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村の宴会はほんのちょっぴり変わった

 家族のお祝いが終わり、夜に催された私達の合格祝いは、村民総出だと思うほどの勢いで催された。

 椅子を片付けて、宿屋の一階全てを使って私とライエの立食パーティをしている。

 錬金術師が二人も出るというのは村の歴史でも初めてらしい。

 主役である私とライエが宴会場の中心に立たされ、ジライル村長が私達の前に立った。

 乾杯の音頭をとるのは、やっぱり村長であり、私の育てのジライルじーさんだ。


「リーファ、ライエ、おめでとう。本当におめでとう! さぁ、皆の者、錬金術師の門出を祝って乾杯じゃっ! 乾杯じゃあああああ!」

「乾杯!」


 参加者全員の声が揃って、グラスがそこらかしこでぶつかる音がする。

 そして、私とライエのもとに代わる代わるグラスが重ねられてきた。

 お店のお客さんや、学校で出来た友達に紛れて、私の大好きな赤い髪のお姉さんもやってくる。


「リーファちゃん、ライエちゃんおめでとう!」

「あっ、くーちゃんありがとう!」

「あはは……。二十を超えたのにくーちゃんかー。もうリーファちゃんは大人になっても変わらないね」


 赤髪の女剣士クーデリアが乾杯してくれると、昔から変わらない明るい笑顔を見せてくれた。

 お父さんがお母さんと恋人になった時は、ちょっと悲しそうだったけど、無事に新しい恋をして、結婚していて、一児の母になっている。


「リーファ姉ちゃんおめでとう」


 赤毛の少年が背伸びしながら、私にジュースの入ったグラスを伸ばしてくる。

 クーデリアの一人息子であるクーリン君。

 クーデリアさんによく似た明るい笑顔の似合う子供だ。


「ありがとう。クー君」

「俺も将来おっきくなったら、リーファ姉ちゃんを守ってあげるからな!」

「えへへ。ありがとうクー君」

「へへ。任せとけー」


 リィンとトウカと一緒に遊んであげているおかげか、クーリン君にはかなり懐かれている。


「あー、クーリンがリーファお姉ちゃんを口説いてるー!」

「トウカには関係ないだろー」

「トウカにかけっこで勝てない癖にー? リーファお姉ちゃんのお手伝いをするのはトウカだよー!」

「何をー!」


 そして、トウカとクーリンはすぐ喧嘩っぽいことをするけど、何だかんだで仲が良い。


「あー、はいはい。二人とも喧嘩しないで。私は二人とも大好きだから」


 私はグラスを近くの机において、しゃがんで二人の頭を撫でると、二人はようやく大人しくなってくれた。

 でも、そうなるともう一人の弟が黙っていない。


「リーファお姉ちゃん」


 リィンが遠巻きに声をかけてくると、その言葉の意味が分かった。

 ちょっと昔の私みたいだ。だから、私もお父さんの真似をしてしまう。


「リィンもおいで」


 甘えて良いよ。という言葉を言わずにただ手招きをしてあげる。

 すると、リィンは不安そうな顔で、とてとてと駆け足で近寄って来た。


「お姉ちゃんはリィンも大好きだよ」

「えへへー。リーファお姉ちゃん良いにおいがするー」


 私がリィンを抱きしめると、リィンはくすぐったそうに笑ってくれた。

 私が貰った愛情と同じくらいの物があげられたかは分からないけど、この笑顔が貰えただけで私は生きていて良かったと思えた。


「あ、リィンだけずるい!」

「リィン君は美味しいところだけ持ってくよなー」


 リィン一人だけだと、今度は二人が不機嫌になる。

 お姉ちゃんというのは結構難しい。


「あはは。モテモテだねリーファお姉ちゃん」

「らーちゃんも笑ってないで、手伝ってよー」

「あはは。仕方無いなぁ。リィン君、私のお手伝いお願い出来る? ご飯取りに行きたいんだ」


 からかってくるライエに応援を求めると、彼女はリィンにお願いしながら手を繋いだ。

 すると、リィンは顔を少し赤く染めながら、無言で頷いて、ライエの手を引きながら歩いて行った。


「リィンのやつ、リーファ姉ちゃんの前だと嬉しそうに笑うのに、何でライエ姉ちゃんの前だと真っ赤になって黙ってるんだろ?」

「そんなことも分からないの? クーリンはお子様ね」

「なんだとっ。お前も同い年じゃねーか!」

「なによっ!」


 またトウカとクーリンが喧嘩をし始めた。

 何だかんだでトウカはクーリンがいないと寂しがる癖に、一緒になると喧嘩してしまう。それを知っている私からすれば、二人ともまだまだ子供だ。

 何でこうもラングリフ家は素直じゃない人ばかり揃うのだろうかと、私は思わず笑ってしまった。


「トウカもリィンも楽しそうだな。クーリンも相変わらず元気そうで安心した」

「あ、お父さん。うん、相変わらずだね。あの三人は」


 私が二人の喧嘩をちょっと呆れながらも楽しく見守っていると、お父さんが後ろから声をかけてきた。


「今日は来てくれてありがとうクーデ」

「リーファちゃんとライエちゃんのお祝いだからね。乾杯トウルさん」

「乾杯クーデ」

「リーファちゃんが中央通い始めたら、まーた落ち込まないでよー?」

「あはは……がんばるよ。送り迎えは出来ないけど、通話人形はあるし、星海列車は二号車を作ってるし、レベッカの高速鉄道ももうすぐ開通する。何かあってもすぐ迎えには行けるように落ち込んでる暇はないな」

