リーファの悪戯
「とーさん準備できた!」
「よし、がんばれ。できあがりを楽しみにしてるぞ」
「うんっ!」
リーファの伸ばす手をトウルが握る。
弟子なのだけれど、こうされると親子に見えそうだと、トウルは苦笑いした。
(父親にしては若すぎるか?)
「とーさん、何笑ってるの?」
「ん? いや、なんでもない」
トウルはリーファの疑問を笑って誤魔化した。
寝言でお父さんとお母さんを求めている子の親代わりになれるほど、トウルは自分に責任がまだ持てなかった。
そして、ゆっくりと製図室に入ると、リーファは既に用意されていた材料を錬金炉に放り込み始めた。
「よーし。これで準備かんりょー。えーいっ!」
リーファが全身を使って錬金炉を起動する。
錬金炉は軽快な音を奏で、白い蒸気を吐き出している。
それに釣られて、リーファも頭を左右に揺らし始めた。
その楽しそうな姿に、トウルはとある悩みが出来てしまった。
風邪が治ったら、大口受注の依頼を片付けないといけない。
それが終わったら、細々とした日用品などの錬成もあるし、リーファの錬金術の練習もある。
「錬金炉一個だと足りないな……」
トウルがいた中央の研究施設では一人一つの錬金炉があった。
仕事用と練習用の二つ錬金炉が無いと、リーファの勉強がはかどらない。
錬金炉を錬金するという荒技も出来なくは無いが、素材の調達が難しすぎる。
「あ、そういえば、とーさん。郵便受けにこれ入ってた」
「手紙? げっ……。あの狸上司からだ」
何で風邪ひいている時に自分を飛ばした人間の手紙を読まなければならないのかと、トウルはため息をつきながら封を切った。
《村の生活には慣れたかな? 天才錬金術師として名を馳せた君のことだから、田舎の錬金工房に飛ばされても、来月の十五日に開催される王立錬金事業公開公募には、もちろん参加して採用事業に選ばれると思っている。今年は冒険者のための道具が課題だ。同時に錬金術師見習い向けのコンテストも開催される。優秀な君の頭脳があれば、リーファ君は才能をめきめきと伸ばしたことだろう。師弟揃って表彰されることを祈っているよ》
「あの狸……どこまでも食えねぇおっさんだな……」
こう書かれてしまったら、トウルとしては逃げることが出来ない。
王立公開公募は錬金術師が国や地方の抱える問題を解決出来るような道具を作り出し、レシピを国に献上することコンテストのような物だ。
見事採択された道具を作った錬金術師には、この国で作られた道具の数だけ使用料が与えられる。
この特許制度は二十年保証されるので、特許を多く持つ錬金術師はかなり裕福な生活をしている。
「まるで狙ったかのように送って来やがった」
「とーさん、どうしたの? 何か面白いこと書いてあった?」
「リーファ、錬金炉欲しくないか?」
トウルの問いかけにリーファはきょとんとした顔で、首を傾げた。
「錬金炉はもうあるよ?」
「リーファがいつでも自由に使える錬金炉だよ。俺が仕事していても使えるし、俺と一緒に錬成が出来るようにするためのね」
「リーファの錬金炉?」
「あぁ、リーファの錬金炉だ」
トウルが頷くと、リーファの目がみるみる間に輝きを増し、ぽっかり開いていた口が段々と笑顔に変わっていった。
「欲しい!」
「よし。なら、参加で決定だな。見習い部門での優勝は小型の錬金炉だ」
「リーファに優勝できるかな?」
「できるさ。俺の弟子だからな」
「うんっ! リーファがんばるね」
リーファが飛び跳ねてガッツポーズをとると、錬金炉からチーンと音が鳴った。
どんな等級と付加効果になったのか。とトウルはわくわくしながら表示される文字を見た。
「出来たみたいだな。うん、等級はB+か。付加効果は痛覚軽減、体力回復大、眠らせる。ん? 普通なら攻撃道具に付ける眠らせるを、わざと付加させたか」
「とーさんには、ゆっくり休んでほしいの」
「それで眠らせるか。なるほどなぁ。回復系の道具でもそういう付加の仕方があったか」
トウルはリーファの発想に感心しながらゼリードリンクを取り出すと、微塵の迷いも無く口をつけた。
冷たいゼリーから、さわやかな酸味とほど良い甘みをふくんだ水がじんわりと口に広がる。
リンゴの香りが鼻に抜けると、気持ちが和らいでくるようだった。
口の中から失われるのがもったいないと思いつつもゼリーを飲み込むと、痛みで熱い喉をひんやりとしたゼリーがくぐり抜けていった。
単純にゼリーが冷たいからではなく、ミントなどのハーブによる清涼感も足されている。
それが火照った身体に気持ちよくて、口の中に流れ込んでくる甘露を空いたお腹に次々流し込んでいく。
あっという間にビンの中身を一気飲みしたトウルは、ぷはぁーと気持ちの良い息を吐いた。
「やっぱりリーファは天才だな。たった一度俺のを飲んだだけで……ここまで……出来るんだから……。というか、付加効果がメチャクチャ強……」
「えへん。ちゃんと眠ったー。後はリーファにまかせてお父さん」
最後に聞こえたリーファの言葉は聞き間違えだったのだろうか。
そんなことを思いながら、トウルは意識を失った。




