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久しぶりの親子喧嘩

 翌日、大学につくとクラスメイト全員からライエが声をかけられていた。

 ノウエストタイムズは中央ではかなり有名な新聞社らしく、ライエはまたたくまに有名人になっていたらしい。

 学生の人達が机に置いた新聞を見てみると、一面にライエの写真が写っていた上に、東部農業地帯の救世主現る! とかなりセンセーショナルな見出しがついていた。

 私とカイト君の名前はラングリフさんと、トーレルさんになっていて、隠れている。

 これも狸さんが何か言ったんだろうなと、私はすぐに理解した。


「ライエさん! あなたどんなズルしたのよ!?」

「そうだ。錬金術師ラングリフってことは、国家錬金術師のトウル=ラングリフだろ? あの人の手柄をお前が横取りしたのか?」


 ラングリフの名前が出るとお父さんの名前が当たり前に出るあたり、何だか信じられないのと嬉しい気持ちが入り交じる。

 でも、今はそれよりもライエが困っているのを助けるのが先だ。


「そのラングリフはお父さんじゃないよ。私の方」


 私はライエの手を引っ張って人混みから彼女を取り出して、打ち明けた。

 その瞬間、至る所から舌打ちやため息が聞こえてくる。


「なら、どちらにせよライエじゃなくて、リーファの手柄か」

「悔しいけど……リーファなら仕方無いわよね。なにせ、公開公募常連の天才だし」

「そうそう。カインハート様に色々便宜をはかって貰ったんだろ? カー君とか未だに呼んでいるし、馴れ馴れしい」


 それらの言葉はライエをバカにしているのは何も変わらない。

 それだけじゃない。私だって分からないことがあったし、一人じゃどうにも出来なかったと思う。

 そのせいか、私の手柄と言われても何にも嬉しくなかった。

 でも、ふとライエの方を見ると、彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。


「原因は私が見つけたよ。解決策の道具はリーファ達と一緒に作った。あなた達が何て言おうと、これは私、ううん。私達が開発局から依頼されて解決した異変」

「バカを言うなライエ! お前がどうして開発局から依頼されるんだよ?」

「言ってなかったかしら? 私の師匠は国家錬金術師のトウル=ラングリフとレベッカ=グレイスですから。師匠達に恥じない努力はしてきたもの」

「なっ……宮廷付きのグレイス家!?」

「リーファちゃんのことを、りっちゃんと呼べるのは伊達じゃないんだからねー」


 ライエは自信満々な様子で級友達の非難を受け流した。

 師匠の名前を出したけど、ルイスの家自慢とは違う。

 ライエはあの二人の弟子として、育ってきた自分に自信を持っている。

 お父さんの名前とレベッカさんの名前を誇っている訳ではない。

 そんなライエのことが、私は何だかとても羨ましかった。


「格好良いですね。ライエさん」

「カー君もそう思うよね」


 笑顔を作って頷いては見たけど、そのカイト君の言葉がまた胸にちくりと突き刺さった気がした。


「なら、他にどんな依頼受けてるんだよ?」

「パーラという子の花瓶の修復をね。知り合いのお子様らしくて」

「ははっ、一気にしょぼくなったなー」

「依頼には変わりないけどね。ね、りっちゃん」


 学生達の中からライエが急に私に声をかけてきて、少しボーッとしていた私は、慌てて頷いた。

 何とも無いただのお喋りだと思っていたけど、人の噂っていうのは変な形で広まることを、私はまだ知らなかった。

 その日、村に帰った途端、工房の前に人だかりが出来ていたんだ。


「リーファ! ライエ! 無事だったか!?」


 その人混みの中から、お父さんが必死な形相で飛び出してきて、私とライエを抱きしめてきた。

 それだけで十分驚いたのに、よくよく見ると武装までしている。

 何か危ないことでもあったのかな?


「お、お父さん!?」

「トウル師匠どうしたんですか?」


 状況が飲み込めない私とライエがお父さんに尋ねると、お父さんは私達を離して新聞を取り出した。


「この一面! 下水道のスライム退治してきたのか!? 怪我無かったか!?」

「あぁ、うん。この通り二人とも元気だよ? というか、お父さん、怪我してたら昨日の夜に薬貰ってるよー」

「え? あっ、そうか……。疲れていたようには見えたけど、確かに怪我は無かったな。って、そうじゃない! 魔物退治するなんて俺は聞いてない! 心配するだろうが!」


 落ち着いてホッとしたり、急に怒鳴ったりでお父さんの顔色がコロコロと変わっていく。

 久しぶりに怒鳴り声を聞いたせいか、私とライエがほぼ同時にビクッと震えた。

 お父さんの奥にいるトウカとリィンもびっくりしていた。


「で、でも、お父さん。私、くーちゃんやディラン先生に護身術とか剣術教えて貰ってるし、お父さんのボムシューターだって作れるし……。カイト君もいるから魔物退治くらい何とかなるよ。それに、みーちゃんだって保安員で魔物退治やってるし、私だってやれるよ」

