いろいろあった後
農園事件から数日経って、私達の学校生活にはちょっとした変化が現れた。
ルイスが私達三人を工房クオーツに招いて、多くの生徒に錬金術の指南をお願いしてきたり、開発局から流れる依頼をこなす場所を提供したりしてくれるようになった。
何でもカイト君の言葉で改心したとかで、平民出の生徒も分け隔て無く参加させるようになり、多くの人に錬金術の現場を知って貰う工房に変えたいと言っている。
もちろん、私の言いつけ通り畑には毎日通い、畑の再生だけでなく、雑草や害虫駆除にも錬金術の道具で対処をしている。
こてんぱんにされたルイスだったけど、徐々に自分の力で何かをすることで、自分自身に自信を取り戻したみたいで、人当たりはかなり柔らかくなった。
カイト君のことはカイト様と呼ぶし、平民出だとバカにしていたライエのことは、何とライエ師匠と呼んでいる。農業用の道具を作るアドバイスをライエが出していたせいか、いつのまにかそう呼ばれていた。
そして、私はというと……。
「リーファ大先生!」
「いや、だから大先生はやめてよ……ルイスさん」
「何を言いますか。大先生! リーファ大先生のおかげで僕はようやく本当の意味で錬金術師見習いになれたんです。リーファ大先生の慈悲がなければ、僕はずっとろくでなしのままでした!」
「いや、だからって大先生はないでしょ!? らーちゃんとカー君が手伝ってくれたから、いろいろやったんだし」
勘弁してよと思いながら手を振っていると、ルイスは少し悩んでから真面目な顔で私の目をジッと見つめてきた。
「大天使リーファ様の方がよろしかったですか?」
「そっちはもっと嫌ぁっ!」
という感じで、結局私はリーファ大先生と呼ばれている。そのせいで、工房にくる人達がみんな私のことを大先生と呼ぶから、もうどうしようもない。
まぁ、うん、もうとっくに諦めたよ。これでも、最初の時よりもかなり印象良くなったんだから、呼び方ぐらい多めに見てあげることにしたよ。私も呼び方に関しては人のことを言えないからね。
想定外の結末もあったけど、村に帰れば精霊祭の花火をお父さんと一緒に考える忙しい日々を過ごしている。
そんなお父さんが花火のアイデアを図面に引きながらぽつりと呟いた。
「今年の精霊祭は一万人超えそうだって村長が言ってたんだ。高速鉄道で日帰りが出来るようになったって言っても、水の家を増産する必要があるだろうな」
「七年前は発注間違えたって大騒ぎしたのに、今じゃあの誤発注騒ぎの十倍だもんね。あの時は人を千人集めてくれってじーさんが大慌てしてたよね」
「あはは。そうだったな。友達がいなくて俺も大慌てしたっけ。でも、あの時からはこんなことになるなんて予想出来なかったよなぁ」
精霊祭を告げるポスターに視線を移したお父さんが言いたいことは、私にも分かった。
花火責任者があまりにも豪華過ぎて、私とライエがかすむくらいだ。
「国家錬金術師のお父さんとれーちゃんと狸さんがいて、カー君とらーちゃんと私がいる。あ、今年は隣町のクラフトもいるんだったね」
錬金術師が七人も一つの祭りに参加することは滅多にない。
それぞれが己の技術とセンスを注ぎ込んで作り上げた花火は、多くの人を魅了してきた。
年々参加する錬金術師が増えてきて、巫女も可愛い双子の姉弟になって祭りはどんどん面白くなっていく。
「えへへ。今年はカー君も花火の打ち上げ席にいるから、花火の中で一緒に踊れるなぁ」
「なんだって!? しまった! 失念していた! リーファ、お父さんと踊ろう」
「あはは。大丈夫大丈夫。ちゃんと踊ってあげるから安心して。というか、お母さんと踊ってあげないと、拗ねちゃうよ? それにリィンとトウカもいるでしょ?」
「うっ……。なんかまたリーファが一段とお姉さんになったなぁ……」
「えへへ。いろいろあったから」
「そうか……。子供の成長は本当に早いなぁ」
感慨深そうに目を瞑るお父さんがおかしくて、私よりお父さんの方が子供っぽく思えてしまった。
「よし、ちょっと星海列車に乗って、カイト君に勝負を挑んでくる。勝負内容は踊りと花火だ。リーファと精霊祭で踊るんだ。カイト君も恥ずかしい物を見せる訳にはいかないだろ」
「どうしてそうなったのお父さん!? っていうか、今もう夜だよ!」
やっぱりお父さんの方が子供っぽい。
カイト君とはやっぱりちょっと違うかも。そんなことを思いながら、私は必死にお父さんを止めた。
ほんのちょっとだけ違う好きに気がついた。そんな気がした春だった。