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リーファ初めての応用錬金

 トウルは製図室の図面台の前で腕を組んだ。


「俺は元気だ。完全復活だ。リーファはどうだ?」

「リーファも元気だ。完全復活だー。じーさんのためにも、今日のお仕事がんばってみよー」


 リーファもトウルの真似をして、腕を組むと元気な声を出した。

 そして、リーファを子供用の高い椅子にのせ、トウルも自分の椅子に座った。


「よし、なら、まずはC繊維の設計図を引くぞ」

「直接つるはし作らないの?」

「素材は最大六種類しか入らない。逆に言えば六種類以上材料がある場合は、どんどん素材をまとめる必要があるんだ。連続錬金はありきたりで安い素材から高価で貴重な材料を作ることが可能になる。覚えて損は無い」

「そっかー。とーさんは物知りだね。そのしーせんいってどう描くの?」

「ちゃんと見てろよ」


 トウルは図面に糸が巻かれたボビンを描き始めた。

 材料には木片、砕けたガラス、糸の三つ。そして、その材料に対して複雑な錬金術式を書き込み始めた。


「リーファ。描けたか?」

「出来たよ。間違えてない?」

「どれ? 出来てる。さすがリーファだな」

「えへへー」


 嬉しそうに笑うリーファの頭をトウルは軽く撫でると、素材をはかる作業台へと場所を移した。

 流れるような速度でそれぞれの材料を量ると、トウルは錬金炉に次々材料を投入していった。


「よしっ。錬金炉起動」


 トウルの合図で錬金炉が錬金術を開始した。

 いつもならここで次の錬成に向けて設計図を描くところだったが、リーファのはかる作業をトウルは見守ることにした。

 作業台も二つに増やした方が良いかもしれない。そんなことを思いながら、リーファがミスをしていないか注意深く手元を観察しておく。


「よし。俺の方はバッチリ出来てる。リーファ材料を投入して、錬金を開始してくれ」

「はいっ!」


 全く同じ作業をこなしたリーファが錬成を開始した。

 成功した確信を得たトウルは、また図面台に戻るとリーファを椅子の上に乗せた。


「次は刃の材料になるダイヤメタルを作る。リーファは初めての材性合成錬金だけど、ちゃんとついてこいよ」

「材性合成錬金?」


 首を傾げて尋ねるリーファにトウルは咳払いをした。

 今までは単純に素材の特性を重ねて完成品を作っていたが、リーファにならその応用が出来ると確信したからこそ、説明する気になった。


「全く別の材料を合成して、二つの材料の良いところ取りをするんだ。例えばガラスって硬いけど、簡単に割れちゃって脆いと思うよな? ゴムは柔らかいけど、なかなか力を加えても割れない。なら、この二つの特性を合わせれば硬くて割れにくい材料が出来るって理屈だ」

