【好物】
放課後也沙は塾に行く日だったので、三枝とは「バイバイ、また明日ね」と学校で別れた。
塾に行く前にコンビニに寄りお菓子の棚を覗いた。アーモンドチョコを探すと板状の物とアーモンドボールがある。也沙は「どっちが良いのかなぁ~? とりあえずアーモンドボールで」と箱を手にした。
アーモンドボールの隣りを見ると季節限定のマカダミアナッツのチョコがあった。也沙は「あたしの好きなチョコだ、これはあたし用にと……」と手に取ると会計をして塾へ向かった。
塾が終わり帰宅すると母は仕事に出掛けた後で、ドアには鍵が掛かっていた。鍵を開けキッチンに行くと、何時もの様にテーブルに書き置きがあった。「今夜はおでんかぁ~」也沙は書き置きを読むと部屋に向かった。
部屋に入ると直ぐに「也沙~」と鈴々が話し掛けてきた。也沙は「鈴々ただいま」と言ってから『ずっと一緒にいるんだから、ただいまでもないか……』と思った。独りっ子の也沙は、家に帰ると大抵1人で過ごしていたので、母以外の誰かが家に居るのがちょっぴり嬉しかった。
鈴々は目を輝かせて也沙を見つめている。也沙が「何?」と鈴々に聞くと鈴々は「早く食べて欲しいのだ」と言った。也沙は「はいはいチョコね、着替えてからね」と言った。
鈴々は「うん、早く着替えるのだ」と言ってベッドに座ると足をバタバタしながら也沙を見つめた。也沙は「だから……」と言うと、鈴々は「だから何なのだ?」と聞いた。
也沙は「だから……」と言って、昨夜鈴々に言ったことを思い出す「お風呂とトイレだけは着いて来ないで」としか言ってないことに気がついた。鈴々が「だから……?」とキョトンとして言った。也沙は部屋を出て待ってろとも言えなくなり「ちょっと待ってて」と言った。鈴々は「待ってるのだ」と元気に言うと鼻歌を歌いだした。
也沙は着替え終わると鞄からコンビニの袋を取り出し「これでしょ」とアーモンドボールの箱を取り出した。鈴々は「それも好きだけど、それじゃないのだ」と言う。それを聞いた也沙は「え~ これじゃないの~?」と驚き「アーモンドチョコじゃなきゃ何が好きなのか分からないよ」と言った。
鈴々が「そっちじゃないのだ」と言うと、也沙は「そっちじゃない?」と言って、コンビニの袋からもう1つの箱を出し「これが良いの?」と言った。鈴々は「これなのだ~」と言った。
也沙が「あたしと好み似てるじゃん、分かってたらこっちは要らなかったのに……」と言うと、鈴々が「鈴々は一生懸命違うって言ったのだ」と言った。也沙は「いやいや聞こえなきゃ意味ないから」と言いながらマカダミアナッツチョコの箱を開けた。
鈴々はまじまじと也沙を見つめながら「感謝して食べるのだ」と言った。也沙は「はいはい、鈴々いつも見守ってくれてありがと」と言ってからチョコをポイっと口に入れた。也沙が鈴々に「美味しいね~」と言うと、鈴々は「ほっぺがとろけるのだぁ~」とだらんとした顔で言った。
也沙が「じゃぁ~ ご飯食べて来るね」と言うと、鈴々は泣きそうな顔で「も1個食べたいのだ」と言った。也沙が「まだご飯食べてないし」と言うと、鈴々は目を潤ませながら、すがるような瞳で也沙を見つめた。
也沙が「しょうがないな~ もう1個だけだよ」と言うと、鈴々は晴れやかな顔をして「も1個だけなのだ」と言った。也沙はチョコをポイっと口に入れるふりをして「なんちゃって~」と言うと、鈴々は「也沙ずるいのだ」と言ってほっぺを膨らませた。也沙が「冗談だよ、怒った?」と言うと、鈴々は「也沙は意地悪なのだ」と言った。
也沙は「ゴメンゴメン」と言うと「良い? 食べるよ」と言ってチョコを口にした。鈴々は直ぐに機嫌が直り「美味しいのだ~」と言った。
也沙が「じゃぁ~ 食べて来るね~」と言うと、鈴々が物欲しそうに也沙を見つめた。也沙が鈴々に「もう1個だけって言ったでしょ」と言うと、鈴々は今にも泣き出しそうな表情で「我慢するのだ」と言った。
也沙は鈴々に「ほいじゃぁ~ ね」と言って部屋を出た。




