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トウルの覚悟とリーファの要求

 女王虫を一瞬で撃破したトウルは投擲銃をホルスターにしまうと、ハッと我に返った。


「って、しまった調子に乗りすぎて雷神弾まで使った! リーファ! 目と耳は大丈夫か!? 怪我無いか!?」


 戦闘が終わり興奮した状態から落ち着いたトウルは、大きな音と光が出る弾丸を使った後遺症がリーファに出ていないか確かめるために、慌ててリーファに抱きついた。

 気が気でないせいか、トウルはリーファの身体中をあちこちぺたぺたと触っている。


「とーさんくすぐったい! びっ、びっくりしたけど、リーファはだいじょうぶだよ」

「あ、あぁ、ごめん」


 トウルはやり過ぎたことに気がつくと、リーファを解放して立ち上がった。

 すると、横からクーデリアとミスティラの恨み節が襲いかかってきた。

 二人の声はかなり疲弊しているようで、息づかいが荒かった。


「と、トウルさん、まだ目がチカチカするんだけど……」

「そうですわ。大技を使うならちゃんと言って下さい……」


 頭を押さえる二人に、トウルは申し訳無さそうに頭を下げる。


「すまん。やりすぎた……」


 凍らせるところまでで止めて、トドメは保安員の二人に任せても別に良かったのだ。

 ただ、トウルの反省はリーファの言葉を聞くまでだった。


「ねー、とーさん。さっきカチコチにしたのは何したの? ピカって光ったのは何したの?」


 リーファが腕を組んで悩んだ顔をトウルに向けている。

 錬金術を嫌いと言ったリーファが自分から錬金術のことを考えていることに、トウルは顔を輝かせた。

 そのことが嬉しくて仕方無いトウルは、興奮気味に自分の作った道具の解説を始めてしまう。


「ふふん。良いぞ。リーファは俺の弟子だからな。特別に教えてやる。敵を凍らせた青い砲弾、液化冷却弾だ。空気の中にはマイナス二百度でようやく液体になるのがある。まぁ、ようはそのすっごく冷たい液体リキッドナイトロを扱い安いように他の特性を持つ素材と錬成して、弾丸にしたのがさっきのやつだ」

「最後の冷たい空気の所だけ分かったかも。黄色いのは?」

「電気を帯びやすい素材を合成しまくって、中に電力を溜めた弾丸だよ。簡易的な雷を起こした感じだな」

「へー。やっぱりとーさんはすごいなぁ」

「錬金術、やっぱり好きなんだろ?」

「あっ!?」


 トウルが意地悪を言うように尋ねると、リーファは驚いた顔で口を塞いだ。

 それを見ただけで、トウルはリーファの気持ちが分かった気がした。


「大丈夫。俺はどこにもいかねぇよ。ただ、ゲイルさんには伝えないといけないからさ。一緒に宿屋に行くぞ?」

「……うん」


 リーファが小さな声で頷くと、トウルはリーファの頭を軽くなでた。


「よっし、それじゃリーファ、クーデ、ミリィ。素材の回収作業始めるぞ。こんなに大量の良質な鉱石を落っことしてくれたんだ。全部持ち帰って錬金術の材料にしてやる。代金は今日の晩飯だ! 宿屋で食うぞっ!」


 そして、とにかく明るい声で錬金術師らしく幕を引こうと号令を出した。


「マジで!? ミリィ今の聞いた? やったーおごりだ! さすが国家錬金術師太っ腹!」

「うぅ、こういう時だけはクーデのバカみたいな体力が羨ましいわ……」


 鉱石の塊を各々袋に詰め込み、一行は鉱石の重さにヘトヘトになりながらも無事錬金工房に辿り着いた。



 トウル達が宿屋に到着すると、日はすっかり落ちていた。

 店内では村の人達がワインやビールを片手に、焼いた肉や魚を食べている。

 揚げられたニンニクの香りや炭火で焼けた肉の香ばしい臭いが漂っていて、トウルの胃袋を刺激してきた。


「よし。食うぞっ!」

「食うぞー!」


 トウルとリーファの錬金工房組が店に入り拳を振り上げると、クーデリアも両手をあげて飛び跳ねた。


「おごりだー!」


 そして、一人だけ青ざめた顔で今にも倒れそうなミスティラが続く。


「うー……疲れましたわ」


 四人が席につくと、クーデリアがオススメだと言って、片っ端から注文を始めた。

 トウルの歓迎会の時にも勝るとも劣らない種類の料理が注文されて、トウルは思わず財布を握りしめた。


(足りるよな? だが、下手すると初めてツケを使うことになるかもしれん……)


 ただ、皆の前で驕りだと言った手前、今更引っ込めることも出来なかった。

 それにリーファに嘘つき呼ばわりされたら、やけ酒に沈む自信がトウルにはある。

 トウルが青ざめていると、ふと背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「おや? トウル君にリーファ君、それに保安員のお嬢さんまで揃って食事とは、友人というのは嘘ではないようだね」

