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パーラへのプレゼント

 レベッカさんの工房を借りて、私達は何を作るか改めて考えていた。


「さてと、それじゃ何作ろうか?」

「……決めてないのに連れてきたの?」


 私の問いかけにパーラはジト目を向けてくる。

 その呆れた目を私は笑って誤魔化した。ルイスのせいで色々と計画が狂ったから、ちょっと困っている。


「というか、そこのライエは新聞に写真が載ってたけど、何でリーファとカイトは名字だったのさ?」


 そんな私の気持ちを無視して、パーラがライエの前に立って彼女を睨み付けた。

 パーラが私達の名前をちゃんと覚えていたことに、ライエも驚いて聞き返している。


「良く気付いたね」

「ふん。やっぱあんた達だったのね。で、そんなのが三人も揃って案が無いってどういうこと?」


 ライエがパーラに睨み付けられて苦笑いしている。

 口の悪さはライエの妹以上だなぁ。

 ただ、わざと口を悪くしているようにも聞こえるから、慣れたけどね。

 だから、もう遠慮無く聞いちゃうと決めたんだ。


「ね、パーラちゃん。どうして新しい花瓶を買うんじゃなくて、割れた花瓶を直そうと思ったの?」


 私が屈んでパーラと目線を合わせながら尋ねると、パーラは頬を染めて顔を反らした。


「笑わない……?」

「笑わない」

「……あたいより大事にされてそうでむかついた」

「なるほどね。それなのに怒られなくて、自分は花瓶以下だって思っちゃったんだね?」


 私の質問にパーラは俯きながら小さく頷いた。

 私もその気持ちが何となく分かる。小さい時は誰かの役に立っている間はいて良いんだと思えた。

 私の価値は家事や仕事にしかないんだと思っていた。

 だから、それが無くなった時、自分の価値が消えてしまう気がして、私は無理をしてでも自分の存在価値を見せようとしていた。

 私はそんなことをしなくても見守ってくれるお父さんを手に入れたけど、パーラはがんばっても両親に振り向いて貰えなかったんだろう。きっと、怒られてでも見て欲しかったんだ。

 私も久しぶりにお父さんに怒られたけど、そのおかげで私はちゃんと見守られていることを実感出来た。


「ぱーちゃん」

「なっ!? なにすんのよ!? 急に抱きつかないでよっ!? 後、パーちゃん言うな!」


 何となく、自分を抱きしめるみたいに、私はそっとパーラを抱きしめた。


「大丈夫。パーちゃんはパーちゃんだから。ルイスとのやりとりも格好良かったし、しっかりしてるよ」

「何を急に言い出してっ!?」

「大丈夫。パーちゃんは演技力もあるし、もしかしたらすごい舞台女優になれるかもよ。数学もできるんだよね。パーちゃんはきっと凄い大人の女性になれるよ」

「そ……そうかな?」

「うん」


 段々大人しくなるパーラの髪の毛を私はわしゃわしゃと撫で回した。


「って、だからパーちゃん言うな!」

「あはは。パーちゃんの方が可愛いよー」

「なんなの!? この人いっつもこんな感じなの!? あんた達友達なんでしょ!? 止めなさいよ!」


 パーラが私の腕から離れようと、ライエとカイトに助けを求めている。

 ちょっと上から目線なSOSにライエとカイト君は苦笑いしていた。


「昔から仲の良い人はそういうあだ名をつけられるよ。私も七年間らーちゃんだし」

「僕も会った日からカー君でしたし。きっと、パーラさんが諦めるまで、パーちゃんと呼ばれ続けますよ」


 諦め気味な二人の口調にパーラがうんざりしたようにうなだれた。

 会った日から七年間というのが意外と重かったみたいだ。


「もうパーちゃんで良いわ……」

「えへへー」

「別に嬉しくなんて無いんだからね!」

「私は嬉しいよ」

「ダメだこの人……」


 パーラはうんざりとしたように私に身を預けてきた。

 なんだかんだで肩の力が随分と抜けたし、呼吸も落ち着いている。

 歳は離れているけど、弟のリィンも緊張から解き放たれて落ち着くと、似たような態度をとる。

 そのおかげか、パーラはようやく本心を語り始めてくれた。


「あのね……お母様が花瓶に花を活けるのが好きなんだ。お父様はそれを見てニコニコして、じいやと私がお庭から花を取ってきて、お母様に渡すとどんどん綺麗になっていくの」