「美味しくて腐りにくい牛乳みたいな感じ?」

「まぁ、大体あってる」

「なるほどー」

「よし、錬成するぞ」


 トウルは長方体の箱を図面に描き、また各種材料と錬金術式を書き込み始めた。

 材料は炭と川岸に転がっていた火成岩、そして燃料となる油の三つだ。


「とーさん、岩から金属が出来るの?」

「マグマが冷えて出来た岩って意外と金属を含んでるからな。抽出さえ出来れば立派な金属材料だ」

「へー。錬金術はすごいね」

「あぁ、ただ、術式は間違えるなよ」

「はーい」


 トウルのお手本通りリーファが設計図を作り、黒く輝く金属が錬金炉の中に生まれた。

 その金属塊をトウルが片手で取り出し、リーファの手にのせる。するとリーファは目をまん丸にして驚いた。


「軽い! これ本当に金属?」


 リーファが両腕で抱えると顔が隠れるくらいの大きな塊を、リーファは楽しそうに振り回している。


「ふふん。これが錬金術の力だ。よし、リーファもやってみろ」

「うん! 材性合成だよね」


 リーファは鼻歌を歌いながら材料を投入し、錬金術を成功させた。


「出来たー!」


 材料が出来たら、もうツルハシの完成も目の前だ。

 リーファが大喜びで錬成されたダイヤメタルを掲げた。

 最高の道具を作るには、最高の材料を作る。

 材料の発展とアイデアの展開を極めた錬金術師は無敵だ。

 トウルの師匠の教えであり、錬金術が発展した原動力だ。

 リーファは一流の錬金術師の仲間入りを果たす大きな一歩を踏み出した。


「さすがリーファ。やっぱお前は天才だよ」

「えへへー。とーさんの設計図が凄いからだよー。レシピ本にもたくさんとーさんのメモが書いてあって、何が大事なのか、どこを間違えると失敗するか、たくさん教えてもらったよ。とーさんはやっぱりがんばり屋の天才だね」

「がんばり屋の天才か。……そっか。見てくれたのか。ありがとな。リーファ。よし、最後の仕上げだ。設計図描くぞ!」

「うんっ!」


 その後、ノリに乗った二人は設計図を描きまくり、たった一日で指定された量の採掘道具を作り上げた。

 そして、つみあがった道具達の前に立ったトウルは汗を拭った。

 一人で研究していた頃もかなりの無茶をして錬金していたが、その時とは達成感が段違いだった。

 その理由の答えはリーファが教えてくれた。


「じーさん達、絶対よろこんでくれるよ」

「だな。依頼の付加効果もバッチリつけたし」


 受け取って喜んでくれる人の顔を、トウルは初めて想像出来た。

 左遷された上に一人で錬金工房をやっていたら、絶対に想像出来なかっただろう。

 ただ、トウルは素直にリーファにお礼を言うのを恥ずかしいと感じたため、錬金術師の師匠らしいお礼を口にした。


「とまぁ、こんな感じに、色々な材料の特性をかき集めて、付加効果もさらに付け替えると、軽くて丈夫な物も作れるんだ。これが鍛冶錬金術の基本だ」

「うん。材性合成覚えたよ。ねえねえ、この賢者の石もこうやって作ったの?」

「お、さすがリーファ。勘が良いな。材性合成は必要な技術の一つだ。でも、まだまだ覚えることはたくさんあるぞ」

「えへへ。リーファ、もっと頑張るね。錬金炉をもらってとーさんと今度は横にならんで一緒に錬金術やるんだ」


 リーファの笑顔を見ていると、何故かトウルは胸に不思議な罪悪感がわき上がっていた。

 誰かの笑顔のために錬金術を覚えていくリーファが、誰かを傷つけるための研究をしていたトウルのことを知ったら、どんな反応をするのか。

 そんなことを想像すると、賢者の石を作れるようになるまでは隠し通そう。とトウルは自分に誓うのだった。


「あぁ、でもその前に今日はもうご飯にしようか。リーファ準備を頼む。今日はクーデとミリィにも食べて行って貰うから、多めにな」

「はーい。全部リーファにまかせてとーさんは休んでて」


 リーファを部屋から追い出したトウルは、部屋に隠しておいた設計図を取り出した。

 クーデリア達の武器の設計図だ。

 錬金用の材料はわざと余るように作ってあったので、材料から錬成していく必要はない。

 リーファが晩ご飯の準備を終える前に、錬成し終えるだろう。


「本当に俺と全く同じ錬金してるよ。すごいなリーファ。どれぐらいでお前は一人前になるのか、見ていてすごく楽しみだ」


 設計図と一緒に材料を手に取ったトウルは、改めて達成感を感じていた。

 達成感の半分以上はリーファの成長なんじゃないか。

 そんなことを思わず思ってしまったトウルは優しい笑顔を浮かべた。


「よし。とーさんはもう少し頑張るか」


 冗談のように呟いたトウルは、リーファの鼻歌を真似て口笛を吹きながら錬金術を始めた。



 トウルは錬成した武器を持って一階の店に行くと、すぐに武器をクーデリア達に手渡した。


「どうだクーデ? 前より軽くて動きやすいはずだけど」


 クーデリアが鞘から剣を抜くと、黒い刀身が現れた。


「うわっ。軽っ! めっちゃ軽いねこれ! でも、脆くなったりしないの?」

「そうならないようにするのが錬金術師だ。俺とリーファの作ったダイヤメタルは砕けないし曲がらない。その上で切れ味も限界まで求めた。血糊の問題は吸血蝙蝠の牙を使って付加効果に吸血をつけた。血を吸って、体力にかえる付加効果だ。後はこの山で採掘される属性結晶を混ぜたから、敵を切りつけた瞬間、火炎と電撃が敵の体内に送り込まれるはずだ」

