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捜索




「では3人組を作って下さい。魔法薬学科の人を1人は入れた方がいいわよ」


そう言われてベステモーナとセスは目を合わせる


「薬学科の子を入れろって言われても知り合いがいないな」

「そうね……あの子はどうかしら」


考えたところで、ベスが1人の女の子を見つけた

今の授業を受けているのは術式科と薬学科の生徒だ


3人組が次々と出来ていく中で、眼鏡をかけた女の子がおろおろと1人で辺りを見回していた

不安げに胸に添えられた手には薬学科の教科書が抱えられている

黒に近い光を弾く紺色の髪、眼鏡の奥に隠れた黒い瞳は戸惑いに溢れていた


彼女もパートナーが決まっていないのだろう

こっちは2人だしちょうど良かったと思い、セスはその女の子に声をかけた


「ねぇ、君1人?俺ら薬学科の子探してたんだけど」


女の子は振り返り、戸惑ったようにセスとベステモーナを見た


「セス君、どこぞのナンパ見たいよ」

「うるせぇよ!ちゃちゃ入れるなよな」

「戸惑う女の子に変な誘い方をするからよ」

「じゃあお前が誘えよ!」


「フフッ」


セスとベスのやり取りに眼鏡をかけた女の子は静かに笑った

少しだけ戸惑いが剥がれた瞳は2人を見つめた


「ありがとう……良かったら2人とチームを組ませて欲しいわ」


はにかむように微笑んだ女の子にベステモーナはにこりと笑った


「ありがとうございます!セス君は役に立ちませんが、私が居れば大丈夫ですから」

「何、人のこと貶してんだよ!」



**********************



「わっ、私は……Hクラスで魔法薬学科のジェイミー・トリンドルです」


少し緊張したようにジェイミーは挨拶をする


「Aクラス、魔術式学科のベステモーナ・アレンスキーです」

「同じく、セス・クロウリーだ」

「フフッ……貴方達のことは知ってるわ。有名だもの」

「有名って!?」


セスはうなだれる

ジェイミーは何か気に障ったかとまた戸惑っている


「君に怒ってるわけじゃなくて……はぁ」

「何をうじうじしてるの?サッサと課題に取り掛かりましょう」


ベスに一番ため息をつきたくなる


(違うクラスのジェイミーにまで噂は広まってるんだぞ!)


ベステモーナは自分が入学式で挨拶をしたからだとしか思っていないに違いない

妙に鈍感なのだ


ベステモーナは先生から渡された課題の紙を開いていた

折り畳まれていた紙は学園の地図だった


「地図にマークがついてるわ」


ベステモーナは地図にあるバツ印を見て、ジェイミーに言う

セスも覗き込めば至る所に印はあった


「課題は……5つの薬草を探せ、だったよな?それがある場所のマークか」


セスが地図を覗き込みながら言うとベステモーナが呆れたように呟く


「マークがあるってことはここに行くまでが大変なのよ」

「こっ、この学園は魔法が色んな所にかけられてるから、多分見つけにくい場所にあると思うわ」

「それに加えて薬学科しか習ってない薬草の名前ばかりよ」


地図には至る所に印があるが、確かに簡単なものではないだろう


「とりあえず近い所から探そうぜ。やってみなくちゃ分からないだろ」


セスはニッとジェイミーに笑った


「俺探しものは得意なんだ、薬草の見分けは任したぜ?」

「あっ……はっ、はい!」


セスは親指をたてて頼もしく言った

一瞬キョトンとしたジェイミーだが、直ぐにうなずいた

しかし……


「捜索魔法も使えない貴方が見つけられるの?」

「ベス!お前一言多いぞ!」



*********************



ジェイミーは驚いていた


人見知りが激しくて、クラスや学科でもまだ話せる友達がいなかった

だから3人組を作れと言われて戸惑った


幸運にもある2人が声をかけてくれた

クラスでも噂になっている2人……1人は新入生代表で学年一位の成績を誇る純血のエルフ族

ベステモーナ・アレンスキー


そしてもう1人


『人間』のセス・クロウリー……


(人間なんて初めてみたわ……)


ジェイミーは眼鏡越しにセスを見る

色素の薄い髪と目、まだ幼さを残した愛嬌のある顔立ち

ベステモーナとのやり取りが微笑ましかった


クラリス・アレイスター校長は別にして、同年代の人間なんて住む世界が違う

今まで人間を見ることはなかったが……セスは噂通り凄い人なのではないだろうか?

と、ジェイミーは思った


「ファンドラの奇草はこの辺りにあると思うのですけど……」


ベステモーナは初歩的な捜索魔法で薬草の生えている場所を探している

指に細い鎖で繋いだ菱形のクリスタルはファンドラの奇草はここだと差している

しかし、どこにもファンドラの奇草は生えていない


地図を手に廊下を歩いていたベステモーナとジェイミーの後ろでセスはキョロキョロと辺りを見回す


(……まただわ)


ベステモーナもこの廊下のどこに薬草があるのか視線を巡らせて探していた

しかし………


「あっ!ここだ」


セスが嬉しそうに声を上げる

ベステモーナは驚いて振り返る


「貴方、本当に感がいいのね……」


呟いたベステモーナの視線の先にはセスの腕、その腕は歪んだ空間に呑まれてぼやけている

場所を混乱させる魔法をかけられていて、しっかりと魔法に触ると魔法は空間を歪めたようになる


セスは幻影魔法を見破ったのだ


ジェイミーはセスを見て驚いている

これは偶然ではない

さっきも同じことがあったのだ


(これで2回目……ベステモーナさんはセス君がダメな人みたいに言うけど)


ホントは凄い人なのではないか………?

セスは得意げに笑った

それに合わせて、セスの一部だけ長く伸ばした色素の薄い髪がヒョコッと跳ねる


「俺の第六感をなめんなよ」


セスがドアの部を回すような仕草をすれば、歪んだ空間は消えて倉庫の扉が現れた

その倉庫の中にファンドラの奇草を乾燥させたビン詰めを見つけたのだった



***********************



薬草を見つけて3人が喜ぶ姿を廊下の向かいにある校舎の窓辺で眺める人影があった

その人影は頭の後ろで手を組んで、眠たげに欠伸をする


「ふぁ……なんだか、今年は面白いのが居るじゃないか………」


あの幻影魔法は特に強くかけられていたと思ったが……

にこりとその人物は笑ってその場を去った




***********************



「ベスの好きな一番だな」

「……セス君、私を馬鹿にしていますね?貴方なんてもうセスと呼び捨てで十分です」



いつもはキリッとした顔を珍しく不機嫌にしてベステモーナは呟いた

対してセスはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている

そんな2人にどうする事も出来なくて、ジェイミーはおろおろと眺めていた


「いや~オ・レ・のおかげで一番!」

「まぐれです」


冷たくむくれてベステモーナが言うがセスはただ不敵に笑った


「やっぱ、一言多い」


しかし

課題である5つの薬草をどの班よりも早く探し当てたセス達の班は先生にとても良く誉められた

セスは自慢気な顔をしていたが先生の朗らかな言葉に固まった


「それでは、次の課題ですよ」










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