「おー、お母さんすごいね。パーちゃんもお手伝いするなんて偉いね」

「当然よ。でも、そのせいでお父様とお母様は花ばっかり見て、私のこと見てくれなかった。だから、割ったのに、あたいのことを見てもくれない。だから、花瓶を直せれば、驚いてこっちを見てくれるかなって思ったんだよ」

「なるほどね。そのこと、お父さん達には言った?」


 私が尋ねると、パーラは首をふるふると横に振った。

 少しパーラのことが分かってきて、何となく私の中で完成のイメージが固まって来た。

 だめ押しと言わんばかりに、私はパーラから話を引き出そうとしてみる。


「直接言うのは恥ずかしいよね」


 この質問にパーラは無言で首を縦に振った。


「お手紙は書ける?」

「当たり前よ。文字くらい書けるわ」

「お花を花瓶に活けるのは好き?」

「うん……じいやにも教えて貰ってる」


 それだけパーラに出来ることがあるのなら、私が作る道具はもう決まった。

 パーラの気持ちを伝えるための大事な道具、名前はそうだなぁ。


「うん、なら良かった。ね、お手紙花瓶作ろうか?」

「え? お手紙花瓶? なにそれ?」

「えっとねー」


 私は紙を取り出して、どんな道具になるか絵を描いて説明してみた。

 二つの永細く四角い花瓶、水しか入っていないフタのついた物と、フタの空いた物。

 フタのある瓶には光る結晶を入れておく。

 私が説明を終えると、パーラは信じられないと言った様子で、私の目をのぞき込んできた。


「こんなので、本当にそんなことが出来るの?」

「出来るんだよねー。お父さんがやってるし。この腕時計もそうだからさ」

「へー……錬金術って便利ね。魔法みたい」

「まぁねー。それじゃパーちゃんはどんな見た目の瓶が良いか描いてみて」


 瓶のデザインを考えるパーラを見ながら、私は設計図を思い描いていた。

 思い出していたのは、お父さんがプレゼントしてくれたお喋り人形と腕時計、それに亡くなったマリアお母さんが私に残してくれた映像のお手紙。

 それと、レベッカさん達と一緒に作った消える広告。

 私が貰った素敵な物を頭の中で組み合わせていく。


「トウルさんのこと思い出してる顔してます」


 ふとカイト君に声をかけられて、私は彼の方に振り向いた。


「へ? 私そんな変な顔してた?」

「いえ、幸せそうな顔です。正直、トウルさんが羨ましいくらいな素敵な笑顔でした」

「えへへ。うん、大事な思い出を思い出してたから」

「僕達はどうすれば良いですか?」

「えっとね。結構色々錬成するから手伝って欲しいんだ。レシピ本の七色鋼と発光ガラスと共鳴石を作りたいからさ」


 私はカバンからレシピ本を取り出して、必要な道具のページに付せんを貼っていった。

 そのページをカイト君とライエが確認していく。


「何というか当たり前のように高等術式が書いてありますね。鏡面異性化とかまだ授業に出たことも無いはずですよ」

「これも設計図の寸法間違えると、自己発光による熱がこもって爆発するから取り扱いに注意って書いてある……」


 お父さんやマリヤお母さんみたいなベテランが取り扱う分には慣れたものだろうけど、私達みたいな見習いでは習ったこともない素材も多い。

 確かに見た瞬間は戸惑うかも知れないけど、私は二人も立派な錬金術師だということを知っている。


「でも、いつかはやることです。やってみせます」

「だね。まぁ、難しい設計図はトウル師匠にも教わっているし、何とかなるはず」


 二人とも気付けばペンを持って笑っていた。


「うん。失敗しても良い。成功するまで諦めないことが大事だって、お父さんも言ってるしね」


 二人に続いて私もペンを取る。

 こうして錬金術師三人で小さな女の子がデザインした花瓶を作り始めた。


「やばっ!? 発光ガラスが火を吹き出した!?」

「速く砕いて!」

「みんな下がって!」


 錬金炉から飛び出したガラスの塊が爆発しそうになったのを、カイト君がハンマーで砕いたり、完成品が歪んだせいで作り直したりと、色々と問題があったけど、私達は何とかお手紙花瓶を作り出した。


