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お父さんの助言

 ちゃんとおしゃべり人形で遅れることは伝えたから、お父さんは特に心配した様子はなく、落ち着いていた様子で私のことを待っていた。

 その上で、私のために残して置いてくれた料理を、お父さんが用意してくれた。


「いただきます」

「大学、どうだった?」

「……お父さん大変だったんだね」


 私は素直な感想を述べて、食事に手を付けた。


「何かあったのか?」

「貴族の人達に意地悪されちゃってさ。うーん、空飛べ袋は高尚じゃないとか、工房経営クラブには、貴族じゃないと相応しくないから、私達は入れないとか」

「工房?」

「うん。学生が運営する錬金工房があるんだ」

「ほぉ……リーファ、ちょっと店の名前を教えて貰えるか? 液化冷却弾と気化火炎弾を撃ち込んでくる。あぁ、後、対人用には顔だけ動けるようにした痺れ薬を用意して……」


 冗談だと思ったけど、お父さんの目は割と本気だった。

 口元は笑っているけど、目は全然笑っていない。


「お父さん落ち着いて!?」

「冗談だ」

「冗談に見えなかったよ……」


 落ち着いたお父さんの様子を見て、私は短く息を吐いた。

 言いたくないけれど、言わないとなぁ。


「バカにされていたのは、リーファじゃ無くて、らーちゃんだったんだ。私は公開公募の結果があったから、特例とか言って入っても良いとか言われたの。でもそんな所、リーファから断っちゃった」

「ライエの努力をバカにするやつは全く目が無いな。あいつは大学で基礎を修めたばかりの奴らより、遙かにやれるぞ。公開公募だってアイデア次第では、上位に食い込めるかもしれない腕がある。それぐらいあいつは七年間頑張った」


 お父さんの言葉を直接ライエに聞かせてあげたかった。

 私から見てもライエはすごく頑張っている。お店の商品を任せられるほどの腕に上がった時点で、ルイス達と同等かそれ以上はあるはずなんだ。


「……やっぱりその錬金工房に一発撃ち込むか……」

「お父さんっ!?」

「冗談だ。でも、俺はそれぐらいむかついてる。何も変わって無いな」


 お父さんはどこか悲しそうな表情で天井を仰いだ。

 そんなお父さんのため息につられて、私もため息をついた。


「でも、そうなると、カイト君は、やっぱり家の名前を隠したんだな」

「あれ? お父さん良く分かったね」

「だって、カイト君の家の名前があれば、大抵の貴族生徒はひっくり返せるだろ。所詮あいつらは貴族の子息であって、爵位を持つ本人じゃない。名前にしか誇りを持てない奴は、本物の王家という名前を持っているカイト君には敵うはずが無いんだ」

「うん。カイト君も自分の名前を出せば、入れるって言ってたよ。でも、カイト君は最初偽名を使ったし、きっとそういうことに名前を使いたく無いんだって、リーファが思ったから止めちゃった」

「そっか」


 お父さんは少し嬉しそうな表情で、仰いでいた顔を元の位置に戻した。

 相談をもちかけるのなら、今がよさそうかな。


「あのね。お父さん。何かバカにされたのが悔しくて、私達三人で錬金工房を立ち上げられないかって、今みんなで考えてるの。でも、場所とか錬金炉の問題があって、なかなか簡単にはできそうにないんだ。お父さんならどうする?」

「そうだなぁ。娘と愛弟子がバカにされたままってのは面白くないな。んー、とりあえず、リーファ達らしい感じの物を考えると……」


 お父さんは顎に手をあてて少し考える素振りを見せると、何かを思いついたのか小さく頷いた。


「空飛べ袋を使って、カタログ販売かな? 中央で商品カタログを配って、注文があったものを村から飛ばす。そうすれば、錬金炉も場所の問題も解決だ。カタログは父さん達に置いて貰えるし」

「うーん……なるほど……」

「ん、その様子だとそういうことがやりたい訳じゃなさそうだな」


 お父さんの言う通り、私達は一から工房を作ってみたいんだ。

 お父さんの工房を借りて、そのままやっていたら、ちょっと違う気がした。


「んー、というかさ、リーファ。ちょっと俺も頭が冷えて、思ったことがある」

「うん?」

「どうして工房経営クラブに入ろうと思ったんだ? 工房経営なら、普段から一緒にやってるだろ?」


 お父さんからしてみれば、当然の疑問だろう。

 私もライエも《クォーツ》の貴族達に負けないくらい工房仕事に慣れている。

 少し私は寂しさを感じながらも、ライエの将来独り立ちした時のために、経営するのはどんな感じなのか知っておきたいという気持ちをお父さんに伝えた。


「なるほど。ライエがそんなことを言っていたのか」

「うん……」

「リーファ。離れても友達でいられるのは、友達で居続けたいと思うからだと、俺は思う」

「え?」


 お父さんが錬金術と関係のないことを言ったせいで、私は少し戸惑った。

 しかも、友達のいなかったお父さんが友達について語っている。


「俺は友達少ないけど、レベッカと離れてもちゃんと友達を続けているし、師匠のもとから独り立ちしても、ちゃんと師匠だと尊敬している。だから、リーファだってライエとずっと友達でいられるさ。リーファとライエが友達でいたいと願う限りさ」

