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身分格差と錬金術師

レベッカEND追加しました。


http://ncode.syosetu.com/n7811co/102/

 入学式が終わり、土日を挟んだ次の月曜日から、私達の授業は早速始まった。

 授業は選択式で、必要な単位だけを取れば良いらしいけど、せっかくだから私は取れるだけ取ってみることにしたのだ。

 ライエも負けてられないとか、お母さんにお金で迷惑をかけないように早く卒業したいとかで、私と同じように目一杯授業をとっている。

 朝九時前に講義室に入ると、部屋には学生が五十人あまりいた。

 大学の講義室には、今までの学校と違い、一人一つでは無かった。

 三人が座ることの出来る長机と椅子が並べられており、大半の学生達は後ろの席に集まっている。


「おい、来たぞ。あいつだろ?」


 そんな彼らが誰かの声で、一斉に私の方に振り返った。


「あれ? らーちゃん、私達遅刻した?」

「いやー……どう考えても、先週のカー君事件のせいだと思うけど……」


 そう言えば、あの時は新入生が全員いる中でカイト君に声をかけたんだった。

 みんな何で友達なのか分からなくて、驚いていたのかな?


「んおっ!? その銀髪!? リーファ=ラングリフ!?」

「へっ!? あ、はい。リーファ=ラングリフです。初めまして」


 いきなり真後ろで驚かれたら、私も驚かされる。

 公開公募のおかげで名前が知られているのかな?


「どこかで会いました?」

「いや、どこかで会ったとかじゃなくて、空飛べ袋の発明者だろ!? それと去年の医療系公開公募で見習い部門優秀賞とった、薬が苦手な子供や飲み込めない老人向けに塗る風邪薬作ったのも!」


 後ろに立っていたのは、赤い髪の青年だった。十八歳くらいかな? 

 高等学校に行った人達が、さらに進学して一年生になったのだろう。平均的な入学年齢だと思われる男の人だ。


「あ、公開公募の結果、知ってたんですね。村長のじーさんにも受けが良かったんですよー。塗った所だけに薬効成分を届かせて、副作用が出ないようにするとか、工夫がんばったおかげで、入選出来ました。あなたも何か作って応募したんですか?」


 やっぱり周りが錬金術師の卵ばかりだと、公開公募の話しも普通に出てくるんだ。

 この人はどんな物を作ってるんだろう? 私の知らない物を作っていたら教えて貰いたいな。


「平民の癖に錬金術を学べるからって、良い気になるなよ!」

「え?」

「空飛べ袋とか、塗る薬とか、あんな単純でありきたいな物で受賞しやがって。錬金術っていうのはもっと高尚な物なんだよ! あれぐらい俺だって作れる!」


 何でいきなり怒られたんだろう?

 それにありきたりと言われているけど、何度も失敗して、お父さんから知恵を借りながら、がんばって作った思い出の発明品なんだ。

 単純と言われる筋合いは全然無いし、正直むかついた。

 でも、この人は私よりももっと複雑な物を作れるのかも知れない。そう思うと、勝負したくなってくる。

 お父さんもレベッカさんも会う度に勝負したがっていたっけ。


「私は今年も公開公募に出るつもりだから、あなたの道具を楽しみにします。あなたがどんなに凄腕な錬金術師かは知らないけれど、絶対に負けないから」


 私は彼の宣戦布告を受け止めて、彼の目を見ながらニッコリ笑った。


「くっ……」


 すると、何故か彼は渋い顔をして私の横を通り過ぎていった。

 あれ? 何か戦意を削ぐようなことしちゃったかな?


「ねぇ、らーちゃん、私やっちゃった?」

「……うん。ある意味、すごく残酷なことした」

「謝った方が良いかな」

「りっちゃんそれ追い打ちになるから、止めてあげて」


 謝ろうと立ち去った彼を追いかけようとすると、ライエが私の手をとって止めてきた。

 私は真剣勝負がしたかっただけなんだけどなぁ。


「リーファさん、ライエさん、おはようございます」


 講義室の入り口付近で悩んでいると、後ろからカイト君の声が聞こえてきた。


「あ、カー君、おはよ」

「おはよう。カイト君」


 さすが王子様と言うべきか、執事さんとメイドさんがカイト君の両脇をかためている。

 そして、挨拶を返した瞬間、部屋中の視線がこっちに向かった気がした。

 やっぱり王子様だと注目されて大変そうだ。


「席は自由ですから、一緒に座りましょうか」

「うん、良いよ。んー、前の方が空いてるみたいだし、前の方いこっか」

「はい。ライエさんも一緒に行きましょう」


 ライエは困ったように頷いて、私達は三人で一緒に前の長机にこしかけた。


「うーん、何というか、さすがカー君だね。すごい視線を感じるよ」

「あ、ご迷惑でしたか?」

「ううん、大丈夫。公開公募で慣れてるし」


 申し訳無さそうにしていたカイト君に私は手と首を横に振った。


「りっちゃんには、もうちょっと自分の実績を自覚して欲しいなぁ……」

「どうしたのらーちゃん?」


 隣でぼそっと聞こえたライエの呟きに反応すると、ライエは小さくため息をついていた。


「ううん……考えてみれば、トウル師匠のせいで、りっちゃんも負けず劣らずの錬金バカになってたなぁ……って。私も人のことはあまり言えないけど」

「あっ、それ分かります。トウル様の道具は本当にワクワクさせられますよね。公開公募の成果を見る度に思いますけど、一緒に勉強していなくとも、あの方みたいな錬金術師になりたいと、思ってしまいます」

