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サバティエ




「オヤジのバカヤロー!!」


セスは叫んだ

問題だらけの入学式は終わり、もう日も暮れはじめている

今居るのは校舎の時計塔だ

古風な作りの時計塔は、中から見ると大きな歯車がキリキリと音を立てて動いている


「クッソー……なんも聞いてねぇぞ、チクショ~」


とりあえず人気はないので心のままに、ここに居ない養父に向かって愚痴をこぼした

セスは手摺りにもたれてうなる


クラス対抗戦は学んだことを出し切る絶好の機会なのだそうだ

だから、あのベステモーナは学年最下位の俺を冷たく見てきた


その瞳には誇りが見える

学年1位の自信なのだろう

足を引っ張ったら許さない、と気の強そうな青い瞳は語っていた


しかし、セスはカエレスエィスに行くように言った養父からそんなことは一言も聞いてはいなかった

知らなくて当然なのだ

だから、文句の一つも言いたくなる


「ねぇ」

「わっ!?」


突然、真後ろから声がかけられた

驚いて振り向けばそこには美少年が立っていた


「ごめんね、驚いた?」


クスリ、と微笑んだ少年は風にそよぐ銀髪をしていた

フェイトは今までこんな美形を見たことがない

青白くさえ見える肌に切れ長の双眸は血のように赤い

綺麗だが女性的な物ではない

どちらかというと彫刻のような美しさだった


一瞬だけ見惚れたが、それ以上は何も感じない

女の子だったらさぞ美少女だろうに、とは思う

制服のネクタイの色が一緒なので同じ学年だ


「なんだよ突然……」

「あれ?同じクラスなんだよ、覚えてない?」


知らなかった

1クラス、50人程だが初日で全員の顔を覚えてはいない

そもそも、あの狼少年ヴォルフと言い争っていたのでそれどころではなかった


「僕はよく知ってるよ、気持ちのいい啖呵だったからね」


ニコニコと笑って美少年は近づいてくる


「いや、その……」

「別に馬鹿にしにきたんじじゃないよ?友達になれたらなって、思って」


鷹揚な構えでセスを見つめる赤い瞳

その少年は背が高いのでセスは少しだけ見上げる形でその瞳をみた


楽しげに細められた赤い瞳を見ていると何だか変な気分になりそうだ

嫌な気配がしたので直ぐに目を逸らす


「物好きな奴だな……好きにすれば?」


素っ気なく言って少年の隣を通り抜ける

キョトンとした顔で少年はセスを見送った


(だいたい、名前くらい名乗れっての)


時計塔からフェイトは出ていき、1人取り残された少年は頭を掻いた


「あれぇ?おかしいな、マインドコントロールしたのに。…………アイツ、何者だ?」



***************************



本当に今日は色々あった

そして、疲れた……



セスは学区外、学生専用のアパートが密集する地帯にいる

その中でも安い賃貸の部屋を借りていた

外観は古い洋館風であり、オシャレな作りだと思うが何故か人気はあまりないらしい


「荷物は先に送られてるし」


部屋の番号は……109号室


「すみませーん」


意匠を凝らした扉を開いて、人気のない空間に声をかける

その洋館は二階建で、中央フロアは吹き抜けの広い空間だった

高い天井には豪華なシャンデリア、左右に広がる二階へ行くための階段


「はぁ……スゲー」


そう呟いた所で、どこからともなく白い紙切れがセスの元に落ちてきた


『私はオーナーのマックス。用があるときは今居るフロアで用を言え。お前の部屋は右に行けばある』


「なんだこれ?……ものぐさだな」



セスがボソリと呟けばまた紙が降ってきた


『黙ってろ小僧。水を止められたいか?』


横暴だ

そして、多分魔法なのだろう

何処からかこのフロアを見ているに違いない

ため息だけついてセスは部屋へ向かった


部屋は突き当たりにあり、109号室とかかれた部屋の前に立つ

廊下には先に送られていた引っ越しの荷物がつまれている

事前に渡されていた鍵を取り出しドアを開けようとした時、隣の部屋のドアが開いた


「あっ」


隣の部屋から出て来たのは先程の美少年だった


「何だよ、お前もこのアパートだったの?」


無言


美少年は先程とは異なり、無表情で硬質な雰囲気を漂わせている

整った顔が冷たい人形のように感じた


(じっと見てくる……気まずい、なんとか言えよ!)


