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カイト君とお父さん

 カフェに入った私とカイト君はライエと合流し、窓際の席に座っていた。

 カイト君は王子様であるせいか、色々な人が目の前で跪いたりされて、大変そうだった。

 他の学生を全員追い出して、今すぐ貸し切りにするとか、色々無茶苦茶なことを言われても、カイト君は優しく断っていた。

 学生としてみんなとは平等に扱って欲しいとかで、カイト君は自分の立場を振り回すようなことはしなかった。

 店員達や学生達の堅苦しい挨拶と気遣いが一通り終わり、テーブルの上に紅茶とフルーツタルトが置かれて、私達はようやく一息つけた。


「ねぇ、カー君、王子様やるのも大変だねー」

「あはは……。そうですね。みんなすごく気を遣ってくれて、申し訳なくなります。僕みたいなのでも、こうなっちゃうんですよね」


 私の感想にカイトは苦笑いしている。

 別に嫌な気持ちを感じているというよりは、何かに驚いているのを隠しているみたいな笑い方だ。


「いや、りっちゃん、それが感想って……。まぁ、らしいけどさ」

「ライエさんも出来れば、今まで通り普通に接してくれると助かります」

「えっと……よろしいのですかカインハート様?」

「カイト君で良いですよ。ゲイル局長に貰った愛称ですが、実は気に入っていますから」

「そ、それなら、今まで通り接するねカイト君」


 ライエはまだ何処か居心地が悪そうな声の調子だった。

 そのせいで、カイト君の方もちょっと残念がっているような声と表情になっている。


「カー君、らーちゃん、カップ持って」

「りっちゃん、まさか?」

「うんっ。村で会った三人が再会したらやることは一つ!」


 マナーが悪いのは知っているけど、それで二人が笑顔になればそれで良い。

 それに、何だかんだでライエもカイトも分かってくれるから、恥ずかしくも無い。

 私達はティーカップを持ち上げて、お互いに目配せをしあった。

 そして、私の合図でカップを三人で合わせた。


「再会に乾杯!」

「乾杯」


 カチンと軽い音がして、紅茶の水面が揺れてこぼれそうになる。

 乾杯するのなら、グラスに入ったアイスティーにすれば良かったなぁ。と少し反省した。


「えへへ。ありがとう二人とも」

「あはは……。リーファさんはさすがです。心配していた僕がバカみたいじゃないですか」

「カー君、何を心配してたの?」


 カイト君の表情から緊張した様子は消えたし、私は思ったままのことを口にした。

 すると、カイト君は照れたように笑い、頭をかいていた。


「あはは。敵いませんね本当に。白状しましょう。僕は同い年の友達がいないので、対等に接することの出来る友達が欲しかったんです。でも、王子だとばれると先ほどのようなことが続いてしまいまして、リーファさんとライエさんも、せっかく友達になれたのに、友達でなくなってしまうかもしれないと思いまして」

「大丈夫。私達は変わらずちゃんと友達のままだよ。カー君」

「ありがとうございます。君達に会えて本当に良かったです」


 嬉しそうに笑ったカイト君を見て、ライエもホッとしたように笑顔になっている。

 カイト君が王子様だったのは、ちょっとビックリしたけど、今まで通り友達でいられそうで良かった。


「えへへ。カー君こそ私達を友達って思ってくれてありがとう」

「りっちゃんはりっちゃんだよねぇ。会った時から、騎士りっちゃんって感じ。これじゃカイト君がお姫様みたいだよ」

「へ?」


 ライエの感想に、私とカイト君は揃って疑問符を浮かべた。

 すると、ライエは肩をすくめて苦笑いしている。


「ううん。何でも無い。それより、気付いてる?」

「へ? 何が?」

「りっちゃんの後ろ。トウル師匠がすごい顔で見てるよ」

「ん? あっ……」


 ライエが指さした方に振り返ってみると、お父さんとお母さんがメニューで顔を半分隠しながらこっちを見つめていた。

 いなくなったと思ったら、ずっと隠れて見守ってくれていたんだ。

相変わらず心配性なお父さんに私は苦笑いした。


「お父さん達もこっちきたら?」


 私が声をかけると、お父さんはビックリしたような顔になって突然立ち上がった。

 顔を真っ赤にして目を反らしているから、お父さんはバレて恥ずかしがっているのだろう。


「あはは……。バレたか」

「近くにいたんだね。みーちゃんに引っ張られて姿が見えなくなったから、どこかに行ったかと思った」

「ミリィに姿隠しの魔法を使って貰って、リーファ達を追いかけて来たんだ。リーファなら大丈夫だと思っていたけど、やっぱり心配だったからな。でも、その様子だとカイト君のこと大丈夫だったみたいだな」


