私、お姉ちゃんがんばってます。
そんな思い出と商品の詰まった棚を眺めていると、扉が勢いよく開いた。
「たっだいまー! リーファお姉ちゃん!」
やんちゃな声をあげる黒髪の少女が私目がけて飛び込んできた。
お父さんと同じ黒い髪を肩まで伸ばし、お母さんと同じ緑の瞳は大きくて、少しツリ目気味だ。
服は羊毛をベースで作られた、もこもこしたピンク色の服だ。
「おかえりトウカ。って、きゃっ!? もう、トウカ! 苦しいってばっ!」
私を羽交い締めにするような形でトウカが抱きついてくる。
いくら服が柔らかいとは言え、腕が食い込んでくるとさすがにちょっと苦しい。
トウカ=ラングリフ、性格はどちらに似たのか分からないほど元気な、新しい私の妹だ。
「お父さんもただいまー! お姉ちゃんクッキー作ってー」
「おかえりトウカ。リーファお姉ちゃんが苦しそうだから、降りてあげなさい」
「えー。リーファお姉ちゃんに抱っこしてもらいたいもん」
「えー。じゃないぞ。ほら、お父さんが抱っこしてあげるから」
「はーい。おー、やっぱりお父さんの方が高いねー」
お父さんは呆れながら私からトウカを抱き上げた。
腕の中にすっぽりと入ったトウカの様子を見て、私はどこか懐かしさを感じてしまう。
さっきまで私も同じことをされていたけど、抱きかかえられるというよりかは、持ち上げられた感じだったし、お父さんの腕にすっぽり収まるのトウカはちょっと羨ましい。
私は普通に立っていたらお父さんの胸元まで身長伸びたし、普通に抱きしめてくれるくらいが、体格的にはちょうど良いのかもしれない。
そんなことをボンヤリ思いながらお父さんを見ていると、不意に手を引っ張られた。
「リーファお姉ちゃん。ただいま」
「リィン、おかえり」
大人しい声の男の子が私を見上げている。
金髪のウェーブがかった髪に琥珀色の瞳、少し引っ込み思案な性格はちょっとお父さんに似ている少年が、私の新しい弟、リィン=ラングリフだ。
黒いもこもこのローブを着ているせいで、小さな黒ヤギさんみたいに見える。
「えへへ」
可愛らしく笑ってピッタリと寄り添ってくる姿は、何となく守りたくなってしまう可愛さがある。
トウカの見た目がお父さん似なら、リィンの見た目はどちらかというとお母さん似だ。
私にとっても大事な双子の妹と弟だ。
「ただいま戻りましたわ。トウルさん、リーファ」
そして、最後に工房に戻ってきたのが、真っ黒な魔女服を着て、黒い縁の広い帽子を被った金髪の女性だった。
大人っぽい落ち着いた声は、昔からずっと変わらない。
私の小さい頃からの友達で、お父さんの恋人になって、私のお母さんになった人、ミスティラさんだ。
「おかえり。ミリィ」
「おかえりみーちゃん」
お父さんと一緒に返事を返すと、つい昔の癖でみーちゃんと呼んでしまう。
本人がいない所ではお母さんと言えるのだけれど、本人を前にすると何故か言えなくなる。
ちなみに、クーデリアさんはくーちゃんって言うと、たまに怒る。
「ミリィ、何か疲れてる顔してるけど、大丈夫か?」
「あはは……。二人についてくれた精霊が強力な子達だから、大婆様のところでやんちゃしちゃって、お片付けが大変でした」
「あはは……そうなるなら、一緒に行ってあげれば良かったな。今、お茶を入れるよ。あ、後、夜にはリーファとライエの合格祝いをやる予定だけど、先に家族みんなでお祝いしちゃおう」
お父さんの提案に、お母さんは驚いた顔を見せると、私達の手を握ってきた。
「やりましたね! リーファ、ライエおめでとう! 良かったぁ。私も心配していたんですよ。あー、今日来るって分かっていれば私も何かプレゼントを用意したのに」
「あはは、急だったからね。プレゼントは大丈夫だよ。お父さんから貰ったから」
プレゼントが貰えるのは嬉しかったけど、私から欲しいとは言いにくい。
そう思ったら、私は遠慮の言葉を口にしてしまっていた。
でも、そう言ったら、お母さんは、まるで私のその言葉を待っていたかのように、私の腕を握ると悪戯っぽい笑顔を見せてきた。
「リーファ。自分の腕見てみて」
「あれ? ブレスレット?」
私の腕には、精霊と同じ六色の丸い結晶があしらわれたブレスレットが巻かれていた。ビーズで出来たアクセサリーみたいで可愛らしいデザインだ。
突然現れたブレスレットに私は驚いて、私の目はお母さんと自分の腕の間を行ったり来たりしていた。
「ふふ、魔法で隠しながらまいたの。ちゃんと準備していましたわ。精霊の祝福を受けられるように、手作りしたのよ。トウカ達と一緒に隠し続けるの大変だったわ」
「みーちゃんは相変わらず、人を驚かすのが好きだね」
「ふふ、だって、さっきのリーファとっても可愛い顔を見たら、また次も驚かせたくなりますよ。それと、ライエちゃんにもおそろいのブレスレット」
お母さんはリーファにウインクをしながら、ライエにも小さな宝石のあしらわれたブレスレットを手渡した。
「ありがとうございます!」
「本当におめでとうございます」
お父さんが振り回された訳だなぁ。と成長した私はようやく、お父さんが振り回される理由を実感出来るようになった。
魔法まで使われたら、不意打ちを見抜こうにも見抜けない。正直なところ、お手上げだ。
でも、お母さんは人を喜ばせるためにこういうことをしているから、なかなか憎めない。からかいやドッキリに好意を忍ばせるのが、たまらなく上手な人なんだ。
お父さんとお母さんからのプレゼントで、私が身につけている大事な宝物がまた増えた。
錬金術師を目指した日、お父さんから貰った賢者の石の髪留め、私を産んでくれたアレックスお父さんとルティお母さんからはガラスで出来たイルカのペンダント。そして、二人から貰った銀の仕掛け腕時計に魔法のブレスレット。私が貰った身につける物は、全て大事な家族から貰ったものだ。
「リーファお姉ちゃん、トウカも手伝ったよ! 精霊さんの力を込めるの手伝ったの」
「……リィンも、リィンもね。がんばったの。リーファお姉ちゃんとライエお姉ちゃんが元気でいられるようにお願いしたの」
トウカはトウルに抱かれたまま手に緑色の光を灯し、リィンはリーファの手を握りながら、空いた手で黄色い光を灯している。
私の目には見えないけど、二人ともきっと精霊を手に乗せているのだろう。
さっきのリストは訂正しないといけない。最後の贈り物は新しい家族みんなからの贈り物だった。
それが嬉しくて、私はトウカとリィンの頭をなでてあげながらお礼を言った。
「ありがとう。トウカ、リィン。お姉ちゃん、がんばるね」
お父さんのおかげで今の私は、こんなにも沢山の家族から応援されるようになった。
だからこそ、双子の姉弟には自慢のお姉ちゃんなんだぞ。って言われるように、お姉ちゃんとして良い所を見せたい。
「あ、ライエも来いよ? お前もリーファの姉妹みたいなもんなんだからさ」
お父さんの言う通り、ライエも私にとっては家族みたいに大事な友達だ。
そんな、ライエの前でも少しは良い格好をしたいと思ってしまうあたり、私は負けず嫌いなお父さんの子供だとつくづく思った。
「おいで、らーちゃん。嬉しいことがあったらみんなでお祝いすると、もっと楽しくなるよ」