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トウルの料理

「えっと……トウルさん?」

「クーデ、お疲れ様。外は冷えただろ? 歩いて疲れただろ?」

「え? 別にそんなことは――ってか、トウルさん目が怖い!?」

「朝から村中歩いたんだ。栄養補給が必要だ。さぁ、これを使え! いや、使ってみて感想をください!」


 店先で足を止めていた二人にトウルが近づき、手に持っていたタンブラーとカラフルな角砂糖のような物が入った瓶を、クーデリアの手に押しつけた。


「ほぇ? 水筒と砂糖?」

「まぁ、物としては近いな。まずはこのタンブラーに、そのオレンジ色の角砂糖みたいな物を入れてくれ」

「う、うん。というか、これ何?」

「飲めば分かる。大丈夫だ。味に関しては、元々リーファが作ったレシピだからクーデでも飲める。俺も飲んだがリンゴの味が効いて、美味いぞ」


 トウルの熱弁にクーデリアはミスティラと目を合わせると、渋々と言った感じで頷いた。

 クーデリアは商品棚の上にタンブラーを置くと、トウルの言う通りに角砂糖を一つ入れ、フタをしっかり閉めてから、三回タンブラーを上下に振った。


「ん? あれ? 中身が水っぽくなった?」

「よしっ。ここまでは成功だ。飲んでみてくれ!」

「う……うん。いただきます」


 恐る恐るクーデリアがタンブラーに口をつける。

 よほど恐ろしいのか、クーデリアは目を瞑り、息を止めているようだった。


「……ん? あれ? ええっ!? なにこれ!? 美味しい!」

「よっし! 大成功だな!」


 クーデリアが驚いて息を大きく吸い込むと、今度は腰に手を当てて勢いよくタンブラーの中身を飲み始めた。

 村長がビールを一気飲みした時のような飲みっぷりだ。

 その様子に、クーデリアが村の生まれなのだ、と実感したトウルは苦笑いしてしまった。


「ね、ねぇ、クーデ。結局それ中身なんだったの?」


 ミスティラが不思議そうにクーデリアに問いかけた。

 さすがの彼女も、クーデリアの飲みっぷりに好奇心を抑えきれなかったらしい。


「リンゴ味のゼリージュース? ぷるぷるのつるつるで、喉にスーッと入ってきて、何かこう元気が出る味!」

「へぇ。なら、私も一口試させてもらえないかしら?」

「あ、ミリィ。ごめん。全部飲んじゃった……」

「……あら。そう」


 トウルの目から見ても明らかなほど、ミスティラは表情を曇らせた。

 だが、トウルは笑顔を消していない。

 ミスティラがタンブラーを見つめてガッカリとしている表情で、トウルの楽しみがより増したせいだ。


「ミリィ、ゼリードリンクか紅茶かハーブティーかどれが飲みたい?」

「え? でもタンブラーは空なのでしょう?」

「いいからいいから」

「そうね。暖まりたいから今はハーブティが良いわね」

「なら、その黄緑色の角砂糖をタンブラーに入れて振ってみてくれ」

「え、えぇ」


 ミスティラはトウルに訝しんだ目を向けながらタンブラーを振ると、すぐさま変化に気付いたのか、驚いた表情でタンブラーを見つめた。


「あら? 持った時は本当に空だと思ったのだけれど? しかも、なにやら良い香りがしてまいりました」

「ほら、遠慮せずに口付けて飲んでくれよ」

「え、えぇ、では頂きます……」


 湯気ののぼりはじめたタンブラーの口に、ミスティラがそっと唇を触れさせた。

 そして、タンブラーを傾けると、彼女の喉がゆっくりと動いた。


「はぁー……生き返りますわ。本当にハーブティーでした。あら? 何か身体が温かくなって、気持ちよくなってきました。これも錬金術の付加効果のおかげでしょうか」

「よし。こっちも大成功だな。携行簡易調理筒キッチンポットの完成だ!」

「キッチンポット? この水筒の名前でしょうか?」


 トウルがガッツポーズを取って完成を喜んでいると、ミスティラが首を傾げて尋ねた。

 トウルはその質問に目を輝かせると、机の上にタンブラーとガラスのカードと色つき角砂糖の入った瓶を並べた。


「あぁ、そうだ。説明しよう! というか聞いて欲しい!」

「えぇ、教えてください。これがこの前トウル様の言っていた冒険者向けの道具なのですよね?」

「そうだ。多分、ミリィとクーデにとって一番大事なのは、このガラスのカードだ」


 トウルは机の真ん中に置いたガラスのカードを指さした。

 すると、リーファとクーデリアとミスティラの視線が一同に、カードに集まった。


「ただの透明な薄いガラス容器にしか見えないけど……」

「ううん。くーちゃんよく見て。中に何かあるみたい。とーさんこれ何?」


 リーファが仕掛けに気付いてくれたことに、トウルは嬉しくなって頷いた。


「さすがリーファ、良く気付いてくれた。このガラス容器の中に仕込んだのは、超吸水ゲルって言って、自重の千倍の水分量を保水できる優れものだ。ちなみに、このカード一枚に五グラム詰め込んであるから、水は五リットル入るぞ。そのタンブラー十杯分だな」

