれるかららしい……」

「魔法の無駄遣い具合が半端ねぇな……」


 知りたくも無い情報にトウルはため息をつくと、ふととあることを思いついた。

 同じ魔法使いが目の前にいるではないかと。


「まさかミリィも俺より年上で、弟子を探しているとか?」

「えぇ、実は今年でトウル様より年上の四十歳になりますの。そろそろ可愛い弟子の一人でも欲しいころなのですわ」

「……真面目に答えているあたり嘘っぽいな」

「ふふ。正解ですわ。さすがトウル様、私のからかいにもう慣れるだなんて。まぁ、オババ様の話は本当なので困った話しなのですけれどね。それは置いておきましょう。話を戻して、何でトウルさんはその歳でそんなに師匠なような考え方になったのでしょうか?」


 ミスティラが再度同じ疑問をぶつけてきた。

 トウル自身もその理由は良く分からなかったが、心当たりが少しだけあった。


「多分、この村に来たからじゃないかな。中央にいた時は毎日ノルマに追われていて、同僚に負けないよう自分のことで精一杯だったのが、今は何かに追われている感じしないからなぁ。それで少し余裕が出来て、昔のこと、師匠のことを思い出したからだと思う」

「どうですか? 師匠になってみて」

「難しいな。手も口ももっと出したいけど、弟子の将来も考えないといけない。でも、やっぱりリーファの成長を見るのが嬉しいし、楽しいよ。教えられることも多いしな」


 トウルはちょっと気恥ずかしさを覚えながら、自分の考えをミスティラに伝えた。

 トウルは自分の頬がほんのりと熱くなってきたことに気付き、照れ隠しのつもりで頬を軽くかいた。


「ふふ。本当に良いお父さんになっちゃいましたね」

「ま、そこらの錬金術師より優秀なつもりだからな」


 珍しくニッコリと優しい笑みを浮かべるミスティラに、トウルは見栄と胸を張った。

 単純に恥ずかしくて、素直に喜ぶことが出来なかったが、すごく嬉しいと感じている。


「とーさん!」


 突然のリーファの声にトウルが振り向くと、リーファは今まで以上に真剣な表情で、トウルに近づいて来た。


「どうした?」

「エアロタンブラーのレシピ教えて!」

「ん。あぁ、これだ。ほれ。材料も計算式も書いてある」


 トウルはリーファに下書きを手渡すと、リーファがトウルにぎゅっと抱きついてきた。


「リーファ?」

「ありがとっ! とーさん大好き!」


 トウルの呼びかけにリーファは笑顔を残すと、もう一度階段に向かってダッシュした。

 リーファの様子にトウルはフッと小さく笑うと、紙にペンを走らせた。

 多分、こういうものを作るんだろうな。という予想がトウルには出来ていた。


「トウルさん嬉しそうだねぇ。何書いてるの?」

「ん? 俺が作るならこうするなーっていう設計図」


 クーデリアがトウルの横からのぞき込んできたので、トウルは手をどけて下書きを見せた。


「へぇー。ん? 袋に袋くっつけるの?」

「エアロタンブラーを教えてって言っていたからさ。多分浮かせたいんだと思ってな。それで得た浮力の分だけ推進剤を増やすんじゃないかな」

「あの白い煙みたいなの?」

「そうそう。何段も空で加速させるんだ。リーファなら何て言うかな? 空でもう一度飛ばすんだー。って言うかな」


 リーファの物真似をしたトウルは続けて、受信機の設置箇所や関係者各位のリストを書き連ね始めた。


「んー、飛んできた所持品が盗まれないようにとなると……やっぱり警察組織になる保安局か。補給物資の依頼も遭難者救助の仕事がある保安局にピッタリだな。空飛べ袋とキッチンポットの錬金は各工房に依頼してもらうとして、保安局に運んでもらうっと」

「私達保安員に仕事振るんだね」

「適任だろ?」

「まぁねー。少なくとも職務からは外れてないから多分大丈夫」


 クーデリアは親指を立てて笑っている。

 トウルの書いた組織図はまだ想像の範囲だ。上手く行かないことの方が高いと理解している。

 それだからこそ、適当なクーデリアの自信が頼もしいと感じられた。


「トウル様、たまにはクーデも良いこと言うでしょ?」

「だな。重要な会議とか発表前にいて欲しい」


 そうすれば、幾分か緊張はほぐれるだろう。リーファには敵わないけどな。とトウルは心の中で呟いた。


「ふふん。これでも大人だからね」


 そう胸を張るクーデリアに、トウルは苦笑いを浮かべた。

 そして、数分後、リーファが試作品二号を完成させると、トウル達は三週間にも渡って実験を何度も繰り返した。

 その実験の間に、トウルのタンブラーも改良が加えられることになった。

 理由はクーデリアが勝手にカードを取り出したせいで、吸水カードによる浮力制御機構が失われたタンブラーが、クーデのスカートを思いっきりめくりあげ、下着を晒した事故が起きたからだ。

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