「ふぅー……何とか完成した……」

「これトウル師匠とかレベッカ師匠なら一発で作るんだもんなぁ……」

「あはは……。でも、私達にも作れたよ」


 私達は汗を拭いながら、机の上に置かれた二つの花瓶を眺めていた。

 そこにカイト君が赤いバラを一輪持ってやってくると、パーラに手渡した。

 その姿にちょっと目を奪われて、羨ましいとまた思ってしまった。

 うーん、カイト君が私にバラのプレゼント……。うわっ!? 何かすごく恥ずかしい!?

 私が妄想している間に、カイト君は話を進めている。


「パーラさん。これはあなたの花瓶です。どうかあなたがこの花を活けて下さい」

「分かった……やってみる」


 パーラが受け取った花を恐る恐る花瓶の中に入れると、何も入っていないフタのされた花瓶がぼんやりと輝きを発した。

 そして、緑色と赤い色が水の中を泳ぎ、次第に花の形へと変わっていく。


「いけっ!」

「お願い上手くいって!」

「そのまま花の形になってください!」


 私とライエとカイト君のかけ声で、瓶の中の光も次第にバラの形へとハッキリと変わっていく。


「すごい本当に同じお花が瓶の中に咲いた!?」

「へへーん。どう? 錬金術ってすごいでしょ?」

「ふ、ふん! でも、お花が見えるだけでしょ?」


 パーラはまたツンを発動させている。

 もっと素直になれば良いのにと思いつつ、もっと驚かせてみて笑わせたくなる。


「らーちゃん、右側のよろしく」

「はーい。んじゃ、りっちゃんは左側か」


 私とライエは紙を一枚取ると、自分の名前と明日の予定を書いた。

 そして、書いた紙を花瓶に貼り付けると、私の前にある花瓶にはライエの書いた文字が浮かび上がり、ライエの前にある花瓶には私の文章が浮かび上がった。


「あっ!? 手紙が読める!?」

「ふふーん。お手紙花瓶だからね。むしろ、お花が見えるのはおまけだよ」

「あたいも書く! じいやも何か書いて!」


 いまだに信じられないのか、パーラは執事さんと一緒に何かを書いた紙を花瓶にはりつけた。


《お嬢様、楽しんでいますか?》

《じいや。いつもありがとう》

《ありがたき御言葉》


 執事さんはパーラの手紙にすぐに返事を書いて、花瓶に立てかけて返信した。


「やるじゃない。錬金術師」

「えっへん。錬金術師だからね」


 パーラが初めて素直に笑ったのを見て、私は胸を張って答えた。


「感謝してあげるわ。それじゃ、今日は終わりでしょう?」


 道具は作り終わった。割った花瓶より遙かに良い物が出来て、パーラも満足している。

 でも、これで終わりじゃない。


「何言ってるのパーちゃん。ここからが本番だよ?」

「へ?」

「お父さんとお母さんに、お手紙花瓶プレゼントしないと。これでお家にもお父さん達から連絡来るし、パーちゃんからもお手紙出せるよ」

「……受け取ってくれるかな?」

「大丈夫大丈夫。パーちゃんが装飾デザインしたんだし。きっと喜んで受け取って貰えるよ」

「でも、お父様達は忙しいから、会いに行けないんじゃ。偉い人と会うことが多くて、分刻みのスケジュールでお仕事してるのに」

「それも大丈夫。ほら、いこっ!」


 言い訳を並び立てて渋るパーラの手を、私はまた引っ張って歩き出した。

 王国でも一、二を争う大銀行の頭取だって、私達なら会いに行く約束を取り付けるぐらい造作も無い。

 というか、下手したら約束無しで行けるんじゃないかと思う人もいる訳だしね。

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