「そういう問題じゃねぇ!」

「っ!?」


 私の言い訳をお父さんは大声で否定してきた。


「リーファは才能だけじゃなくて、努力もしている。だから、これぐらいは確かに何とか出来るってのは分かる。でもな、リーファは俺の大事な家族だ。そんな家族が知らないうちに危ないことをしているって知るのは、すごく驚くし、心配するんだぞ。俺は……ミリィが魔物退治してることを知っていても、未だに心配なんだから……」


 お父さんは恥ずかしそうに目を反らしながら、最後はボソボソと呟いた。


「って、俺の話は良いんだよ。後、ライエ、お前もだ! お前の家族も俺も、新聞見て驚いたぞ!」

「す、すみません師匠……。でも、私達は!」

「分かってる! 分かってるが、お前らちゃんと俺に言え! 心配するだろう!」


 結局の所、お父さんはとてつもなく心配性だっていうことだった。

 もう私達だって、そんなに心配してもらう子供じゃ無いのに。

 いつもみたいに、立派な錬金術師だなって言って欲しくて、驚いて喜んで貰いたいから黙っていたのに。


「お父さんのバカッ!」

「あっ! 待てリーファ!」


 私はお腹の底から声を出すように叫んで、工房から全速力で逃げ出した。

 行く当てなんかない。無いけど、どこか遠くに逃げたくなった。

 そして、気がついたら、私は坑道の奥にある花畑に着いていた。


「あはは……昔もお父さんと喧嘩した時はここに逃げようとしたっけ」


 夕焼けに染まる花畑に私は腰を下ろすと、長い長いため息をついた。


「はぁー……。何やってるんだろう私……」


 怒られることをしたのは自分だって分かっている。

 それに心配されたこと自体は、落ち着いた今ではすごく嬉しいことも分かっている。

 ちゃんと家族だって思って貰えるんだって、嬉しいはずなのに、何で私はあんなことを言って逃げてきたんだろう……。


「はぁはぁ……リーファ……また足早くなったな……。俺じゃもう追いつけないか……」

「お父さん!? 何でここが分かったの!?」

「……何年一緒にいたと思ってる。はぁー……久しぶりに走ったせいで息がきつい……」


 気付いたら後ろで、お父さんが荒い息を吐きながら座り込んでいた。

 一度転んだのか、ズボンと服に土がついている。

 その必死な姿を見たら、何か色々とどうでもよくなった。


「あぁ、もう、明日筋肉痛になるといけないから、ちゃんと後で温泉湿布貼ってよ?」

「あぁ……ありがとう。そうする……」


 お父さんの背中をさすると、お父さんは呼吸が落ち着いてきたのか、次第に息がゆっくりになっていった。


「リーファ。人の話は最後まで聞いてくれ」

「まだ……怒ってる?」

「うん。怒ってる。でも、ちゃんと言わないといけないことがある」


 お父さんは少しムスッとした顔を浮かべて立ち上がると、服についた土をはたき落として、咳払いをした。

 お説教はまだ続きそうだ。

 嫌だなぁ……。これじゃ、謝りたくても謝れないよ……。


「良く頑張ったな。やっぱりリーファは俺の自慢の娘だよ。村長とかすっげー喜んでたぜ。雷針君の設計図を俺にも見せてくれよ」


 お父さんはポンと私の頭の上に手を置くと、さっきの表情とは百八十度違う、ものすごく嬉しそうな笑顔だった。


「あ……」

「三人ともすごい錬金術師だよ。俺には出来なかったことを、リーファ達はやってる。全く、天才と言われた俺よりすげーことをさらりとやってのけやがって」


 負けず嫌いなお父さんが、負けを認めているのにものすごく優しい表情を浮かべていた。


「……ごめんなさい」

「次からは、ちゃんと俺にも言ってくれよ」

「……ごめんなさい。お父さんに依頼の内容を言っちゃたら、私達の力じゃなくなっちゃうと思っちゃって……」

「知ってるよ。昔の俺もそうだった。師匠や他の錬金術師に相談したら、俺が作った道具じゃないって思ってたから、俺は一人で頑張ってたんだから」


 お父さんは私の身体を抱きしめると、頭をそのままの体勢で撫でてくれた。


「俺はそれが間違いだって気付くのに、十年近くかかったぞ……」


 お父さんの言っていることは随分と情けなくて、私はくすりと小さく笑ってしまった。


「私は一日かも」

「あはは……言うようになったな」

「お父さん。らーちゃんが頑張ってくれて、カー君が頑張ってくれて、二人のおかげでリーファも道具を作れたんだ」

「そっか。三人揃って立派に錬金術師やれたみたいだな」

「……ありがとう。お父さん」


 私はお父さんのその言葉が聞けて、すごくホッとした気がした。

 気が抜けたせいか、何か急にお腹が空いてきた。


「お腹空いたし、帰ろうかお父さん」

「なーに言ってるんだよリーファ?」

「へ?」

「村の掟を忘れたか? 今日は二人の新聞が届いた瞬間に、俺が予約を入れてきたからな! ライエ達には先に行って貰ってるよ」

「あっ……」


 嬉しいことがあったら、みんなで祝う。

 村長の掟を思い出した私は、お父さんが喜んでくれたことが、とても嬉しかった。


「ありがとう。行こうっ! お父さん!」


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