「これに五リットル!? うわっ、ホントだ結構重い。でも、このタンブラーは軽いよ?」


 トウルの説明でクーデリアが実際に持ち上げると、不思議そうな顔をしてトウルに質問をぶつけた。


「あぁ、そこで作ったのがこの空飛ぶタンブラー《エアロタンブラー》だ。このカード十枚分の浮力を与えることで、カードの重みを相殺してみた。タンブラーの横を見ると、カードの残量が見えるはずだ」

「本当ですわね。残量が9.8になっていますわ」


 横からタンブラーを観察していたミスティラが、納得したように呟いた。


「そして、最後はせっかく水があるのに、水だけじゃ味気ないと思ってさ。クーデがよくお腹を空かせるってリーファが言っていたし、水気のある食べ物から、水分を完全に取り払って角砂糖みたいに固めた固形食フリーズドライミールを作ったんだ。水でもどせば、元の形に戻るようにな」


 トウルは誇らしげな顔で固形食の入った瓶を手に取ると、それぞれ色がついた固形食を指さして説明を始めた。


「ちなみに、オレンジ色がリンゴゼリー、赤色が紅茶、黄緑色がハーブティー、黄色がレモンゼリーだ。あ、ちなみに、白色はシチューだぞ。この瓶でちょうど百個分だ」


 そして、一通りの説明を終えると、トウルは胸を張ってどうだと二人に聞いた。

 だが、二人の少女はキッチンポットセットに釘付けになっていて、なかなか言葉を発しなかった。


「あ、あれ? 何か不満? 水とか食料とか、これならたくさん持てるから、遭難したり、何日も任務が続く時はすごく便利だと思ったんだけど……」


 何かを間違えたのか不安になったトウルが恐る恐る尋ねると、二人はバッと顔を上げ、トウルに詰め寄ってきた。


「す、すごいよトウルさん! これ私も欲しい! 出来ればさっきのリンゴゼリーたくさん入れて! 探索任務のお供にこれはすごい助かるから!」

「トウル様……。正直、私は少しあなたを侮っていたかも知れません。トウル様って天才だったんですね! このキッチンポット、是非売って下さい。あ、後、お茶の種類とスープの種類も増やして下さい!」


 トウルの身体に触れるくらいまで、クーデリアとミスティラはトウルに密着してきた。


「え、ちょっ、二人とも!?」

「トウルさん! お願い!」

「トウル様、私からもお願いしますっ」


 二人はかなり興奮しているのか、戸惑って後ろに下がるトウルにしっかり食らいついてきた。


「わ、分かった。分かった。作るから、落ち着けって!」

「絶対だよトウルさん! やっぱ止めたは無しだよ?」

「楽しみにしていますわ。トウル様。必要でしたら私のお茶コレクションやスープのレシピもお伝えしますので、いつでもお声をかけてください」


 壁際まで追い詰められて、トウルはようやく二人から解放された。

 ホッとため息をついたトウルは今度はリーファの物を紹介したいと思いリーファに視線を向けた。

 端から見ていたリーファにトウルの視線が合うと、リーファは笑顔を浮かべながらトウルの元に飛び込んできた。


「リーファ!?」


 トウルが何とかジャンプしてきたリーファを受け止めると、リーファはトウルの胸元から憧れのこもった視線で見上げてきた。


「とーさん、大人気だね。やっぱ、すごいなぁ。リーファも早くとーさんみたいになりたい」

「大丈夫だ。次はリーファの道具が喜ばれる番だよ。ってことで、クーデ、ミリィ、キッチンポットは作るから、代わりに俺から頼みがある。リーファの実験にこれから付き合ってくれ。早ければ一日、長ければ二週間くらいだ。頼めるか?」


 トウルが二人に頭を下げながら尋ねると、彼女達はすぐに快諾してくれた。


「もちろん。リーファちゃんの頼みだしね。ね、ミリィ」

「えぇ、リーファなら迷惑なことはしないでしょうし。お付き合いするわ」

「ありがとう。二人とも」


 二人の言葉にトウルは笑顔でお礼を返すと、リーファの頭に手を置いた。

 すると、リーファもクーデリア達に身体を向けると、九十度腰をまげて精一杯のお辞儀をした。


「くーちゃん、みーちゃん。おねがいしますっ!」

「任せてよ」

「えぇ、私達に何でも言ってね。あ、でも、疲れるのはクーデに言ってね」

「ミリィ!?」

「冗談よ。やっぱり良い反応してくれて嬉しいわ」


 ハシゴを外されたクーデリアが素っ頓狂な声をあげると、ミスティラは意地悪な笑みを浮かべてくすくすと笑い始めた。

 それに釣られたのか、リーファも一緒に笑い初め、クーデリアも困ったように小さく笑い出した。

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