「あはは。トウルさんはリーファちゃんが成長してもあんま変わんないね」


 お父さんとクーデリアさんは良いお友達という感じで、家族ぐるみの交流を続けている。お母さんの親友だし、きっとこの先もこんな感じで付き合っていくのだろう。


「って、ちょっと目を離した隙にクーリンとトウカちゃんがあんな所に、あぁっ! 走り回って人にぶつかったら! ちょっと行ってくるね! ミリィ! 二人を止めて!」


 走り回る子供を追いかけるお母さんは大変だ。

 クーデリアさんとお母さんは二人で一緒になって、逃げ回るトウカとクーリンを追いかけている。


「トウカ。どっちが先に掴まるか勝負だ!」

「クーリンには負けないから!」


 こんなことすらも遊びに変えてしまうのだから、トウカとクーリンは本当にすごいと思う。


「あいつら本当に一緒にいると楽しそうだな。リーファも楽しめてるか?」

「うん。もちろんだよ。乾杯お父さん。私はジュースだけど」

「あぁ、乾杯。中身は関係無いさ。俺もジュースだし」

「あれ? お酒じゃないの?」

「リーファと乾杯する時は一緒の物を飲みたかったからさ」


 私はもう一度無言でお父さんのグラスと合わせると、一気に中身を飲み干した。

 お父さんはたまに自覚無く恥ずかしいことを言ってくる。

 これは私のちょっとした照れ隠しだ。


「良い飲みっぷりだな。俺も負けてられないか!」


 そして、張り合ってくるのもお父さんなりの照れ隠しだ。


「ぷはー」


 親子揃って情けない声を出すと、私とお父さんは目を見合わせて笑い出した。


「えへへ」

「あはは」


 お互いが照れ隠しだと分かっているせいか、おかしくて仕方が無くなる。


「さてと、俺も追っかけてくるか」

「私もお姉ちゃんだし手伝うよ」

「よし、挟み撃ちだ。行くぜリーファお姉ちゃん」

「えへへ。がんばるよ。お父さん」


 お父さんと一緒に私は小さな妹たちを追い始めた。

 お祝いの席ですることじゃないかもしれないけど、私はこの時間がとても楽しかった。

 みんなが笑顔でいて、自由気ままに動き回って、楽しそうに飲み食いをしている。

 そんな中を走り回って、みんなの表情が見ていると心が弾んだんだ。


「リーファ! トウカがそっちに行った!」


 お父さんの合図に合わせて、私が手を伸ばすと、トウカの小さな身体が私の腕の中にすっぽりと収まった。


「よいしょっ!」

「あー、掴まっちゃった」

「えへへ。お姉ちゃん鬼ごっこなら負けないもんね。ディラン先生とくーちゃんに鍛えられたし」

「トウカだって、いつかリーファお姉ちゃんに負けないぐらい速くなるもん」

「あはは。楽しみにしてるね」


 私の胸の中で頬を膨らませるトウカが可愛くて、私はつい頭をなでてしまった。

 クーリンもお母さんとクーデリアさんに捕まえられて、大人しくしている。

 そんな大捕物の余興のおかげで、宴会はさらに盛り上がっていた。


「りっちゃん、そろそろやらない?」

「あっ、そうだね。やろっか!」


 そんな中、ライエが私に声をかけてきた。お母さん達がやっていたみたいに、私とライエも村の宴会を楽しむために、楽器の練習を積んできたのだ。

 私とライエは荷物置き場から楽器を取り出すと、宿屋のピアノの前に立った。


「私とりっちゃんの」

「音楽を聴けー」


 私がギターをひき、ライエがサックスを吹く。

 中央で流行っている曲を二人で演奏し始めると、一人また一人と誰かが踊り始めた。


「あーっ! 私達の十八番を! ミリィ、これは私達も負けていられないよ!」

「そうですね。やりましょうクーデ!」


 私達の演奏にクーデリアさんとお母さんもピアノとバイオリンで参戦して、音色が増えていく。


「おっと、俺を忘れるな。国家錬金術師をなめるなよっ! 自動演奏機能をつけてきたぜ!」


 お父さんもポケットから折りたたみ式のドラムセットを取り出して叩き始めたら、宴会は完全なお祭り騒ぎになっていた。

 トウカは机と椅子の上を飛び回るし、リクもその場でぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 この村の宴会は確実に昔より盛り上がっている。