さっきとはまるで別人のような態度に戸惑っていると、中央フロアから誰かがこちらに向かって来た


「なぁライアン、ご飯売ってるとこやっぱ少ないわ。結構歩いたのにさぁ」

「……ディーン」

「あっ、セス・クロウリーだ」


セスは買い物袋をあさりながらこちらに来た少年を見て固まる


「なっなっ……!!」

「君もこのアパートだったんだ、奇遇だね」


あはは、と笑った少年と無表情な少年

2人は表情こそ全く違ったが、その顔は瓜二つだった



****************************



「僕はディーン・サバティエ。こっちは双子の兄、ライアン・サバティエだよ」

「はぁ……」


立ち話もなんだからと、廊下の荷物を部屋に入れるのを2人は手伝ってくれた

今2人はフェイト部屋のソファーに腰掛けている

ベッドや机、ソファーなどは備え付けだ


10畳程の広さに簡易キッチン、バストイレつきのいい物件だ

なのに人気がないのはあのオーナーのせいではないだろうか?


2人は108と107号室、つまり同じアパートの隣人ということだ

荷物を運ぶのを手伝ってくれた2人にセスは荷物をひっくり返して、直ぐに紅茶を取り出した


「セス・クロウリーだよろしく」


ディーンと兄のライアンもセスと同じクラスだそうだ


「それにしても、本当にそっくりだな」

「よく言われるー」


ディーンが陽気に答える

2人は確かにそっくりだがディーンは髪が短い

くせはないが無造作に毛先の跳ねた銀髪に対して、ブラッドは長くのばした銀髪を後ろ頭で一つにくくっている

ディンは先程と同じく楽しげに目を細めてセスをみた


「ねぇ、セスは人間なんだよね?」

「そうだけど」

「そんな顔しないでよ、僕らも君と似たようなものだから」


ディーンはよくしゃべるが、ディーンの隣に座ったライアンはただ無表情に紅茶を見つめていた


「どういう意味だよ?」


様々な種族のいる学園だが、人間はセスただ1人のはずだ


「僕らの種族は吸血鬼バンパイア、人間の亜種だよ」

「はぁ!?吸血鬼バンパイア!!」


思わず叫んだらディーンは笑った


「そんなに驚かなくてもいいのに」

「いや……だって吸血鬼バンパイアって…………じゃあ、血吸うのか?そんなの映画がじゃあるまいし」

「セス、間違ってる。そんなこと言うなら、妖精やエルフ、人狼はどうなるのさ?吸血鬼バンパイアがいたって不思議じゃないだろ」


セスは脱力感でソファーに身を沈める

今日1日で色々なことに衝撃を受けたが、コレはかなり来た


吸血鬼バンパイアって言っても祖先達は元々人間だったんだよ?だからさ、僕らいい友達になれるとおもうんだけどな」


(まただ……)


セスは楽しげに目を細めて笑うディーンを見て、内心首を傾げる

時計塔で会ったときもそうだったが、ディーンの赤い瞳を見ていると変な気分になる


いやいや!

別に、いくら美形だからって俺にそっちの趣味はない

だから、そういう意味ではない

けれど、おかしい……


すると突然、一言もしゃべろうとしなかったライアンが声を上げた


「……ディーン」

「ぶっ……何すんのさライアン」


テーブルを挟んでセスの向かいに座る2人

ディーンの隣にいたライアンは片手でディーンの頬を突っ張っている

その不可解な行動に目を点にしているとライアンはセスに向き直った


「邪魔をしてしまった。すまないが今日はこれで失礼する」


ライアンは簡潔に礼を言って、文句を言うディーンを連れて自分の部屋へ帰って行った


「なんだったんだ?」


そこでセスは気付いた

2人は紅茶を一口も飲んでいなかったことに


(紅茶は苦手だったのかな?)










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