「うわー……今更ながら貰っちゃって良いのかな? 中央で見た属性剣ってかなりのお値段したんだけど」

「構わん。リーファのために力を貸してくれるのなら、これぐらい安い。武器の名前は《ブラッドバイト》だ。昔の鍛冶錬金術師のレシピに書いてあった」


 トウルは戸惑うクーデリアから視線を外すと、ミスティラに杖を渡した。


「どうだ? 魔力回路を強化して、より強い魔力を込められるようにした。属性結晶も六種類に増やしたから、魔法の幅も広がるはずだ」

「えぇ。正直驚いております。中央で買ったあの杖も、かなり名のある名工でしたのに、まさか本当にあれ以上のものを作るなんて」

「そこらの街にいる錬金術師よりは、腕が立つつもりでいるからな。そのために努力はしたつもりだ」


 トウルが腕を組んでふふんと鼻を鳴らす。

 すると、クーデリアとミスティラはやはり呆れたように笑った。


「こんな性格の人が、リーファリーファって言うんだから、分からないもんだよねぇ」

「いえ、こんな性格の人だからこそ、リーファの人なつっこさが嬉しかったんだと思いますわ」

「あぁ、なるほど。友達いそうにないもんねぇ」


 少女達は毒を吐きながらくすくすと笑っている。


「う、うるさいっ! だ、だって仕方無いだろ。飛び級でみんな周りは年上な上に、俺は平民の出なんだから、クラスにいるのは生意気だ。みたいな空気だったし……なんかみんな目が怖かったし!」


 抗議したトウルの目には若干涙がたまっていた。

 それでも彼女達は楽しそうに笑い続けている。


「いいじゃんいいじゃん。今は私とミリィが友達なんだからさー」

「そうですわね。私は今のトウル様大好きですよ。初めは玉の輿の相手としか見ていませんでしたが」

「ミリィあんたねぇ……私のせっかくのフォローを台無しにしてるから!」

「ふふ、今更ですわよ。クーデだって最初はリーファちゃんを預けてたら、嫌な勉強ばっかりさせられて、リーファちゃんが可愛そう! 私達で救わないとって言ってたじゃない。それで雪合戦しよ。なんて無茶なお願いをしたことをもうお忘れ?」

「にゃあああ!? それ一番言っちゃダメなやつー!」

「きゃぁっ!?」


 クーデリアがミスティラに叫びながら飛びつくと、二人は仲良く床に転がり、身体を重ね合った。

 どさくさにまぎれて告げられた残酷な事実にトウルはため息をついたが、心は思った以上に落ち着いている。


「ほら、立てるか?」


 トウルは倒れた二人に手を伸ばした。


「ありがと……」

「感謝します」


 立ち上がった二人は顔を朱に染めて、トウルとは視線を合わせず感謝の言葉を述べた。

 言ってはいけないことを言ったと、思っているのだろうか。

 気遣いが出来ないのか出来るのか分からない子達だと、トウルは改めてため息をついた。


「その……俺は二人の友達でいいんだよな?」


 トウルは自分で言って恥ずかしくなったせいで、最後の方はかなり小声になっていた。

 二十を超えた大人が、まさか十五の子供に友達になっているかの確認をするとは、トウルは思ってもいなかった。


「もちろん! お店の商品も友達価格にしてくれると嬉しいなっ」

「ふふ、これで遠慮無くトウル様をからかえます」

「ちょっと待て二人とも。それはおかしい!」


 二人の友情に、トウルは彼女達と友達になったことを後悔しかけた。

 でも、トウルの心は弾んでいる。

 思わず笑ってしまっている自分に気付いて、トウルは改めて村に来て良かったと思った。


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