 新しい人が増えたし、子供から老人まで幅広く集まっている。

 この七年で私だけじゃ無くて、村全体が成長していることを実感できた。


「みんな大好きだよー!」


 思わず、そう叫んでしまうほど私は宴会を楽しんだ。



 宴会はこの上ないほど盛り上がったけど、やっぱり昔の私と一緒で、八時くらいから眠くなって九時には、もう意識がほとんどなくなっていたみたいだ。

 私達は先に工房に帰って、小さな妹たちを寝かせつけると、それぞれの時間を過ごしていた。

 温泉からあがった私は三階のベランダの椅子に座って、ノンビリと星空を眺めていた。

 さすがに恥ずかしくなったから、お父さんとは温泉に入っていない。

 恥ずかしいからという理由で初めて断った時のお父さんが、崩れ落ちるように倒れた姿は今でも忘れられない笑える思い出だ。

 あんな姿を見せられると、たまには一緒に入っても良いかなとは思えるけど。


「あ、リーファここにいたか」

「あ、お父さんお風呂あがったの?」

「うん。横良いかい?」

「いいよー」

「ありがとう」


 お父さんは私の隣に座ると、ホットミルクの入ったコップを手渡してきた。


「改めて、おめでとうリーファ。乾杯」

「えへへ。ありがとう。お父さん。乾杯」


 木のぶつかる音がして、私達はホットミルクに口をつけた。


「来月からリーファが王立中央錬金大学校かぁ……」

「お父さん寂しい?」


 私は意地悪な質問をしているなぁ。と思いながら聞いてみた。

 自分が寂しいから、相手にも寂しいと言って欲しいなんて、酷い押しつけだ。

 それでも、相手がお父さんなら、許して貰えると思えた。


「まぁ、そりゃなぁ。リーファといられる時間も減るし……。ちゃんと晩ご飯には帰って来いよ? 一緒にご飯食べたいからさ」

「えへへ。お父さんは相変わらず寂しがり屋だね。お母さんもいるし、トウカとリィンもいるのに、リーファがいないと寂しいんだ」

「リーファがいないと、やっぱり俺にとっては寂しいよ。リーファが最初に出来た俺の家族なんだからさ」


 優しく微笑みながら頭をなでてくるお父さんの癖は、私が十四歳になっても変わらなかった。

 子供っぽくて恥ずかしいけど、嬉しくて、安心出来て、こうして貰える時間が私はずっと大好きなままだ。


「お父さん。大好きだよ」

「あぁ、俺もリーファのことが大好きだ」


 何百回と繰り返してきたやりとりも、私は大好きだった。

 どんな時でも、そう言って貰えるだけで、私は安心して次の一歩を踏み出せる気がした。

 何をするにも大人の顔色をうかがって、好かれようとすることだけに必死になっているだけだった私を、救ってくれた大事な言葉だ。

 そんなお父さんの言葉のおかげで、私は帰る場所が出来たから、外の世界に出歩けるようになった。


「ねー、お父さん」


 トウカもリィンも寝ている今なら、甘えても良いかもしれない。


「ん? どうした?」

「ぎゅってしてもらって良い?」

「おいで」


 両手でしっかり抱きしめてくれるお父さんの体は暖かかった。

 抱きついたまま眠りそうになる。

 昔からこの感覚は変わらない。このままこの人の胸で眠っても大丈夫だと思ってしまう。そんな優しさを感じる。


「勉強して、友達を作って、やりたいことをとことんやって、恋をして、色々なことをすると思う。疲れたり、嫌なこともあったりするかもしれない。でも、何があっても俺はここにいる。助けがいる時はいつだって言ってくれ」

「ありがとうお父さん。リーファ、がんばってくるね」

「はは。気付いてるかリーファ? 久しぶりに自分のこと、私じゃなくて、リーファって言ってるぞ」

「あっ……」


 お父さんに言われて、私がしまったと思った時にはもう遅かった。

 自分のことを名前で言うのは子供っぽい気がして、お姉ちゃんになるのならと思って私は、自分のことを私と言うようになったのに。


「あはは。いいよ。二人きりの時くらい。リィンもトウカも寝ているし、今はお姉ちゃんとして背伸びしようとせずに、リーファはリーファのままでいればいい。確かに多くの人は十五歳で大学行かずに働き始めるけど、焦って大人になる必要は無いよ」

「リーファのことはお見通しかぁ……さすがお父さん」

「あぁ、リーファのお父さんだからな」


 その言葉が今の私にとっても、とても嬉しくて、頼もしく感じられた。

 どうしようもないくらい、とーさんこと、トウルさんは私のお父さんなんだ。

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