「局長? って、食事処はここくらいですもんね」

「ははは。村に失礼なことをさらっと言うね。では、私も失礼しても?」

「はい。リーファの言葉を直接聞いて貰いたいですし」

「ほぉ? 面白い心変わりだ。何かあったのかな?」

「まぁ、ちょっとありまして」


 トウルは誤解が原因でリーファに家出されたことを言い出せずに、笑って誤魔化した。

 ただ、誤魔化しても効果が無いだろうということも、すでに学習済みだった。


「リーファがね。とーさんと喧嘩して家出したの」

「ま、やっぱり言うよな。リーファは」

「リーファが悪いの。リーファがとーさんのお話を聞かないで、勝手に家出したのが」

「リーファ。大丈夫だ。誰も怒ってない。代わりに一つ聞かせて欲しい」

「なに?」


 トウルは大きく息を吸い込むと、ゆっくり息を吐き出して心を落ち着かせた。

 今から言うのは明らかにおかしいことだし、恥ずかしさも感じる。

 出来ればリーファから言って欲しいことだった。

 でも、家出された時は本気で心配したし、ずっとリーファの成長を見ていたいともトウルは思って、自分から言う覚悟を決めた。


「公開公募に入選すると特許料が入ってくる訳だけど、リーファの場合は十五歳未満だから、直接受け取れないんだ」

「リーファ参加できないの?」

「いや、参加出来る。師匠として俺が推薦を出したし、ゲイル局長も推薦を出してくれる。ただ、子供の参加者は保護者の承諾が必要なんだ。特許料の受け取りもその子の家の家長になる」

「……リーファ。……お父さんとお母さんいない。一人なのがダメなの?」

「あぁ、入選した時に特許料と錬金炉を受け取れない」


 トウルの真剣な言葉に、リーファは目に涙を浮かべながら俯いてしまった。

 リーファは別に何も悪くない。それなのに、決まりを告げなければならなかったトウルは胸が痛んだ。


「だから、リーファ。俺がお前の義兄になる」

「お兄ちゃん?」

「あぁ、中央でやる仕事っていうのは、俺の親にリーファを養子として受け入れて貰うって話しだったんだ。でも、決めるのは俺じゃ無くてリーファだから、リーファの意見を聞きたくて――」

「トウルお兄ちゃん?」

「あぁ、リーファさえ良ければ、俺はリーファの師匠として、お兄ちゃんとして、これからも一緒にあの錬金工房にいるよ」


 トウルは勇気を出して素直に自分の気持ちを口にした。

 リーファと一緒にいられたら、村の人達を喜ばせることが出来て、きっと錬金術は楽しくなる。リーファがくれた笑顔のせいで、トウルは村に残ろうと決めていた。

 リーファはトウルの顔を見つめながら、お兄ちゃんと呟いている。

 トウルの申し出が突然過ぎて、リーファは戸惑っているようだ。

 こうなることを予見していたトウルは自分から言い出すことをせずに、リーファに自分から言って欲しかったのだ。

 それに、一人ではどうしようも出来ない時は、甘えても良い。ということもリーファに覚えて欲しかった。


「どうだリーファ?」

「とーさんがお兄ちゃんはやだっ!」

「そうか。嫌か。え、嫌?」


 トウルはリーファの返事が信じられなくて、身体をがくがくと揺らしながら尋ね返した。

 トウルの動揺が椅子と机に伝わっているのか、ガタガタと木の揺れる音がする。


「うん。とーさんがお兄ちゃんは何か変」

「いやいや、変とかじゃなくて、十五歳以上の家族がいないと公開公募に申請しても」

「リーファ、こーかいこーぼは受けるよ。でも、とーさんの妹じゃないの」

「それじゃ、ダメだって説明したろ……」

「うん。分かってるよ。だから、とーさん」


 リーファは椅子から降りると、腰を九十度曲げて、精一杯のお辞儀をトウルに向けてきた。


「リーファのお父さんになってください」

「とーさんじゃなくて、おとーさん?」


 呼ばれ慣れた言葉にわずか一文字ついただけなのに、トウルはお父さんという言葉の意味をすぐには理解出来なかった。

 トウルが困惑して固まっているのに、空気を読まないウェイターがゴトッと置いたグラスの水が、左右に大きく揺れている。


「うん。お父さん」

「……父親的な意味のお父さん?」

「ダメ?」


 顔をあげたリーファが小首を傾げて、上目遣いでトウルを見つめてきた。

 ゲイル局長も、クーデリアも、ミスティラも、黙ってトウルを見ている。

 リーファに選択肢をプレゼントしたつもりだったトウルは、まさか自分が最後の決断を下すとは思ってもいなかった。


「リーファは……良いのか? 俺がお父さんで。確かに俺が養子申請出してもいけるはずだけど……」

「うん。だって、お父さんの方が呼びやすいもん。とーにーさんだと別人に聞こえちゃう」

「そんな理由っ!?」

「うんっ! そんな理由っ!」


 トウルがたまらずつっこむと、リーファは元気いっぱいの笑顔を浮かべて頷いた。

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