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カイト君の代表挨拶

 王立中央錬金大学校の入学式の朝。私達は家族で星海列車に乗って開発局にやってきた。

 星海列車はお父さんの改良もあって、本当に一時間で中央に着いてしまうほどになっていた。

 ライエはご両親に中央を案内したいということで、私とは別行動で前日入りしていて、学校で落ち合うことになっている。


「あ、レベッカさん、お久し振りです」


 赤いど派手なコートを羽織った茶髪の女性、レベッカさんは私の錬金術師の先生をしてもらったこともある人だ。

 一緒に花火を作ったり、防犯ベルトを作ったり、列車を作ったりと、小さい頃から色々教えて貰っている。

 そんなレベッカさんの作る物は、派手で力強い印象を受ける物が多い。


「久しぶりリーファ。いつも通りれーちゃんでも構わないわよ?」

「あはは……。私、レベッカさんの後輩になる訳ですし」

「なーにいってんのよ。それだったら、あんたにあった時から、ずーっと錬金術師の先輩よ。だから、いつも通りで良いわ」

「ありがとう。れーちゃん」

「そーそー。あんたはそれで良いのよ。って、時間が無いんだった。会わせたい人がいるから、子守を旦那に任せて、ここで待ってたのよ」


 レベッカが手を掲げて指を鳴らすと、倉庫の物陰から一人の男の子が現れた。

 ブロンドの髪、四角い眼鏡の奥に緑色の瞳。

 一年会わなかっただけで、私よりもいつのまにか身長が伸びてしまった、優しい雰囲気の男の子。


「あっ、カー君!」

「お久し振りです。リーファさん」


 思わず私が駆け寄ると、カイト君は丁寧にお辞儀をしてきた。

 会う度に思うけど、誰よりも対応が丁寧な人だ。人当たりに対する丁寧さと優雅さだけはお父さんを超えている気がする。

 手紙だけでは感じられない柔らかな雰囲気に、私は懐かしさを感じていた。


「本当に一緒の学校に通えるようになりましたね」

「うん。カー君と初めて会った時の話し、現実になっちゃったね。一緒の学校行こうって言ってたの覚えてる?」

「もちろんです。リーファさんが錬金術を教えてくれるという話しも。トウル様とレベッカさんに感謝ですね」

「うん。私達もお父さん達以上の錬金術師にならないとね」

「はは。そうですね。入学式前に会えて良かったです。おかげで、緊張がほどけました」


 カイト君はそう言うと、少しほっとしたような笑顔を浮かべた。

 言われてみれば、少し雰囲気が固い。精霊眼鏡をいきなり渡すより、先にお話を聞いてあげる方が良いかな?


「あれ? 何かやるの?」


 手紙では何も聞かされていない。入学式の日に緊張することって何だろう?


「新入生代表で挨拶する必要がありまして」

「あっ、カー君が挨拶するんだ! すごいなぁ。って、ことは主席? リーファも奨学金貰えたし、結構良い感じに試験できたと思ったのになー」

「はは。さすがリーファさんですね。僕は家の事情で挨拶するだけですよ」

「お家の事情?」


 考えてみれば、私はカイトの家事情は全く知らない。

 どちらかというと彼は家の話しを避けていた気がして、私も触れようとしなかった。


「あっ、すみません。僕は最終リハーサルの時間があるので、レベッカさん行きましょう!」


 結局詳しく聞くことが出来ず、カイト君は私達の前から立ち去った。

 追いかける訳にもいかないし、私は何をすることも出来ず立ち尽くした。


「相変わらず大変そうだなぁ。カイト君」


 すると、いつの間にか横に立ったお父さんが頬をぽりぽりかきながら、呟いた。


「……うん。大丈夫かな。ちょっと無理しているように見えたけど」

「まぁ、分かるよ。何で家のことを隠していたかも」

「あれ? お父さん知ってるの?」

「まぁ……ね。仕事の関係で……」


 お父さんは頬をかきながらそっぽを向いた。

 こういう時は嘘をついている時か、これ以上追求して欲しくない時の癖だ。


「何で黙ってたの?」

「だって、カイト君が必死に隠そうとしてたしな。信じてあげてやってくれ。彼は決してリーファを騙そうとしていた訳じゃないから」


 私も意地悪だなと思いながら、お父さんに聞いてみるとお父さんは優しい口調でそう言った。

 そのお父さんの言葉の意味を私はすぐ理解することになった。



 大学に移動した私は新入生千名が集められた講堂の椅子に座っていた。

 お父さん達はかなり後ろの父母の席で座っている。

 学長の長いお祝いの言葉でうとうとしつつも、必死に眠気をこらえながら私は話を聞いていた。

 聞き逃す訳にはいかないプログラムがあるんだ。


「学長ありがとうございました。では、次に新入生答辞を――」


 そして、ついに待ちに待った新入生代表の挨拶の時がくる。


「新入生を代表して、エウラシア王国、第三王子、カインハート=エウラシア殿下より答辞の御言葉を頂戴したいと存じ上げます」

 司会の先生の言葉に私は首を傾げた。

 新入生の挨拶はカイト君って聞いたけど? 王子様の後にカイト君が挨拶するとかかな?