「……うん」

「それに、リーファはもう既にそのことを自分で実証してるぜ?」

「え?」

「小さい頃と同じさ。リーファが学校で離れても、俺はここにいて、お父さんのままだろ? それと、悔しいけど、カイト君も一年に一度しか会えなくても、ちゃんと友達を続けられた。リーファには人を繋げる力があるんだ。それは俺以上にすごい才能だよ」


 優しく笑うお父さんに私は少しドキッとした。

 お父さんは本当に私の気持ちに鋭い。

 こんな人が友達いなかったって言うのだから、よっぽど酷い扱いを受けていたんだろう。


「ありがとう。お父さん」

「さっきのは親としてのアドバイス。そして次のは錬金術師としてのアドバイスだ。ライエのことをバカにされて怒っているのは分かるけど、一度落ち着いて見方を変えて見ろ。ほら、深呼吸」


 お父さんにすすめられるまま深呼吸をすると、確かに気分が少し落ち着いた。


「なぁ、リーファ。ライエの話だと、錬金工房の経営が出来るような一人前の錬金術師になりたいから、錬金工房を運営クラブに入ったり、錬金工房を立ち上げたいって言ったんだろ? 今リーファから話を聞いている限り、錬金工房を立ち上げたいから、経営どうすれば良い? って聞いているような物で、目的と手段が逆転しているぞ?」


 お父さんに言われて、私はハッとした。

 私に関して言えば、ライエがバカにされたから、見返してやりたいっていうだけだった。

 ライエのことを考えても、一番大事なのは、お父さんの言う通り、一人でやっていける力をどうやって手に入れるかだ。


「ライエにも言わないといけないことだけど、錬金工房を経営するのに一番大事なことは、何か分かるか?」

「えっと……困っていることを見抜いて、本当に欲しい物を作ること?」


 私はお父さんの質問に、錬金術師として答えた。

 すると、お父さんはニッコリ微笑みながら頷いてくる。


「うん。それが分かっているなら大丈夫。後は、そうなるためにはどうすれば良いと思う? あ、授業はもちろん受けて、その上で。って話しな?」

「んー、依頼を沢山こなして、困っていることを学びながら、どんな道具を作れば良いかを沢山経験する?」

「うん。その通りだ。それと考えてみてくれ。工房クラブに入っても、ただ先輩に言われたことをやるしか出来ないだろうし、自分達で立ち上げるのは法律上不可能だ。でも、錬金術で作った道具を使って、色々な問題を解決するギルドの仕事は出来るぜ? 村だとギルドの施設はないけど、中央なら冒険者ギルドとか保安機構が依頼クエストを出してるし」

「あっ! それなら作った道具も試せるし! 困っていることもいっぱい知れるね!」


 私はお父さんの言っている意味がようやく理解出来た。

 考えてみれば、私は公開公募で色々な伝手が出来ている。

 冒険者ギルドの人達も、医療連合の人達も、錬金術師の人達もいっぱい知っている。

 その人達の出す依頼を、解決していけば良いんだ。


「錬金工房じゃなくて、この場合なんて言うんだろう?」

「ガングレイヴ師匠は工房を持っているけど、そうした依頼を解決する仕事が本業でな。だから、たまに船の修繕とかで出張するんだよ。依頼解決者クエストバスターって自称している。俺もよく引っ張り回されたよ」

「クエストバスターー……。うん、やってみる! それで、三人でもっと立派な錬金術師になってみる!」


 これなら、きっと私達三人で色々な道具を作って、錬金術師としての力をつけることができるし、色々な知り合いも増える気がする。


「ただし、一つだけ約束してくれ」

「うん?」

「無理だけはするな。工房にリーファとライエを指定した依頼が来るから、ある意味すでに依頼解決には慣れているし力はある。でも、学校の授業はあるし、休日には俺の授業もある。無理して倒れると、ライエとカイト君も危ない目に会うかも知れない。俺にはリーファにそんな悲しい思いをして欲しくないから、疲れたと思ったらちゃんと休め」

「心配してくれてありがとう。約束する。無理してみんなを悲しませないって」

「ありがとうリーファ」


 三人で錬金術をやって、依頼を解決しに行く姿を想像したら、子供っぽいと思いつつもワクワクしてきた。

 クーデリアさんと母さんみたいに魔物退治とか、ガングレイヴさんみたいに船の修復とか、多分村では出来ないようなことを一杯経験出来るんだろうな。

 お父さんも引っ張り回されたっていうし、きっと同じことをして、今みたいにすごい錬金術師になれたんだと思う。

 お父さんに追いつける道が開いたような気がして、私は何だかとっても楽しくなっていた。


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