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カイト君の機転

 リッツクレット銀行本店に入店した瞬間、私達はカイト君を先頭に頭取の部屋に通された。

 スーツを着たミドルなおじ様方が多い中、若い私達がいるのはかなり不自然だったけど、カイト君は堂々と廊下を進んでいた。


「これはこれは、カインハート王子。ようこそおいでくださりました」

「いえ、こちらこそお忙しい中、時間を作っていただきありがとうございました。ギースさん」


 部屋の中央に座っていたのは眼鏡をかけた優しそうな青年で、お父さんより少し歳をとったくらいの人だった。

 三十くらいでこんな大きな銀行のトップをやっている人が、パーラのお父さんっていうのだから、世の中は不思議だ。

 カイト君はまるで昔からの知り合いかのように挨拶をし、ギースさんも挨拶を返していた。

 そして、その挨拶のやりとりで私の疑問も解消された。


「先代が亡くなられてから三年ですが、立派に銀行を支えていらっしゃいますね」


 ギースさんも親の後を継いでいたみたいだ。


「いえいえ、まだ父には遠く及びません。ところで、今日はどのようなご用件で? というか、家のパーラが来ているようにも見えるんですが……」

「はい。僕達のお友達なので」

「それは恐れ多いことを!? 何かご無礼は働きませんでしたか!? 言葉遣いが最近淑女らしくなくて……」

「いえいえ、大丈夫でしたよ。ね、パーラさん?」


 青ざめるギースさんに対して、カイト君はパーラにウインクしながら微笑んだ。


「へ……? カイト……さん、あなたもしかして……」

「あはは。隠すつもりだったんだけど、第三王子のカインハート=エウラシアです」

「はぁっ!? えっ!? 王子様なの!? あんたが!?」


 パーラのあまりの驚きっぷりに、ギースさんは慌ててパーラの口を塞ごうとしたが、カイト君が手でギースさんを制した。


「うん。僕なんかが王子なんだ。だから、これからもいつも通り接してくれると嬉しいな」

「えっと、あの、その」

「ほら、僕のことよりも大事なことがあるよね?」

「あ、はい」


 夢見心地なのかパーラはフラフラとした足取りで、花瓶をギースさんの机の上に置いた。


「パーラ、これは?」

「お父様。ごめんなさい。割った花瓶の代わりに、カイトさん達と一緒に花瓶を作ったんだ」

「でも、これ、中に花を入れられないぞ」

「今、じいやが持っている花瓶に花を入れると、こっちの花瓶にも花が出てくるのよ。お父様達は忙しいから、手入れはあたいが家でやる。ほら、こんな感じ」


 パーラが自分の花瓶に花を入れると、同じ花がギースさんの机の上の花瓶に現れた。


「おぉ……。これはすごい。さすがカインハート殿下……」

「いえいえ、僕だけではありません。ここにいるリーファさんとライエさんの三人の力ですよ」

「ありがとうございます。娘がご無理を言って申し訳ありません」

「ふふ、そのパーラさんが装飾のデザインをなされたのですよ。元気の良い可愛らしい娘さんですね」


 優しく微笑むカイト君に見つめられ、パーラが手をもじもじとしている。

 あれ……? この雰囲気って何か嫌な予感がするんだけど何でだろう?

 いや、相手は五つも下だから、どうってことはないはずなんだけど、この反応は昔、お父さんに見つめられたお母さんの反応に似ている!?

 え? もしかして、パーラもカイト君好きになったとか?

 と私が余計な心配をしていると、カイト君は勝手に話を進めていた。


「それと、ギースさん。お願いはもう一つあります」

「何なりとお申し付け下さい」

「僕がとった時間は一時間ですけど、残りの時間をパーラさんと一緒に過ごしてあげてください。パーラさん随分と寂しがっていましたよ。親子の時間をどうか大切に。それが僕のお願いです」

「ありがたき御言葉……お心遣いありがとうございます」

「いえ、では、僕達はお邪魔なので、お暇しますね。みなさん行きましょう」


 カイト君の合図で私達は、パーラに別れの挨拶をしながら手を振って外に出た。

 そうして、外に出た私はすぐにライエに首を向けた。


「らーちゃん……気付いた?」

「えっと……?」

「パーちゃんの最後の反応……顔赤かったよね?」

「あー……」


 私の意図が分かったのか、ライエは何かに気付いたように天を仰いだ。

 ただ、カイト君だけは私達の感想とは、全く違う反応をした。


「きっとお父さんと久しぶりに会えて嬉しかったんですね。仲直り出来そうで良かったです。これもリーファさんの機転のおかげですね」


 カイト君が自信満々な自説をぶっこんできて、私とライエは同時に呆れた目を向けた。


「えっと? 二人ともどうなされました?」

「ううん。カイト君って、やっぱりちょっとお父さんに似てるかも」

「そうかも。ちょっと昔のトウル師匠に似てる」

「そうですか? あはは。それはトウルさんに負けないように頑張らないといけませんね」


 カイト君は私達の気持ちを知らずに、嬉しそうに笑っている。

 うん、そういう所がよく似ているよ。


「りっちゃんも似てるけどね……」

「あ……どうしよう、意外と嬉しい」

「わはは……ダメだこりゃ……」


 ライエが呆れた笑いをこぼしながら、私から視線を外した。

 確かにお父さんは鈍感だけど、優しいし、みんなが困った事はすぐ解決して格好良いから、似てると言われると嬉しいんだよ。

 そうして、私達は依頼が終わったことを報告するために開発局に戻ると、何故かレベッカさんが難しそうな顔をして、私達のことを待っていた。


「あれ? れーちゃんどうしたの?」

「リーファ。雷針君のレシピを見せて貰えない?」

「へ? 何かあったの?」

「良いから」

「良く分かんないけど、えっと、下書きだけどこれで良いかな?」

「うん。なるほど」


 レベッカさんは大きくため息をつくと、下書きの紙を私に返してくれた。


「とりあえず、応接間にあがって、東区の農家さん達に素直に説明しなさい」

「へ?」

「彼らが言うには雷針君が暴走して、畑をメチャクチャにしたらしいのよ」


 レベッカさんの言っている意味を理解するのに、私は少し時間がかかった。

最初は嘘かとも思ったけど、レベッカさんが頭を押さえながら、困ったようにため息をついている様子は嘘に見えない。


「ライエが派手に持ち上げられた分、早く収拾を付けないとちょっと面倒なことになりそうなのよねぇ……。リーファ、ライエ、カイト君、さっきの設計図であなた達の無実は私達錬金術師には証明出来るけど、あの人達には多分分からない。だから、ちゃんと説明してあげて」


 新たに降りかかったトラブルに、私達は三人で顔を見合わせて、数秒間かたまり続けた。


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