 どの仮説もしっくりこなかった私の疑問はカインハート王子が壇上にあがった瞬間、あっさり吹き飛んだ。

 ブロンドの髪に、緑色の瞳と見覚えのある眼鏡の男の子。


「カー君!?」

「ちょっ、りっちゃん声出てる!? 偉い人達にすっごい睨まれてる! 座って座って!」


 驚きのあまり椅子から立ち上がった私を、隣のライエが抱きついて止めてきた。

 ライエの言う通り、偉い人達は私の方を見ながら咳払いをしていた。

 そして、肝心のカイト君も私に気付いたのか、私に作ったような笑顔を向けてきた。


「皆様初めまして。エウラシア王国、第三王子、カインハート=エウラシアです。錬金術師を志す皆様とともに本日この学園の門をくぐれたことを、私は大変誇りに思います」


 声も間違い無くカイト君の物だ。カインハート王子は、本当に私の知るカイト君だったみたいだ。

 その事実が理解出来なくて、私の頭でカインハート王子という名前とカー君とカイト君の3つの呼び方がぐるぐる回っていた。


「え……っと……。らーちゃん。これってどういうこと?」

「あはは……。リーファの好きな人は王子様でした……って、冗談みたいなのに、冗談じゃないみたいだね」

「だから、お友達だよっ! あ……でもそっか。カー君って、王子様だったんだ」


 そう言われれば物腰の柔らかさとかしっかりした感じとか、色々納得できる。

 お父さんがどこか遠慮がちだったのも、国家錬金術師であるレベッカさんと狸のゲイルさんが、常に一緒に動いていたのも納得だ。


「ねぇ、りっちゃん。私達みたいな庶民の出が、王子様と一緒にいられるのかな?」


 そして、ライエの言葉で私の最大の疑問は解決した。

 階級の差を意識したら、私達は遠慮してしまって友達になれなかったかもしれない。だから、カイト君はずっと隠していたんだと思う。

 お父さんが黙っていたのも優しさだったんだ。


「よしっ。らーちゃん、私決めたの!」

「何を決めたの?」

「これからもカー君はカー君って呼ぶっ!」

「だから、りっちゃん声が大きいっ!? 先生達だけじゃなくて、貴族の人達もこっち見てるからっ! ……でも、何だかとってもりっちゃんらしくて安心した……」


 ライエちゃんが苦笑いしているけど、何か少し嬉しそうな印象を受けた。

 カイト君の挨拶が終わって、彼も学生の席へと戻っていく。その戻っていく先を私は頑張って背伸びしながら、目で追いかけた。

 その後の偉い人達の話はちゃんと聞いていない。

 聞こえていたし、覚えているけれど、わざわざ思い出す必要もない長ったらしい挨拶だけだった。

 そして、ようやく新入生退室の言葉が発せられると、私は一気にカイトのいたところに向かって駆けだした。


「カー君!」

「リーファさんっ!?」


 みんなが礼儀正しく揃って退出しようとする中、人混みをかき分けて走ってきた私に、カイトは驚いた表情を浮かべていた。

 意外と私達の声が大きかったようで、周りにいた人達が足を止めて、私達のことを見つめてくる。

 カイト君のお付きの人が私を止めようとしてきたが、カイト君は彼らに下がるよう手で合図を出していた。


「カー君、ご飯食べよっ!」

「えっ!?」

「あ、お腹いっぱいだった? ならお茶しよっ」

「……やっぱり怒っていますか?」


 カイトは何故か私の言葉で萎縮してしまっている。

 私が誘ったのは普通にお喋りがしたいだけだったのに、何で困ったような顔で、上目遣い気味に私の方を見つめてくるのだろう?


「へ? 何で? 驚いたけど、納得出来たよ。カー君って、王子様だったんだねー。全然気がつかなかったよ」

「……やっぱりすごい人ですね。リーファさん」

「へ?」

「いえ、何でもありません。そうですね。では、せっかくのお誘いですし、一緒にお茶をしましょう」


 カイト君が私の提案に頷いて微笑むと、私も嬉しくなって笑っていた。

 良かった。カイト君は王子様でもやっぱりカイト君だ。


「やったね。よし、それじゃ、らーちゃんも呼ぼっか」

「そうですね。僕も村のお祭りが懐かしいですし、是非お願いします」


 私はカイトの手を引っ張って歩き始めると、カイトも歩調を合わせてくれた。

 何故か周りの人達は固まったように黙っていて動かなかったけど、私達は気にせず外へと出て行った。

 遠くでお父さんの叫び声が聞こえた気がしたけど、お母さんに引っ張られてどこかへ消えてしまっていた。


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