 お父さんはカイト君が王子様だと知っていたから、きっとカイト君の悩みを知っていたのだろう。お父さんは恋愛には鈍感だったけど、人の悩みには優しい人だ。


「トウル様。今までずっと内緒にして頂き、ありがとうございます」

「いえ、どうかお気になさらず殿下」

「トウル様、どうかかしこまらず、村にいる時と同じようにカイト君として接して頂けると助かります」


 お父さんの恭しい態度にカイト君が戸惑っていると、横でお母さんがくすくすとそっぽを向いて笑っていた。

 また何か悪戯でもしたのかな? そう勘ぐっていると、お母さんはお父さんの肩に両手を乗せた。


「カイト君。トウルさんは今必死に我慢しているのですよ?」

「我慢ですか?」


 カイト君が不思議そうに聞き返すと、お母さんは悪戯っぽい笑顔で頷いた。


「えぇ、カイト君があまりにも可愛らしいので襲って食べちゃおう! って思っているのです」

「ミリィ!?」

「というのは、まぁ冗談ですけど、一歩間違えてたら、カイト君は普通に襲われていたかもしれませんね」

「誤解に誤解を重ねられたぞ!?」

「あら? リーファに手を出したいのなら、俺を超えてからにしてみせろ。なんて呟いたのはどこの誰でしたっけねトウルさん?」

「……はい。俺です」


 お父さんは顔を反らすと、恥ずかしそうに頷いた。

 そんなお母さんとお父さんのやりとりに、カイト君は困ったように笑っている。

 それを見てライエも珍しく茶化してきた。


「トウル師匠との勝負となると、やっぱり錬金術の道具の出来ですか?」

「ん? あぁ、それももちろんだが、剣術とか色々な面でだな。リーファを任せるんだ。俺以上の人間じゃないと任せられん!」

「だってさ、りっちゃん、カイト君」


 やっぱりお父さんはさらっと恥ずかしいことを言ってくれる。

 嬉しいけど、みんなのいる前であんな大声を出されて言われたら、さすがに私も恥ずかしくなる。

 目の前にいるカイト君もお父さんのせいで、変に緊張しているよ。

 うぅ、カイト君に変なお父さんだと思われたくはないなぁ。


「トウルさんはトウルさんですわ。いつまで経ってもね。カイト君、それは覚えておいて損はありませんわ」

「あはは……お心遣い感謝致します。ミスティラ様」


 カイト君がお辞儀をすると、お母さんもスカートの端をつまみ上げてお辞儀を返した。


「何かバカにされている気がする……」

「あら? 気のせいですよトウルさん。私はむしろ変わらぬトウルさんを尊敬しますわ」

「そうか? なら良いけど」

「バカはバカでも親バカですからね」

「褒め言葉じゃ無いよなそれ!? って、ごほんっ。あー……カイト君、これからもリーファとライエの良き《友達》として付き合ってくれ」


 お父さんはやけに友達を強調していたけど、私達はまだ普通に友達だ。

 まだ恋仲とか恋人とかそういうのにはなってない。

 って、意識しだすと何か落ち着かなくなってきた。カイト君はどう思っているんだろ?

 そう思ってカイト君を見ていると、私の視線に気付いたのか、照れくさそうに頬をかいて頷いてきた。


「はい。僕の数少ない気楽に話が出来る友人なので、大事にします」


 カイト君の言葉にお父さんはどこか気まずそうな表情を浮かべて、言葉を数秒間失っていた。

 私はおかげでちょっとほっとして、少し残念な複雑な気分だ。


「……そうか。カイト君でも友達少ないのか……。やっぱ王子様って大変なんだなぁ……」

「あはは……さすがトウル様は、リーファさんのお父上ですね」

「へ?」

「僕の境遇に関して、リーファさんと全く同じ感想だったので」

「そっか。でも、大丈夫だ。リーファとライエがいてくれるさ。友達は大事にした方が良い。友達を作れなかった俺からのアドバイスだ。錬金術じゃ、どんな材料入れても作れない珍しい物だぞ」


 格好付けてお父さんは語っているけど、内容自体は割と格好悪い気がする。

 それが何だかおかしくて、私は呆れて笑ってしまった。

 今の雰囲気なら渡せるかな?


「カイト君。ライエ。これ、あげるよ」

「眼鏡ですか?」

「うん。村に遊びになかなか来られないけど、これで少しでも村のお祭りを思い出してくれたら嬉しいな」

「うわっ!? 精霊が見える!? リーファさんこれすごいですよ!」


 カイト君が驚いた顔を見て、私はガッツポーズをとった。

 ライエも一緒に驚いていて、精霊を追いかけていた。


「くっ! カイト君! 表に出るんだ! 今すぐ俺と勝負をしよう! まずは剣術からだ!」

「トウル師匠! 店の中で抜刀しないで下さい!? 玩具だと分かっていてもビックリしますっ!」


 すると、お父さんがどこからともなく複合可変剣と、ボムシューターを取り出して、臨戦態勢に入っていた。

 さすがのライエもやばいと思ったのか、お父さんの手を押さえ込もうと飛びついた。


「トウルさん落ち着いて!」


 そして、お母さんもお父さんの後ろから精霊と一緒に、羽交い締めにしながらお父さんの身体を止めた。


「止めてくれるなミリィ! カイト君が貴族のぼんくらどもからリーファを守れるか試験してやる!」

「大丈夫ですよ。リーファは強いんですから。それじゃ、リーファ、ライエ、カイト君、ごきげんよう。トウカとリィンと一緒にお義父さんのお家で待っているわ」

「ちょっ、ミリィッ!? 魔法は卑怯だぞっ!? くっ、あははは。くすぐったいから止めてっ! あはは! ライエ! リーファを頼むっ! あははは!」


 お母さんに強制的に連れ出されたお父さんは、嵐のように去って行った。

 私の大学生活は驚かされ、驚かして始まった。

 でも、村で過ごしてきた私とライエはまだ知らないんだ。貴族の中で目立つ庶民の扱いというものと、お父さんが貴族のぼんくらどもから守れと言った言葉の意味も、実感するまで知らなかった。

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