「あぁ、カイト君まで錬金バカに……。トウル師匠……あなたは色々な意味で罪作りな人です」


 大げさな演技でライエが手を組み天井を仰ぐ。

 でも、カイト君とライエの言う通り、お父さんは本当に色々な人に影響を与えている。

 だから、私も頑張ろうと思うんだ。


「なんなのかしらあの子達。カインハート様と同じ机に座るなんて……」

「身分の違いを理解出来ない育ちが悪い方達なのでしょう」

「カインハート様の慈悲深さに感謝すべきですのに、あの言葉遣いですものね」


 そんな陰口のような言葉が聞こえてきても、私は友達としてカイト君と一緒にい続けよう。


「カー君」

「はい?」

「私はカー君の友達だからね」


 カイト君は少し頬を赤く染めると、恥ずかしそうに頷いた。

 男の子なのに、カイト君は時折女の子みたいに可愛い顔をするんだよなぁ。

 ライエとカイト君がいて良かったと、心底思う。

 この二人がいなかったら、私は完全にみんなから浮いていただろう。

 一時期ひねくれてしまったお父さんの気持ちが、少しだけ分かった気がした。



 トウルはトウカとリィンと一緒に工房の店番をしていた。

 お店の机で絵を描く子供達を見守りながら、トウル自身ものんびりと本を読んでいる。

 二人ともトウルの血を引いてくれたおかげか、お絵かきの出来はなかなかの物だった。


「トウカもリィンも上手く描けてるな。二人とも魔法の才能だけじゃなくて、錬金術の才能もあるぞ」


 トウルが本を読むのを止めて、二人の頭を撫でると、トウカが不思議そうな表情をトウルに向けてきた。


「お父さん元気ないね?」

「あはは。トウカ、良く気がついたな。リーファが心配でさ。授業は余裕だろうけど、大学の貴族連中に意地悪されてないかなって……」


 トウカがふとトウルを見上げて尋ねてくると、トウルは苦笑いを浮かべながら頬をかいた。


「リーファお姉ちゃん意地悪されてるの? 大変! トウカ助けに行ってくるね!」

「リィンもいく」


 二人の小さな姉弟の周りで座っていた精霊人形が一斉に浮かびだし、今にも外に向かって飛び出しそうになっている。

 それを見たら、心配していたトウルが逆に落ち着いてしまった。


「トウカ、リィン、落ち着いて。大丈夫。リーファにはちゃんと優しい友達がいるからさ。昔の俺と違って。でも、リーファ達だけじゃどうしようもないのなら、飛んで行くつもりだよ」


 トウルが二人の頭をなでながらなだめていると、トウカとリィンは少し悲しそうな目をトウルに向けてきた。


(二人とも、本当にリーファが大好きなんだな。このまま優しい子に育って欲しい)


 そして、二人がもう少し大きくなって、錬金術に興味を持ち始めたら、錬金術を教えてあげたい。そんなことをトウルが思っているとトウカとリィンがトウルのズボンを掴んだ。


「お父さんお友達いなかったの?」

「お父さん可愛そう」


 心配されていたのが自分だったことに、トウルは苦笑いした。

 二人は十分優しい子に育っている。そして、こういうことが遠慮無く言えるのは、ミスティラによく似ている気がした。


「今はちゃんといるから大丈夫だよ」


 変な心配されないように、トウルはもう一度双子の頭を撫でた。

 血は繋がっていないけど、リーファとも二人はどこか似ている。

 繋がりは血だけじゃない。誰とどうやって生きてきたかだと、トウルは改めて思った。


「カイトお兄ちゃんとリーファお姉ちゃん仲良くしてるかな?」

「大丈夫だよリィン。カイトお兄ちゃんのお手紙読んでる時のリーファお姉ちゃん楽しそうだった」


 優しさは時に人を傷つけると言うけれど、二人の言葉がトウルを酷く動揺させた。

 リーファの前ではリーファのためを思って、トウルは本音を出さなかったが、今本音を隠す必要のある相手はいない。


「……カイト君か。悪い相手じゃない。とっても良い人なんだけどっ! リーファを任せても良いとは思うけれどっ!」

「お父さん?」


 トウルのこらえきれぬ叫びに、リィンが心配そうな声を出した。


「カイト君であれば、リーファが自分から好きだと言って付き合うのなら、寂しいけど許すっ! でも、向こうから告白するのなら、俺から勝負を挑んでやるっ!」

「あはは。落ち着けって言ったお父さんが一番うるさーい」


 そして、トウルが魂の叫びを発すると、トウカが笑いながらトウルのお尻をぱんぱんと叩いてきた。


「よしっ、料理勝負で負けないために、まずは昼ご飯を作るぞ。トウカ、リィン。手伝って貰えるか?」

「「はーいっ。お父さん」」


 錬金工房は今日も元気だ。


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